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  二十一章

  二十一章


「おそらくあの御方は、私たちのような存在を他の場所でも造っています」


「許せねぇな。人の命をなんだと思ってやがる」


「私は紅華の半身。

 日光が苦手な紅華の為、生み出された空虚な存在です。

 陽が落ちた今となっては力が逆転し、この姿も今に保てなくなる。

 どうか妹と喜三郎さんに逃げるよう、伝えてくれませんか?」


「妹のこと、救いたいんだな?」


「当たり前です。ですが、紅華はそうは思っていません。

 男たちに辱めを受け、死ぬ直前まで苦しんだ感情が際限なく彼女をつき動かしているのです。

 私は此処、万霊湖の霊水をその身に浴びることで、紅華の妖力を抑えてきました。

 焼けた半身の痛みも、わずかに和らぐからです。

 ですが本当にもう、限界です。

 妹とその家族を地獄に落とし、自分と同じ目にあわせる事が紅華の喜びとなっています」


 おれは思わず、ギュッとはなのその身を抱きしめていた。


 自らを空虚な存在と言う彼女の姿に、おれの心は激しく動揺していた。


「おれが、なんとかする」


「えっ?」


「大丈夫だ。これも仕事だ。いつも通りやってみせるさ」


 全然、自信なんてものはなかった。

 紅華の目的が、さやさん達の幸せを邪魔する事であることが、もっと早く分かっていれば、もっとやりようはあったのだ。

 護妖の依頼として受け、彼等を安全と思われる場所へ匿い、その上で始末する事も出来たのだ。


 吉川邸の件も、廃寺も、六車橋も元は全て、一つの事件だった。

 なんなら最初から仲間全員でことにあたれば、なんとかなったかもしれない。


 おれはいつも刻を無為にし、空回りばかりしているようにも思え、自分が情けなく思えて仕方がなかった。


「斬九郎様、ありがとう。

 あなたのような方と会えて、はなは幸せでした」


 おれの腰に手を回し、突如、はなの唇がおれの口を覆っていた。

 はなの言葉に、おれの頭の中は喜びと疑問が激しく衝突を繰り返している。


 そこに人間としてのはなの肉体が無い事は承知しているものの、彼女の精一杯の感謝の行動に、おれの胸は激しく熱くなった。


「気が済んだかえ、斬九郎!」


「へ?」


 耳元で甘く囁くその声には、聞き覚えがあった。

 身体が思わず硬直し、とたんに胸元に熱い衝撃が疾る。


「冥土の土産に、妾の熱い口づけをくれてやる。

 はなを泳がしておけば、我等を探る愚か者を呼んでくると思ったが、まさか来たのがお前とはな?」


 おれは現実を受け入れることが出来ず、その視線は自分の胸元から背中へと突き抜ける5本の指骨槍に注がれていた。

 それと同時に、天へと吹き出す血しぶき。口腔より溢れる血を、紅華は優しく舐めとった。


「そ、そんな……。バカな?」


 一瞬にして、はなから骨女、紅華への早変わり。


 よくドラマで見かける光景。


 死ぬ間際に、こんなこと言わねーだろ、と思うセリフを自分が思いっきり言ってる事に気が付いた次の瞬間、紅華の右の指骨槍が脱力したおれにさらに深々と突き刺さる。

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