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挿話 ウェッバー村でのお話

本編と関係なくはないですが、主人公ではない人から見たお話です。

 商業都市アルダートンから東に一日ほど歩いた場所にあるウェッバー村。


 馬での移動なら通り過ぎるような、あえて立ち寄るような見どころも特産品も無い小さな村で、竜の休息地にドラゴンが訪れたら近くの街に知らせるという大事な役目を背負わされている代わりに、唯一国から税金を免除されていたりする。


 ドラゴンの縄張りに近いためか狂暴な獣や強い魔物も出ないので、こちらから危険に近づかなければ至って平和な村なのだが、周りの街の住人はそれを聞いても竜の休息地のすぐ近くという立地とその役目から生贄村と呼んで忌み嫌う者が殆どだ。


「ふぅ……少し街を出るのが遅かったか……おいお前ら、ここの村で休んでいくぞ」


「えぇー、団長、ここって生贄村じゃないっすかぁ……夜でも門番に言えば通してくれるだろうし、このままアルダートンに向かいましょうよぉ……」


「おい! 曲がりなりにも国の紋章を背負った騎士団が、立派な役割を担ってくれている村をそんな呼び方するんじゃねぇ! それに俺たちは今王直々の命令で国の重大な任務で行動してるんだ、普段ならともかくそんな時に自らルールを破ったらカッコ悪いだろ?」


「へいへい、すいやせんでしたー」


 夕日が沈み、辺りがオレンジ色から深い藍色に変わっていくその村に、王国騎士団の旗を背負い、騎士のような鎧を身につけ、立派な馬に乗って現れた集団がいた……。


 彼らは言葉遣いこそ貴族や騎士らしからぬそれだが、統率の取れた動きも、鍛え上げられた肉体も、いくつもの戦場を切り抜けたであろうその眼光も含め、その見た目は立派な騎士のようであり、事実、ジェラード王国第三騎士団の第一部隊である。


「と言っても、俺も携帯食よりましとはいえ飯が不味いからこういう小さな村にはなるべく泊まりたくないんだけどなぁー……あー、どうして俺の騎士団は不器用でガサツな男ばっかりで、まともに料理できるやつがいないんかねぇー……」


「殿下! 先ほど部下の言動を叱った時は見直しましたというのに、ご自身が村の料理が不味いなどと不平を言っていたら示しがつかないではありませんか! 殿下がそんなことだから付いてくる者も粗暴な物ばかりなのですぞ!」


「だってよぉー、この間の冒険者が食ってたスープは外の飯だってのにそれなりにうまかったじゃねぇか……うちも料理が出来るやつ雇おうぜー?」


「そんなものは必要ありません! 安全面を考えても効率を考えても、キャンプ地での食事は携帯食が一番いいに決まっております! だいたいあの時も……」


「あーはいはい、毒見も無しに人の作ったもの食って悪かったよー……もう分かったから爺は村長のところに挨拶にでも行ってきてくれ」


「はぁ……承知いたしました」


 騎士団の先頭で一番立派な鎧を身に着けた、ジェラード王国の第三王子であり、第三騎士団の騎士団長でもあるヴェルンヘル・ジェラードは、爺と呼ぶ付き人と共に馬を下りると、その年配の付き人の小言を煙たそうに払って村長のところへ向かわせた。


 村の住民はそんな見た目も言動も偉そうな集団がぞろぞろと入ってくるのを見て面倒ごとに巻き込まれないようにと子供を連れて家に引っ込むものが殆どで、農作業などの途中だったものは逃げるに逃げられずといった様子でその場で頭を下げたまま固まっている。


「あー……作業を続けていいぞー」


 そんな村人の様子を見たヴェルンヘルが面倒くさそうにその村人たちに声をかけると、住人たちはホッとした様子で農作業を再開した。


 おそらくこの村人たちの反応は普通でいつもの事なのだろう……ヴェルンヘルは「またか」とため息をつきそうな雰囲気ではあったが、それ以外は特に気にした様子もなく、後ろでガヤガヤと談笑している騎士団のメンバーもそのまま雑談を続けている。


 王子が目の前にいながら勝手に談笑をしているのもどうかと思うが、それもいつものことなのかヴェルンヘルは特に注意することなく「やれやれ」と肩をすくめるだけで、村の奥から老人を連れてこちらに戻って来た付き人の方へと視線を向けた。


「これはこれは騎士団長さま、お会いできて光栄ですじゃ……わしがウェッバー村で村長をやらせてもらっとります……すぐに食事と部屋の用意をさせますでの、ちと狭いかもしれんが、わしの家におこし下せぇ」


「おうっ、案内してくれ」


 比較的王都に近い位置ではあるものの、誰もが早く通り過ぎたいと思う小さな村では、貴族はもちろん、王族と話す機会などめったにないのだろう……老人の敬語は村長という立場にしては少したどたどしかったが、ヴェルンヘルにそれを気にする様子はない。


 それどころか彼自身もくだけた言葉を使って返しているため、その付き人である爺は両者の言葉遣いどちらに対してもしかめっ面をしていたが、村長はそれに気づかずホッとした様子で道すがらさらに話をつづける。


「それで、この村にはどういったご用件でいらしたんですかのぅ……? 申し訳ないんじゃが、この村には武器どころか兵糧に渡せそうな食料も少ないんですじゃ……」


「あー違う違う、別にそういうんじゃねぇよ、探し物の帰りにちょっと寄っただけだ」


「探し物……ですかな?」


「あぁ、何でも帝国の第三王子が行方不明だとかで……」


「殿下!!」


「あ……あー……まぁ、行商人の間でも噂になってるらしいしいいじゃねぇか」


「よくありません!」


 どうやらヴェルンヘルの言いかけた探し物の内容は国の秘密だったらしく、爺は呆れた様子で頭を押さえながらため息をつくが、当の王子は反省した様子もなくあっけらかんとした態度で村長と会話を続けた。


「まぁ、それが誰かは置いといて、なんか立派な身なりの少年を見かけたら第三騎士団に知らせを……」


 きっと、こんな小さな村で何を話したって特に得るものも失うものも無いだろうと、そんな風に思っていたのだろう……。


「もしや、探しているのは黒髪で黒目の十五歳くらいの少年だったりせんかのぅ?」


「!? ……じいさん、知ってるのか!!」


 しかし、村長は話していないその探し人の特徴を見事に言い当てたようで、今までのんきで不真面目そうな態度をとっていたヴェルンヘルは目を見開き、その付き人も驚いた様子で村長の方を見つめた。


「あ、いや……そ、そんな噂を聞いただけですじゃ……」


「そんなはずなかろう! 容姿までは噂になっていないと調査済みだ! ウェッバー村の村長! 隠し立てすると反逆罪で……」


 村長はハッとした様子ですぐにごまかそうとしたが、ヴェルンヘルの付き人がそんな村長に掴みかかって怒鳴りつける……国境付近の街まで行っても情報が得られないまま帰ることになった焦りがそうさせるのか今にも斬りかかりそうな剣幕だ。


「待て待て爺……とりあえず詳しいことはじいさんの家で聞こうぜ?」


 ヴェルンヘルはいつものんきだが、それはどんなに驚くようなことがあっても我を失わずに行動できるということ……王からの使命の事となると熱くなってしまうらしい付き人をなだめると、青ざめた顔で冷や汗を浮かべる村長を解放させてやる。


 そして、何が何でも絶対に吐かせて任務を達成するというような熱意が感じられる爺を連れて、どうしようかと困った様子で肩を落としながら家への案内を再会する村長に続いて村の奥の平屋に向かい、そこでその黒髪の少年の事を詳しく聞くことになった……。


※2020/08/06 誤字修正。

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