表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/36

  二十章


  二十章


「斬九郎さま!」

 

 篝火の側に立ったおれの姿に気がついたはなは、ついと、湖から生まれたままの姿でおれの側に歩み寄った。

 音も無く。


「ついにここまで来てしまったのですね。出来れば、来て欲しくはなかった」


 はなの口から、諦めとも取れる言葉が洩れる。


「訳を話してくれるかい?」


 おれは懐から、手ぬぐいに包んだ月光石の鈴を取り出してみせた。


 鈴は月の光を吸収、蓄光し、美しく輝いている。


「その鈴を手にしていると言う事は、私のこともお気付きになっているのですね」


 はながスッと手を振ると、水に濡れたその白い肌は、一瞬で紅色の着物と帯が被っていた。


「そう、私ははな。呉服問屋、西京屋の長女で、さやは私の双子の妹です」


「やはり、双子だったのか」


「ですが私には生まれついて、顔から胸にかけて大きな黒痣がありました。

 父はそんな私を忌み嫌い、生まれたばかりの私を母には死産したと偽りあの寺へと預け、そのまま姿を消しました」

 

「死産して寺に埋葬したってのは、嘘だったのか。

 その寺が蛇宝寺だな」


「はい。

 そして寺で下働きとして過ごすうちに、自分に妹がいる事を知りました。

 ですが私は妹にこの姿を見られるのが恐ろしくて、陽のさす日中は大都に近づけませんでした」 


 はなさんの視線が、哀しみと恐れを帯びる。


「妹ははなさんの事、何も知らないんだな」


「ええ。

 そして今から四年前、ある事件が起こりました。

 皆が寝静まった深夜、寺は凶悪な野党たちに襲撃されたのです。

 住職とその弟の僧は私を守ろうとしましたが、手足を削ぎ落とされ、三日三晩苦しみぬいて、死にました。

 残された私は奴等の慰み者となり、昼夜問わず弄ばれ、さながら地獄絵図でした。

 その後、そこから逃げ出そうとした私は、面白半分に油をかけられ、その半身を火で焼かれたのです。

 自分の髪、肌、肉が焼け落ちる音を聴きながら、絶え間無く放つ私の悲鳴を喜ぶ男たちに私は……」


「もういい、言うな!!」


 それ以上、聞かなくたって当時の光景は容易に想像出来る。

 死んだ住職と僧というのは、蛇骨と岩鉃の事だろう。


「おれは、あんたを救いたい。何とかしてやりてえんだ」


「それは無理です!」


 おれの言葉を遮るかのようにはなは、きつく言い放った。


「なんで?」

 

 食いさがるおれに、はなはポツリと洩らした。


「だって私は、既に死んでいるから。

 蛇骨と岩鉃、そして私はあの御方が差し出した紅玉を、死ぬ間際に迷わず呑みました」


 紅玉。

 寺の地下で精製されたとされる、魂のエネルギーベクトルを真逆に転換する飴玉を模した霊丸だ。


 おそらくは瀕死の人間の生に対する渇望を、他の生物の血と肉、魂を凝縮した霊丸「紅玉」を用いる事で、究極のマイナス活性、新たな妖「導魔」へと新生することが出来るのだろう。


 怨みをもった人間、しかも死にかけてりゃ、なお良い。

 間違いなく、最高の状態で受け入れる事、間違い無しだ。


「あの御方ってのは誰のことだ?。

 地下の怪しげな施設の様子を見ると、とてもじゃないが、死にかけの坊主と娘っ子には、とても出来やしねぇ!。


「私も詳しくは知りません。

 この国の者では無く、片言混じりの言葉を話す、赤い衣服で身を覆った男です。

 野盗達が寺の財産をあらかた持ち去った後、寺の地下に手を加え、今の様になりました。

 手を重ね合わせるだけで、様々な奇跡を起こし、「教会」と呼ばれる組織に属していると聴きました」


「目的は?」


「分かりません、本当に知らないのです。

 しかし当時の私たちは、その知らない者の施しでさえ、ありがたかった。

 もう一度生まれ変われると信じて、生を保つ為ならば、なんでも良かったのです」


「多くの人の命を犠牲にしてな。

 掴んだ生も人のではないものだ!」


 おれの言葉にうつむき、はなは表情を曇らせた。


「その通りです。

 一度、紅玉を呑んだが最後、その身体と心は、導魔と呼ばれる妖に変化いたします。

 人の心を捨て、他者の生き血と魂で造られる紅玉を定期的に摂取しなければ、活動出来なくなるのです」


「だから六車橋で男たちを攫い、寺の地下で自分たちの餌を作っていた訳か!」


「確かに餌と呼ばれるべきものですが、私たちは次第に、必要以上に紅玉を作り、教会へ収める約束をさせられました」


「上納って事か?。そいつは一体、何に使うんだ?」


 虎月の言っていた事が、ここでハッキリとした。

 妖と化した紅華たちから、紅玉を取り立てる奴等。

 一体、何者なんだ?。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ