第四十六話 戦闘訓練で検証
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―― ガキン ――
戦いと開拓の国、グラヴィーナ帝国……その帝都の中心にそびえ立つ城に隣接された、いくつかの訓練場のひとつで、金属同士が重くぶつかり合う甲高い音が鳴り響いている。
石造りの高い塀に囲まれたその区画には赤く色づき始めた陽の光が差し込んでいて、対峙する二人が交差する度に手に持つ武器がその光を反射してきらめき、踏み込みや回避の度に足元では土埃が舞う……。
そして朝から訓練を続ける両者が着込んだ漆加工された革製のものとはいえそれなりに重さのある甲冑の隙間からは、額や首筋に汗が流れているのが確認できた。
互いに使用している武器は訓練用の大太刀……騎馬武者が馬上で用いるために生まれたその長く重い刀は、手で掴むだけはでなく前腕でもその長い柄を押さえるように支え、馬で駆けながら肘から先の前腕を一体として手首を動かさずに振り、馬の速さも力に変えて斬るという使い方が一般的かもしれない。
両手でも扱いやすいように柄が長く作られているので、体力のある者ならば馬が停止した状態や地上などでも両手を使って遠心力を斬る力に変えることが可能で、歴史学者の中には流鏑馬で弓を両手で扱うように、大太刀も手綱を放して両手で持つのが一般的だったのだとする人もいるようだ。
何が言いたいかというと……大太刀という武器はかなり重い。
持つだけなら片手でもそれほど大変ではないが、攻撃するとなると速さを乗せるか両手で振るかでないと運用できないし、ちゃんと遠心力を乗せて振られたなら、たとえ刃が潰されていたとしても打たれればその衝撃は計り知れないだろう。
しかし今、その常人では攻撃するのも防ぐのも難しい武器を振り回しているのは、どちらも成人男性にしては低い身長の持ち主で、片方はそれでも胴体や手足に立派な筋肉を宿しているものの、もう片方は鍛えてこそいるもののその引き締まった筋肉は重い大太刀を振り回せる作りにはなっていないように見える。
それもその筈……その低身長で細い方は、この世界で成人として扱われる十五歳ということらしい自分であり、素の力では振ることが出来ないその大太刀を【身体強化】スキルで無理やり運用しているのだから……。
―― カンッ ――
しかし、最後の交差で大太刀を最後まで手放さなかったのは自分の方だった……。
相手役をしてもらっているドワーフ騎士? 武士? のコンラート殿の大太刀は自分の攻撃で手から外れると回転しながら宙を舞い、夕日の光を反射してきらめいてから土がむき出しの地面へと刺さる。
《スキル【大太刀】を獲得しました》
「はぁ……はぁ……やっとか……」
「お見事です……殿下」
しかし、勝負がつくと仰向けに寝転がり呼吸を荒くしている自分に対して、負けたはずのコンラート殿は兜を脱いで汗を拭いたりはしているものの、息は少し整えただけで安定してそれほど疲れを感じさせない様子だ……。
目的であったスキル獲得は達成できたものの、自分とコンラート殿の実力の差を感じて先行きに少しの不安を覚える。
「コンラート……今の戦いは何割くらいの力を出していたのだ?」
なので自分は素直にそう尋ねてみた……未だに他人を呼び捨てにするのは少し躊躇ってしまうのだが、呼び捨てに出来ずに注意を受ける検証はジェラード王国からこの国に来る道中で散々やっていたので、もうロールプレイ検証の一環として慣れるしかないな。
「いえいえ、拙者は全力を出させていただきました……流石は殿下、この国一番の実力者である陛下の息子さんだけあって素晴らしい腕をお持ちですな、はっはっは」
「いや、そういうおだてはいい……自分の力を正確に測るためにも正直に答えてくれ」
「うーん……そうですなぁ……」
「……」
コンラート殿は少し悩んだ後、自分の真剣な目を覗き見て……少し躊躇うような様子を見せた後、頭をかきながら申し訳なさそうに答えてくれた。
「……六割……といったところでしょうか」
きっとそれが本当に正直な値なのだろう……少しおまけがあるとしても、それより大きい値ではないのは確かなので、少なくとも六割以下の実力しか出していないということだ。
「うーむ……そんなに手加減されてギリギリ勝てる実力差か……」
冒険者ギルドがBランクと定めるサーベルタイガーを時間がかかりはしたが素手で倒せていたので、今の自分でもそれなりに戦えると思っていたのだが、やはり動きが単調ではない人が相手となると勝手が違うのか、コンラート殿がかなりの腕なのか、思ったよりうまくはいかないようだ。
「しかし殿下……失礼ながら、殿下も全力を出していないように感じられましたが?」
「……ふむ、それも見破られてしまうのか」
そう……確かに自分は【身体強化】スキルで重い大太刀を振り回せるだけ筋力を上げてはいたが、スタミナや素早さなどを上げるような強化はしてないし、【体術】スキルを組み合わせたりもしていない。
だが、それは負荷を高めることでスキル獲得を少しでも早めるためであって、この戦いに余裕があったからではないのだ……現に【実力制御】でステータスを下げたりするようなことは出来なかった。
それに、スキル発動にこそ制限をかけたものの身体が動く範囲での全力は出し切り、ちゃんと勝利する気構えで油断なく挑んでいたので、相手から全力を出していないと悟られるような戦いはしていないと思っていたのだが……。
「いえいえ、そう心配なさらないでください……むしろその力の抑え方が出来る者は騎士団にもなかなかおりません……武器の扱い方を覚えてしまわれるその早さにも驚きましたが、殿下は本当に素晴らしい戦いの才能をお持ちですな、はっはっは」
そしてコンラート殿は、彼が元々騎士団の団長をやっていたのだと話し始め、隊長クラスの十分な実力者になってから、自分が先ほど行ったような全力を出さずに全力で戦うという内容の訓練を開始するのだと教えてくれた。
その訓練はつい高度な技術や身体捌きに頼ってしまうようになった実力者がその技術の基礎となる部分の力を底上げして、次に全力を出した際の全体的な動きを良くするという、さらなる成長のために必要なことなのだが、感覚を掴むのが大変難しいらしく、体得できる者は限られているとのこと。
確かに、この世界にスキルという概念が存在しないのであれば、力の一部を発揮する、発揮しないという選択を感覚だけで行うことになるのだから難しいだろう……自分はそういった別の方面、ゲームの知識から制御できているが、それを独自で身に着けて騎士団長にまで昇り詰めたというのであればコンラート殿は本当に凄い人物なのだと思う。
「先は長いな……」
「いやいや、何を言っておりますか殿下……加減をしていたとはいえ、実は一番自信があった大太刀同士での勝負で拙者から一本勝ち取ったのですぞ? それも、持ち方から学び始めてたった数時間で……それでそんなに自信なさげな呟きを聞かされたら、拙者はどう返せばいいか分かりませぬ」
ふむ……それもそうか……。
自分はこのグラヴィーナ帝国に来たあの日、父上や兄上たちから王位継承戦の話を聞いた後、実際の武闘大会が開かれるのは三週間後だと伝えられた。
参加必須の王族の一人である自分が行方不明だったので、国民にも近いうちに開催するとしか伝えておらず、今から一般国民の参加者応募を開始して、途中だった会場の準備なども進めるとなると、最短でもそのくらいかかるとのこと。
なので、自分は次の日からこうしてコンラート殿に相手役を頼んで、スキル獲得など大会に向けたレベル上げ作業を開始し、今日はその二日目である。
昨日は【短剣術】【剣術】【大剣術】を鍛えて、それぞれのスキルから『基礎』という表記が取れ、今日は【小太刀術】【太刀術】【大太刀術】を一から習得することが出来た。
その検証の結果分かったのだが……武器スキルで『基礎』という表記が付いているか、そうでないかは、対人での戦闘経験があるかないかで判別されているらしい……いや、正確にはおそらく『戦闘スキルを持つ者と戦ったか否か』か……?
まぁどちらにせよ、今日ゼロから習得を目指した三つの太刀系スキルは『基礎』という表記をスキップしていきなりそのスキルが獲得できたので、その表記に対人での訓練が関係しているのは間違いないだろう。
たしかに、武器も使わずにただ真っすぐ噛みついてきたりする獣を何匹も倒すより、よく考えて相手の出方を読みながらフェイントも交えて武器を効果的に繰り出してくる人と数回戦った方が高度な技術を身につけやすい。
もしかしたら獣が相手だったり訓練用の人形だったりしても、ちゃんとした訓練法を行えば対人でも使える技術を身に付けられるのかもしれないが、大会まであまり時間が無い今は実際に人を相手にした方が効率がいいと思われるので、訓練内容の違いによる検証は今度アルダートンに帰った時にグリィ殿にでもやってもらうことにしよう。
まずは、全ての武器スキルを対人戦が可能なレベルまで習得してしまわなければ……。
「この調子で明日からもよろしく頼むぞコンラート」
「……拙者はよいのですが……殿下はそれでよいのでしょうか……元騎士団長である拙者の経験から、余計なお世話と承知でご意見させていただきますと、色々な武器を扱えるようにするよりも一つの武器を極めた方がよろしいのではないかと……」
「うむ、まぁその通りであろうな」
先ほども大太刀同士で戦って、その武器が得意なコンラート殿にはかなりの手加減をされた上でようやく勝てるレベルだった通り、色々な武器を中途半端に鍛えたところでその道の達人には敵わない。
それどころか、相手の扱う武器に対して有利な武器を選んで戦ったとしても、達人であればそんな不利などとうに把握していて、長年の経験から相性を覆すような万全の対策を持った状態だろうから、どちらにせよ勝つことが出来ないだろうし、逆に自分が何かの武器を達人レベルまで鍛えればどんな相手とも戦える力を手に入れられる。
噂によると長男であるテオ兄が〈七剣〉と呼ばれていて、七種類の剣を自在に使いこなす次期帝王と呼ばれる実力者ということだが、それでも自分のように戦斧や戦鎚のようなものにまで手を出そうとせずに剣の域で踏みとどまっているのだ、それ以上の武器を扱えるようになってもプラスになるどころかマイナスになる可能性が高いと考えているのだろう。
おそらくそれはその通りで、クセの違う武器を使い、それによって全く異なる戦い方をするのは、経験の薄い相手になら攪乱も出来るので通用するとは思うが、真剣に訓練を重ね、魔物から国を守ってきた騎士などを相手にしたら、最初は驚かれてもすぐに冷静さを取り戻され、隙などすぐに無くなってしまうに違いない。
「でしたら……」
「それでも、自分はまず一通りの武器を扱えるようになりたいのだ」
しかし自分は親切にそうアドバイスしてくれたコンラート殿の声を遮り、そう言い放つ。
「……」
「……」
「……なるほど、何かお考えがあるのですな」
「うむ」
そう、自分には自分の考えがあるのだ……。
そして、自分が目指しているのは『ただの達人』ではなく『武闘大会の優勝者』……。
一般参加者を含めて各所から達人があつまるこの武闘大会で、ただの達人を目指すことに何の意味があるというのか……その中で一番を目指すのであればそれ以上を目標にしないといけないだろう。
もちろん、達人以上を目指すにしても、一つの武器を極めた達人を一度経由した方がいいに決まっているが、たった三週間ではそんな普通のやり方をしている限り圧倒的に時間が足りず、大会開催前にそれ以上の実力者に至ることが出来ないと思われる。
こんな状況からしても、やはりこれは負けイベントだということか……普通のプレイヤーであれば素直に諦めるか、二週目の強くてニューゲームに期待するか、データ改ざんなどのチートで無理やり勝利するなどの道を選ぶだろう……。
しかし、自分はデバッガー……世界の探究者である。
データ改ざんなどせずに、普通のプレイヤーが努力できる範囲で勝利に挑むのが自分の進むべき道なのだ……もちろん、それが達成できるバグ技、小技が無いか検証しながら……。
コンラート殿はこちらをまっすぐ見つめると、瞳の奥に宿るこの検証魂を感じ取ってくれたのか……それまで少し窘めるような表情だったのが、柔らかい表情に変わった。
「いやはや、どうやら本当に余計なお世話だったようで、誠に申し訳ございません……グラヴィーナ帝国、元騎士団長、第三王子オルスヴィーン殿下の従者であるこのコンラート、明日からも殿下の訓練に喜んでお付き合いしましょう! はっはっは!」
そうして自分は訓練を通じてコンラート殿との仲を深めながら、武器系のスキルを着々と対人戦が可能なレベルにまで鍛えていった。
▼スキル一覧
【輪廻の勇者】:不明。勇者によって効果は異なる。
【物理耐性】:物理的な悪影響を受けにくくなる
【精神耐性】:精神的な悪影響を受けにくくなる
【時間耐性】:時間による悪影響を受けにくくなる
【異常耐性】:あらゆる状態異常にかかりにくくなる
【五感強化】:五感で得られる情報の質が高まる
【知力強化】:様々な知的能力が上昇する
【身体強化】:様々な身体能力が上昇する
【成長強化】:あらゆる力が成長しやすくなる
【短剣術】短剣系統の武器を高い技術で意のままに扱える <UP!>
【剣術】:剣系統の武器を高い技術で意のままに扱える <UP!>
【大剣術】:大剣系統の武器を高い技術で意のままに扱える <UP!>
【小太刀術】:小太刀系統の武器を高い技術で意のままに扱える <NEW!>
【太刀術】:太刀系統の武器を高い技術で意のままに扱える <NEW!>
【大太刀術】:大太刀系統の武器を高い技術で意のままに扱える <NEW!>
【戦斧術(基礎)】:戦斧系統の武器を上手く扱える
【槍術(基礎)】:槍系統の武器を上手く扱える
【短棒術(基礎)】:短棒系統の武器を上手く扱える
【棍棒術(基礎)】:棍棒系統の武器を上手く扱える
【杖術(基礎)】:杖系統の武器を上手く扱える
【戦鎚術(基礎)】:戦鎚系統の武器を上手く扱える
【鎌術(基礎)】:鎌系統の武器を上手く扱える
【体術】:自分の身体を高い技術で意のままに扱える
【弓術(基礎)】:弓系統の武器を上手く扱える
【投擲】:投擲系統の武器を高い技術で意のままに扱える
【実力制御】:自分が発揮する力を思い通りに制御できる
【薬術】:薬や毒の効果を最大限に発揮できる
【医術】:医療行為の効果を最大限に発揮できる
【家事】:家事に関わる行動の効果を最大限に発揮できる
【サバイバル】:過酷な環境で生き残る力を最大限に発揮することができる
【隠密】:気配を薄くして周囲に気づかれにくい行動ができる
【鍵開け】:物理的な鍵を素早くピッキングすることが出来る
【解体】:物を解体して無駄なく素材を獲得できる
【収穫】:作物を的確に素早く収穫することができる
【伐採】:木を的確に素早く伐採することができる
【石工】:石の加工を高い技術で行うことができる
【木工】:木の加工を高い技術で行うことができる
【調合】:複数の材料を使って高い効果の薬や毒を作成できる
【指導術】:相手の成長を促す効率の良い指導が出来る
【コンサルティング】:店や組織の成長を促す効率の良い助言ができる
【鑑定・計測】:視界に収めたもののより詳しい情報を引き出す
【マップ探知】:マップ上に自身に感知可能な情報を出す
【万能感知】:物体や魔力などの状態を詳細に感知できる
【人族共通語】:人族共通語で読み書き、会話することができる
【人族古代語】:人族古代語で読み書き、会話することができる
▼称号一覧
【連打を極めし者】
【全てを試みる者】
【世界の理を探究する者】
【動かざる者】
【躊躇いの無い者】
【非道なる者】
【常軌を逸した者】
【仲間を陥れる者】
【仲間を欺く者】
【森林を破壊する者】
【生物を恐怖させる者】
▼アイテム一覧
〈1~4人用テント×9ずつ〉〈冒険道具セット×9〉〈キャンプ道具セット×9〉
〈調理道具セット×9〉〈登山道具セット×9〉〈その他雑貨×9〉
〈着火魔道具×9〉〈方位魔針×9〉〈魔法のランタン×9〉
〈水×60,000〉〈枯れ枝×1,000〉〈小石×1,800〉〈倒木×20〉
〈食料、飲料、調味料、香辛料など×1097日分〉
〈獣生肉(下)×1750〉〈獣生肉(中)×870〉〈獣生肉(上)×965〉〈鶏生肉×245〉
〈獣の骨×747〉〈獣の爪×250〉〈獣の牙×250〉〈羽毛×50〉〈魔石(極小)×90〉
〈スライムの粘液×600〉〈スライム草×100〉
〈棍棒×300〉〈ナイフ×3〉〈シミター×2〉〈短剣×3〉〈剣×3〉〈大剣×3〉
〈戦斧×3〉〈槍×3〉〈メイス×3〉〈杖×3〉〈戦鎚×3〉〈弓×3〉〈矢筒×3〉〈矢×10,000〉
〈魔法鞄×4〉〈風のブーツ×4〉〈治癒のアミュレット×4〉〈集音のイヤーカフ×4〉
〈水のブレスレット×4〉〈装飾品×10〉〈宝石×6〉〈高級雑貨×10〉
〈一般服×10〉〈貴族服×5〉〈使用人服×2〉〈和服×1〉
〈ボロ皮鎧×1〉〈革鎧×1〉〈チェインメイル×2〉〈鋼の鎧×2〉
〈バックラー×1〉〈鋼の盾×2〉
〈金貨×45〉〈大銀貨×6〉〈銀貨×4〉〈大銅貨×8〉〈銅貨×6〉