覚悟の証
16才の誕生日の翌日、私は両親に呼び出され実家にいた。
「セレナ……。お前に話さなくてはならないことがある」
その先の展開はよく覚えている。ゲームの冒頭シーンで何回も見たからだ。
セレナ・ヘンリー・メアは公爵家のひとり娘であり、『月夜の花に』のヒロインである。
セレナは選ばれし者として学園生活のかたわら魔王退治をするのだ。
メア家は代々、魔王が現れるたびに選ばれし者を輩出し王族からの信頼を得ていた。
恐怖はないと言えば嘘になる。
けれど7才の誕生日に全てを思い出してからすでに覚悟は決まっていた。
「お父様、私頑張ります」
そう。これは覚悟の証だ。
私は長い髪を掴み、持っていたナイフで切り落とした。
驚くお父様をみつめてたまま、切り落とした髪をテーブルの上に置いた。
これはゲームシーンにはない。
「長い髪は戦いのさなか邪魔になるでしょう」
「これは私の覚悟の証だとお考え下さい」
今の言葉に嘘はない。
いろいろと足りない言葉はあるが……。
セレナ、私はそれはもう美しい髪をしていた。
戦いの際にでも魅入られる攻略対象がいるくらいだ。
この行動は少しでも攻略対象を減らすためのものでもあった。
お母様は娘を戦場に送り出すだけではなく、年頃の娘が自ら髪を切ったことでショックを受けたのか顔を青白くしている。
お父様も黙ったままだ。
私は二人に困ったような笑顔をむけた。
少しやりすぎた感も否めないが、ゲームのシナリオから少しでもずらせるならずらしておきたい。
魔王も無事に退治し、学園も問題なく卒業する。その大筋だけは死守して、後は男性とのフラグを叩き折っていくんだ。
「大丈夫です! 私は選ばれし者としての責務を果たしてみせます!!」