第八十一話 入学試験で検証 その三
「コレワこれワ、カルボーニ卿、ゴキゲン麗しゅうゴザイマス」
「はっはっは、グラツィエラ嬢、君とボクの仲ではないか、カルボーニ卿なんて畏まった呼び方はやめて、昔そうしていたようにヴィーコと呼んでくれ」
「イエイエ、公爵様ノご子息にソノヨウナ軽いお言葉をカケルなど……」
「そうか? まぁそれならそれでいい……それよりも、ご両親から話がいっていると思うが……」
ジェラード王国、王立学校、入学試験会場……。
王族・貴族学科の受験を検証しに訪れ、貴族服姿のグリィ殿と再会したところで後ろから現れた、いかにも成金貴族といった風貌のその男は、どうやら公爵家の後継者らしい。
ふむ、それにしても……グリィ殿が自分と話すときに貴族姿でも丁寧な言葉遣いを選ばなかったのは、自分に同一人物だと分かりやすくするためだけでなく、そもそもそういった言葉遣いが苦手だったという理由もあるのだな。
相手方は気にしていないようだが、あからさまにカタコト過ぎて、これでは普通に砕けた言葉遣いでしゃべってもらった方がまだ気に障らなそうである。
まぁ……相手方が気にしていないならそれでいいか……それよりも……。
「おい、目の前にいる派手な服装の男」
「ちょっ……オースさん!?」
「……。 あー。 あの件について、グラツィエラ嬢は……」
「無視をするな。 カルボーニ卿だったか? 貴殿のことを呼んでいるのだ」
「オースさん! その人にそんな口の利き方をしちゃ……」
目の前にいる人物は、今まで出会った冒険者や騎士のように、それなりにリアル志向な服装をしていた人たちとは異なる、とてもゲームのキャラクターらしい服装をしたキャラクターである。
今まで数々のゲームを企画書や仕様書と見比べながらデバッグしてきた自分の経験や勘から察するに、勝手な推測ではあるが、メインストーリーで王族ルートに足を踏み入れずに、冒険者ルートのまま突き進んでいたとしても出会っていた、それなりに出番が用意されているキャラクターだろう。
だったら、一流デバッガーの仕事として、他のキャラクターよりも多めに検証しなくてはいけない……そう思った自分は、彼がそうしたように、グリィ殿との話に割り込む形で口を挟んだわけだが……どうも反応が悪い。
うーむ……もしかしたら、この会話はスキップできないムービーに当たるイベントなのだろうか……。
いや、だとしたら、グリィ殿が自分の言葉に何やら慌てるような反応を返しているのはおかしいし……まさか……いきなり不具合を引き当てた……?
「……うーん。 何だね、君は」
と、そんなことを考えていると、やっと目の前のそのキャラクターが反応を返してきた。
「ふぅ、よかった……ちゃんと会話はできるようであるな……。 服装の見た目からして既に不具合一歩手前で、デザイン担当者に報告するか悩むところだというのに……出会った瞬間から中身までバグだらけな人物だったらどうしようかと思ったところである」
「……。 言っていることはよくわからないが、このボクをバカにしているのは間違いなさそうだね?」
「あわわわわ……」
ふむ、反応が遅かったのは気になるところではあるが、とりあえずプレイヤーの進行に影響の出る不具合というほどではなさそうだな……おそらく何らかの大きなイベントのロードにメモリを割かれて、キャラクターの返答に少し遅れが出ただけだろう。
一応、軽微な不具合としてメモしておくが、こういった不具合はゲームを動かす端末側のスペック的に仕方がない場合もあるからな……解決は難しいだろう。
うーむ……それにしても、ここにきて処理速度が一瞬でも低下するほどのイベントロードが走るのか……これは、ますますこのキャラクターは何か大きなものを抱えていそうだな……バグも含めて。
王族ルートからは一度外れる予定なので、今後このキャラクターとどれほど関りがあるのかは分からないが、注意しておいた方がよさそうであるな。
「ふむふむ……」
「おい貴様! 気安く話しかけてきておいて、反応を返してやればそれを無視か! 失礼にもほどがあるぞ!」
「おっと、すまない……少し貴殿の将来について心配をしていたのだ……無視をしていたわけではないので安心してほしい」
「安心できるか! 出会ったばかりの名も知らぬ者に、将来を心配される筋合いはない! とことん失礼な奴だなお前は!」
「うーむ……いきなり何を怒っているのだ? は……まさかやはり既にどこかに不具合が……」
「公爵家の長男に対するお前のその態度が不具合だろう! 父上に言って家ごと潰してやるから名を名乗れ!」
ふむ……デバッガーの側である自分の方が不具合だと言われるのはよくわからないが、まぁ確かに自己紹介は大事だな。
相手方が貴族らしい高圧的な態度を通り越して何故か怒ったような口ぶりであることや、グリィ殿が何かに慌て過ぎて口をパクパクとさせるだけになってしまっているのが気になるが、公爵家の長男であると自己紹介してくれたことだし、こちらも社会人としてしっかりと返事を返そう……。
「自分はオース、派遣のデバッガーである」
こうして自分は、派手な貴族衣装の公爵家長男、ヴィーコ・カルボーニ殿という検証しがいのありそうなキャラクターとの出会いを果たした。
「……」
「……」
きちんと社会人らしい自己紹介を返したというのに、その彼はこちらに対して全く会話の通じない未知の生物を見るかのような怪訝な表情を向け、グリィ殿がとうとうパクパクと開けたり閉じたりしていた口を開けっ放しにして、そこから魂のような形状で魔力を放出させていたが、それはまぁ小さなことだろう。
—— スタスタ ——
「えー、皆さん、席についてください、そろそろ試験を始めますよ」
教室に入ってきた試験官らしき女性がそう言ってきたように、どうやらそろそろ今回の検証のメインとなる試験が始まるらしい……。
グリィ殿のこれまでの話もまだ途中であるし、新しく表れたキャラクターのことももう少し検証を続けたいところではあるが、ここは当初の予定通り、全力でこの王族・貴族学科の試験に落ちて見せようではないか。
不具合のない強制イベントかもしれない? 無謀な挑戦かもしれない?
そんなことは分かっている……だが、現実世界で行ってきたデバッガー業務でも、そういった難易度の高い検証にはたくさん挑戦してきた……。
まぁ、そういうことをする時ほど、殆どの不具合が修正された段階で、あとはゲームのリリース日を待つだけという状況だったりして、検証人員が自分一人に減らされていることもあったし……。
そんなリリース直前という段階で変な不具合を発見したところで、ユーザーへの影響度が高くなければ仕様とされる可能性が高かった……。
……しかし……自分はデバッガーである。
そして……今回はひとりじゃない。
一人では確かに難しい検証かもしれない……。
だが、ここには殆どの人が一発で合格すると言われているFランク昇格試験で、自分が協力を仰いだわけでも何か指示を出したわけでもないのに考えうる全ての不合格パターンを自ら検証していた優秀なデバッガーがいるのだ。
一人では難しい検証でも、グリィ殿と一緒に挑戦できるのであれば、きっと容易く乗り越えられるであろう……。
「ふむ……なるほど……よし」
自分たち二人は、いずれ世界の全てを検証しつくす冒険者パーティー……。
「さぁ……検証の開始だ……」
〈世界の探究者〉だからな。
▼スキル一覧
【輪廻の勇者】:不明。勇者によって効果は異なる。
【物理耐性】:物理的な悪影響を受けにくくなる
【精神耐性】:精神的な悪影響を受けにくくなる
【時間耐性】:時間による悪影響を受けにくくなる
【異常耐性】:あらゆる状態異常にかかりにくくなる
【身体強化】:様々な身体能力が上昇する
【成長強化】:あらゆる力が成長しやすくなる
【武器マスター】:あらゆる武器を高い技術で意のままに扱える
【武術】:自分の身体を特定の心得に則って思いのままに扱える
【魔力応用】:自分の魔力を思い通り広い範囲で精密に操ることが出来る
【実力制御】:自分が発揮する力を思い通りに制御できる
【薬術】:薬や毒の効果を最大限に発揮できる
【医術】:医療行為の効果を最大限に発揮できる
【家事】:家事に関わる行動の効果を最大限に発揮できる
【サバイバル】:過酷な環境で生き残る力を最大限に発揮することができる
【諜報術】:様々な環境で高い水準の諜報活動を行うことが出来る
【解体】:物を解体して無駄なく素材を獲得できる
【収穫】:作物を的確に素早く収穫することができる
【伐採】:木を的確に素早く伐採することができる
【石工】:石の加工を高い技術で行うことができる
【木工】:木の加工を高い技術で行うことができる
【調合】:複数の材料を使って高い効果の薬や毒を作成できる
【指導術】:相手の成長を促す効率の良い指導が出来る
【コンサルティング】:店や組織の成長を促す効率の良い助言ができる
【超観測】:任意の空間の全ての状況や性質を把握できる
【人族共通語】:人族共通語で読み書き、会話することができる
【人族古代語】:人族古代語で読み書き、会話することができる
▼称号一覧
【連打を極めし者】
【全てを試みる者】
【世界の理を探究する者】
【動かざる者】
【躊躇いの無い者】
【非道なる者】
【常軌を逸した者】
【仲間を陥れる者】
【仲間を欺く者】
【森林を破壊する者】
【生物を恐怖させる者】
【種の根絶を目論む者】
【悪に味方する者】
【同族を変異させる者】
【覇者】
▼アイテム一覧
〈1~4人用テント×9ずつ〉〈冒険道具セット×9〉〈キャンプ道具セット×9〉
〈調理道具セット×9〉〈登山道具セット×9〉〈変装セット×1〉〈調合セット×1〉
〈その他雑貨×8〉〈着火魔道具×9〉〈方位魔針×9〉〈魔法のランタン×9〉
〈水×54,000〉〈枯れ枝×500〉〈小石×1,750〉〈倒木×20〉
〈食料、飲料、調味料、香辛料など×1089日分〉
〈獣生肉(下)×1750〉〈獣生肉(中)×709〉〈獣生肉(上)×1005〉〈鶏生肉×245〉
〈獣の骨×720〉〈獣の爪×270〉〈獣の牙×258〉〈羽毛×50〉〈魔石(極小)×64〉
〈革×274〉〈毛皮×99〉〈スライムの粘液×850〉〈スライム草×100〉
〈木刀×1〉〈棍棒×300〉〈ナイフ×3〉〈シミター×2〉〈短剣×3〉〈剣×3〉〈大剣×3〉
〈戦斧×3〉〈槍×3〉〈メイス×3〉〈杖×3〉〈戦鎚×3〉〈弓×3〉〈矢筒×3〉〈矢×10,000〉
〈訓練用武器一式×1〉〈雑貨×50〉
〈魔法鞄×4〉〈風のブーツ×4〉〈治癒のアミュレット×4〉〈集音のイヤーカフ×4〉
〈水のブレスレット×4〉〈装飾品×5〉〈宝石×6〉
〈一般服×10〉〈貴族服×4〉〈使用人服×2〉〈和服×1〉
〈ボロ皮鎧×1〉〈革鎧×1〉〈チェインメイル×2〉〈鋼の鎧×2〉
〈バックラー×1〉〈鋼の盾×2〉
〈上治癒薬×19〉〈特上治癒薬×5〉〈魔力回復薬×10〉〈上解毒薬×7〉〈猛毒薬×10〉
〈筋力増加薬×5〉〈精神刺激薬×5〉〈自然治癒上昇薬×10〉〈魔力生成上昇薬×10〉
〈大銀貨×2〉〈銀貨×3〉〈大銅貨×9〉〈銅貨×7〉




