ヒロインは無理なんでヒーローになります。
今生きているこの世界が……。
この世界が以前プレイしたゲームの中の世界だということを私は知っている。
私の前世の名前は綾神れいな。今年で30才になるOLだった。
そして今世の名前はセレナ・ヘンリー・メア。
気が付いた時には公爵家のひとり娘であり、ゲーム『月夜の花に』のヒロインであるセレナに転生していた。
その瞬間のことは今も鮮明に思いだせる。
7才の誕生日パーティーの時にうっかり椅子から転げ落ちて頭を打ってしまったのだ。
ズキンズキンと痛む頭には前世の記憶が次々とながれ込み、その情報量に耐え切れなくなって私は意識を失った。
翌日、目が覚めると心配した今世の両親がベッド脇におり涙をにじませていた。
「お父様、お母様……?」
「あぁ! セレナ!! 私のセレナ!!」
お母様は涙を溢れさせ私を抱き寄せた。
お父様は安堵したように息を吐き、そして微笑んだ。
眠っている間も夢のように前世の記憶が流れたおかげで全てを思い出した私は混乱していた。
しかしたった7年しか生きていないこの世界もとても大事なものになっていた。
起こったことを話すと両親をまた不安にさせてしまうかもしれない。
そう思った私は心の内にしまっておこうと決心し、両親に笑顔を向けたのだった。