物語が始まる
その後すぐに理髪師が呼ばれ、より短く、ショートカットにしてもらった。
髪の手入れは嫌いじゃなかったけど、これからの戦いと攻略対象のフラグ折りのためには仕方がない代償だ。
すっきりとした頭を自分で撫でて、これからの事を考える。
もう物語は始まってしまったんだ。
前世の記憶を取り戻してから忘れないようにメモを残している。
ほかの人にはわからないように日本語でだ。
「まずはこの子をなんとかしないといけないわね」
指で文字をなぞる。
この子とは、ナタリー・ジョーンズ。
伯爵家の娘で『月夜の花に』の代表的な悪役令嬢である。
ナタリーはツンデレキャラというか素直じゃない性格をしている。
第一王子に恋い焦がれているが、私が王子と婚約したと発表された時から敵視をしてくるようになるのだ。
しかし階級は私のほうが上。おおやけに嫌がらせすることはなく、教科書を破り捨てたり、見えないところから水をかけてきたりと陰湿なことをしていく。
そしてそれにひるまないセレナに業を煮やして、魔王からの甘いささやきに頷いてしまうんだ。
「ナタリーは闇の属性だから魔王と組まれると本当に厄介……」
ナタリーと第一王子は明日学園に転入してくる。
「王子との接触は必要最低限にして、婚約をそもそもしない方向にするか……」
いや、明日はイベントが必ずある。避けられないものだとしたら……。
「ナタリーと親しくして懐に入るってのも手なのかしら」
うーんと顎に手をやり、結局その日の夜は眠ることはできなかった。