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第八十二話 入学試験で検証 その四


「……」


「……」


「本当にこれでよかったっすかねぇ……」


「うむ、まだ検証結果は分からないが、これで二人とも間違いなく不合格にはなったと思うぞ?」


「いや……そういうことじゃなくてっすね……」


「ふむ? 何を浮かない顔をしているのだグリィ殿……自分がこの試験に落ちる検証を手伝うかと聞いたときは乗り気だったではないか……まさか、本当は試験に受かりたかったのであるか?」


 自分はあれから、とりあえず筆記試験を全て古代語で回答したうえで、面接の際も自己紹介も含めてずっと古代語で受けてみた。


 面接官の中にはそれなりに学があり、すぐにそれが古代語だと気づいた者がいたようだが、流石に王都の教会にあった古代語の本を全て読破した自分が、それによってかなりの経験値が溜まった【人族古代語】スキルを全力で使用し、あえて難しい言い回しばかり使っていたので、その場で意味をくみ取るまではできなかったようだが……。


 自分としては、使っているのが古代語だったとしてもその内容的には満点の回答をしたつもりではあるが、面接官に「古代語が使えるというアピールは十分だからちゃんと現代語で話すように」と言われたように、きっと彼らはその内容をほとんど理解していないだろう。


しかもその現代語で話すようにという指示にも従わず、そのまま古代語で話し続けていたため、実際のところはどういった評価がなされているのかは分からない。


「いや……私としても家族から何と言われようと貴族の道になんか戻りたくなかったし、オースさんが『学校に行くということしか約束していないなら、王族・貴族学科ではなく冒険者学科に入学してもよいのではないか?』って言われてハッとしたっすけど……」


「うむ、仕様や契約書に穴がないか探すのはデバッグの基本だろう……ご家族と何をどう約束したのかまだ詳しく聞いていないが、今回の試験に落ちたからと言って約束を破ったことにはならないと思うぞ?」


 その後、筆記試験と面接を終えた自分は、今までの傾向から、これが冒険者ギルドの昇格試験であれば間違いなく落ちているであろうという確信があったが、今回の試験でも同じように落ちただろうという自信が持てなかったので、ずいぶんと疲れた様子で帰ろうとしていたグリィ殿に声をかけたのだ。


 そして、軽く彼女のバックストーリー検証の続きとして事情を聴いたところ、何やら家族と貴族としての道を進むか進まないか揉めていて、冒険者として活動していたのは、それで二年以内にAランク冒険者になれなければ貴族の道に戻るという猶予期間のようなものだったらしい。


 ただでさえAランク冒険者になれるのはほんの一握りで、アルダートンではトップクラスの実力者であるフランツ殿でさえ聞くところによると五年以上時間をかけてCランクに上がったというのだ……。


その条件を飲んだグリィ殿の気持ちは分からないが、少なくとも家族側はそれを条件だとも思っていない、ただ最後に少しばかりの自由時間を与えただけという気持ちだろう。


 他にも詳しく聞けばまだ色々と話が聞けそうではあったが、とりあえずその言われた期限が迫っており、現状やっとEランクに上がったところだという状況から、まだ猶予期間として言われている時間は多少残っているものの、達成は不可能だろうと判断され、残りは学校で貴族としての道を進む勉強をしながら続けるようにと言われたとのこと。


 まぁ、常識的に考えれば達成は不可能であるし、グリィ殿がどんなにその立場を好ましく思っていなくても、貴族の血筋を受け継いでいる事実は変えられないということを考えると、その家族がこういった行動に出る気持ちは分からないでもない。


 ……自分がデバッガーでなければ。


「そうっすね……まぁ、約束に関しては言われてみればそうだと思ったんで、試験に落ちたこと自体は別にどうだっていいんすけど……」


「そこに納得しているというのなら、いったいどこに不満があるというのだ」


「いや、不満というか……不安というか……別にあそこまでやらなくても、もしかしたら試験自体の成績が悪くて落ちたんじゃないかって思うっすよ」


「試験自体?」


「はいっす……。 一応、オースさんに言われた通り、筆記試験は真面目な答えを書いたっすけど、当たってる自信はないし……面接もオースさんが急にかっこよく知らない言葉を話し始めるもんだから、私もカッコいい知らない言葉を喋らなきゃって思っちゃって、結局自分では何をしゃべったか覚えてないっす」


「ふむ、安心していいぞ……遠視でグリィ殿の筆記試験での回答を確認していたが、全ての回答を埋めていたにも関わらず、その全てが間違っていたし……面接のほうも古代語でも何でもないカタコトの現代語で、聞かれている内容と全然違う答えを返していた……あれで試験を受かっていたら、それこそ不具合として報告するところだろう」


「えぇー……。 それは、喜んでいいのか、悲しんでいいのか……。 というか、だったら別にその後にあんな無茶苦茶なことをしなくても良かったんじゃ?」


「それとこれとは話が別である……。 家からの推薦があるだけでほぼ確実に合格すると言われている〈王族・貴族学科〉の受験なのだからな、念には念を入れて、ついでに同時にできそうな他の検証も一緒にこなしておいた方が効率的だろう?」


 これが現実世界であれば家庭の事情に首を突っ込むのはどうかと思うし、むしろ親御さんの気持ちを汲み取ってあげてはどうだろうという意見を持つかもしれないが、今の自分は、この世界に派遣された一人のデバッガーである。


 仕様に穴があるなら指摘するし、検証の余地があれば試さない選択肢はないだろう。


 まだ自由にしてもいい期間が残っているのに、その自由を奪われた? どう考えてもそれはまだ挑戦が継続しているイベントではないか。


 そんなイベントを検証せずに、いったい何を検証するというのだ。


 だから自分は検証したのだ……全力で。


「いや……まぁ……私としては、とりあえず効率とか何だとかは別にどうだっていいんすけど……。 ただ……その結果が……」


「その結果が……?」


「試験を落ちるとか以前に! たくさんの騎士に追い回された挙句、捕まって牢屋に入れられるっていうのは聞いてないっすよぉぉおおお!!!」


「うむ、言ってなかったからな」


 現在、自分たちがいる場所は、王城の地下に設置された牢屋の一室。


 罪を犯しているとはいっても自分たちが王族や貴族であるからか、その牢屋は自分が前に捕まった冷たい石の床がむき出しの牢屋らしい牢屋ではなく、何もなくて退屈だったり格子を挟んだ向こうからの視線が気になったりするのを除けば、何日でも快適に過ごせそうな、きちんとした木の床やベッドのある牢屋ではあるが……。


 自分たちは面接を終えた後、その結果に自信がなかった組として、学校の校長に不合格ラインだったとしても合格にするようにと直談判しにいったのだ……その辺をやたら優雅に歩いていた、あの公爵家の長男を人質に連れて……。


 押してダメなら引いてみろ、引いてだめなら押してみろの理論である……不合格の点数を狙っても合格してしまう学科ならば、逆にあえて過剰に合格を志願して不合格にしてもらおうという作戦は、我ながら賢い選択だったのではないだろうか。


 それに、あの検証しがいのある新キャラクターもついでに検証してあげられたのだ。


 彼が何故グリィ殿につっかかっているのかは分からないが、利用できるものはそれがゲーム仕様的に意図した使用方法でなくても利用するのがゲームプレイヤーであり、それすらも事前に想定して検証しておくのが優秀なデバッガーである。


 嫌な顔をしていたグリィ殿に頼んで彼を人気のない場所に誘導させて、そこに隠れていた自分が、彼を素早く拘束するという隙のないスムーズな動きは、一緒に数々の獣や魔物を捉えてきた自分たち冒険者タッグでなければ難しかっただろう。


 彼を捕らえたままグリィ殿を連れて校長室へ突入するまでも全ての動作が完璧で、そのあまりのスムーズさが影響してか、試験を合格させなければこの男の命は無いと刃物を突き付けながら会話した校長の反応に多少なりともラグが発生していたくらいだ。


 そこまで進んでもまだ状況がよくわかっていないグリィ殿の、どうやら知り合いらしいという彼との関係を利用して誘い出し、自分の持っているあらゆるスキルを駆使して手早くその男を拘束し、捕まえた彼の公爵家長男という立場を利用して、検証を完遂させる……。


 出てきたばかりでいきなり想定外の使われ方をする彼にも、突然、公爵家の長男を怪我させかねない状況に立たされた校長にも悪いが、実際に怪我などはさせていないし、遅れてやってきた騎士に囲まれたところで、こうして大人しく捕まったのでどうか許してほしい……。


これもゲームがリリースされた後、使えるものは何でも使って想定外の行動を引き起こすようなプレイヤーたちが、進行不能バグなどでストレスを感じることなく、あらゆる面からゲームを楽しむための検証のなのだ。


「はぁ……どうするんすか、これ……貴族の娘というよりも、この国で生きる一人の人間としてこの先の未来が心配っすよ……」


「ふむ、まぁ……多少大袈裟に検証してしまったことは認めよう」


「多少って……はぁ……まぁ、詳しい内容を聞かないで、試験に落ちられるってだけでこの作戦に賛成したのは私なんで、それはそれでいいっすけどね……でも、流石にこれは怒られるどころか、その怒ってくれる家の存続すら怪しいっす……」


「あぁ……そう言われてみればそうであるか……暴走してたのが自分たち二人だけだったとしても、その反動が返ってくるのも自分たち二人だけ、というわけではないのだな……」


「そうっすよ……うぅ……お父様、お母様……確かに貴族として暮らすのは嫌で、今までも迷惑ばかりかけてたっすが、だからってこんなことになる思って無かったっす……あぁ……頭の悪い子でごめんなさいっす……」


 確かに……グリィ殿が偽っていた通りの身一つで稼いでいる一般的な冒険者だったのであれば、罰として冒険者ランクを下げられるか、最悪その人物だけ極刑となって終わりだろうが……家がこの国の爵位を持つ貴族だとその家にまでその刑が及ぶ可能性があるのか。


 隣国の王子である自分の場合はどうなるのか分からないが、検証内容的に、グリィ殿の家はもしかしたら爵位をはく奪されてしまうかもしれないな……。


 うーむ……それはそれでその後のストーリーにどのような影響を及ぼすのか検証してみたいところだが……流石に巻き込んだ彼女をそんな悲惨な目に合わせるのも可哀そうであるし……。


何より重要なのは、ストーリーへの影響を検証するのであれば、元のストーリーを知らなければならないということだろう……ふむ……どうにかできそうであれば、自分の刑を増やしてでも彼女のことは助けよう。


「よし……」


 ―― ガチャリ ――


 自分はそんなことを考えながら、先ほどから亜空間倉庫からピッキングツールを取り出して取り掛かっていた、自分の牢屋の鍵開けを静かに終わらせて、そのまま牢屋を出た……。


 うむ、伊達に二回目の投獄ではないな……あの時は開錠にかなり手間取っていたが、今回は道具もスキルもあったので、なかなかスピーディーに開けられたと思う……これはいつか脱獄のタイムアタック検証も実施しなければ……。


「……って、オースさん!? 何やってるっすか!」


「何って……脱獄以外に何に見えるのだ?」


「何に見えるのだ、って、いやいや、脱獄にしか見えないっすけど……そうじゃなくて、罪に罪を重ねてどうするんすかってことっすよ! 大人しくしてないとどんな刑が増やされるか分からないっすよ!」


「なるほど……刑罰のコンプリートもいつか達成しなければということだな」


「誰もそんなこと言ってないっす!!」


 ふむ、よくわからないが、彼女の助言通り刑罰のコンプリートも検証項目としてメモ画面に書き残してはしておこう。


 とりあえず今はコンプリートを目指している場合ではない、彼女の家の信用を守るためにも……そして、元々のストーリーを見る前に今回のイベントの影響を出さないためにも、この情報が彼女の家に伝わる前にこの事態をどうにかしなければな……。


「グリィ殿、これを……」


 自分はそう行動方針を決めると、この貴族用の牢屋が並ぶ大きな部屋から出る前に、グリィ殿にそれを手渡した。


 ―― チャリ ――


「なんすか? これ」


「ピッキングツールと、自分が先ほど外した南京錠だ」


「え? それをどうしろと?」


「いや、自分は今からしばらくいなくなるからな……どういった仕様なのか、貴族用の牢屋には近くに投獄者を見張る兵士もいないようだし、話し相手もいなくて暇だろう? それで鍵開けの練習をしているといい」


「ちょっ……え? いや、だから私はこれ以上罪を重ねるつもりはないっすよ?」


「分かっている、だからグリィ殿の入っている檻の鍵を開けるのではなく、自分が既に外した南京錠を練習台に遊ぶだけだ……それなら罪にならないだろう?」


「うーん……? たしかに、それなら、いいっすかね?」


「それに、グリィ殿には自分の冒険者パーティーで将来的に斥候として遺跡の宝箱とかを開ける役を担ってもらうのだ……今からその練習をしておいて損はないだろう?」


「え? でも……こんな状況じゃ貴族どころか冒険者を続けることも……」


「それを自分が今からどうにかしに行くのだ、うまくいけばグリィ殿の罪は無かったことになるから、安心して鍵開けの練習をしているといい」


「オースさん……」


「では、行ってくる」


「は、はいっ……いってらっしゃいっす! 鍵開けの練習頑張ってるっす!」


 そうして自分はグリィ殿に鍵開けの練習を指示して、自身は自分がまきこんで罪をかぶってしまった彼女の刑罰をどうにか無くすために、その部屋から出ていくのであった……。


 うむ……たとえ自分の牢屋と直接は関係ないにしろ、牢屋の中で持ち込めないはずのピッキングツールを片手に堂々と鍵開けの練習をしているのも実際はどうかと思うが……まぁ、細かいことはいいだろう。


 今はそんなことよりも、さっさと話の分かる人間を探し出さなければな……。


「ふむ……なるほど……よし」


「とりあえず確実にこの刑をどうにかできる権力を持っているであろう国王に会いに行くか」


 そうして自分は、何食わぬ顔で牢屋のある部屋から出て、その扉の外側で見張りをしていた騎士に片手をあげて「ごくろう」と挨拶すると、その場を静かに立ち去ろうとし……。


そのまま数多くの騎士たちと昔懐かしい追いかけっこをしながら、謁見の間に駆けていった……。


▼スキル一覧

【輪廻の勇者】:不明。勇者によって効果は異なる。

【物理耐性】:物理的な悪影響を受けにくくなる

【精神耐性】:精神的な悪影響を受けにくくなる

【時間耐性】:時間による悪影響を受けにくくなる

【異常耐性】:あらゆる状態異常にかかりにくくなる

【身体強化】:様々な身体能力が上昇する

【成長強化】:あらゆる力が成長しやすくなる

【武器マスター】:あらゆる武器を高い技術で意のままに扱える

【武術】:自分の身体を特定の心得に則って思いのままに扱える

【魔力応用】:自分の魔力を思い通り広い範囲で精密に操ることが出来る

【実力制御】:自分が発揮する力を思い通りに制御できる

【薬術】:薬や毒の効果を最大限に発揮できる

【医術】:医療行為の効果を最大限に発揮できる

【家事】:家事に関わる行動の効果を最大限に発揮できる

【サバイバル】:過酷な環境で生き残る力を最大限に発揮することができる

【諜報術】:様々な環境で高い水準の諜報活動を行うことが出来る

【解体】:物を解体して無駄なく素材を獲得できる

【収穫】:作物を的確に素早く収穫することができる

【伐採】:木を的確に素早く伐採することができる

【石工】:石の加工を高い技術で行うことができる

【木工】:木の加工を高い技術で行うことができる

【調合】:複数の材料を使って高い効果の薬や毒を作成できる

【指導術】:相手の成長を促す効率の良い指導が出来る

【コンサルティング】:店や組織の成長を促す効率の良い助言ができる

【超観測】:任意の空間の全ての状況や性質を把握できる

【人族共通語】:人族共通語で読み書き、会話することができる

【人族古代語】:人族古代語で読み書き、会話することができる


▼称号一覧

【連打を極めし者】

【全てを試みる者】

【世界の理を探究する者】

【動かざる者】

【躊躇いの無い者】

【非道なる者】

【常軌を逸した者】

【仲間を陥れる者】

【仲間を欺く者】

【森林を破壊する者】

【生物を恐怖させる者】

【種の根絶を目論む者】

【悪に味方する者】

【同族を変異させる者】

【覇者】


▼アイテム一覧

〈1~4人用テント×9ずつ〉〈冒険道具セット×9〉〈キャンプ道具セット×9〉

〈調理道具セット×9〉〈登山道具セット×9〉〈変装セット×1〉〈調合セット×1〉

〈その他雑貨×8〉〈着火魔道具×9〉〈方位魔針×9〉〈魔法のランタン×9〉

〈水×54,000〉〈枯れ枝×500〉〈小石×1,750〉〈倒木×20〉

〈食料、飲料、調味料、香辛料など×1089日分〉

〈獣生肉(下)×1750〉〈獣生肉(中)×709〉〈獣生肉(上)×1005〉〈鶏生肉×245〉

〈獣の骨×720〉〈獣の爪×270〉〈獣の牙×258〉〈羽毛×50〉〈魔石(極小)×64〉

〈革×274〉〈毛皮×99〉〈スライムの粘液×850〉〈スライム草×100〉

〈木刀×1〉〈棍棒×300〉〈ナイフ×3〉〈シミター×2〉〈短剣×3〉〈剣×3〉〈大剣×3〉

〈戦斧×3〉〈槍×3〉〈メイス×3〉〈杖×3〉〈戦鎚×3〉〈弓×3〉〈矢筒×3〉〈矢×10,000〉

〈訓練用武器一式×1〉〈雑貨×50〉

〈魔法鞄×4〉〈風のブーツ×4〉〈治癒のアミュレット×4〉〈集音のイヤーカフ×4〉

〈水のブレスレット×4〉〈装飾品×5〉〈宝石×6〉

〈一般服×10〉〈貴族服×4〉〈使用人服×2〉〈和服×1〉

〈ボロ皮鎧×1〉〈革鎧×1〉〈チェインメイル×2〉〈鋼の鎧×2〉

〈バックラー×1〉〈鋼の盾×2〉

〈上治癒薬×19〉〈特上治癒薬×5〉〈魔力回復薬×10〉〈上解毒薬×7〉〈猛毒薬×10〉

〈筋力増加薬×5〉〈精神刺激薬×5〉〈自然治癒上昇薬×10〉〈魔力生成上昇薬×10〉

〈大銀貨×2〉〈銀貨×3〉〈大銅貨×9〉〈銅貨×7〉


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