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  十六章

  十六章


「てめぇ、なんて事すんのよ、この人殺し!!」


 おれが言おうと思ってたセリフを牡丹が大声で喚き散らす。


 本堂は朽ちながらも基礎がしっかりしているためか、樹木よりかは沈むスピードは遅いようだ。が、いつまでもつかは神のみぞ知るだ。


 寺敷地内の地面は泥状となり、その表面には波紋さえ広がっている。


 境界変化。


 上位の妖が、その場所を己の得意とするフィールドに範囲、期間を制限し作り直す術式だ。


 範囲を結界内に限定する事で、行使までのスピードや精度をアレンジ出来る。

 おそらく、この寺の土塀の向こう側はいささかも変化しておらず、平和なもんだろう。ひょっとすると、音さえも漏れないのではないか?。


 蛇人間の泥遊びに付き合わされたおれたちの前に、奴は下半身をくねらせながら、その白くて長い胴を立ち上げ、姿を見せた。

 既に下半身は蛇体と化し、異様な艶かしさを醸し出している。

 その胴の長さも驚異的で、腕組みした奴は、おれたちを見下ろす高さまでその身を押し上げている。


「よくもまぁ時間稼ぎの身の上話なんか、聞かせやがったな!!」


 おれは屋根よりはるか上方より見下ろす蛇骨を睨め上げた。


 奴の肉体は至るところが隆起、蠕動、収縮を高速で繰り返し、新たな生命体になりつつある。


「多くの紅玉をこの身に取り込んでも、覚醒までには極端に妖力がおちる。

 時間稼ぎしなければ「化神化」するのを邪魔されるのは分かっていたからな」


「既にアメ玉を飲み込んでたってわけかい!」


 虎月が驚きの声をあげる。

 おれの百目もそこまでは知覚出来ていなかった。


 虎月の調べた霊丸、紅玉は妖怪用の覚醒丸だと聞いた。

 恐らくは、この紅玉の接種は今回が初めてではない筈だ。

 必死こいて作った霊丸を、上納せずに隠して蓄積し、今回一気に取り込んだのだろう。


「紅玉とは、紅く血塗られた魂の事。穢れをもった人間の苦痛と血肉、そして魂を混ぜ合い調合する事で、初めて完成をみる。

 これまでの数度に渡る紅玉の接種により、今日、我はようやく神化する事が出来る。

 化神となるは、神になるに等しき事。

 教会の奴等にこれ以上分け与えるは、犬に天上の甘露を与えるのと同じ事。

 これからは私の事を大蛇骨天仙と呼ぶがいい!!。我を崇めよ!!」


 言葉と共に、蛇骨の、そのかろうじて人型を保っていた上半身も、一瞬にして、巨大な大蛇の頭部へと変貌を遂げた。

 頭部に合わせてか、その胴回り、全長

共に一瞬で巨大化している。

 その顎のサイズからすると、牛でも平気で丸呑みしかねない程だ。


「す、素晴らしい。身体に流れる力の波に、目が覚めるようだ。

 これで、奴等を見返せる。

 これからは人でもなく妖でもない。遂に我は頂点に……」


 そんな悦にいる蛇骨の気分を害したのは、空気の読めない牡丹の最大音量での毒舌だった。


「バッカじゃないの?。身体さえデカくなりゃいいかと思ってる。

 笑っちゃうわね。

 そんなデカいなりしちゃ、美味しいご飯なんて、もう食べられないじゃない。

 子供じみたあんたなんか、指でもしゃぶってりゃいいのよ。

 あ、指なんてないか?

 あたしだったら、絶対、そんな姿なりたくないわ。

 いまからウチのせんせが、あんたなんかやっつけてやるから、覚悟しなさいよ!!」


 直声でまくし立てる牡丹に、蛇骨の怒りメーターが頂点に達したのがニブいおれでも、瞬時に感じられた。


「わっ、バカバカ!!」


 慌てて後頭部に手をやり、牡丹の唇を塞ぐも、時すでに遅し。

 

 大蛇と化した蛇骨の巨大な頭部、眉間に波紋が広がり、そこに白色面の男の顔が浮かび上がった。


「月影斬九郎、貴様も飼っておるようだが、つくづく女という人種は理解出来かねるな。

 紅華も肉親への情が捨てきれず、迷いを見せておる。

 憎ければ、愛しければ、片っ端から喰らえば良い。

 我の胃の腑は全ての物質を溶かす強酸の海。

 その醜女と共に、その肉片、我の腹のタシにしてくれるわ!!」


「敵役の口上、ご丁寧にどうも!」


 おれの言葉を皮切りに、牡丹の「誰が醜女じゃあ!!」という怒声が響き渡るが、今は無視する。

 戦いのゴングが、いま、盛大に打ち鳴らされたからだ。


 蛇骨の後半の言葉はもう人の言葉でもなく、燃えるような赤い舌と牙を持つ、巨大な破壊獣の姿がそこにあった。

 

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