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第三十七話 王都で検証 その一

 

 商業都市アルダートンの冒険者ギルド……その一番奥にある、Fランク冒険者ならあまりお世話にならないであろうギルド長室に隣接する応接室で、自分とグリィ殿は訳も分からないままソファーに腰かけていて、机を挟んだ向かい側には腕を組んだギルド長が座り、その斜め後ろには総合受付のミュリエル殿が秘書のように控えている……。


 自分たちがソファーに座った時、別のギルド職員がお茶を出していたので、こうしてミュリエル殿を見る限りそれっぽい雰囲気でかなり似合ってはいるが、別に彼女がギルド長の秘書をやっているというわけではないのだろう。


 初めて会ったギルド長はクセ毛らしいブラウンの髪と髭をそれによって顔が大きく見え威圧感が増す程度に伸ばしていて、雰囲気を見ると齢四十は超えていそうでありながら、元冒険者だったりするのか、重い武器を軽々振るえそうな筋肉と、幾千もの戦いを潜り抜けてきた戦士の眼光を持っていた。


 そんな普通のFランク冒険者なら畏縮してしまいそうな迫力あるオーラを纏った彼の前に何故自分が座っているのかと言うと、いつものようにジョギングなどの日課を終えて、グリィ殿と宿屋〈旅鳥の止まり木〉の安い朝食を食べていた時に、慌ただしく宿の扉を開けて入って来た冒険者ギルドの職員らしい男性によって連行されたからだ。


 そのギルド職員から優先度Sランクの呼び出しだと言われても自分にはどれほど重要なのかさっぱり分からなかったが、味気ないオートミールをスプーンで口に運ぶ寸前で暫く固まっていたグリィ殿が顔を青ざめさせながら、他の全ての予定を無視して応えなければならない貴族や王族に関わる用件での呼び出しだと説明してくれる。


 せっかくの機会であるし、そういうことであれば自分としてはその最上級の呼び出しとやらを無視する検証をするべきだなと思い食事を続けようとしたのだが、ご飯のためならば魔王とさえ戦いそうなグリィ殿が食事を中断して自分をせかしたので、これはゲームの仕様上絶対に無視できない強制イベントなのだと理解して宿を出た。


 冒険者ギルドに着いたら着いたで、待ち構えていた既に鬼の角が見え隠れするミュリエル殿にスキップできないムービー並みの強制力で建物の奥に連行され、詳しい説明が何もないままこの部屋に通されて、現在に至るというわけだ。


「まずは自己紹介をさせてもらおう……俺はこの冒険者ギルドアルダートン支部のギルド長をやっているラモンだ」


「うむ、はじめましてラモン殿、自分はFランク冒険者のオース、そしてこっちが同じくFランク冒険者で自分のパーティーメンバーであるグリィ殿だ……それで、自分たちは一体なぜ呼び出されたのだろうか」


「その事だがな……ミュリエル」


「はい」


 ギルド長のラモン殿に声をかけられこちらの方へ近づいてきたミュリエル殿は、テーブルの自分の目の前あたりに一通の封筒を置いた……おそらく手紙か何かが入っているのだろう封筒の開封部には封蝋印が押されており、その印は今日これから行こうとしていた教会にある国に関する本の中で見たことがあるような気がするものだった。


 手に取ろうとしてから、念のため触れてもいいかギルド長とミュリエル殿に視線を送る事で確認して、頷いたのを見届けてから封筒をよく確認すると、記載されている差出人がジェラード王国第三騎士団団長ヴェルンヘル・ジェラードとなっていたので、おそらく印はこの国の紋章か何かだという予測は合っているだろう。


 しかし、気になるのは宛名で、自分宛の手紙であればただ単にオースと書けば済むであろうそこには『今はオースと呼ばれる者』と書かれていた……。


 それを見て自分がパッと思いついたのは大須啓太という元の世界での名前を知る人物からの手紙だったが、この国の第三騎士団団長であり第三王子でもあるヴェルンヘル・ジェラードという人物にはゴブリン掃討作戦で出会っているものの、自分の作ったスープを珍しそうに飲んでいた彼にそんな素振りは見られなかったと記憶している。


「ふむ……」


「ここに呼び出したのは、まずはギルドに預けられたその手紙をヌシに渡すことと、それがこのギルドに関わる内容であればそれを伝えてもらうためだ……貴族から手紙を預かることは多々あるが、王族となるとその数は少なく、さらにそれがFランク冒険者に宛てられたものとなると皆無と言ってもいい……一体どんな内容なのか、もし他言無用の案件でなければ私に話して欲しい」


 状況の読めない中でさらに謎を深める物を渡された自分が想定できる限りの現状を色々と推測して首をひねっていると、ギルド長から急かすようにそんな言葉を言い渡される。


 確かに、これが王国から個人を指定した冒険者への依頼だったらば、その作法などを叩き込む必要があるだろうし、冒険者として活動した何かが王族の逆鱗に触れていたということであれば、自分だけでなくギルドからも何らかの謝罪をしなければならないだろう。


「もしかして、ゴブリン掃討作戦で食べさせたスープで王子が腹痛を起こしたとかじゃないっすか……?」


「ブフゥーッ……けほっ、けほっ……おい、オースと言ったか、お主、王族に食べ物を振舞ったのか?」


「うむ、あの時は彼が王子だなんて知らなかったからな……というかあのスープはグリィ殿やフランツ殿も食べたが別に問題なかっただろう?」


「そりゃあ私たちは平気だったっすけど、色々なものを食べ慣れている冒険者と、普段は高級な料理ばかり食べている王族の胃は違うっすからねぇ……まぁ、あの人は多分そんなことは無いっすけど……」


「いや、問題はそこじゃない……王子が平民の作った料理を口にしたこと自体が問題だ……もし王子がその後に腹痛を起こしたら本当の原因が別にあったとしても平民の料理のせいにされかねないぞ……というか、低ランクの内は貴族や王族と関わるなと教えられなかったか?」


「ふむ、Fランクに上がる時にフランツ殿からは事前に教えられていたし、試験でその問題も出ていたな……しかし、あの時はかなり軽い言葉遣いで、距離感も近く声をかけられたもので、身なりがいいのは認識していたが、よくて普通の騎士だろうと思ったのだ」


「騎士でも貴族様だ、教えは変わらんだろう」


「うむ、その通り教えられた条件的には騎士も王族も変わらない……だからその時に相手が王族だと分かっていたとしても喜んでスープを振舞っていただろう」


「……お主、話を聞いていたか?」


「はぁ……」


 ミュリエル殿がこのやり取りを聞いてため息をつく中、そのグリィ殿の気づきが切っ掛けで明らかになったスープ事件のようなことを二度と起こさないようにとギルド長から直々に厳重注意され、ついでに後でもう一度下位冒険者のルールをミュリエル殿から聞いておくように言い渡された。


 指導役に選ばれたその本人は、ギルド長の斜め後ろに戻ってその会話を聞きながら、何か言いたそうな顔で角を生やして睨むようにこちらを見ていたが、ここで説教を始めると話が進まなくなるという抑制が働いているのかそれ以上は何も言ってこない……その分後できっとかなり長い時間正座させられるのだろう……。


 後の事を考えると少し憂鬱だったが、これ以上憶測で話したり関係のないことでいちいち注意を受けていても仕方がない……自分は周りから促されるように封筒を開け、中に折りたたまれて入っていた手紙を読んだ。


「ふむ……」


「で、どうだ? ギルドに関わりそうな内容か?」


「うーむ、いや、用件はさっぱり分からないが、おそらく冒険者ギルドに関わるものではないだろう」


 数行程度の短い文章しか書かれていなかった手紙に目を通した自分は、他人が見ても問題なさそうだったのでそう言いながらギルド長にそれを渡した。


 そこには『この手紙を受け取り次第、この手紙を持って一人で王城を訪ね、私に面会を求めよ』とだけ文章が書かれており、他には差出人である第三王子の名前と、これを開けた際に砕けてしまった封蝋と同じ印が押してあるのみ……。


 何の用で呼ばれているのかは書かれていないが、『一人で』ということは、パーティーメンバーは関係ないということで、それは冒険者としての自分ではなく個人的な呼び出しであり、冒険者ギルドが関わる内容ではないということなのだろう。


「なるほど、断定はできないが、確かにギルドに関係のない個人を指定した召喚状のように見えるな……」


「オースさん……私が知らないところで一体何をやらかしたんすか……」


「いや、本当に全く身に覚えが……」


 ここまでのイベントの強制力を考えると、今までのゲームデバッグ経験上、おそらくこれはメインストーリーなど大きな物語の流れに関わるクエストラインの発生ということで間違いないだろう……。


 ゲーム内経過時間が条件で自然発生したものなのか、知らぬ間に複数の条件を満たしていてアルダートンに帰って来たのを引き金に発生したのかは分からないが、パーティーメンバーの強制脱退が含まれることを考慮しても、ここから暫くは今までとは別の流れの大きなストーリーを追っていくことになりそうだ……。


 今まで辿ってきた道にイベント発生条件があるとすれば……一番可能性が高いのは、やはり差出人のヴェルンヘル第三王子も関わっていたゴブリン掃討作戦のクエストクリアだろう……実はずっと気になっていて後で検証しようと思っていた地下遺跡の事もあるし、もしかしたらあの場所を活動の中心地とするイベントかもしれない。


 他にも色々と気になることがあるが、今の状況で一番近いと思うのはそれ以外に考えられない……まぁ、時間経過での自然発生だとしたら今まで触れた出来事とは全く関係のない新しいイベントという可能性もあるが。


「やっぱりスープの件っすかね……」


「ミュリエル、この冒険者に王族を相手にした時の謝罪作法を教えてやっておいてくれ」


「承知しました、ついでに断頭台に進む際の作法も教えておきましょう」


「いや、ラモン殿、ミュリエル殿……とりあえず面会手続きや謁見時の作法を教えてくれないだろうか……」


 そうして自分はミュリエル殿から王城で行う面会などの手続き方法や、謁見の間、応接室それぞれの場所での動き方……ついでに謝罪や刑執行の作法を教えられてから解放され、その日のうちに馬車で王都に向かわされることになった。


 明日出発でもいいだろうとか、徒歩でのんびり道中の景色を楽しみながら行ってもいいだろうとか、そういった口をはさむ間もなく急ぎの馬車を手配されてしまったので、仕方なくミュリエル殿の小言や礼儀作法の復習を右から左に受け流し、「くれぐれも王都で問題を起こさないように」という忠告に「善処する」と返して馬車に乗り込んだ。


 街を出発して北へと向かう馬車……麦が収穫されて耕された茶色の地面が広がっているウィートカーペット村までは行ったことがあるが、そこから先はまだ行ったことのない場所……そしてその向こうにある王都は商業都市アルダートン以外で初めて訪れる大きな街。


「ふむ……なるほど……よし」


「今はお金もあるし、あの時できなかった門の強行突破なども検証してみよう」


 自分は馬車に揺られながら遠くに見え始めた大きな城塞を眺めると、これから王都で行うの検証のスケジュールを立て始めた……。


▼スキル一覧

【輪廻の勇者】:不明。勇者によって効果は異なる。

【物理耐性】:物理的な悪影響を受けにくくなる

【精神耐性】:精神的な悪影響を受けにくくなる

【時間耐性】:時間による悪影響を受けにくくなる

【異常耐性】:あらゆる状態異常にかかりにくくなる

【五感強化】:五感で得られる情報の質が高まる

【知力強化】:様々な知的能力が上昇する

【身体強化】:様々な身体能力が上昇する

【成長強化】:あらゆる力が成長しやすくなる

【短剣術(基礎)】短剣系統の武器を上手く扱える

【剣術(基礎)】:剣系統の武器を上手く扱える

【大剣術(基礎)】:大剣系統の武器を上手く扱える

【戦斧術(基礎)】:戦斧系統の武器を上手く扱える

【槍術(基礎)】:槍系統の武器を上手く扱える

【短棒術(基礎)】:短棒系統の武器を上手く扱える

【棍棒術(基礎)】:棍棒系統の武器を上手く扱える

【杖術(基礎)】:杖系統の武器を上手く扱える

【戦鎚術(基礎)】:戦鎚系統の武器を上手く扱える

【鎌術(基礎)】:鎌系統の武器を上手く扱える

【体術】:自分の身体を高い技術で意のままに扱える

【弓術(基礎)】:弓系統の武器を上手く扱える

【投擲】:投擲系統の武器を高い技術で意のままに扱える

【実力制御】:自分が発揮する力を思い通りに制御できる

【薬術】:薬や毒の効果を最大限に発揮できる

【医術】:医療行為の効果を最大限に発揮できる

【家事】:家事に関わる行動の効果を最大限に発揮できる

【サバイバル】:過酷な環境で生き残る力を最大限に発揮することができる

【解体】:物を解体して無駄なく素材を獲得できる

【収穫】:作物を的確に素早く収穫することができる

【伐採】:木を的確に素早く伐採することができる

【石工】:石の加工を高い技術で行うことができる

【木工】:木の加工を高い技術で行うことができる

【調合】:複数の材料を使って高い効果の薬や毒を作成できる

【指導術】:相手の成長を促す効率の良い指導が出来る

【コンサルティング】:店や組織の成長を促す効率の良い助言ができる

【鑑定・計測】:視界に収めたもののより詳しい情報を引き出す

【マップ探知】:マップ上に自身に感知可能な情報を出す

【万能感知】:物体や魔力などの状態を詳細に感知できる

【人族共通語】:人族共通語で読み書き、会話することができる

【人族古代語】:人族古代語で読み書き、会話することができる



▼称号一覧

【連打を極めし者】

【全てを試みる者】

【世界の理を探究する者】

【動かざる者】

【躊躇いの無い者】

【非道なる者】

【常軌を逸した者】

【仲間を陥れる者】

【仲間を欺く者】

【森林を破壊する者】

【生物を恐怖させる者】


▼アイテム一覧

〈1~4人用テント×9ずつ〉〈冒険道具セット×9〉〈キャンプ道具セット×9〉

〈調理道具セット×9〉〈登山道具セット×9〉〈その他雑貨×9〉

〈着火魔道具×9〉〈方位魔針×9〉〈魔法のランタン×9〉

〈水×60,000〉〈枯れ枝×1,000〉〈小石×1,800〉〈倒木×20〉

〈パン・穀類・芋・豆・種実・果実・野菜など大量の食材×972日分〉

〈砂糖、塩、魚醤、ワイン、ビネガー、胡椒、唐辛子、山椒、生姜、胡麻、ニンニク、ナツメグ、クローブ、シナモン、クミン、コリアンダー、ウコンなど大量の調味料×942日分〉

〈獣生肉(下)×1750〉〈獣生肉(中)×870〉〈獣生肉(上)×992〉〈鶏生肉×246〉

〈獣の骨×747〉〈獣の爪×250〉〈獣の牙×250〉〈羽毛×50〉〈魔石(極小)×90〉

〈獣肉のベーコン×20日分〉〈スライムの粘液×600〉

〈棍棒×300〉〈ナイフ×1〉〈シミター×2〉〈短剣×3〉〈剣×3〉〈大剣×3〉

〈戦斧×3〉〈槍×3〉〈メイス×3〉〈杖×3〉〈戦鎚×3〉〈弓×3〉〈矢筒×3〉〈矢×0〉

〈魔法鞄×4〉〈風のブーツ×4〉〈治癒のアミュレット×4〉〈集音のイヤーカフ×4〉

〈水のブレスレット×4〉〈着替え×10〉〈ボロ皮鎧×1〉〈革鎧×1〉〈チェインメイル×1〉〈鋼の鎧×1〉〈バックラー×1〉〈鋼の盾×1〉

〈金貨×78〉〈大銀貨×7〉〈銀貨×4〉〈大銅貨×4〉〈銅貨×9〉

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