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  十七章

  十七章


「グアアアッ!!!」


 本堂の屋根上へと、その巨体を踊らせる蛇骨。


 おれは抜刀し、渾身の力を込めて首元へと斬りつけた。

 

 だが、肉を斬ったというより、粘土か何かに刃を差し込んだ感触に似ている。

 とてもじゃないが、ダメージを与えた感は無い。

 若干、出血もしているようだが、その傷さえも、みるみるうちに塞がっていく。

 紅玉によってもたらされた細胞活性化による組織の高速増殖は、外傷をたちどころに修復してしまう。


 周囲の環境は奴の呪法で、その大地でさえも「水」の属性を強制的にもたらされ、奴が自由自在に動けるように変貌を遂げつつある。


「斬九郎、上だ!!」


 虎月の言葉に、おれは即座に後方へ跳躍。

 次の瞬間、おれが立っていた場所に、強烈な一撃が加えられた。


 四散する瓦。

 飛び散る木片。

 言うまでもなく、岩鉃の一撃だ。


 兄貴の影に隠れて例の呼吸法を行なったらしく、その肉体は以前のように変身を遂げ、鋼の肉体をもつ巨人が屋根上へと姿を見せた。


「虎月、そっちは任せた!!」


 おれの言葉が終わらない内に、パワータイプの二人が、ドッカンドッカンやり始めた。


 その激しい衝突に震える本堂は沈むスピードを早めつつあり、あともって二、三分で全てが泥の中に没する。


「せんせ、右から来るよ!」


「おっと!」


 化け蛇のくせに、虎月と闘う弟の姿はきっちりと認識しているようで、弟を潰さぬよう器用に避けて攻撃してきやがる。


 おれは蛇骨の噛みつき攻撃を躱すと、その首元に刀身を突き立てた。

 突如、周囲にきな臭いニオイがたちこめる。


「百鬼夜行剣「紫電」!!」


 おれの身に潜む妖怪「雷獣」の力を借り、雷獣の妖力とおれの霊力を動力源に敵の細胞を電撃により破壊する自慢の技だが、いかんせん目標物のスケールがデカすぎた。


 肉を焦がし、一瞬動きは止まるものの、とても倒せる気がしない。

 ここで術の選択を間違えると、ドツボにハマる気がしてきた。

 慌てて刀を抜き、回避行動へと移る。


 に、しても刀で大蛇と闘うなんてのは、おれのじいさんが好きだったレイ・ハリーハウゼンの古き良き特撮映画みたいだななんて思った瞬間、おれに一つのアイデアが閃いた。


「ま、試してみっか!。

 おい、牡丹。昔、青銅の鬼を倒した時の事、覚えてるか?」


「覚えてるけど、あれやるの?。いいけど、百目ちゃんは?」


「今から仕込む。とにかく、たいみんぐを合わせろ。いくぞ!!」


「は〜い!」


 軽く返す牡丹の返事に不安を感じながらも、おれは刀に雷光を派手に纏わせ、再び接近する蛇骨の眉間に投擲した。


 蛇骨の眉間に浮かぶ白色の老人面は、飛来する電撃刀に危険を察知したのか、表皮に波紋を残し、体内へと一瞬で姿を隠した。

 

 が、これでいい。


 電撃刀は正確に大蛇の眉間に突き刺さったが、大したダメージは期待してない。


 むしろ蛇骨はおれへの強い怒りを露わにし、今にもおれを飲み込もうと、頭部をおれに最接近させた。


「いまだ!!」


 おれは両掌を合わせ、「雷光機雷」を発現させると、躊躇なく奴の眼前に放った。


 雷獣テンの力を借りた対空機雷だが、打ち出す類の術では無いので、うまく蛇骨を誘導する必要がある。

 

 おれはグッドタイミングとばかりに、パチンと指を高らかに鳴らし、機雷を派手に炸裂させる。


 奴に大ダメージを与えうる雷獣を介してのとっておきだが、効果の大きい胎内へ投げ込める訳もなく、今回は別の役割りを持たせた。

 

 激しい音と目も絡む程の閃光。


 おれも巻き込まれぬよう、遮蔽物に身を隠す。


 眼前で広がる光の波に蛇骨の突進が止まる。

 

 蛇の感覚器は視覚、聴覚とも人のようには捉えないのは知っているが、変身前、奴が牡丹の声を捉えたことから、人の姿の時と同等の視覚、聴覚を備えているものと判断した。

 ならば、十数秒の時間稼ぎができればOKだ。


(牡丹、今だ!!)


(あい、せんせ!)


 雷光機雷による自家製閃光手榴弾を眼前で炸裂させられた大蛇は5秒ほど静止していたものの、たちまち我を取り戻し、屋根上で戦闘を続ける巨大な体躯の男に喰らいつくと躊躇なく、そのままゴクリと一飲みにしたのだった。


 その間、わずか1秒足らず。

 

 高感度カメラで撮影し、もう一度見てみたいとさえ思うほどの、見事な食べっぷり。


 雷光機雷で10秒も動きを止められなかったのには驚いたが、作戦は成功したようだ。


 実は、腹に飲み込まれた男はなんと奴の弟である岩鉃であり、屋根上から姿を消している。


 舞台は再び、静寂を取り戻している。


「何だ?。お前一体、何しやがったんだ?」


 自身も閃光機雷の効果を受け、視覚を取り戻せずにいる虎月は、突如、対戦相手の攻撃が停止した事に、戸惑っている。

 

 おれは岩鉃の猛攻に、満身創痍の虎月に向かって言った。


「どうしても喰いたいみたいだから、喰わせてやったんだ。自分の弟をな!」


「ど、どうやって?」


 飄々と戯けて語るおれと、傷だらけの自分を対比したのか、虎月は驚きを隠せない。


「蛇骨と岩鉃の視覚を寸断して、お互いが敵と認識するよう繋ぎ直した。

無限ループさ!」


「る、るうぷ?」


「とにかく、繰り返し同じ視覚映像が流れるようにしたって訳だ。分かるかな?」


 元々、岩鉃には百目一眼を体内に残しており、大蛇と化した蛇骨にも、百目の能力を付帯させた一刀を額に突き刺してやった。


 おれ特有の剣術、百鬼夜行剣の最大の特徴は、体内に潜む妖の能力を自由に武具に付帯、エンチャントすることだ。


 大蛇には岩鉃の姿が虎月に見えており、岩鉃は激しく虎月に拳を打ち込むにも関わらず、一向に倒れないのを不思議に思っているに違いない。


 すでに大蛇と化した蛇骨の動きが止まっている。


 ゴクリと飲み込んだ敵が、胃の中で怒り猛り狂っている事に違和感を感じたのだろうか?。


「牡丹、ちょっと煽ってやるか!!」


 牡丹には視覚をすり替えた後のコントロールを一任している。

 ここが上手くいかないと相手にバレるし、百目だけでは負荷がかかり過ぎる。

 

 以前、肉体を青銅で造られた鬼と対峙した時、その視覚を奪い、崖から落として破壊した経験が役にたった。


「ギィャァぁぁ!!」


 突如、大蛇が奇声を上げ、のけぞり、激しく悶絶。

 そしてそのままひっくり返って、動かなくなった。


 これを七転八倒と言わずして、何と言おう。


 

 









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