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  十九章

  十九章


 いやぁ、速いのなんのって。


 蛇骨の廃寺から万霊湖まではわずか2km程だが、陽も暮れ視界が悪いために百目の力を借り夜のドライブへと洒落込んだ。

 

 おれの前を走るぶーちゃんが、とばすとばす。


 風と闇の属性をもつ鬼獅子は、大量の妖気を立ち昇らせて気持ちが良いくらい疾走する。

 その脚なんか、地面に着いてないんじゃねぇかと思うくらいだ。


 現世に居た頃は馬に乗る事なんて想像もしなかったが、この世界ではやはり必須のスキルだ。


 とは言え、仕事を行う上でおれが馬に乗る事は、驚くほど少ない。


 それは何故か?


 己の肉体を複数の妖怪に貸しているため、おれのウェイトが単純に重過ぎるからである。

 

 おれは183センチの細マッチョだが、牡丹、鉄っつあん、テン、百目。

 と、おれの身体は四体の妖怪が住む賃貸アパート状態なのだ。

 この体重で膝がイカれないのが不思議だが、おれの関節や組織も強化されてるとしか考えられない。

 大家に内緒で部屋をリフォームされたような気になるが、助かっている部分もあるのであえて不問としている。

 

 馬が苦痛を感じずに積載できる最大重量は品種にもよるが、おおよそ400kgだそうだ。


  おれの体重が200kgに届くか届かないかだから、何とか走れるものの、長時間はさすがに無理だ。

 ちなみにラクダは600kgから700kgの重量を運ぶことが出来るそうだ。

 自然に生きる生物の力ってすごいね。


 ともあれ5分ほどの乗馬だったが、おれはあっという間にぶーちゃんから引き離されてしまった。

 

 常人ならこの時点でアウトだが、おれはぶーちゃんの妖気が途切れてもいいように、ぶーちゃん自身に百目一眼を潜ませている。


 グイグイと先行したぶーちゃんの妖気が、グイッと方向を大きく変えた。


 どうやら万霊湖に着いたようだ。


 湖全体が底から照らされたように、淡い光を放っている。


 これは蓄光性の苔のせいとされているが、陽が落ちた今、水面を照らす月光の力もあり、神秘性に拍車がかかっている。


「あそこか?」


 周囲2kmほどの湖だが、青白く光を放つその湖面は、本当に天人の宇宙船でも湖底深く隠されていそうだ。


 湖の畔に、一本の篝火。

 奴がいるのだろうか?


(せんせ。気を付けてよ!!)


 牡丹がしつこいくらい、訴えかけてくる。

 おれって、そんなに信用ないんだろうか?。


 おれは馬上から降りると、手綱を近くの樹木に結びつけ、その場を離れた。


 忍び足で篝火に近づく。


 指先は腰の刀に触れている。


 篝火の側で、ぶーちゃんはおとなしく「伏せ!」の状態で沈黙を守っている。

 どうやら奴はぶーちゃんの飼い主で間違いなさそうだ。


 突如、パシャパシャと湖面が軽く波打ち、水面から現れた女体を月光と篝火が妖しく照らす。


 はなさんだった。


 刻を惜しむようにその白い首筋から谷間に流れ落ちた湖水は、なだらかなウェーブの臀部を通り、再びの少女の来訪を

待ちわびている。


 その姿は全裸であった。


 はなが湖面に何度もその美しい肉体を沈め、全身に湖の恩恵を受けるように跳ねるその姿は、童女のようでもあり、儚げな美しさが感じられた。


(せんせ。そんなにじっくり、見ちゃダメ!!)

(分かってるって!)


 牡丹の言う事ももっともだが、おそらくこの光景をスマホで画像におさめても、彼女の姿が決して写ることはないという驚愕の事実をおれは受け止めなければならなかった。


 ならば、この脳裏に鮮明に記録を。

 と、男なら誰しも、そう思うのではないだろうか?。


 水面を照らす篝火に近づいたおれの姿にはなが気付き、声をあげた。


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