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第六十八話 大会後の日常で検証

 

 帝都で開かれた国で一番大きな武闘大会、王位継承戦が終わった翌日。


 街ではまだ興奮の冷めない住民や旅行者が、大会での試合内容について熱く語りながら仕事をしたり買い物をしたりと、祭りの後の静けさなど感じさせない、いつも以上に明るく賑やかな雰囲気を見せている。


 何かのイベントが発生した後、街の会話がその内容に切り替わるというのは、RPGなどではよくあることなので、そういった面では自分もイベント後の変化が検証できて満足なのだが、スキル熟練度的に変装が誰にも気づかれないとしても、自身の話題が出ている中を歩き回るのは何ともむずがゆいものだ。


 時折、自分の名前が聞こえると振り返りそうになるのを堪えながら、変装の上からかぶっている鋼鉄の兜を深くかぶりなおしながら、露店の立ち並ぶ賑やかな街並みを壁沿いに歩いていく……。


 ――ゴリゴリゴリ――


 もちろん、闘いの美しさでいえば圧倒的に兄上二人なので、試合内容の話題として一番盛り上がっているのは準決勝の二人の闘いなのだが……総合的な話題の中心は、やはり今回初めてその実力を民衆に見せ、しかも優勝という栄誉を勝ち取って見せたのにもかかわらず、帝王との闘いを辞退したこの国の第三王子……つまり自分である。


 王位継承戦の真の目的であり、武闘大会としても一番盛り上がるであろうその父上との試合を辞退した件に関しては、大会が終わって貴賓席に戻ったときも、夕食で家族が食卓に集まったときも話題にされ……多方面からお叱りのお言葉をいただく結果となった……。


 人によって言い方は様々だったが、要点的には満場一致で「王子らしくない」とのこと。


 自分としては、王子であるということよりも、一流のデバッガーであるということを優先して様々な検証を行っていただけなので、後悔も反省も全くしてないのだが、大会をずっと鑑賞していた父上や、後から話を聞いた母上、そして特に、実際に決勝で闘ったテオ兄からは、批判の嵐だった……。


 リリ姉だけは味方についてくれて、大会参加が初めてだったという理由や、記憶喪失であるという点を挙げて、何とかフォローしてくれようとしていたのだが……一般参加者との試合に時間をかけなかったことや、優勝後に父上との闘いを辞退したことはともかく、兄上に毒を盛ることでその優勝を手にしたという点は流石に許されないようである。


 その上、何故か予選に変装して参加していたことや、大会を運営する貴族の屋敷に忍び込んでいたこともバレており、その点も遊びにしては行き過ぎていると叱られた……。


 幸い、予選通過者と取引をしていたこと……大会を荒らしたと言っても過言ではないような行動をしていたことは、気づかれていないようだったので、予選に参加したのも、屋敷に忍び込んだのも、参加者の情報を得て少しでも勝つための対策をしようと考えたからだと嘘をつき、どうにか怒られる種が増えるのを阻止する。


 ふむ……王族関係者には誰にも見られていないはずなのにどうして判明してしまったのか後で検証する必要がありそうだな……屋敷に忍び込んだという判定が行われたが、変装していたという判定が行われなかったとしたら、それは不具合だ。


 ――ゴリゴリゴリ――


 それに、この世界に来てからこうして色々なキャラクターに怒られるイベントが発生することが多い気がする……これも、不具合ではないとしても、仕様設計者にやりすぎであるという意見を伝えていいだろう。


 プレイヤーの小さな行動にもNPCがいちいち反応してくれる仕様なのはゲームを遊ぶ多くの人にとって大変魅力的な仕様ではあるのだが、スルーしてくれてもいいところまで拾ってくれるのは、プレイヤーによってはストレスに感じるかもしれないからな……。


 まぁ、とにかく、もう少ししたらジェラード王国に戻りたい旨を父上に話しておきたかったのだが、城での会話イベントはしばらくお小言のループのようなのでその会話は先送りにして、変装をしてジョギングなどいつもの日課を終えた後、城へ帰らずに街の壁という壁で当たり判定検証をしているというわけである。



 ――ゴリゴリゴリ――


 骨休めをするのであれば、フランツ殿たちも誘って数人で露店巡りをしても何かイベントが発生しそうで面白いかもしれないなと思ったのだが、予選の帰りに聞いていた彼らの宿泊先に寄ってみると、もう既にジェラード王国へと出発したあとだった。


 宿の店員の話によると、本当はもう一泊する予定だったのだが、遊ぶお金が無くなってしまったので、さっさと帰って次の仕事を探さなければいけなくなったとのこと……ふむ、何があったかは知らないが、冒険者というのはグリィ殿も含めて、後先を考えないでお金を使ってしまう者が多いのだな。


 仕方がないので、次のとある検証まで少し時間を持て余していた自分は、街のいたるところで壁に鋼鉄の兜を擦りつけながら、色々なお店を巡っては、まだ購入したことのない商品を買ったり、それを別のお店で売ってみたりと、一般プレイヤーからしたら意味のないような行動をして……。


「よう」


 通りの向こう側からゆっくりと近づいてきたその人物……木刀を杖代わりにしながら腰を曲げて歩く老人に声をかけられた。


「……」


 ――ゴリゴリゴリ――


「む? 儂が誰か分からんのか? ……というか、お主、壁に頭を擦りつけて何をやっておる」


 自分はその人物を知っている……声を聞くのは初めてだったかもしれないが、確かに知っている……知っているのだが……。


「いや、祖父上……自分はあなたのことが分かるのだが……」


 ……自分は今、変装をして別人に成りすましている上に、深くかぶった鋼鉄の兜で顔が見えない状態なのだ。


 確かに、今行っている行動的には、一般人に理解されない検証という行動であり、予選会場でのフランツ殿のように、自分のことをよく知る人物であれば何となく気づくかもしれないが……自分と祖父上はそれほど親しくない。


 このオルスヴィーンというキャラクターの設定的にどうなのかは知らないが、少なくとも今の記憶と性格を持ったプレイヤーの自分としては、彼に会ったのは大会の予選が初めてだったし、これまでに一言も会話をした記憶がないのだ。


 なのに何故、こうもあっさりと変装が見破られてしまったのだろうか……。


「ふむ、まぁ、立ち話もなんじゃ……すぐそこに旨い団子を出す茶屋がある、少し付き合ってくれんか?」


「……うむ、ご一緒させていただこう」


 こうして自分は、変装を看破された理由を探りたい気持ちもあり、当たり判定検証をどこまで済ませたかマップ画面にメモしてから、偶然出会った祖父上とのお茶イベント検証に取り掛かることにした。



 ♢ ♢ ♢



 東西南北それぞれに外壁から出るための門が設置されている帝都。


 その中でも利用率の多い東門と西門は大きく作られており、そこから中心に向かって伸びるメインストリート、特に門の付近はその人通りに合わせて様々なお店が立ち並んでいる。


 ただ、東門と西門では利用者の層ががらりと変わり、ジェラード王国やソメール教国から訪れる旅人が多く利用する西側は、旅人や冒険者へ向けたこの国の特産品や陶磁器などを取り扱っているお店が多く、この国の開拓軍が多く利用する東側は、鍛冶屋や薬屋などの開拓に必要な武器や防具、消耗品などを取り扱っている店が多い。


 開拓軍というのは、国の防衛よりも開拓に比重を置いた騎士団というような、国に直接雇用された冒険者というような、現在の立場的には非常に曖昧な存在である。


 昔は国を防衛する騎士団も軍に含まれていたらしく、今も人の住める場所を積極的に開拓して活躍を多く耳にするのは開拓軍の方なので、ジェラード王国やソメール教国からは未だにグラヴィーナ帝国の軍事力=開拓軍という認識が強いそうだ。


 思い出してみれば自分もジェラード王国のアルダートンで冒険者の昇格試験に向けた勉強をしている際、教会のシスターであり勉強の先生であるアナスタシア殿にそう教わった気がする。


 そして、そんな開拓軍に向けたお店の立ち並ぶ東門付近にある一軒の団子屋で今、自分は祖父上と一緒にお茶と団子を楽しんでいる……。


 外からくる人に向けた、直感的に美味しいと思えるような食べ物を取り扱う西側のお店と比べて、この国の人たちに長く親しまれるような、素朴で味わい深い食べ物を取り扱っているお店が多い東側のお店。


 その中でもさらに古くから味を変えずに、店の外装も変えずに、頑固にひたすら同じ団子とお茶のみを出し続けている団子屋とのことで、流石その味は年季の入った他の店には出せなさそうな、シンプルでありながら、何とも奥深い、そんな味の団子とお茶だった。


「どうだ……うまいじゃろ?」


「うむ、大変味わい深い……毎日食べても飽きない、ふとした瞬間に食べたい衝動にかられそうな団子であるな」


「ほっほっほ、そうじゃろ……儂の一番のお気に入りじゃ」


 団子の種類は、草団子の一種類のみ。お茶も抹茶だけ。


 よもぎが混ぜられた団子の上に、現代人からすると甘さ控えめと言っても良さそうなこしあんが乗せられているそれは、個人的にはおやつとしても十分楽しめるものだが、抹茶も甘く作られてはいないので、甘くておいしい食べ物がありふれている元の世界の小さな子供たちには、おそらくあまり人気が出ないものだろう。


 しかし、だからこそ、特別な出来事があったときや頑張った自分へのご褒美として食べたくなるスイーツとは違い、普段の日常の中でいつものおやつとして食べたくなる、そんなポジションを確立しているように思える。


 自分も検証ではなく旅行先のお店という認識だったら立ち寄らないような、旅人がこの通りを歩いても地味すぎて目に留まらない店構えだというのに、先ほどから入れ替わり立ち代わりに客が訪れては、店内で食べるためにお茶と一緒に注文して席に座ったり、自分の家で家族と一緒に食べるのかお団子だけをいくつも買っていくのだ。


 商品が一種類しかないこともあり、行列が出来るようなことはないのだが、それでもおそらく、地元の人のみぞ知る名物店という立ち位置としては、もしかするとこの東のメインストリートで一位二位を争う人気店なのかもしれない。


 検証のために全ての店に訪れる予定で、自分一人だったとしてもいずれこの店にも訪れていたのだろうが、そんな目的のために一人で来ていたら、おそらく今ほど味わって団子を楽しむことはなかっただろう……ここに連れてきてくれた祖父上には感謝しなければ。


「それで、祖父上……この店の団子が素晴らしいというのは理解したのだが、自分に声をかけてきたのは、それを教えるためだけというわけでは無いのであろう?」


「む……まぁのぅ……じゃが、そんなに焦らんでもいいじゃろ……もう少しのんびり団子を楽しんでから、お土産を買って、城にも行こうと思っておるからな」


「城に……? ふむ……なるほど、どういった事情かは聞いていないのだが、そういえば祖父上は城に住んでいるわけじゃないのであったな……面倒な確認を飛ばしてスムーズに城に入るために、自分に声をかけたということか」


「まぁ、それも理由の一つかのぅ……」


「と、いうことは……他の理由も?」


「うむ……まぁ、息子に……お主の父親に少し話があったのと……」


「と?」


「王位継承戦を辞退したお主にも、少しばかり言いたいことがあったのじゃ」


「……」


 お小言をもらうのが嫌で城から抜け出したのに、その先で発生するイベントが祖父上からの説教だった……ということだろうか。


 今回の戦闘回避がゲームのシナリオ的によほど仕様設計者の意図に反する選択だったのだろうか……それとも元からこのゲームは怒られるイベントが多いのだろうか……自分はどうやら色々なキャラからお小言をもらうという運命から逃れられないらしい。


 こうして自分は、急に美味しさがあまり感じられなくなった団子を飲み込みながら、これから訪れる説教イベントに対して、真面目に受けるか、どうにか回避を試みようとするかと、検証の方向性を考え始めた……。


▼スキル一覧

【輪廻の勇者】:不明。勇者によって効果は異なる。

【物理耐性】:物理的な悪影響を受けにくくなる

【精神耐性】:精神的な悪影響を受けにくくなる

【時間耐性】:時間による悪影響を受けにくくなる

【異常耐性】:あらゆる状態異常にかかりにくくなる

【五感強化】:五感で得られる情報の質が高まる

【知力強化】:様々な知的能力が上昇する

【身体強化】:様々な身体能力が上昇する

【成長強化】:あらゆる力が成長しやすくなる

【武器マスター】:あらゆる武器を高い技術で意のままに扱える

【武術】:自分の身体を特定の心得に則って思いのままに扱える

【魔力応用】:自分の魔力を思い通り広い範囲で精密に操ることが出来る

【実力制御】:自分が発揮する力を思い通りに制御できる

【薬術】:薬や毒の効果を最大限に発揮できる

【医術】:医療行為の効果を最大限に発揮できる

【家事】:家事に関わる行動の効果を最大限に発揮できる

【サバイバル】:過酷な環境で生き残る力を最大限に発揮することができる

【諜報術】:様々な環境で高い水準の諜報活動を行うことが出来る

【解体】:物を解体して無駄なく素材を獲得できる

【収穫】:作物を的確に素早く収穫することができる

【伐採】:木を的確に素早く伐採することができる

【石工】:石の加工を高い技術で行うことができる

【木工】:木の加工を高い技術で行うことができる

【調合】:複数の材料を使って高い効果の薬や毒を作成できる

【指導術】:相手の成長を促す効率の良い指導が出来る

【コンサルティング】:店や組織の成長を促す効率の良い助言ができる

【鑑定・計測】:視界に収めたもののより詳しい情報を引き出す

【マップ探知】:マップ上に自身に感知可能な情報を出す

【万能感知】:物体や魔力などの状態を詳細に感知できる

【人族共通語】:人族共通語で読み書き、会話することができる

【人族古代語】:人族古代語で読み書き、会話することができる



▼称号一覧

【連打を極めし者】

【全てを試みる者】

【世界の理を探究する者】

【動かざる者】

【躊躇いの無い者】

【非道なる者】

【常軌を逸した者】

【仲間を陥れる者】

【仲間を欺く者】

【森林を破壊する者】

【生物を恐怖させる者】

【種の根絶を目論む者】

【悪に味方する者】

【同族を変異させる者】

【覇者】


▼アイテム一覧

〈1~4人用テント×9ずつ〉〈冒険道具セット×9〉〈キャンプ道具セット×9〉

〈調理道具セット×9〉〈登山道具セット×9〉〈変装セット×1〉〈調合セット×1〉

〈その他雑貨×8〉〈着火魔道具×9〉〈方位魔針×9〉〈魔法のランタン×9〉

〈水×54,000〉〈枯れ枝×500〉〈小石×1,750〉〈倒木×20〉

〈食料、飲料、調味料、香辛料など×1089日分〉

〈獣生肉(下)×1750〉〈獣生肉(中)×661〉〈獣生肉(上)×965〉〈鶏生肉×245〉

〈獣の骨×720〉〈獣の爪×250〉〈獣の牙×250〉〈羽毛×50〉〈魔石(極小)×60〉

〈革×274〉〈毛皮×99〉〈スライムの粘液×850〉〈スライム草×100〉

〈棍棒×300〉〈ナイフ×3〉〈シミター×2〉〈短剣×3〉〈剣×3〉〈大剣×3〉

〈戦斧×3〉〈槍×3〉〈メイス×3〉〈杖×3〉〈戦鎚×3〉〈弓×3〉〈矢筒×3〉〈矢×10,000〉

〈魔法鞄×4〉〈風のブーツ×4〉〈治癒のアミュレット×4〉〈集音のイヤーカフ×4〉

〈水のブレスレット×4〉〈装飾品×5〉〈宝石×6〉〈高級雑貨×8〉

〈一般服×10〉〈貴族服×4〉〈使用人服×2〉〈和服×1〉

〈ボロ皮鎧×1〉〈革鎧×1〉〈チェインメイル×2〉〈鋼の鎧×2〉

〈バックラー×1〉〈鋼の盾×2〉

〈上治癒薬×19〉〈特上治癒薬×5〉〈魔力回復薬×10〉〈上解毒薬×7〉〈猛毒薬×10〉

〈筋力増加薬×5〉〈精神刺激薬×5〉〈自然治癒上昇薬×10〉〈魔力生成上昇薬×10〉

〈金貨×49〉〈大銀貨×5〉〈銀貨×96〉〈大銅貨×1604〉〈銅貨×3〉

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