ナタリーと王子
あれから1週間、あれよあれよという間にナタリーは私たちの輪にとけこむことができた。
元々素直じゃないだけで悪い子ではないことはゲームの中で知っている。
作中でしてきた意地悪も叶わない恋心をこじらせてしまっただけだと今では理解できる。
「ナタリーさん、何してらっしゃるの?」
「セレナ様! し、詩集を読んでおりましたの!」
中庭で静かに詩集を読むのが好きなのは、友人越しに知っていた。
ナタリーは少し恥ずかしそうに私に詩集を差し出した。
「あら……素敵な詩ばかりね」
受け取りパラパラとページをめくると、情熱的な愛の詩がとても多かった。
「……もしかして意中の方がいたりなんて?」
そう言うとナタリーは私の顔をバッとみて顔を真っ赤にさせた。
その姿にどうしようもなく庇護欲が生まれてしまう。
ナタリーの顎に指を添えて顔を近づけると、ナタリーはもっと顔を紅く染めた。
「教えて、ナタリーさん。そんな可愛い顔を貴女にさせている方は誰?」
「セ、セレナ様っ……、お戯れが過ぎます!」
肩を捕まれ引き離される。
「あらあら……、ごめんなさいね」
ナタリーは真っ赤になった顔を隠すように頬に手をあてた。
呼吸も乱れてしまったみたいで肩で息をしている。
『あぁ……可愛らしい』
心の中で悶えているとは探らせないよう笑顔でナタリーに詩集を返した。
「はい、ありがとうね」
「い、いえ……」
しかし、この反応……。もしかしてもう第一王子に惚れているんじゃ?と不安になる。
ナタリーが第一王子に惚れる理由はお互いに孤独だったからだ。
でもナタリーは私たちの友人グループに、王子とはいうと転入初日に私の剣技の稽古グループに入っている。
王子は最初こそは嫌がっていたが、模擬試合と称してボコボコにしてあげたら『打倒! セレナ!!』となり稽古グループの仲間と切磋琢磨していることを聞いていた。そこで親しい友人たちができたことも知っている。
お互いに孤独ではなくなって、接点もそもそもないはずだ。
もちろん一目ぼれなんていうこともあり得るわけだが。
「わ、私はセレナ様を、……な、なんでもございません!!」
私が考え込んでいるうちにナタリーは本を抱えて走って行ってしまった。
「え、えっと……、私そんなに強く迫ってしまったのかしら?」