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  十五章

  おれの脚ではとても追いつけぬそのスピードは、獣人化特有のものだ。


 有名なのは狼、虎、熊、そういえば蛇なんてのもいたな。


 おれの思考に牡丹が同意した次の瞬間、岩鉄の背を護るように現れた蛇人間、蛇骨の吐き出した溶解弾の前に、虎月の身体は押し戻された。


「誰かと思えば月影斬九郎とそのお仲間か。我らの研究に黙って協力すればよいものを……」


 虎月は両腕でガードし、顔面への被害は免れたものの、その腕は白煙をあげていた。

 だがそれも、虎月が一呼吸する間に煙は消え、元の様相を呈するのに二秒とかからない。


「きかねぇんだよ、そんなもんはな!!」


 虎月の肉体を守護するその獣毛は、炎や酸によるダメージを上回る超スピードで再生し、物理攻撃による肉体への損傷を限りなくゼロにしている。


 蛇骨は今にも襲い掛からんとする虎月に右掌を向け、その身をその場に押し留めた。


「すばらしい、と素直に賞賛したいが

、しばし、私の話に付き合っていただこう」


 蛇骨は己の身に纏っていた法衣を、その場に脱ぎ捨てた。


 頭部には一切の毛髪は無く、頭頂から爪先まで蛇と同じく鱗で覆われており、時おり見せるその舌先はチロチロと蛇のもつそれと同じ動きを見せている。


「前に会った時より、蛇っぽくなってるな。って言うより、蛇人間だろ」


「月影斬九郎、よく気が付いた。儂の身体は頭部の形のみならず、この四肢さえいつまで人の形を保っているか分からんのだ。

 人の言葉が話せるうちに、知っておいてほしいのだよ。

 我ら兄弟がどのようにこの迷い道に踏み込んだのかをな」


「兄弟って?」


「そこの岩鉄は儂の弟。幼い頃に大病を患い、死ぬところを、あの方達に救って貰ったのだよ。儂と弟の魂を捧げる事を条件にな」


「魂を捧げる?。あの方達?。嫌な言い方だな。それが意味する所はつまり……」


 おれは口元まで言葉が出かかったが、躊躇した。


 幽霊や妖怪、化物のたぐいのオンパレードなこの世界たが、その存在を認める事は、日本人であるおれにはかなりの心理的負荷が掛かる。


「あの方達が儂らに命じたのは、人の血肉と魂魄の結晶体「紅玉」を精製することだった。

 人一人から一つほどしか精製出来ぬ。その紅玉を接種する度、儂らの身体は少しずつ変化していった。

 人ならざる者。「導魔」にな!!」


「くだらねぇ。人間誰でも艱難辛苦を乗り越えて生きてんだ。魂渡すくらいなら、死んだ方がマシだ。その為に何人死んだか分かってんのか!!」


「おい、それ、おれが言おうと思ってたセリフ!!」


 おれより先に蛇骨に吐き捨てる虎月。

これじゃ主人公としての立つ背がない。


 と、思った瞬間、突如脳内に牡丹の声が響き渡る。


 待ったなしの緊急避難警告に、根が小心者のおれは、即座に対応する。


「なにしやがる?」


 と、腕を振り抗議する虎月の襟元を引っ掴んで、元いた本堂まで駆け戻る。


「鉄っつあん!!」


 全力で疾駆するおれの足元から、本堂の上へと秒速で一本の橋が掛けられる。


 大百足、鉄っつあんの身体の高速蠕動により、即席の高速エスカレーターと化したその身体に身を預けたおれたちは、一瞬にして、本堂屋根上まで退避することが出来た。


 苔むした屋根瓦に滑らぬよう気を配りながらも、急いで鉄っつあんをおれの体内に呼び戻す。


「なんなんだ、畜生!!」


 興奮した虎月の眼には映らなかったのだろうか。

 妖気が爆発的に膨れ上がりつつあった蛇骨。


 牡丹が脳内に送ってきた百目の監視映像が無かったら、おれたちは一瞬にして、死んでいたかも知れない。


 念のためと周囲にばら撒いといた百目眼が、おれたちに長々と講釈をたれる蛇骨の頭部の裏側、つまりは後頭部を克明に映し出していた。


 そこには表の蛇顔ではなく、呪言を無音で唱え続ける狡猾な白色面の老人顔があった。


 激しい振動と共に、境内の様相が一変する。


 樹齢百年はくだらないであろう御神木を含めた、十数本の針葉樹。

 破損しながらも、姿を残していた石畳。

 境内にあるもの全てが、地にゆっくりと没していく。


「そうか、吉川邸の再現。いや、規模が段違いだ!!」


 吉川邸を地に埋没させ、そこに住む住人全てを殺したのは間違いなくコイツだ。

 救いを求め、地上に突き出された住人たちの手畑を目にした時の事を思い出し、おれは怒りの咆哮をあげた。








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