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挿話 コンラートの日常

本編と関係ないわけではない、他の人から見たお話です。

 

 拙者はコンラート、種族はドワーフで、仕事はグラヴィーナ帝国の武士をやらせていただいている。


 武士というのは、立場的には他の国でいう騎士と同じような意味を持つ言葉で、この国の帝王がまだずっとドワーフだけで受け継がれていた頃の呼び名だが、その頃から国に仕えていたドワーフの中には帝王が代わって騎士と呼ばれるようになった今でも、自身をそう表現する者も多い。


 今の帝王、マクシミリアン陛下も、他国と外交をする時に同じ呼び方の方が分かりやすいということで統一化しただけで、特に今までの呼称を規制することもなく、むしろ陛下自身もたまに我々を武士という呼び名で表現することもあるので、今のところその言葉がこの国から完全に失われるということは無いのだろう。


 人間という種族は、なんというか……誰とでも仲良くしようとして、何でも実現しようとする傾向がある種族なのだろうか。


 いや……他種族を寄せ付けずに独自の宗教まで立ち上げたソメール教国の王のような人間もいることを考えると、一概にそうだとは言えないが、ジェラード王国の王が全種族で協力して技術研究を行う方針を掲げていることや、今のこの国の陛下が少しずつその国の方針に寄せていることを考えると、どうにもそんな気がしてならない。


 この国に仕えることを正とする拙者としては、この国の方針が変わればその方針に従うだけだが、そうでは無いドワーフの中には、未だに前までの帝王の考え方……魔法が使えないような状況でも戦える物理的な力こそ正義であり、種族的に筋力が最も優れているドワーフが一番偉いのだという考えに固執している者も多いのだ。


 拙者も【変動の女神】アメナ様によって作られ、【破壊の神】ストロティウス様を称えるというドワーフの宗教観をもって生きてきた身なので、己の肉体と武器を鍛え、力を示すことこそ誇りであるという考えが抜けないが、他のドワーフよりは今の王政に順応しているだろう。


 拙者はもとより……前の帝王とは少々馬が合わなかったのだ……。


 武士とは、国のために働く者だが、国とは、民のために動くものだと思っている。


 しかし、前の王は少々、民よりも国に比重がよっていて、国を発展させることこそが民のためになるというような考え方をする方だったのだ。


 その考え方が間違っているとは言わないが、拙者にはもう少し貧しい民にも目を向けた政策をしてほしいという考えがあったので、武将という立場だった自分は、大事にするものの違いから王に意見を言ってしまい、そのせいで帝都から国境付近の領土に飛ばされた。


 今の言葉で説明すると、王に煙たがられた伯爵の騎士が、辺境伯という称号を与えられる代わりに帝都から追い出された、というところだろう。


 まぁ、その経歴があったおかげで、同じく前の帝王寄りの意見を持つ者たちからあまり良い顔をされない今の陛下の目に留まり、今はこうして帝都に戻ってきて殿下の従者という仕事をさせていただいていることを考えると、あれが良かったのか悪かったのかは分からないが……。


 とにかく、今の拙者は、第三王子、オルスヴィーン殿下の従者であり、今のこの国の政治は拙者に合っているということだ。


 そう……国政に関しては、拙者に合っているので全く問題ないのだ……国に関しては。


 しかし……何というか……殿下の従者という仕事に関しては……少々、いや、多少……今までの仕事とは性質が異なるのでそう思うだけかもしれないが、こう……難易度が高いと言いうか……とにかく色々な面でハードなのだ。


 いや、殿下は真面目で真っすぐで良い方なのだが……多少、いや、大分……記憶喪失ということでそうなってしまっているだけかもしれないが……常識に欠けているところが見受けられるというか……突拍子もない行動をとられることがあられる。


 その殿下の行動が拙者に直接何か悪影響を及ぼしたこともあるのだが、直截な影響がなかったときも監督不行き届きということで怒られ、従者の長であるダーフィン様から同僚のクラリッサと一緒に説教されるのが日常の一部となっているのは如何ともしがたい。


 この職につくと知らされた時は、成人したばかりの王子の子守が、まだ魔物が多く残っている辺境の地で命を懸けて戦っていた時と同程度の報酬なのかと、王族の従者という職業に就く者の待遇を羨んだりしてみたが、今は逆に、彼らの報酬をもう少し上げてやってもいいのではないかと思っている。


 命が危険にさらされる頻度はかなり減ったのだが、森の中を駆け回るかわりに街中を駆け回るのも、強力な魔物と対峙する代わりに成長速度の早い殿下と訓練するのも、肉体的な疲労はそう変わらない。


 それどころか、辺境の在住騎士として戦っていた時は魔物が現れる平原や森にいる間だけ気を張っていたのが、今は殿下の護衛のために殆ど一日中気を張る日常に変わり、あの頃は街を守るために外敵にだけ気を配っていたのが、急に突飛な行動を起こさないか見張るために護衛対象にも気を配らなければいけないのだ……精神的な疲労は今まで以上だろう。


 殿下の突拍子もない行動は、本当に体力と精神力を持っていかれる……。


 先日も、城を抜け出して魔力感知器を作動させたことを叱られた次の日に、なぜ前日以上の警報を意図的に作動させるという行動に走ったのか……。


 それを察知して止められなかったことをダーフィン様に怒られたが、そんな行動を起こすと事前に予想できるわけがないだろう……。


 まぁ、その事件で今まで説教されるだけだったところを謹慎処分まで言い渡されたことで殿下も反省し、成長したのか、あれ以来大きな事件は起こしていないので、きっと今後はもう少し楽になる……と思っていたのですが。


「コンラート、空いている騎士を出来るだけたくさん集められるか?」


 今度は何を企んでおられるのか、最近すっかり拙者では訓練相手にならなくなり、祖父のライヒアルト様に戦闘の手ほどきを受けている殿下に、訓練が終わって部屋へ戻っているところでそう声をかけられた。


「空いている騎士を集める……ですか? 私の部下だった者に声をかければそれなりに集めることは可能だと思いますが、一体なにをするつもりで?」


 いつものような騒動が起こる嫌な予感がするので、ダーフィン様に伺って申し出を断ることも可能なのだが、断るにしても理由を聞かねばならないだろう……拙者は何かの熱意を目に宿した殿下からどんな反応が帰ってくるか予想しながらそう尋ねる。


「そんなものは決まっている」


「と、言いますと?」


「……鬼ごっこだ」


 そして、予想通りまた突拍子もないことを言い出された……鬼ごっこという言葉がどんな内容を示すのかはよくわからないが、謹慎処分で一時的におとなしくなられても殿下は殿下だったらしい。


 拙者はこれから起こるであろう決して避けられない騒動に軽いめまいを覚えながら、今回のその鬼ごっことやらの詳細を殿下から伺うことにした……。


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