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第三十九話 王都で検証 その三

 あれから第三王子ヴェルンヘル殿下のお取り計らいにより自分はある意味オシャレかなと思い始めた首飾りを外されると暗く寒い地下牢から釈放されて、それだけでなく、王都の教会までの道のりを、殿下自ら案内してくださることとなった。


 そんなものは部下に口で説明させて後は放っておけばいいものを、なぜそこまでするのかを聞いたところ「俺が暇で、お前が面白そうだから」とのこと……王子や騎士団長と言う人間が暇を持て余すような立場なのか定かではないが、もし仮に本当に暇だとしても、平民と一緒に城下町を散歩するどころか、先頭に立って街を案内するのはこの国としては大丈夫なのだろうか……。


 道のり、殿下がやけに街の食べ物屋や屋台の事情に詳しかったり、その店員の方も敬語は使っていたが畏縮する素振りもなく「またいつでもいらっしゃってください」と明るく声をかけていたので、もしかしたらいつもの事なのかもしれないが、それはそれで心配だ。


 一応護衛だと思われる騎士が二人後ろについているが、彼らは本当に後ろについて来ているだけならまだしも、いつの間にか露店の串焼きを勝手に買い食いしているし、それを見た殿下も咎めるどころか「俺にもよこせ」と一つ奪い取って一緒に食べ歩きを始めてしまった。


「ほら、お前も食えよ」


「うむ……では騎士殿に代金を……」


「そんなのいいって……ほらあれだ、毒見だと思えばいいだろ?」


「いや、騎士殿も殿下も毒見する前に口にしているのだが……」


「細かいことは気にすんなって、後でも先でも口に入れば一緒だろ?」


「うーむ、そうだろうか……まぁ、貰えるものは貰っておこう」


「ハッハッハ、やっぱりお前はうちの騎士団に合いそうだな!」


 前にゴブリン掃討作戦で会った時、年配の文官っぽい付き人が勝手に自分からスープを受け取った殿下の行動を咎めていたと思うので、きっとこれも本来は咎められる行動なのだろうが、まぁ自分には関係ないし殿下も楽しそうなのでスルーしておこう。


 そんな調子で色々な店を巡りながらしばらく歩き、自分たちはとうとう目的地へと辿り着く……流石に王都の教会だけあり大きく立派な外観で、アルダートンの教会がその名のイメージ通りだったのに対し、こちらはどちらかというと神殿と言った方がイメージしやすい見た目だ。


 アルダートンの街にいる間は、試験勉強の際にお世話になったシスターのアナスタシア殿に約束させられた通り、冒険者の依頼などで街から出たりしていない時は毎日教会に通い、その度にからんでくる彼女から少しずつ一般常識や歴史などを教えられていたのだが、それによると王都の教会では神に対する祭典なども行うそうなので、神殿と呼んでも間違いでは無いのだろう。


 国や宗教が分かれる前は現ソメール教国の首都にある城と呼べるほど大きな神殿で祭典を行っていたが、今はそうもいかないので各国の一番大きな教会をそういった役割に使うようになったのだとか……。


 まぁ日本では……本当はあまり良くないのだろうが、自分の家が仏教なのか無宗教なのか分からないくらい宗教に疎かったのもあるため、その辺りはよく分からないし、分かっていたとしてもこの世界が同じ体系を取っているかどうかは不明だ。


 とりあえず教会を訪れたときの作法は既に失敗も兼ねてアナスタシア殿に怒られながら検証してあるので、普通にマナーを守ってその石造りの建物の内部へと入る……アルダートンの教会でもそうだったが、開け放たれた扉をくぐると外の喧騒が聞こえずらくなり、肌に感じる温度も外と比べて少し低くなった。


 どうやら教会と言う場所にはそういった結界のような役割も持つ神域指定の魔法がかかっているらしく、それが見た目だけでも神聖なここをさらに特別な空間へと変えているようだ。


「ふむ、やはり神父様はいらっしゃらないか」


「ん? 神父って司祭の爺さんの事か? まぁ、今日は別に大きなイベントは無いからな、奥で事務仕事とかやってるんだろう……用があるなら呼びに行かせるが……俺、あの人ちょっと苦手なんだよなぁ……」


「いや、とりあえず大丈夫だ」


 うむ……まぁ現実的に考えたら神父様や司祭様と呼ばれるような人物がいつも教会の定位置で勇者を待ち構えているわけが無いだろう……というか、自分の恰好は未だに質素で薄い村人の服だ……傍から見て国の王子がそんな村の少年の要望に従うようなやり取りが行われているのはどうなのだろうか。


 いや、それどころか衛兵を相手に街中で結構暴れまわっていたので、それを目撃している人がこの状況を見たらさらに謎が深まりそうだ……というか、自分自身、この状況はかなり謎だ。


 ふむ? しかしRPG的に考えると、重要なイベントの途中で普通は仲間に出来ないようなキャラクターが一時的にパーティーに加わっている状態で、その重要なイベントを無視して街の中を探索しているような感じになるのか……うむ、そう考えると別におかしいことは何も無いな。


 自分は今の状況をそういうものだと結論付けると、教会の奥側へと進んで講壇を調べる……調べると言っても隣に行ってボタンを押すだけでは進行しないので、上に何か置いていないか確認したり、裏に回ってそこにも何か仕舞われていないか確認したりする。


「うーむ、冒険を記録する媒体はないのか……」


「冒険を記録する媒体……?」


「いや、こちらの話だ……とりあえずお祈りだけしておこう」


 講壇にはそれっぽい書物が置いてあるどころか、全く何も置いていなかった……まぁ存在するとしても盗難などを考えたら神父様が持ち歩いているか、どこか別の場所に仕舞われているのだろう。


 だからと言ってそれを探しに行くのも今のパーティーメンバーを考えると少し行動しにくいので、いったんその捜索はやる事リストに加えておくだけにして、自分は講壇の前に跪いて祈りをささげるのだが……しかし何か物足りない。


「ふむ……?」


 そして、入り口からここまで歩いてくるときに視界の隅にチラリと見えたものを思い出して、お祈りを中断するとそちらへと歩いて行く。


「ん? もう終わったのか? って、おいっ」


 殿下や連れの騎士二人もせっかくだからと自分と一緒にお祈りをしていたようで、目を開けると自分がいないことに気がつき……彼らが周囲を見渡して発見したとき、自分は既に教会の隅に設置されていたその存在感のある物体の前に腰かけ、目の前の鍵盤に手を置いていた。


 ―― チャーチャラ ラー チャチャー ――


 【鑑定】したところどうやら風の魔法が込められた魔道具らしいそのパイプオルガンの響きは、流石は大きな教会という空間の、音の反響まで考えられた物だけあって、数ビットでしか表現できない割にかなり頑張っているあの音や、シンセサイザーなどで慣らすそれを模した電子音と違って、かなり豪奢で迫力がありつつもどこか幻想的な、素晴らしい音だ。


 著作権の問題などがあると思い、あまり違和感がない程度にわざと少し音を外してみたが、やはりRPGでセーブのお祈りをするなら、この効果音は必要だろう。


「こらぁぁああ!! 勝手にパイプオルガンを弾いているのは誰じゃぁあああ!!」


「やっべ、司祭の爺さんが来た……おい、逃げるぞ!」


「うむ、よく分からないがその方が良さそうだ」


 そして始まった第二回パルクール追いかけっこイベント……今回は第一回のそれとは異なり、こちらはヴェルンヘル殿下とその配下の騎士二人を加えて四人パーティーで、相手は衛兵や騎士ではなく教会の司祭様とその配下の神官らしき人たちが数名。


 どういうわけなのか神官らしき人たちはそれっぽい服こそ来ているものの、かなりがたいが良く、服が少し動きにくそうな形だというのに、街の衛兵よりも良い動きで追ってきている。


 王子が司祭の爺さんと呼んでいる人物に至っては、齢六十を超えていそうな見た目なのに初っ端から強化魔法を重ねがけして速度を上げ、騎士が使っていたような拘束魔法をマシンガンのように発射してきていた。


 そんな騒ぎを起こせばまた衛兵や騎士が加勢してきて大変な人数になるかと思ったのだが、衛兵は最初こそ驚いて武器を構えてこちらを見るものの、追いかけている側と追いかけられている側を見ると、ため息をついて武器を収めてしまう……そして街の住人は似た反応をするどころか、王子を応援する側と司祭様を応援する側に分かれて声をかけながら手を振っているという状況だ。


 もしかしたらこれは日常の光景……いや、定期的に発生するイベントなのだろうか……そうなのだとしたら自分があれだけ暴れまわっても想像より大きな騒ぎにならなかったのも少しわかるし、今一緒に逃げている王子や騎士が、自分を捉えようとしていた貴族街の騎士よりも動きが良く、自分の全力の逃げについて来ているのも頷ける。


 自分は今一度この国の大らかさを心配すると同時に少し好感を持ち、権力の壁などが感じられない友達のように接してくる王子と微笑み合いながら、教会からの追っ手を振り切った。


「ハッハッハ! いやー走った走った」


「度々迷惑をかける」


「全くだ、本当にお前は行動の読めない奴だな、ハッハッハ!」


「うむ、よく言われる」


「だろうな、ハッハッハ! ……俺はヴェルンヘル・ジェラード、一応この国の王子だったり第三騎士団の騎士団長だったりする……まぁ知っているだろうが、まだちゃんと自己紹介してなかったと思ってな」


「む、すまない……こちらから名乗るべきだったな……自分は商業都市アルダートンで冒険者をやっているオースだ……よろしく頼む」


「まぁ気にすんなって……こちらこそよろしくな、オー……ス……?」


「ふむ? ああ、そういえば殿下は自分に何か用があるんだったな……実はここにはこの手紙を預かったから来たのだ」


「……それを」


「……?」


「それを先に言えぇぇええええええええ!!!」


 こうして王子と共に街を巡り教会の司祭様と追いかけっこをして親睦を深めた自分は、遠回りをしたのか近道をしたのかは分からないが、その当初の目的である第三王子に手紙の件で訪ねるという目的を達成した……。


▼スキル一覧

【輪廻の勇者】:不明。勇者によって効果は異なる。

【物理耐性】:物理的な悪影響を受けにくくなる

【精神耐性】:精神的な悪影響を受けにくくなる

【時間耐性】:時間による悪影響を受けにくくなる

【異常耐性】:あらゆる状態異常にかかりにくくなる

【五感強化】:五感で得られる情報の質が高まる

【知力強化】:様々な知的能力が上昇する

【身体強化】:様々な身体能力が上昇する

【成長強化】:あらゆる力が成長しやすくなる

【短剣術(基礎)】短剣系統の武器を上手く扱える

【剣術(基礎)】:剣系統の武器を上手く扱える

【大剣術(基礎)】:大剣系統の武器を上手く扱える

【戦斧術(基礎)】:戦斧系統の武器を上手く扱える

【槍術(基礎)】:槍系統の武器を上手く扱える

【短棒術(基礎)】:短棒系統の武器を上手く扱える

【棍棒術(基礎)】:棍棒系統の武器を上手く扱える

【杖術(基礎)】:杖系統の武器を上手く扱える

【戦鎚術(基礎)】:戦鎚系統の武器を上手く扱える

【鎌術(基礎)】:鎌系統の武器を上手く扱える

【体術】:自分の身体を高い技術で意のままに扱える

【弓術(基礎)】:弓系統の武器を上手く扱える

【投擲】:投擲系統の武器を高い技術で意のままに扱える

【実力制御】:自分が発揮する力を思い通りに制御できる

【薬術】:薬や毒の効果を最大限に発揮できる

【医術】:医療行為の効果を最大限に発揮できる

【家事】:家事に関わる行動の効果を最大限に発揮できる

【サバイバル】:過酷な環境で生き残る力を最大限に発揮することができる

【解体】:物を解体して無駄なく素材を獲得できる

【収穫】:作物を的確に素早く収穫することができる

【伐採】:木を的確に素早く伐採することができる

【石工】:石の加工を高い技術で行うことができる

【木工】:木の加工を高い技術で行うことができる

【調合】:複数の材料を使って高い効果の薬や毒を作成できる

【指導術】:相手の成長を促す効率の良い指導が出来る

【コンサルティング】:店や組織の成長を促す効率の良い助言ができる

【鑑定・計測】:視界に収めたもののより詳しい情報を引き出す

【マップ探知】:マップ上に自身に感知可能な情報を出す

【万能感知】:物体や魔力などの状態を詳細に感知できる

【人族共通語】:人族共通語で読み書き、会話することができる

【人族古代語】:人族古代語で読み書き、会話することができる



▼称号一覧

【連打を極めし者】

【全てを試みる者】

【世界の理を探究する者】

【動かざる者】

【躊躇いの無い者】

【非道なる者】

【常軌を逸した者】

【仲間を陥れる者】

【仲間を欺く者】

【森林を破壊する者】

【生物を恐怖させる者】


▼アイテム一覧

〈1~4人用テント×9ずつ〉〈冒険道具セット×9〉〈キャンプ道具セット×9〉

〈調理道具セット×9〉〈登山道具セット×9〉〈その他雑貨×9〉

〈着火魔道具×9〉〈方位魔針×9〉〈魔法のランタン×9〉

〈水×60,000〉〈枯れ枝×1,000〉〈小石×1,800〉〈倒木×20〉

〈パン・穀類・芋・豆・種実・果実・野菜など大量の食材×972日分〉

〈砂糖、塩、魚醤、ワイン、ビネガー、胡椒、唐辛子、山椒、生姜、胡麻、ニンニク、ナツメグ、クローブ、シナモン、クミン、コリアンダー、ウコンなど大量の調味料×942日分〉

〈獣生肉(下)×1750〉〈獣生肉(中)×870〉〈獣生肉(上)×992〉〈鶏生肉×246〉

〈獣の骨×747〉〈獣の爪×250〉〈獣の牙×250〉〈羽毛×50〉〈魔石(極小)×90〉

〈獣肉のベーコン×20日分〉〈スライムの粘液×600〉

〈棍棒×300〉〈ナイフ×1〉〈シミター×2〉〈短剣×3〉〈剣×3〉〈大剣×3〉

〈戦斧×3〉〈槍×3〉〈メイス×3〉〈杖×3〉〈戦鎚×3〉〈弓×3〉〈矢筒×3〉〈矢×0〉

〈魔法鞄×4〉〈風のブーツ×4〉〈治癒のアミュレット×4〉〈集音のイヤーカフ×4〉

〈水のブレスレット×4〉〈着替え×10〉〈ボロ皮鎧×1〉〈革鎧×1〉〈チェインメイル×1〉〈鋼の鎧×1〉〈バックラー×1〉〈鋼の盾×1〉

〈金貨×75〉〈大銀貨×7〉〈銀貨×4〉〈大銅貨×4〉〈銅貨×9〉

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