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第七十三話 鬼ごっこで検証


 月明かりが木々の隙間からうっすらと差し込む薄暗い森の中……。


 あまり奥までは入り込んでいない、まだ比較的安全な森の入り口付近だというのに、魔物や動物どころか虫さえ息をひそめているのだろうか、辺り一帯は静寂と異様な雰囲気で満ちている。


―― ガサガサ ――


「ひぃっ」


 その暗く静かな森の中で他の生き物たちと同様に息をひそめている一人の騎士が、茂みの立てる小さな音に悲鳴を上げると、勢いよく振り返って音を立てた対象に訓練用の剣を構える。


「ぴぃ!」


 しかし、茂みから姿を現したのは騎士の腕からすると魔物とも言えないような、剣の一振りで片づけられてしまう何の変哲もないスライムだった。


「なんだ、スライムか……って、え? ……こんなところに?」


 それは強さ的には大したことのない、草花の生い茂る平原などでよく見かける魔物だ。


 そう……日の当たらない森の中ではまず見かけることのない……草原に生息する魔物なのだ。


 スローモーションで流れる思考がそれに気づき、ゆっくりと情報が整理されて導き出された答えから、警告音が発せられ、それが神経を伝わり、全身を鞭のように叩いて、その場から全力で離れようと走り出す騎士……。


 だが、残念ながらその行動を起こすのはワンテンポ遅かった。


「遅い」


 自分はそんな分かりやすい接近のヒントを出したにもかかわらず、すぐに逃げ出さなかった騎士の後ろからヌッと姿を現してそう声をかける。


「うわぁぁあああああ!!」


 するとその騎士は手配中のSランクの魔物にでも出くわしてしまったような悲鳴を上げ、恐怖をこらえているのか涙をこらえているのか分からない引きつった表情をしながら、足をもつれさせて時々転びそうになりつつも必死に逃げていく。


 スライムに対しては小さな悲鳴を上げながらも剣を構えていたはずだが、今やその剣はあろうことかそのあたりの茂みに放り投げられている……騎士も必死なのだろうが、それに意思や目が存在していたのであれば、おそらく捨てられた剣の方も怒りか悲しみの顔を彼に向けていたことだろう……。


 武器の気持ちなど分からないが、訓練用と言っても剣は騎士の命……余程のことがない限り手放してはいけないものだと思うので、自分は親切心からその捨てられた剣を拾い上げると一瞬でその逃げる騎士の目の前に移動し、それを返してあげようと刃は横に向けた状態で丁寧に差し出した。


「ひぃっ……」


―― ドサッ ――


 しかし、何がいけなかったのだろうか……その騎士は他の騎士たちと同様、自分が追いついた時点で気を失ってその場に倒れてしまう。


 ふむ……誰もが同じような反応をするということは、このリアクションが相手を捕まえたという状態を表すゲーム的な表現なのだろうな……初見だと少々分かりにくいが、そういうものだと分かってしまえば今後同様のイベントをプレイする際に困ることはないだろう。


 自分はデバッガーとしてこのイベントの仕様にひとまず納得すると、渡しそびれた剣を騎士の鞘に納めてあげてから、誘導のために使ったスライムを背負い袋に詰め直し、そのスライム入りバッグと気絶した彼を担いで、他の確保者を集めているキャンプ地へとゆっくりとした足取りで運んで行った。


「ぴぃー! ぴぃー!」


 すっかり自分の検証道具の一つとなっているスライムが背中の背負い袋で暴れているが、サイズ感も準備する手軽さも人間を見つけると相手の強さに関係なく立ち向かっていくという仕様も、色々な検証で使い勝手が非常に良いのだ……申し訳ないが今後も協力してほしい。


 スライム語のスキルは習得していないので自分の感謝の気持ちを彼らに伝えることはできないが、せめて検証が終わったら一撃で楽にしてやるぞという思いを込めて背負い袋をポンポンと叩くと、その気持ちだけでも伝わってくれたのか、震えるような声で「ぴぃ……」と鳴いてから大人しくなった。


「ふぅ、これで後はコンラート殿だけか……」


 自分は戻ってきたキャンプ地で背負ってきた騎士をロープで木から吊るす。


 そこには今まで見つけて捕えてきた十数名の騎士たちが全員ロープで吊るされているというなかなか異様な光景が広がっているが、某非対称型対戦サバイバルホラーゲームのように金属の鋭いフックに身体を直接引っ掻けるようなことはしていないので、まぁ良識の範囲内だろう。


 もっとも、訓練に使う範囲を安全にするために事前に狩った魔物や猛獣たちを、血抜きがてら騎士たちと一緒に吊るしてあるので、それがホラーな雰囲気を作り出しているかもしれないが。


「うむ、とりあえず誰も勝手に逃げ出してはいないな」


 自分は捕まえた騎士一人ひとり、逃げ出していないかの確認と、ロープの縛り方がきつくて身体に痣などができていないかを確認すると、その結果に満足して大きくうなずく。


 一応、出来るだけの安全確保をしているとはいえ、ここは壁のある訓練場ではなく、街から離れた森の中である。


 急にこのキャンプ地が魔物に襲われないとも限らないので、ロープで吊るされている人が自分自身で簡単に解けるように縛っているのだが、皆ちゃんと事前に伝えたルールを守って大人しく吊るされたままでいてくれているようだ。


 自分はそうして一通りの確認が終わると、汗と一緒に流れてきた魔物の返り血を拭い、最近の祖父上との訓練で新しく手に入った【超観測】スキルを発動させる。


 この検証を開始する前に検証に使う範囲にいた危険な魔物や獣をだいたい排除したとはいえ森は範囲の外まで続いている……【サバイバル】スキルで一応簡単なバリケードを手早く作ってはいるのだが、血抜きをしている獣が彼らにとって美味しそうな匂いを発しているのか、それを狙った魔物が時たま訓練範囲内に入ってくるのだ。


 その度に一瞬で片づけて、訓練中の騎士たちに危害が及ばないようにしてはいるのだが、おかげでキャンプ地が冒険者ギルドの解体所を思わせるほど吊るされた獣だらけだし、その返り血を浴びた自分も、今も血が滴っているキャンプ地も、人間からすると酷い匂いである。


 まぁ、フックこそ用意しなかったものの、今回の検証用イベントのルールも、会場の雰囲気も、変装スキルを遺憾なく発揮した自分の殺人鬼っぽい格好も、某オンライン協力鬼ごっこアクションゲームを参考にしているので、こういったホラーな雰囲気が向上する要素は自分は大歓迎なのだが……。


「む? コンラート殿が近づいてきている……そしてまた空気の読めない魔物が入り込んだか……」


 自分はなかなか再現率の高いキャンプ地のホラーな雰囲気に満足しながら、その【超観測】スキルに引っかかった情報を確認すると、まずは吊るされた騎士たちの安全を確保するため、訓練区域に入り込んだ魔物の排除に向かう。


 排除している間にコンラート殿が生存者として吊るされている仲間を助けてしまうかもしれないが、今までのプレイでその検証が出来ていないので、今回はわざと見逃してもいいだろう。


 自分はそんなことを考えながら、この、鬼ごっこゲームの検証や、新しく手に入ったスキルの検証、騎士の成長を促す検証などを一度にできる訓練を安全に終わらせるため、森の奥へと走っていった……。


▼スキル一覧

【輪廻の勇者】:不明。勇者によって効果は異なる。

【物理耐性】:物理的な悪影響を受けにくくなる

【精神耐性】:精神的な悪影響を受けにくくなる

【時間耐性】:時間による悪影響を受けにくくなる

【異常耐性】:あらゆる状態異常にかかりにくくなる

【身体強化】:様々な身体能力が上昇する

【成長強化】:あらゆる力が成長しやすくなる

【武器マスター】:あらゆる武器を高い技術で意のままに扱える

【武術】:自分の身体を特定の心得に則って思いのままに扱える

【魔力応用】:自分の魔力を思い通り広い範囲で精密に操ることが出来る

【実力制御】:自分が発揮する力を思い通りに制御できる

【薬術】:薬や毒の効果を最大限に発揮できる

【医術】:医療行為の効果を最大限に発揮できる

【家事】:家事に関わる行動の効果を最大限に発揮できる

【サバイバル】:過酷な環境で生き残る力を最大限に発揮することができる

【諜報術】:様々な環境で高い水準の諜報活動を行うことが出来る

【解体】:物を解体して無駄なく素材を獲得できる

【収穫】:作物を的確に素早く収穫することができる

【伐採】:木を的確に素早く伐採することができる

【石工】:石の加工を高い技術で行うことができる

【木工】:木の加工を高い技術で行うことができる

【調合】:複数の材料を使って高い効果の薬や毒を作成できる

【指導術】:相手の成長を促す効率の良い指導が出来る

【コンサルティング】:店や組織の成長を促す効率の良い助言ができる

【超観測】:任意の空間の全ての状況や性質を把握できる

【人族共通語】:人族共通語で読み書き、会話することができる

【人族古代語】:人族古代語で読み書き、会話することができる



▼称号一覧

【連打を極めし者】

【全てを試みる者】

【世界の理を探究する者】

【動かざる者】

【躊躇いの無い者】

【非道なる者】

【常軌を逸した者】

【仲間を陥れる者】

【仲間を欺く者】

【森林を破壊する者】

【生物を恐怖させる者】

【種の根絶を目論む者】

【悪に味方する者】

【同族を変異させる者】

【覇者】


▼アイテム一覧

〈1~4人用テント×9ずつ〉〈冒険道具セット×9〉〈キャンプ道具セット×9〉

〈調理道具セット×9〉〈登山道具セット×9〉〈変装セット×1〉〈調合セット×1〉

〈その他雑貨×8〉〈着火魔道具×9〉〈方位魔針×9〉〈魔法のランタン×9〉

〈水×54,000〉〈枯れ枝×500〉〈小石×1,750〉〈倒木×20〉

〈食料、飲料、調味料、香辛料など×1089日分〉

〈獣生肉(下)×1750〉〈獣生肉(中)×661〉〈獣生肉(上)×965〉〈鶏生肉×245〉

〈獣の骨×720〉〈獣の爪×250〉〈獣の牙×250〉〈羽毛×50〉〈魔石(極小)×60〉

〈革×274〉〈毛皮×99〉〈スライムの粘液×850〉〈スライム草×100〉

〈棍棒×300〉〈ナイフ×3〉〈シミター×2〉〈短剣×3〉〈剣×3〉〈大剣×3〉

〈戦斧×3〉〈槍×3〉〈メイス×3〉〈杖×3〉〈戦鎚×3〉〈弓×3〉〈矢筒×3〉〈矢×10,000〉

〈魔法鞄×4〉〈風のブーツ×4〉〈治癒のアミュレット×4〉〈集音のイヤーカフ×4〉

〈水のブレスレット×4〉〈装飾品×5〉〈宝石×6〉〈高級雑貨×8〉

〈一般服×10〉〈貴族服×4〉〈使用人服×2〉〈和服×1〉

〈ボロ皮鎧×1〉〈革鎧×1〉〈チェインメイル×2〉〈鋼の鎧×2〉

〈バックラー×1〉〈鋼の盾×2〉

〈上治癒薬×19〉〈特上治癒薬×5〉〈魔力回復薬×10〉〈上解毒薬×7〉〈猛毒薬×10〉

〈筋力増加薬×5〉〈精神刺激薬×5〉〈自然治癒上昇薬×10〉〈魔力生成上昇薬×10〉

〈金貨×27〉〈大銀貨×0〉〈銀貨×8〉〈大銅貨×3〉〈銅貨×1〉

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