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第八十話 入学試験で検証 その二


「……で、オースさんは何でこんなところにいるっすか?」


 ジェラード王国、王立学校、王族・貴族学科への入学試験会場。


 グリィ殿は他の貴族が近くにいるその場では会話しずらかったのか、自分を人のいない教室の隅まで引っ張ってからそう問いかけてきた。


「自分がここにいる理由? そんなものは一つしかないだろう……検証のためだ」


「……」


「……」


「はぁ……なんか変わらないオースさんを見てると力が抜けるっすね……見た目はいつもと大分違うっすけど……それも検証のためってやつっすか?」


「うむ、その通りである」


「まぁ、そうっすよね……」


 今の自分が来ている服は、グラヴィーナ帝国の城で生活していた時に支給されて身に着けていた、あちらの国の王族衣装である。


 こちらの国の第三王子であるヴェルンヘル殿が普段身に着けていたジェラード王国の王族衣装は、白を基調として青を差し色にした清潔感があり爽やかな色合いで、成金のように見えない範囲で、しかし要所要所にしっかりと威厳のある金の装飾が施された、パット見で高貴な騎士という印象を与えるような衣装だったのに対して……。


 帝国の王族衣装は黒を基調とした落ち着いた色合いで、装飾も必要最小限の個所に、金ではなく銀や鋼鉄であしらわれており、自分の第一印象としては、騎士や貴族、王族の服ではなく、軍服と言われたほうがしっくりくるような、しかしどこか和を感じるデザインでもあるため、どことなく書生の服にも見えなくもない衣装だ。


 この国であまり見かけないタイプの服なので珍しくはあるが、地味な色や装飾の少なさだけで判断すると、こちらの一般的な貴族服の方が豪奢に見えるかもしれない。


 肩口にはしっかりとグラヴィーナ帝国の紋章が入った肩章がつけられていて、素材から染料まで高価なものを使っており、装飾に関しても少ないことだけに着目せずにその精巧さに目を向けると、その辺の一般的な細工師では再現することもかなわないような名匠の技術が使われているため、見る人が見たらあちらの国の王族衣装だと気づくだろうが……。


 自分としては一般着で参加したらどうなるかも検証したかったところだが、試験から逃げることを諦めて帰ってきた自分に対して、従者のクラリッサ殿は半ば無理やりこの衣装を着せた後、そのままテキパキと自分に軽い化粧まで施してくれたので、変装スキルのない彼女の身支度がどの程度の効果を発揮するのか気になり、そちらの検証に切り替えたのだ。


 その結果、特に変装スキルを所持していないクラリッサ殿が施した化粧では、長く一緒に冒険者をしていたグリィ殿には一瞬で見破られてしまう検証結果が返ってきたわけだが、今回は人の目に別人として映るような化粧を施してほしいと頼んではいないので、今度また改めてそういった指示を出して挑戦してもらったらどうなるか検証してみよう。


 何故って、自分はこんな結果だったのに、髪を下ろして化粧が施され、服装が随分ときらびやかなグリィ殿は、マップアイコンで事前情報がなければもしかしたら同一人物だと気づかなかったかもしれない変わりようなのだ……。


 女性は髪型や化粧で印象が変わるとは現実世界ではよく耳にしていたが、本当にそれだけで随分と雰囲気が変わるものなのだろうか……それとも彼女の従者は変装スキルのようなものを持っているのだろうか……うーむ、これは要検証だな……。


「それで……自分のことは置いておいて、こちらからするとグリィ殿がこの場にいる理由のほうが気になるのだが……いったいどういう流れでこのジェラード王国王立学校の王族・貴族学科の入学試験を受けることになったのだ?」


「うっ……それは……色々あってっすね……」


「うむ、その色々を聞いているのだ」


 見た目はどうあれ、彼女が自分に合わせてくれているのか、元から貴族らしい固い口調などは得意ではないのか、その話し方は自分がよく知るグリィ殿である……。


 ゲーム的に考えても、変装しているキャラクターが同一人物だとプレイヤーに気づかせるのは、同じ声優さんが同じ口調で話したりすることだったりするので、そういうものなのだろうとは思うが、やはりパーティーを離れた仲間が再開しても昔と同じように接してくれるというのは、デバッガーとしてもプレイヤーとしても安心するな。


 そして、彼女が間違いなく自分の冒険者パーティーの仲間であるのならば、デバッガーでありプレイヤーである自分は、彼女がパーティーから外れていた間の出来事は聞いておかなければならない。


 有名なRPGでも、途中でパーティーを離脱した仲間との再開シーンで回想が挟まったり、その手前で一時的に操作キャラが主人公から仲間のほうに移ることで、離れていたキャラクターがそれまでに何をやっていたかをプレイヤーに教える作りになっていることがよくある。


 この世界は今のところかなりのリアル志向なので、そういったゲーム特有の表現は無いのかもしれないが、それでもきっと、離脱中のキャラクターのストーリーが作られていないというわけではないだろう。


 そういった小さなイベントから、ストーリーに矛盾が生まれていないかどうか気にするのもデバッガーの重要な仕事だ……たとえ今ここでグリィ殿が話さなかったとしても、様々な手段をもってして調べ上げるつもりである。


「はぁ……そうっすね……まぁ、オースさんなら別に話しても対して態度が変わらなそうなんで、あまり気が進まないっすけど、ちゃんと話すっすよ……」


「うむ」


「……実は私は、オースさんにもずっと隠していたことがあってっすね……」


「ふむ」


「……私は……本当は……食べるのもままならない貧乏冒険者じゃなくて……」


「……」


「……貴族の娘なんすよ!」


「それは知っている」


「……そうっすよね……驚かれるのも無理はないと思うっすが……って、え? 知ってるっすか!?」


「ああ、会った時からずっと気づいていた」


「え、えぇー……」


 ゲーム上の演出かその発言にやたら長いためを挟んで、意を決したように力強くそう宣言したグリィ殿には悪いが、彼女が貴族であることは会ったときに【鑑定】で彼女のステータスを見た時から気づいていた。


 何せ自身の名をグリィだと自己紹介しているのに、ステータス画面の名前欄にはグラツィエラ・セヴェリーニと表示されているし、称号にそれっぽいものが含まれていたのだ……貴族が本名を隠して冒険者になっていることは意外とよくにあることだとミュリエル殿やフランツ殿から聞いていたし、そういう類のキャラクターなのだろうと簡単に予想できる。


 実際に冒険者ギルドでそういった視点で周りのステータスを確認していると、家名を持つ人物はそれなりにいて、彼らが全員そういった訳あり貴族なのか、それとも国に貢献するなどして後から爵位をもらっているのかは分からないが、どちらにしても冒険者であり貴族でもあるというのはそれほど珍しいことではないらしい。


 それに、自分だって一国の王子なのだ……ゲームの流れ的に本当は驚いたほうがいいのだろうが、自分が作られたキャラクターではなく主人公を操作している一般デバッガーという立場である以上、無理に合わせる必要もないだろう。


「うむ、そんなことはどうだっていいのだ……それよりも、学校への入学試験を受けることになった経緯を教えてほしい」


「どうだっていいって……はぁ……まぁ、そうっすよね……なんか、私なりにこの身分について色々と悩むことがあったんっすけど……いつも通りのオースさんにそう言われたら、なんかどうでもよくなったっす……じゃあ、とりあえず初めから……」


 ……と、グリィ殿が彼女の過去やパーティーから外れていた間の出来事を話してくれようとしたときだった……。


 —— スタスタ ——


(ざわ……ざわ……)


 開け放たれた入り口から誰かが入ってくる足音とともに、教室中がその入ってきた人物に意識を向けてひそひそと何かを話始めたような……そんな気配と雰囲気の変化が感じ取れた。


 —— スタ ——


 そして、その人物は、自分の背後で立ち止まると、自分の前方へ向けて……つまり、グリィ殿に向けて口を開く……。


「おやおや、これはこれは、セヴェリーニ伯爵家の正統後継者、グラツィエラ伯爵令嬢ではありませんか……最近パーティーなどに顔を見せなくなったとお聞きしていましたが、一体今までどこで何をしておられたんでしょうか?」


 振り向くと、そこにはいかにも成金貴族という風貌の、おそらく自分やグリィ殿よりも少し上くらいの年齢だろう男が立っていた……。


 その服や身に着けている装飾品は、王族衣装ほど金装飾が散りばめられてはいないようではあるが、派手な色合い、機能性よりも見た目を重視した奇抜なデザイン、敢えて目立つ個所に配置された宝石や貴金属、といったお金持ちアピールのフルコースで、本当に何か王族から言われたときに言い訳としてその最後の一線を守っているだけといった具合だ。


 そんな彼は、その見た目通りの上級貴族らしい振る舞いで、目の前に立っている自分のことなど目に映っていないかのように、グリィ殿にのみ、その丁寧な言葉に似合わない人を上から見下ろしているような視線を向けて話している。


 言動から察するに、この男はグリィ殿の昔からの知り合いなのだろうが、そう言葉をかけられた彼女のほうは……何というか……貴族ならもっと表情を隠すものではないのかと思わずにはいられないような、全力で「この人物が嫌いです」という顔をしていた……。


 それはそれで敢えて見えている地雷を丁寧に一つずつ踏んでいくデバッガーの申し子であるグリィ殿らしくていいのだが……そんな表情を向けられてもなお、余裕の表情で彼女の返答を待ち続けているこの男は何者なのだろうか……。


 まぁ……何はともあれ、自分の感想はただ一つ。



 ……検証しがいのありそうなキャラクターが現れたな。


 自分は、グリィ殿と話していたところに急に現れて彼女に話しかけてきた、いかにも貴族らしい貴族な男にそんな感想を持つと、彼との出会いイベントで最初に何を検証するべきかと考え始めた……。


▼スキル一覧

【輪廻の勇者】:不明。勇者によって効果は異なる。

【物理耐性】:物理的な悪影響を受けにくくなる

【精神耐性】:精神的な悪影響を受けにくくなる

【時間耐性】:時間による悪影響を受けにくくなる

【異常耐性】:あらゆる状態異常にかかりにくくなる

【身体強化】:様々な身体能力が上昇する

【成長強化】:あらゆる力が成長しやすくなる

【武器マスター】:あらゆる武器を高い技術で意のままに扱える

【武術】:自分の身体を特定の心得に則って思いのままに扱える

【魔力応用】:自分の魔力を思い通り広い範囲で精密に操ることが出来る

【実力制御】:自分が発揮する力を思い通りに制御できる

【薬術】:薬や毒の効果を最大限に発揮できる

【医術】:医療行為の効果を最大限に発揮できる

【家事】:家事に関わる行動の効果を最大限に発揮できる

【サバイバル】:過酷な環境で生き残る力を最大限に発揮することができる

【諜報術】:様々な環境で高い水準の諜報活動を行うことが出来る

【解体】:物を解体して無駄なく素材を獲得できる

【収穫】:作物を的確に素早く収穫することができる

【伐採】:木を的確に素早く伐採することができる

【石工】:石の加工を高い技術で行うことができる

【木工】:木の加工を高い技術で行うことができる

【調合】:複数の材料を使って高い効果の薬や毒を作成できる

【指導術】:相手の成長を促す効率の良い指導が出来る

【コンサルティング】:店や組織の成長を促す効率の良い助言ができる

【超観測】:任意の空間の全ての状況や性質を把握できる

【人族共通語】:人族共通語で読み書き、会話することができる

【人族古代語】:人族古代語で読み書き、会話することができる



▼称号一覧

【連打を極めし者】

【全てを試みる者】

【世界の理を探究する者】

【動かざる者】

【躊躇いの無い者】

【非道なる者】

【常軌を逸した者】

【仲間を陥れる者】

【仲間を欺く者】

【森林を破壊する者】

【生物を恐怖させる者】

【種の根絶を目論む者】

【悪に味方する者】

【同族を変異させる者】

【覇者】


▼アイテム一覧

〈1~4人用テント×9ずつ〉〈冒険道具セット×9〉〈キャンプ道具セット×9〉

〈調理道具セット×9〉〈登山道具セット×9〉〈変装セット×1〉〈調合セット×1〉

〈その他雑貨×8〉〈着火魔道具×9〉〈方位魔針×9〉〈魔法のランタン×9〉

〈水×54,000〉〈枯れ枝×500〉〈小石×1,750〉〈倒木×20〉

〈食料、飲料、調味料、香辛料など×1089日分〉

〈獣生肉(下)×1750〉〈獣生肉(中)×709〉〈獣生肉(上)×1005〉〈鶏生肉×245〉

〈獣の骨×720〉〈獣の爪×270〉〈獣の牙×258〉〈羽毛×50〉〈魔石(極小)×64〉

〈革×274〉〈毛皮×99〉〈スライムの粘液×850〉〈スライム草×100〉

〈木刀×1〉〈棍棒×300〉〈ナイフ×3〉〈シミター×2〉〈短剣×3〉〈剣×3〉〈大剣×3〉

〈戦斧×3〉〈槍×3〉〈メイス×3〉〈杖×3〉〈戦鎚×3〉〈弓×3〉〈矢筒×3〉〈矢×10,000〉

〈訓練用武器一式×1〉〈雑貨×50〉

〈魔法鞄×4〉〈風のブーツ×4〉〈治癒のアミュレット×4〉〈集音のイヤーカフ×4〉

〈水のブレスレット×4〉〈装飾品×5〉〈宝石×6〉

〈一般服×10〉〈貴族服×4〉〈使用人服×2〉〈和服×1〉

〈ボロ皮鎧×1〉〈革鎧×1〉〈チェインメイル×2〉〈鋼の鎧×2〉

〈バックラー×1〉〈鋼の盾×2〉

〈上治癒薬×19〉〈特上治癒薬×5〉〈魔力回復薬×10〉〈上解毒薬×7〉〈猛毒薬×10〉

〈筋力増加薬×5〉〈精神刺激薬×5〉〈自然治癒上昇薬×10〉〈魔力生成上昇薬×10〉

〈大銀貨×2〉〈銀貨×3〉〈大銅貨×9〉〈銅貨×7〉

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[良い点] わー可哀想…検証フルコースされちゃうぜ!
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