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第四十四話 帝国の領都で検証

 グラヴィーナ帝国に来る途中で、竜の休息地でお付きの騎士たちにも手伝ってもらいスライム草をそれなりの数だけ集めるという道草を終えた自分は、結局今回も噂の竜襲撃イベントに遭遇することは出来ないままウェッバー村を出発することになった。


 出発する前、付き人のダーフィン殿にはあまり勧められることではないと言われたが、無理を言って村長に直接あの時お世話になったお礼を伝えたところ、ご老人はしわくちゃの顔をさらにしわくちゃにしながら涙を流して謝り始めてしまう。


 わけを聞くと自分を探していたヴェルンヘル殿下に最初に情報を流したのは彼だということらしく、無理やり連れ戻されるようなことになったのではないか、付き人に嫌な目にあわされているのではないかと心配されたのだ。


 どんな思考回路でそんな心配に行き着いたのかは分からなかったが、そういえばこのご老人は出会った時から何やら涙もろく、心配性なキャラクター設定だったような気がするなと思い出し、今の付き人は良い人だし帝国はいつか行くつもりだったから丁度いい機会だと言ってなだめると、彼はよかったよかったと繰り返してさらに大量の涙を流す。


 おそらく村人全員分あるであろう大量のお礼の品にも皆喜んでくれたようで、自分はいつかと同じようにまた多くの人に見送られながら村を旅立つ……それから数日かけて宿場町や小さな村、砦のような街を渡り、気がつけばグラヴィーナ帝国との国境を越えていた。


 グラヴィーナ帝国とジェラード王国の仲が良いのか、魔物など共通の敵がいるという理由なのか、これが中世の時代によくある光景だったのかは分からないが、そこは元の世界のEU加盟国同士で見かける国境のように特にこれといったフェンスやバリケードなどが設置されておらず、街道の端にそこが境界であると示す石柱が立っているだけだ。


 厳しい検問や税金があればついでに検証してみたいと思っていたのだが、自分の乗っている豪奢な馬車にグラヴィーナ帝国の紋章が入っているからか、馬車がそういった門に着く前に先に行っている騎士が何か手続きをしているのか、一度も止められることなくそのまま国境に一番近い街の門まで素通りしてしまう。


 自分はきっとイベント移動中はそういった煩わしさから解放される仕様なのだろうと納得することにすると、素直にその挙動を見守るという検証に頭を切り替えて、イベントが終わった後でジェラード王国に帰るときにでも違うパターンで国を越える検証をしようと心に決めた。


「そろそろオーレンドルフに到着します」


 そんなことを考えながら馬車に揺られ、グラヴィーナ帝国側にもあった砦のような街で休憩を挟んでから、帝国に入って初めての大きな街に辿り着く。


 ジェラード王国の商業都市アルダートンと同じくらい大きな街だろうか……外壁に囲まれたその街の門にこれまでと同じように馬に乗った騎士が先に走り、開かれた貴族用の門から街の中に入ると、やはり冒険者として長く滞在していたその街と同じように様々な格好をした人達で賑わっている……そして……。


「なん……だと……」


 自分は馬車から見えるその露店に売っているものや、少し離れた市場に置いてあったものを鑑定して驚愕した。


「味噌が……醤油が……米が売っている……」


 そこには、入れ物こそ現代日本のスーパーなどでよく見かけるプラスチックのそれではなく陶器のツボだったが、蓋を外して中を確認する客の手元を覗き込むと、確かにそこに入っているものは紛れもなく味噌や醤油……米は俵や麻袋に入った状態で売っている。


 馬車から変わり映えのしない景色を眺めすぎて脳が麻痺していたのか……よく見るとその店主や客の中には今までジェラード王国で見てきた洋服ではなく、和服のような恰好をした人が混ざっているようだ……甚兵衛タイプのものは村人が着る麻布の洋服と殆ど見分けがつかないが、着流しや紬、袴などはどう見ても日本で見かけるそれだった。


 自分もそうだったのでいることは分かっていたし、ジェラード王国の冒険者ギルドでもたまに見かけることはあったが、周囲を見渡すと結構な人たちが黒髪黒目の童顔で、そういった区画だけ視野に収めるとここが日本なのではないかと錯覚さえ覚える。


「やはりグラヴィーナ帝国は日本に近い文化だったか……」


 実はここに到着する前から、騎士たちがそれを匂わす恰好をしていたので、そうでは無いかと少し疑っていた……しかし実際に目の当たりにしてみるとやはり何とも言えない感動がある……この世界にそんなものはないはずだが、故郷に連れて帰られるというイベントでこんな光景を見せてくるとは、これがそれを狙って作られたゲームなら一人のプレイヤーとして制作者たちに拍手を送りたい。


「殿下、如何されましたかな?」


 そうやって自分が馬車の窓から身を乗り出しそうな勢いで外を眺めていると、視界の横から文化を漂わせていた騎士の一人が顔を出してきた。


 彼はコンラートという名前で、前後の馬車に二人ずつ付いている他の四人とは違って、一人だけ赤に近いブラウンの髪と髭を紐で縛って一つに束ねたガッシリとした体形のドワーフなのだが……彼を含めた騎士たちの服装が、どう見ても博物館などに置いてある日本の甲冑そのもので、そんな彼も日本人らしくない見た目の割にとてもよく似合っている。


 もちろん所持している近距離武器も剣や槍ではなく、刀や薙刀で、コンラート殿にその格好について尋ねたら、グラヴィーナ帝国の騎士はそういった恰好をするのが主流だと教えてくれた。


「うむ、何だか街の景色が懐かしいように感じたのだ」


 その言葉を聞いたコンラート殿は「そうですかそうですか、それは良かったです」と嬉しそうな顔をして、同じ馬車でその会話を聞いていたダーフィン殿もこちらへ微笑ましそうな視線を向ける……おそらく二人がそう受け取ったのであろうグラヴィーナ帝国に懐かしさを覚えたのではなく、故郷である日本を思い出したからそう感じたのだが、まぁあえて否定することもないだろう。


 自分はそんなことよりも、早く宿に着かないものかとソワソワしていた……。


 その懐かしい町並みを歩きたい衝動? ……もちろんそれもある。


 味噌や醤油を買いに走りたい欲求? ……その感情も大きいだろう。


 でも、それよりも……。


「……早く新マップの検証がしたい」


 自分は流れていく景色にむけてそんな言葉を呟くと、視界の隅でメモ画面を開いて新しいマップの検証項目を作成していった……。



♢ ♢ ♢



 グラヴィーナ帝国の南西に位置する領の主が住む領都、貿易都市オーレンドルフ……。


 この街から道なりに少し進んだ先にある砦のような街から、西に行けばジェラード王国へと通じ、南に行けばソメール教国へと通じるということで流通の中心になっている。


 言ってしまえば自分が冒険者登録をしているジェラード王国の商業都市アルダートンと同じような形態の街なのだが、流石は領都というだけあって、街の物理的な大きさも力を入れている貿易の規模もアルダートンと比べてかなり大きい。


 しかし……。


「無い……」


 自分はそんな大きな、殆ど何でも揃っているであろうという都市を歩き回りながら、事前に作成しておいたチェックリストの数か所を埋められないでいた……。


 いや……今見ている項目は、チェックリストというよりも買い物リストと言った方が正しいかもしれない。


 味噌や醤油、米などの品々がずらりと並んでいるそのスーパーに持って行くメモ帳のような項目には、一番下に記載されたワサビまでチェックマークが入っていて、チェックが付いているそれらは既に亜空間倉庫に現物が格納されているか、胃袋に納められている。


 もちろん買い食いのような行動をするのは王族として行儀が悪いと世話係のダーフィン殿に止められたが、制止を振り切り追いかける騎士などから逃れる検証は王都で散々行っていたので今では自分の得意な検証分野となっていた。


「無い、無い……どこにも無い……」


 けれど自分がそんな今までの経験を遺憾なく発揮して追っ手を振り切り、服飾店で購入した既製品の着流しを身に纏って街に溶け込み、大通りから裏通りまでもう二時間以上は歩き回っているというのに、チェック項目が埋まらない……。


 確かに、これは街にある商品を実際に見たり、仕様書や設計書に記載された商品リストから書き起こしたチェックリストではないので、それらの項目がこの街に全て実在するという保証も確証もないのだが……自分はそれでも納得がいかなかった。


「味噌も醤油も、米も漬物もワサビもあった……それなのに……」


「どうして鮮魚どころか魚料理もほとんど見つからないのだ!」


 これが日本人のゲームプランナーが考えた仕様ならば、なんと意地の悪い設計なのだろう……。


 少し高そうな小料理屋に入ったら、猪肉と里芋の煮物や山菜とキノコの天ぷら、蕎麦やワサビ茶漬けなんて言うものまで食べられたというのに、無い可能性が高いかもしれないと思っていた寿司や刺身などの生魚ならともかく、秋の代表とも言えそうなサンマの炭火焼や、イワシやサバの味噌煮、ハモやグジの天ぷら等がどの店のメニューにも欠片も存在しなかった。


「納得がいかない……」


 自分はそんな検証結果を突き付けられて、道端で秋の空を見上げながら途方に暮れる……その視線の先にイワシ雲が漂っているというのは何かの当てつけだろうか……。


「はぁ……はぁ……殿下、こちらにおられましたか……」


 そんな物悲しげな背中に、どうやら見失ってから今までずっと探していたらしいドワーフの騎士コンラート殿が息を切らしながら声をかけてくる。


 彼は兜を付けておらず、着ている甲冑も鉄が大量に使われている古代の日本甲冑のようなものではなく、漆加工された革が使われた平安時代辺りのものに近い作りのようなのでいくらかは軽いのだろうが、それでも走って人を探すのには向いていないのだろう。


 自分は見上げていた空から額に汗を浮かべる彼に視線を移すと、素朴な疑問を投げかけた。


「コンラート……この国に魚料理は無いのか?」


「魚料理……ですか……?」


「うむ」


 暫くはまた逃げ出さないかと警戒していた彼だったが、自分の様子からもう大丈夫そうだと察したのか、手拭いで汗を拭きながら質問の意図を考え始める……そして。


「海で採れる魚のことであれば、この国で期待するのは難しいかと……ここは周囲の殆どが山に囲まれた内陸なので……」


「……」


 自分に残酷な現実を突き付けてきた……。


「西の海に面しているジェラード王国からも、南の海に面しているソメール教国からも調理向きの魚を取り寄せるのは難しいでしょう……どちらのルートでも海まで一週間ほどかかるので、高いわりに美味しくない塩漬けくらいしか仕入れられません」


 そしてさらに追い打ちをかけてきた……。


「……だ」


「殿下……?」


「これは不具合だ」


「不具合……?」


「デバッガーである自分が明言する! これは不具合であると!」


「???」


 甲冑に和服に刀、醤油に米にワサビ……。


 ここまで日本のものが揃っていて魚料理が無いなんてありえない。


 自分はこの世界に派遣されたデバッガーとして、これをゲーム制作者に不具合として報告しなければならないだろう。


 しかし、未だに自分はこの世界からゲーム制作者に報告する方法が分かっていない。


 ならば……。


「コンラート……この国が魚を定期的に手に入れる方法は何かないのか?」


「魚を定期的に……? そうですなぁ……確実なのは、海のある土地まで開拓を進めてこの国を広げてしまうことでしょうか……」


「ではすぐに……っ」


「でもそれも難しいでしょう……帝の……殿下のお父様の今の方針が、武器などの材料になる鉱石を集めるために山のある方面へ開拓するとなっていますから」


 ゲーム制作者に伝える術がない……でも、目の前に不具合がある……。


「くっ……」


「まぁ、どうしてもというのであれば、殿下が継承権を勝ち取って国の方針を変えるというのもありですな、はっはっは」


 そして、不具合を解消する道が無いわけではない……。


 いや、もしかしたら……それがゲーム制作者が用意してくれた道で、本当は不具合ではなくプレイヤーが自ら修正することも含めてゲームを楽しむ仕様なのかもしれない……そして、もしそうだとしたら、それを検証するのはデバッガーの義務……。


「ふむ……なるほど……よし」


「殿下……?」


 王位継承権をかけた戦いに関しては正直ある程度戦ったら降参するかルール違反をするかして負ける検証をしようと思っていたのだが……自分が行うべき検証はもっと先にあるようだ。


 だったら……このグラヴィーナ帝国での戦いは全力で勝ち進んで、国の方針を変える力でもなんでも手に入れて見せようじゃないか……。


「さぁ……検証の開始だ……」


▼スキル一覧

【輪廻の勇者】:不明。勇者によって効果は異なる。

【物理耐性】:物理的な悪影響を受けにくくなる

【精神耐性】:精神的な悪影響を受けにくくなる

【時間耐性】:時間による悪影響を受けにくくなる

【異常耐性】:あらゆる状態異常にかかりにくくなる

【五感強化】:五感で得られる情報の質が高まる

【知力強化】:様々な知的能力が上昇する

【身体強化】:様々な身体能力が上昇する

【成長強化】:あらゆる力が成長しやすくなる

【短剣術(基礎)】短剣系統の武器を上手く扱える

【剣術(基礎)】:剣系統の武器を上手く扱える

【大剣術(基礎)】:大剣系統の武器を上手く扱える

【戦斧術(基礎)】:戦斧系統の武器を上手く扱える

【槍術(基礎)】:槍系統の武器を上手く扱える

【短棒術(基礎)】:短棒系統の武器を上手く扱える

【棍棒術(基礎)】:棍棒系統の武器を上手く扱える

【杖術(基礎)】:杖系統の武器を上手く扱える

【戦鎚術(基礎)】:戦鎚系統の武器を上手く扱える

【鎌術(基礎)】:鎌系統の武器を上手く扱える

【体術】:自分の身体を高い技術で意のままに扱える

【弓術(基礎)】:弓系統の武器を上手く扱える

【投擲】:投擲系統の武器を高い技術で意のままに扱える

【実力制御】:自分が発揮する力を思い通りに制御できる

【薬術】:薬や毒の効果を最大限に発揮できる

【医術】:医療行為の効果を最大限に発揮できる

【家事】:家事に関わる行動の効果を最大限に発揮できる

【サバイバル】:過酷な環境で生き残る力を最大限に発揮することができる

【隠密】:気配を薄くして周囲に気づかれにくい行動ができる 

【鍵開け】:物理的な鍵を素早くピッキングすることが出来る

【解体】:物を解体して無駄なく素材を獲得できる

【収穫】:作物を的確に素早く収穫することができる

【伐採】:木を的確に素早く伐採することができる

【石工】:石の加工を高い技術で行うことができる

【木工】:木の加工を高い技術で行うことができる

【調合】:複数の材料を使って高い効果の薬や毒を作成できる

【指導術】:相手の成長を促す効率の良い指導が出来る

【コンサルティング】:店や組織の成長を促す効率の良い助言ができる

【鑑定・計測】:視界に収めたもののより詳しい情報を引き出す

【マップ探知】:マップ上に自身に感知可能な情報を出す

【万能感知】:物体や魔力などの状態を詳細に感知できる

【人族共通語】:人族共通語で読み書き、会話することができる

【人族古代語】:人族古代語で読み書き、会話することができる



▼称号一覧

【連打を極めし者】

【全てを試みる者】

【世界の理を探究する者】

【動かざる者】

【躊躇いの無い者】

【非道なる者】

【常軌を逸した者】

【仲間を陥れる者】

【仲間を欺く者】

【森林を破壊する者】

【生物を恐怖させる者】


▼アイテム一覧

〈1~4人用テント×9ずつ〉〈冒険道具セット×9〉〈キャンプ道具セット×9〉

〈調理道具セット×9〉〈登山道具セット×9〉〈その他雑貨×9〉

〈着火魔道具×9〉〈方位魔針×9〉〈魔法のランタン×9〉

〈水×60,000〉〈枯れ枝×1,000〉〈小石×1,800〉〈倒木×20〉

〈食料、飲料、調味料、香辛料など×1100日分〉

〈獣生肉(下)×1750〉〈獣生肉(中)×870〉〈獣生肉(上)×967〉〈鶏生肉×246〉

〈獣の骨×747〉〈獣の爪×250〉〈獣の牙×250〉〈羽毛×50〉〈魔石(極小)×90〉

〈スライムの粘液×600〉〈スライム草×100〉

〈棍棒×300〉〈ナイフ×3〉〈シミター×2〉〈短剣×3〉〈剣×3〉〈大剣×3〉

〈戦斧×3〉〈槍×3〉〈メイス×3〉〈杖×3〉〈戦鎚×3〉〈弓×3〉〈矢筒×3〉〈矢×10,000〉

〈魔法鞄×4〉〈風のブーツ×4〉〈治癒のアミュレット×4〉〈集音のイヤーカフ×4〉

〈水のブレスレット×4〉〈装飾品×10〉〈宝石×6〉〈高級雑貨×10〉

〈一般服×10〉〈貴族服×5〉〈使用人服×2〉〈和服×1〉

〈ボロ皮鎧×1〉〈革鎧×1〉〈チェインメイル×2〉〈鋼の鎧×2〉

〈バックラー×1〉〈鋼の盾×2〉

〈アルダートンで買ったお土産×10〉

〈金貨×45〉〈大銀貨×6〉〈銀貨×7〉〈大銅貨×8〉〈銅貨×6〉

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