第六十三話 本戦で検証 その一
王位継承戦、本戦……前哨戦が終わり休憩時間を挟んだのちに始まったそれは、場所もルールも変わっていないというのにも関わらず、まるで違うゲームをプレイしているように感じるほど雰囲気が異なっていた。
その原因の一つは、歓声の種類だろうか……。
現在、ちょうど本戦の第二試合が終わったところなのだが……試合が始まる前、入場してくるときの歓声もそうだったが、兄上たちは民衆に一定の人気があるようで、今までもあった闘技場らしい男性陣の野太い叫び声に加えて、男性アイドルグループのライブ会場のような女性陣の黄色い声が目立つようになってきたのだ。
確かに兄上はどちらも容姿が整っており、元の世界で見かければ芸能界にスカウトされそうな見た目なので、王子というアイドル的な立ち位置であることも考えると、観客からそういった声が上がるのはおかしくないのかもしれない。
現実的に考えて一般人が王族に向かってそういった声を向けるのはどうかとも思ったりしたのだが、現代英国でも女王様が手を振られている姿をお目にして歓声を上げたり、中世ローマでも王族が凱旋式でパレードした際は歓声が飛び交っていたというようなイメージがあるので、こういったイベントの時はそういうことを許容するものなのだろう。
そして、王族に向けられるそういった大きな歓声もそうなのだが、この王位継承戦本戦がこれまでと全く異なると思えるのは、やはり試合の内容……その闘いの質だった。
今までの闘いも一般的なFランク冒険者目線に立てば、それはもう上の上で行われている自分とは異なる世界の闘いであるかのように思えるかもしれないが、本戦に関しては、それすらも赤子の遊びだったのだろうと思えるほどに精錬された、もはや別次元の闘いである。
大会の暗黙のルールというか、事前の取り決めとして、王族同士がそれぞれの初戦で当たることはないということだけは決められているらしく、第一試合はヴォル兄VSルノー殿、第二試合はテオ兄VSドーピング武闘家という組み合わせだったのだが、そのどちらの闘いも、まるで映画のワンシーンを見ているかのように感じるものだった。
予選からここまで闘い続きで疲れも抜けきっていない、一般参加の選手に対するハンデという意味合いもあるのかもしれないが、兄上たちはどちらも一ラウンド目は制限時間内に相手を無力化するKO勝ちをしないように注意していて、三分の間ずっと対戦相手と闘っていたのだが……自分が選手の立場に立っていたらと考えると、逆に彼らが可哀そうである。
おそらく王位継承戦という闘いに関しては、Bランク冒険者レベルの練度であるルノー殿や、ドーピングに頼って同門に勝利した戦鎚ドワーフの方が異端で、Sランク冒険者である祖父上や、彼とそれなりに長く戦えていた騎士団長の方が普通だったということなのだろう……残念ながら彼らは兄上たちの剣舞を彩る飾りという役割にされてしまったようだ。
本戦、第一試合……ヴォル兄VSルノー殿……初めて見る、ヴォル兄の闘い。
フランツ殿と同じCランク冒険者パーティー〈爆炎の旋風〉のメンバーであり、彼自身も〈無双の双剣使い〉という二つ名を持つルノー殿は、ひとつ前の試合で、自分の検証協力者である[上治癒薬スライム]を背負った格闘家を相手に、その二つ名にふさわしい素早い双剣の乱舞を見せていたのだが……対するヴォル兄もスピードタイプの二刀流だった。
いや、ヴォル兄をただの二刀流の剣士と表現し、あの試合をただ二刀流同士の戦いであると表現するのは少し間違っているかもしれない……防具こそルノー殿と近い革鎧であったが、その両手に装備している剣がかなり変わった形状のものであるから……。
あれは元の世界に存在する武器で例えるならば、ジャマダハルという剣が最も近い武器と言えるだろう……握りこんだ拳の先へと刀身が伸びている、RPGで登場させるとなると剣士などのキャラクターが装備できる剣装備の武器なのか、格闘家などキャラクターが装備できる拳装備の武器なのか判断が難しい、あの独特の形状をしている武器だ。
有名な王道RPGでもおそらくジャマダハルが元だろうと思われる形状の武器が登場しており、ドラゴンの鱗も貫通するような鋭い攻撃ができるという設定なのか、ドラゴンに対して強い特攻があったりするのだが、果たしてこの世界ではその点がどうなのか気になるところでもある
……ヴォル兄には今度是非ドラゴンと戦っていただきたい。
まぁ、現実世界のジャマダハルも、ヴォル兄が使っているそれも、実際にドラゴンの鱗を貫くほどの威力があるのかどうかは分からないが、その形状的にも扱い方としても、斬るよりも刺す、突くといったことに優れていることは間違いなく、彼も文字通り『突き進む』という闘い方をしていた。
似た形状の武器として、手の甲から爪が伸びているような形状の鉤爪や手甲鉤と呼ばれる武器があるが、あれはオオカミやトラなどの四足歩行動物のように手の甲に対して垂直方向に振って、引っ搔くように攻撃するのに対して、ジャマダハルは手の甲に対して水平方向に剣の刃があるので、拳を前に突き出すか、水平方向に薙ぎ払うようにして攻撃を繰り出すようだ。
ヴォル兄の対戦相手に選ばれたルノー殿もショートソードを使っているので、その点で言えば突き刺すか切り裂くかといった攻撃方法の選択になるわけだが、どちらかといえば踏み込んで突くのがメインのヴォル兄に対して、ルノー殿は身体ごと回転させて舞うように剣を振り回す闘い方を得意としている。
だが、その闘い方の相性的にも、これはルノー殿が不利だったのかもしれない……。
剣の達人は己の腕の一部のように剣を振り回せるとはよくいうが、ジャマダハルはどちらかというと、拳の延長のように扱うものであり……ヴォル兄はそれを高い練度で使いこなしていた。
―― キンッ キンッ キンッ ――
「ほらほら、守ってばっかりじゃ勝てないよ?」
「くっ……早い……っ」
どちらも戦い慣れている人物だった場合、剣を振り回す者よりも拳を突き出す者の方が素早い攻撃が仕掛けられるのは、ルノー殿の前回の闘い、スライムを背負った格闘家との試合で明らかになっている。
そして、その時は格闘家の武器が面で攻撃するハードナックルだったのに対して、今回のヴォル兄は点で攻撃する剣なので、切り裂いたり突き刺したりできないように刃がつぶされているとはいえ、それは腕に少し当たるくらいなら大丈夫だと思えるような軽い威力ではないのだ。
ルノー殿はヴォル兄のまだ余裕を持って闘っているであろう表情に対して、突き出される剣を必死の表情で捌くのに手いっぱいで、戦闘開始から試合の制限時間である三分の間一度たりとも攻撃を繰り出せず、結局その一ラウンド目の試合は審判の判定で敗北となってしまう……。
一撃もまともに攻撃を食らわずに最後まで捌けていたのは見事であったが、そのために余程集中していたのか、二ラウンド目に試合開始位置に立ったその姿は汗だくの状態で疲れが見えており、誰が見ても体力的に既に不利と分かるような状態だった。
しかし、ルノー殿自身にはまだあきらめた様子はなく、肩で息をしながらもしっかりと相手を見据えている……そして、ヴォル兄がラッシュの動作に移る前にこちらが先制すれば、まだ一撃くらいは攻撃を入れられるチャンスがあると……一ラウンド目の闘いを経てそう判断したのだろう。
「第二ラウンド……始めっ!!」
審判がそう合図した瞬間……ルノー殿は全力で走り出す。
それは、おそらく【魔力波】のような秘策や必殺技の類なのだろう……全力でダッシュしながら、今までの戦闘でバラバラに扱っていた二本のショートソードを束ねるように同じ位置で構えた。
そして身体から放出した魔力でそれを覆い、さらに二本の剣の間に溜められた魔力を刀身の先から伸ばすことで、一本の大きなロングソードのような魔力剣へと変化させ……。
「うらぁぁあああ!!!」
「遅いよ」
―― ドンッ ――
……そのリーチを活かした攻撃を加えようとしたところで、いつの間にか懐に潜り込んでいたヴォル兄に思い切り腹部を剣で突かれた。
ルノー殿の視点では、一瞬時が止まったようにでも見えていたかもしれない……そして、次の瞬間には後方へと勢いよく土埃を立てながら地面をゴロゴロと転がり、そこで意識を手放してしまったようだ……。
ヴォル兄がこの試合でも第一試合で闘っていた時と同じレベルで反応していたのであれば攻撃を当てることが出来たかもしれないが、あの第一試合で見せていた余裕の表情は、ただ王族としての威厳を民衆に見せるためではなく、本当に心の底から余裕のある闘いだったから出たものだったということだろう。
試合開始から自分はずっとヴォル兄の闘いを【万能感知】で観測していたので分かっていたのだが、自分が一日の訓練で習得できた【魔力応用】や【実力制御】が、同じ血筋を持ちながら自分よりも長く戦闘訓練をしている兄上たちに出来ないわけがない……。
ヴォル兄は自分よりも精度の高い技術で、力を籠める一瞬だけ大きな魔力を使うことも出来るし、祖父上のように地面を蹴って一瞬で間合いを詰めることも可能である……そして、敢えて剣先を魔力の壁で覆い、相手の身体へのダメージを配慮することも……。
「勝者……ヴォルフ殿下!」
審判はルノー殿に駆け寄って、彼が気絶しているだけで、命に別状はないことを確認すると、その場で救護班や観客に生きていることをジェスチャーで伝えてから、彼の勝利を声高らかに宣言した。
「「おぉぉおおおおおお!!!!」」
一回目の長く続いた試合も、二回目の一瞬で決着がついてしまった試合も、無駄がなく洗練された、しかしどこか目を奪われるような、誰もが美しいと感じ取れる、まるで剣舞を見ているようなヴォル兄の剣捌きに、観客は男女問わず見惚れたようで、その歓声は彼が入場してきたときのそれよりも数段大きなものである。
もちろん、自分もその剣捌きに目を奪われていた一人で、普段、テオ兄の発言をからかったりしてお茶らけているヴォル兄とは違った印象を覚えるそれは、素直に素晴らしい闘いだったと、何の文句もなく素直に賞賛できるものだった。
後で聞いたところ、テオ兄が七種類の剣を使いこなす〈七剣〉という二つ名を持っているのに対して、ヴォル兄はお抱えの鍛冶師に作らせた、この国でひとりしか使いこなせない、たった一つの独特な剣を使いこなすということで〈独剣〉という二つ名で親しまれているそうだ。
多くの騎士が扱い、テオ兄がいつも腰に差しているような一般的な形のショートソードではなく、ジャマダハルのような変わった形状の剣を選んだところは、確かに、誰にも流されることなく、いつも自由に過ごしているヴォル兄らしいかもしれないが、それをここまでのレベルになるまで鍛えているのであれば、たとえ父上でも口出ししないだろう。
彼の剣術も体術もそれほどまでに美しく、民衆に対して、一般人と王族の格の違いを、嫌味なく、しかしハッキリと伝えるものだった。
そして、これが王族の力だと見せつける口先だけでないその主張は、続く本戦第二試合、テオ兄の試合でさらに色濃く観客の脳に深く刻まれることとなる……。
実は自分も父上や兄上、ダーフィン殿から”余裕があれば”という条件付きで頼まれているのだが、「王族は一ラウンド目で制限時間いっぱいは相手を倒し切らない」というのが通例となっているらしく、テオ兄もその条件を受け入れ、ドーピングして戦鎚を振り回すドワーフを相手に見事な剣舞を披露していた。
民衆に理解できるレベルに合わせて王族の強さを知らせるという目的があるらしいが、そんな風に手加減をされた上で宣伝に利用される対戦相手からしたら、堪ったものじゃないだろう……。
しかし、それをさせてしまうということは、その対戦相手がまだまだ王族と闘うレベルにたどり着いていないということだ……腹立たしくても、素直に負けを認めるしかない。
この国の住人であり、頻繁に王位継承戦へと参加している道場の門下生であるドワーフは、その暗黙のルールを知っているためか、その手加減してくれる一ラウンド目で勝利してアドバンテージを取ろうと考えたらしく、多く飲むにしても一試合につき二本ずつにしておいた方がいいと言って渡したはずのドーピング薬を一度に全て消費してしまったようだ。
あらかじめ渡した〈筋力増加薬〉と〈精神刺激薬〉が五本ずつだったので、一試合目で一本ずつ消費したことを考えると、残り四本ずつを一気に服用したことになる。
おそらく彼自身にもどこかに、この試合で勝っても、優勝まで行くのは無理だという気持ちがあったのだろう……なのでせめてこの試合だけでも……多少無理をしてでも第一王子であるテオ兄に勝って、国中の人気者になりたいと、そういう考えがあったのかもしれない。
そして彼は……その甘い考えのまま散ったのだ。
「勝者……テオドール殿下!」
「「おおぉぉぉおおおおおおおおお!!!!」」
第二試合の歓声は、ヴォル兄の第一試合のそれよりも大きいものだった。
それはまるで、街を襲ってきた強大な魔物を勇者が打ち取ったかのよう……いや、かのよう、ではなく、本当にそれそのものと言ってもいいのかもしれない。
「うむ……摂取制限を超えたドーピングの効果まで検証してくれるとは……最後まで実に協力的な人物だったな」
そう……自分お手製のドーピングを過剰摂取したドワーフは、まるで魔物のように狂暴化してしまったのだ……。
……いや、それは言い過ぎかもしれない。
まぁ、だとしても、筋肉が異常に膨れ上がり、精神状態がハイになった状態で、体内で普段以上に作り出される魔力を体中から溢れさせている見た目は、誰がどう見ても悪役のそれだったのには違いないだろう。
《称号【同族を変異させる者】を獲得しました》
相変わらずこういう時にばかり大げさな称号が与えられるのだが、別に彼の種族がドワーフから変異したということはないし、試合が終わったら後遺症も特になく疲れが取れずに数日寝込むだけで済んでいるので安心してほしい……早くこの称号判定の不具合を製作者に報告したいものだ。
とにかく、彼は確かに、多少凶悪な見た目になり、あまり理性が残っているとは思えない暴走をしていたかもしれないが、それでも人族の域を出るような強化がされたわけではなく、しかし魔力量はテオ兄に届きそうなほど、そして筋力はテオ兄以上というステータスを手に入れていた。
彼が体中から魔力を溢れさせながら戦鎚を振り払えば、その余波で服がはためくほどの風が巻き起こり、それを地面へと真っすぐ振り下ろせば、地響きとともに土埃が撒きあがって小さなクレーターが出来るほどだ。
ひとつ前の一本ずつドーピング薬を服用した試合でも、同門を軽く退けるほどの腕力だったが、明らかにその時と比べ物にならない変わりようをしている彼に対して、観客は何が起こったのかと動揺し、女性や子供の中には悲鳴を上げて怖がる人もいる。
精神力が強いのか、あまりモノを深く考えないのか、中にはその強さだけを評価して、この勢いで王族に勝利してしまうのではないかと興奮しながらドワーフの方を応援する観客もいて、客席は怖がる声と楽しがる声の入り混じった混沌が広がっていた。
確かに、ステータスだけでみれば、彼はテオ兄を倒せる可能性が十分にあったし、実際にその力を使いこなせば、彼の目論見通り、手加減してくれる一ラウンド目くらいは勝利をつかむことができたかもしれない。
だが……彼とテオ兄では、その高いステータスを使い続けた長さ、鍛錬に雲泥の差がある。
その自慢の筋肉で一撃でも当たれば魔力でガードしてもそれなりにダメージを負いそうな攻撃を軽々と連発してくるドワーフに対して、テオ兄は冷静さを欠くことも気負うこともなく、落ち着いた様子で優雅に舞って見せた。
身に纏うプレートアーマーは装飾こそ王族用に意匠が施された綺麗な見た目だが普通の鋼鉄で作られており、右手のショートソード、左手のカイトシールドも同じく、装飾以外は今まで何人も見てきた一般的な騎士と変わらない装備……。
そして、その戦い方も、避けられる攻撃は避けて、命中しそうな攻撃は盾や剣で受け流して衝撃を反らし、チャンスがあればその剣で突き、払い、振り下ろして攻撃する、基本に忠実な騎士の戦い方である。
しかし……その動作のどれもが、一切の無駄がなく、まるで相手が次にどう動くかが分かっているかのように攻撃を的確に捌き、流れるように攻撃へとつなげ、リズムよくステップを踏んでいる足さばきは、ここが武闘会ではなく、舞踏会の会場であるかのように思わせる美しいものである。
ドワーフの変わりように驚いて混乱していた観客たちも、その見事な剣捌きに見惚れ、次第に落ち着きを取り戻し、いつの間にか声を発するものはいなくなっていた。
そして、テオ兄はドワーフのその異常な興奮状態から、一ラウンド目の制限時間が来ても武器を納めずに振り回し続けるかもしれないと判断したのだろう……三分ギリギリまで見事に踊り続けた後、ラウンド終了の合図が出る直前に、派手に相手を転ばせ、魔力の籠った剣で首の後ろを軽く叩くことで気を失わせた。
すっかり舞踏会として見ていたのだろう……審判の合図で一ラウンド目が終了すると同時に、この試合中に頭の中に幻聴として鳴り響いていた優雅なクラシックの音楽が止まり、テオ兄には全ての観客からスタンディングオベーションで拍手が送られる。
ドワーフは兄上にうまく頚椎を叩かれたらしく命に別条は無かったが、ドーピング薬の反動もあるのか意識がすぐには戻りそうになく、第二試合は次のラウンドに進むことなくテオ兄の勝利という判断が下されることになった。
ヴォル兄も、テオ兄も……本当に見事な戦いである。
だが……これでもまだ全く本気を出していないのだろう。
この後の第三試合は、自分VSミスリル装備の貴族……そして、続く第四試合が祖父上VS暫定暗殺者……。
うーむ……なんともまぁ、負けイベントにしてもやりすぎな構成である。
ゲームの初心者視点で自分の闘う道筋を考えると、普通であれば防御が固すぎて攻撃が殆ど通らないであろうミスリル騎士と初戦でいきなり闘い、それになんとか勝ったと思っても待ち受けているのは、もしかすると兄上よりも強いかもしれない、父上の師匠でもある祖父上。
自分はこのイベントが始まる前から戦闘スキルをかなり鍛えていたから、おそらくミスリルの貴族には負けることはないだろうが、普通にこのゲームを楽しんでいたプレイヤー的には、冒険者としてコツコツFランク依頼を達成して、やっと昇格できると思ったタイミングでジェラード王国の王子から呼ばれて、強制的にここへ連行されるイベントだ。
普通であれば予選に参加することもなく、事前に魔力を使った戦い方を覚えることもできないのだから、プレイヤーとしては「強制イベントだし決勝戦くらいまでは苦労することなくたどり着けるだろう」と思ってしまい、初戦のミスリル騎士でいきなり敗れることになる……。
万が一勝てたとしても、そのあとに戦うかもしれない祖父上も兄上たちも、一般の冒険者が勝てるような相手ではないとすれば、たとえ負けイベントだったとしても「クソゲー」と評してゲームをやめてしまう人がいるのではないだろうか……。
うーむ……これはゲームバランス検証的に問題があるな……仕様設計者に報告できるのがいつになるのかは分からないが、いつも通りメモ画面に記載しておこう。
自分は今の状況を冷静に分析してメモ画面に書き留めると、思考を戻して貴賓席を立つ。
……次はいよいよ、自分の出番である。
「オース、なるべく負けないように頑張れよー」
「うむ……ヴォル兄、いってくる」
会場へと向かう背中を、既に席へと戻ってきてテオ兄の試合を観戦していたヴォル兄に見送られる……なるべく負けないように、と言われたのは、自分の力が信用されていないのか、それとも仮に負けてもショックを受けないようにというヴォル兄なりの優しさか……。
そして、予選で選手の待機場所だった、アリーナが見える広めの通路までくると、試合を終えたテオ兄がその壁に腕を組んで寄りかかるようにして待っていて、自分が来たのを見つけて無言でこちらに向かって歩いてくると、ポンポンと肩をたたき、そのまま何も言わずに去って行ってしまった。
コミュニケーションスキルの低い自分にはその行動の真意はよく分からないが、頑張れということだろうか……まぁ、ここはポジティブに応援されていると受け取っておこう。
一般的なゲームプレイヤーからすれば勝利は絶望的な状況……しかし、自分にはそれなりに闘える力があり、兄上たちからの応援もあり、目指すべき目標もある……。
なので、自分の中でこの試合で勝利することはもう確定事項だ。
個人的な問題としては、素顔でアリーナへ出たり、あまり長いこと闘いを見せていたりすると、おそらくまだ観客席にいるであろうフランツ殿に、自分とこの国の王子が同一人物であると感づかれてしまう可能性があるということくらいか……。
「ふむ……なるほど……よし」
「要望を守れなくて申し訳ないが、この試合はタイムアタック検証をさせてもらおう」
こうして自分は、あまり姿が見られないように兜が深めの日本甲冑を装備し、一ラウンド目の開始と同時に一瞬で勝負をつけることを心に決めてアリーナへと足を踏み出した……。
▼スキル一覧
【輪廻の勇者】:不明。勇者によって効果は異なる。
【物理耐性】:物理的な悪影響を受けにくくなる
【精神耐性】:精神的な悪影響を受けにくくなる
【時間耐性】:時間による悪影響を受けにくくなる
【異常耐性】:あらゆる状態異常にかかりにくくなる
【五感強化】:五感で得られる情報の質が高まる
【知力強化】:様々な知的能力が上昇する
【身体強化】:様々な身体能力が上昇する
【成長強化】:あらゆる力が成長しやすくなる
【武器マスター】:あらゆる武器を高い技術で意のままに扱える
【武術】:自分の身体を特定の心得に則って思いのままに扱える
【魔力応用】:自分の魔力を思い通り広い範囲で精密に操ることが出来る
【実力制御】:自分が発揮する力を思い通りに制御できる
【薬術】:薬や毒の効果を最大限に発揮できる
【医術】:医療行為の効果を最大限に発揮できる
【家事】:家事に関わる行動の効果を最大限に発揮できる
【サバイバル】:過酷な環境で生き残る力を最大限に発揮することができる
【諜報術】:様々な環境で高い水準の諜報活動を行うことが出来る
【解体】:物を解体して無駄なく素材を獲得できる
【収穫】:作物を的確に素早く収穫することができる
【伐採】:木を的確に素早く伐採することができる
【石工】:石の加工を高い技術で行うことができる
【木工】:木の加工を高い技術で行うことができる
【調合】:複数の材料を使って高い効果の薬や毒を作成できる
【指導術】:相手の成長を促す効率の良い指導が出来る
【コンサルティング】:店や組織の成長を促す効率の良い助言ができる
【鑑定・計測】:視界に収めたもののより詳しい情報を引き出す
【マップ探知】:マップ上に自身に感知可能な情報を出す
【万能感知】:物体や魔力などの状態を詳細に感知できる
【人族共通語】:人族共通語で読み書き、会話することができる
【人族古代語】:人族古代語で読み書き、会話することができる
▼称号一覧
【連打を極めし者】
【全てを試みる者】
【世界の理を探究する者】
【動かざる者】
【躊躇いの無い者】
【非道なる者】
【常軌を逸した者】
【仲間を陥れる者】
【仲間を欺く者】
【森林を破壊する者】
【生物を恐怖させる者】
【種の根絶を目論む者】
【悪に味方する者】
【同族を変異させる者】 <NEW!>
▼アイテム一覧
〈1~4人用テント×9ずつ〉〈冒険道具セット×9〉〈キャンプ道具セット×9〉
〈調理道具セット×9〉〈登山道具セット×9〉〈変装セット×1〉〈調合セット×1〉
〈その他雑貨×8〉〈着火魔道具×9〉〈方位魔針×9〉〈魔法のランタン×9〉
〈水×54,000〉〈枯れ枝×500〉〈小石×1,750〉〈倒木×20〉
〈食料、飲料、調味料、香辛料など×1089日分〉
〈獣生肉(下)×1750〉〈獣生肉(中)×661〉〈獣生肉(上)×965〉〈鶏生肉×245〉
〈獣の骨×720〉〈獣の爪×250〉〈獣の牙×250〉〈羽毛×50〉〈魔石(極小)×60〉
〈革×274〉〈毛皮×99〉〈スライムの粘液×850〉〈スライム草×100〉
〈棍棒×300〉〈ナイフ×3〉〈シミター×2〉〈短剣×3〉〈剣×3〉〈大剣×3〉
〈戦斧×3〉〈槍×3〉〈メイス×3〉〈杖×3〉〈戦鎚×3〉〈弓×3〉〈矢筒×3〉〈矢×10,000〉
〈魔法鞄×4〉〈風のブーツ×4〉〈治癒のアミュレット×4〉〈集音のイヤーカフ×4〉
〈水のブレスレット×4〉〈装飾品×5〉〈宝石×6〉〈高級雑貨×8〉
〈一般服×10〉〈貴族服×4〉〈使用人服×2〉〈和服×1〉
〈ボロ皮鎧×1〉〈革鎧×1〉〈チェインメイル×2〉〈鋼の鎧×2〉
〈バックラー×1〉〈鋼の盾×2〉
〈上治癒薬×19〉〈特上治癒薬×5〉〈魔力回復薬×10〉〈上解毒薬×7〉〈猛毒薬×10〉
〈筋力増加薬×5〉〈精神刺激薬×5〉〈自然治癒上昇薬×10〉〈魔力生成上昇薬×10〉
〈遅効性緩下薬×1〉
〈金貨×49〉〈大銀貨×5〉〈銀貨×96〉〈大銅貨×1604〉〈銅貨×3〉