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第二百六十七話 Eランク依頼で検証 その一

 

「よし、全員揃ったな」


「……」


 ジェラード王国、王都、冒険者ギルド。


 自分はその日、検証チームの数人を集めてその場所を訪れていた。


「何をするのか聞かされないまま集められるのはいつものことなんで、それはもういいっすけど……なんかまた一人見ない顔が増えてるっすね?」


 グリィ殿がそういって視線を向けた先には、今日も冒険者としては少し小綺麗な恰好をしている学校の後輩、シェラミー殿が不安そうに立っている。


 あれからも律儀にリヤ殿の冒険者活動を手伝ってくれているようなので、今日はそのまま我が検証チーム、もとい冒険者パーティーに加え入れようと連れてきたのだ。


「あ、あの……えっと……私も、よく分からないままオース先輩に連れてこられただけで……何が何だか……」


「大丈夫だよシェラミー。グリィさんは冒険者学科二年生で、ぼくたちと同じオースのよく分からない行動の被害者だから。まぁ、その隣りにいる人は、ぼくも初めましてなんだけど、同じくオースの冒険者パーティーの人かな?」


 グリィ殿を含め、冒険者パーティーメンバーの殆どと挨拶を済ませているリヤ殿が、慌てふためいているシェラミー殿に状況を説明してくれる。


 だが、グリィ殿の隣に立っている人物は顔合わせの日に挨拶に来なかった人物なので、どんな対応をとったらいいのか判断しかねているようだ。


「……」


 先ほどから無言でこちらを睨みつけているその人物は、シェラミー殿よりも戦闘に適した服装ではあるものの、その装備の上品さや高価さは彼女以上かもしれない。


 しかし上級貴族によくある、見た目だけ立派な成金装備というわけでもなく、きちんと実用性も兼ね備えており、よく使い込まれていて、手入れもされている。


「ヴィーコがオースさんの招集に応じるなんて珍しいっすね」


「ふんっ、冒険者ランクの昇格を目指すと聞いたからな、ボクもEランクまで上げてからずっと放置していたので、今回は自身にも利があることだと判断しただけだ」


「あれ? オースさん、ヴィーコには何をやるか説明してたんすね」


「うむ。仕方なくな」


「説明されていなければボクはここにいない」


 自分が今回集めたのは、グリィ殿、ヴィーコ殿、リヤ殿、シェラミー殿の四人。


 ヴィーコ殿の言う通り、彼だけは何のための招集なのか説明しないと行かないと言って聞かなかったので、仕方なく事前に説明を済ませている。


 その目的は、彼が言ってくれたように、EランクからDランクへの冒険者ランク昇格。


 リヤ殿がシェラミー殿に手伝ってもらってFランクからEランクへの昇格を目指し始めてから、おおよそ一か月ほど経っただろうか。

 彼女たちは無事に貢献ポイントを貯めて、昇格試験を一発で突破し、晴れてEランク冒険者になれたらしい。


 そして、自分がその知らせを聞いたのと、他の用事でまた魔物狩りが必要になったことが重なったので、どうせなら一緒にEランクの依頼をこなして、自分もついでにDランクへの昇格を目指してしまおうと思った次第だ。


「それなら、アーリーさん達も誘ってもよかったんじゃないっすか?」


「いや、今来てない四人は研究で少々忙しくてな。一緒に行動する暇も材料を取りに行く暇もないので、むしろ魔物を狩って代わりに材料を集めてきてくれと頼まれている」


「なるほど」


 アーリー殿たちが今研究で欲しているのは、ゴーレム作成に必要な特殊素材の材料。


 まぁ必要な材料と言っても、目指している素材がどんな材料で作成できるのか分からないので、何でもかんでも、とにかく大量に色々な種類の材料を集めろと言われている。


 自分が建てた秘密の工房で、アーリー殿たちに古代のゴーレムのパーツとして使われていた魔法金属の作製を頼んだ後、一緒に学校の図書館や専門の書店などを巡って魔法金属に関する情報を集めたのだが、結局それらの作り方に関する情報は出てこなかった。


 前に王城の地下に侵入した時、複雑な魔法障壁で閉ざされている区画などがあったので、そういった進入禁止エリアに関連書物が納められているのかもしれないが、すぐに手が届く範囲には無いということで、いったん自分たちだけで色々と試してみようということになっている。


 作りたいものが金属ということで十中八九必要な材料となるであろう通常の鉱石や宝石の類に関しては、ジェラード王国よりもグラヴィーナ帝国の方が採掘業が盛んということで、実家経由で帝国の様々な鉱山から買い集めている。


 だが、鉱石以外に同じくらい大量に必要な材料であり、錬金炉を動かすための動力にもなる〈魔石〉はそう簡単には手に入らない。


 一定以上の強さを持つ魔物を倒して入手するしかないそれは、魔物を倒した冒険者たちが冒険者ギルドに売り払った後、雑貨屋などに陳列されるような物ではない。


 純粋に錬金素材として使用頻度が高く、錬金炉を動かすための燃料としても使われるということで、大抵は国中の錬金術師が冒険者ギルドから直接買い占めているのだ。


 冒険者になりたての頃、たくさんの冒険者と共に大量のゴブリンを倒した際に、他の冒険者たちが倒した分まで魔石を回収していたので、いったんはそれを渡してやりくりしてもらっているが、それではまだ全然足りないらしい。


 なので今回の目的は、討伐系の依頼を大量に受けてDランク昇格試験を受けるために必要な貢献ポイントを稼ぎつつ、討伐した魔物から剥ぎ取った魔石をギルドに卸さずに、アーリー殿たちの元へ届けようというものだ。


「というわけで、自分はさっそく討伐依頼をたくさん受けてくるから、ヴィーコ殿はその間に自己紹介を済ませておいてくれ」


「はぁ……メンバーの自己紹介まで丸投げとは、冒険者パーティーのリーダーが聞いて呆れるな」


 そして自分はそんなヴィーコ殿のボヤキを背中に受けながら、冒険者へ向けた依頼が張り出されている掲示板へと向かった。


 とりあえずまとめて受けられそうな討伐依頼は全て受けるとして、昇格に必要な貢献ポイントを効率良く得るために採取系の依頼もいくつか受けておくとしよう。



 ♢ ♢ ♢



「よし、到着だ。ここが今回の狩場である」


 王都の冒険者ギルドで大量の依頼を受注した午後、屋敷でメンテナンスをしてもらっていた馬車に皆を乗せて、王都の南にあるウィートカーペットで昼休憩を挟んだ後に、その西にある森へとやってきた。


 その森は竜の休息地に隣接するジェラード大森林と違って人の往来が頻繁にあるので、獣道よりも歩きやすい程度の道が出来ていたりする。


 そしてその道を進んだ先、森の向こう側には、雲にまで届く高い山々が、左右に、どこまでも長く、ここは絶対に通さないぞという意思さえ感じる壁のように連なっていた。


「今日は竜の休息地じゃないんすね? というか、何だか見覚えがあるような……」


「うむ。ここはグレートウォール山脈の麓で、このあたりはゴブリン掃討作戦の時にも、遺跡調査をする時にも通った場所だな」


 グリィ殿が気づいたように、ここは自分たちが初めてフランツ殿など他の冒険者パーティーと組んで緊急の集団クエストを検証したときに通った場所。

 そして学校の課外授業という名目で、生徒たちがジェラード地下遺跡に匿われることになった時にも通った場所である。


 王国は今も地下遺跡の調査を続けているらしく、このあたりには遺跡の出入り口を見張る騎士が利用する休憩用のテントが設営されている他、安全面を考えてそれが丁度いいと思ったのか、このあたりで達成できる依頼を受けているのであろう冒険者パーティーのテントも立っており、それなりに賑やかな場所になっていた。


「それにしても、騎士団はよく見張り拠点の周辺に冒険者がテントを設営することを許しているな。その冒険者が隙を見て見張りを抜けようとしたり、あるいはテントに保管されている備品などを盗んだりするとは考えないのだろうか?」


「ふんっ、そんなもの離れた場所にテントを建てられたところで同じだろう? ならばいっそのこと最初から近くにいてくれた方が監視しやすいし、緊張感を途切れさせずに済む。それに、拠点が魔物などに襲われた際に、両者で協力し撃退することができるという利点はどちらも同じだからな」


「なるほど、そういうものか。なら……」


「……試しにその監視を突破して騎士団のテントから物を盗み出してやろうなどと考えているようであれば、その前にボクが相手になってやってもいい」


「……いや、遠慮しておこう」


 ヴィーコ殿がどのような場面で検証が必要になるかを理解し始めているのは喜ばしいことだが、彼の場合は昔からその検証の邪魔をしてくる傾向が強いので、その点は困ったところでもあるな。


 同じ検証チームの一員なのだから、自らがあえて障害として立ちはだかることで検証項目を追加しようとするのではなく、既に目の前に見えている検証項目を確認して減らそうとしてくれても良いと思うのだが……。


「それで、今回はどんな依頼を受けてきたの? 前と同じように、ぼくたちはこの森で薬草の採取とか狩りをすればいいのかな?」


 自分がヴィーコ殿の返答に肩を落としていると、リヤ殿がそう声をかけて話を戻してくれた。


 確かに、やること自体はFランクからEランクへの昇格を目指していた時と同じだが、彼女はそれをここにいる他の冒険者のように目の前の森で行うものだと勘違いしているようだな。


「うーむ、半分正解だが、半分ハズレだな」


「? どういうことですか?」


「自分が今回ギルドで受注した依頼は、こんな内容だ」


 ・【D】アルゲン鳥の羽の納品(合計五体分)

 ・【D】ジャッカロープの角の納品(一体分)

 ・【D】黒妖犬の討伐(数指定なし)

 ・【D】カーバンクルの宝石の納品(合計六体分)

 ・【D】強壮草の納品(合計二十四本)

 ・【D】強壮茸の納品(合計十二本)

 ・【D】日溜草の納品(十本)


 同じ条件の依頼はまとめているため、依頼の種類自体はいつもと同程度だが、実際に受けた依頼の数としてはそれなりの数になっている。


 この狩場で遂行できる依頼はあまり人気が無いのか、あちらこちらから発注されている同じ素材の納品依頼がいくつも受注されずに余っていたのだ。


「おい貴様! 同じ場所で達成できるからと言って、何でもかんでも一度に引き受けるなと前から言っているだろう!」


「まぁ良いではないか。達成できないわけではないのだから」


「良くない! というよりも、その考え自体がまずおかしい! 一つの冒険者パーティーが一日でこなせる依頼はせいぜい二つが限度だ。この数はどう考えても今日明日で達成できる数ではない!」


 受注してきた依頼を見せるなりヴィーコ殿がワーワーと喚き始めたので、自分はその言葉を耳を塞ぎ聞き流す。


 確かに、一般的な冒険者パーティーでしっかりと安全マージンを取って順序立てて行動していたら一日にこなせる依頼の量は少ないだろうが、自分たちは戦闘力だけで言えば平均してBランク冒険者程度はある。


 キャンプ時に必要な荷物を運んだり、素材を持って帰るという部分を考えても、多くの冒険者パーティーが背中に大荷物をしょって移動するところを、自分たちの場合は皆が持っている魔法鞄や自分の亜空間倉庫があるので気にしなくていい。


 そういった総合的な力を踏まえれば、別にこの程度の依頼であればそこまで重く考えなくてもいいと思うのだが、ヴィーコ殿は少々神経質な部分があるからな……。


「とりあえず、前にシェラミーが言ってたように、達成できる依頼だけ達成することを目標にするとして。さっき言ってた半分正解だけど半分ハズレって、どういうこと?」


「あぁ、それは、この依頼を遂行する場所のことであるな。この依頼にある素材が取れる殆どの場所は、この森ではなく、その向こう側だ」


「その向こう側……?」


 そう言って自分が指差したリヤ殿の背後、森の先には、天高くそびえる山。


 自分が今回ギルドで引き受けた依頼にある獣や魔物、植物は、森の中ではなく、山を登った先で出会えるものばかりなのだ。


「えっと……依頼達成のためには登山をする必要がある。ということでしょうか……」


「そうだ」


「うげー、これはちょっとやる気が下がる高さっすねぇー……」


 リヤ殿に続いて自分の指さす方向を視線で追ったシェラミー殿やグリィ殿も、その山の迫力を前にして、げんなりとした表情を浮かべる。


 グレートウォール山脈は、王都の西側を守る【大自然の城壁】とも呼ばれている山脈なのだ。ここが登りやすい高さだったり、整備された山だったりしたら、そんな大層な名前で呼ばれないだろう。


「ん? 待て、これらの依頼は全てDランクの依頼として受注したか?」


 そうして皆でどう見ても登山初心者には向いていないであろう山を眺めて、思い思いの反応をしていると、渡した依頼書を一枚一枚読み込んでいたヴィーコ殿がふと顔を上げてそんな疑問を投げかけてきた。


「もちろんだ。今回共に行動するパーティーは全員Eランク冒険者なのだから、受注できるパーティー内で一番低いランクから見て一つ上のランクまで。ポイント効率を考えるなら受注可能な最高ランク、Dランク依頼に焦点を当てるのは当然だろう?」


「何か変な依頼でもあったっすか?」


「どの依頼書を見ても、Dランクと書いてありますね」


「受注可能な依頼だとしても、数日前にEランクに上がったばっかりのぼくやシェラミーがDランク依頼を大量に受けるのは心配っていう話?」


 シェラミー殿やリヤ殿の言い分は置いておいて、依頼は遂行メンバーの中で一番低いランクから見て一つ上のランクまでしか受注できないという規約は、冒険者登録をする時にも説明されるし、昇格試験でも出題される内容なので間違いない。


 実際にその枠を超えた二つ以上ランクが上の依頼を受注しようとして、きちんと却下されるという検証結果も確かめているしな。


 一応、依頼を受注せずに上位ランクの依頼として張り出されている討伐依頼などを勝手にこなすことは出来なくもないが、その場合、ギルドでその討伐した獣や魔物の素材を売ることは可能だが、依頼達成扱いにはならないということも検証済みだ。


 逆に自分の冒険者ランク以下の依頼であれば引き続き受注することは可能ということになるが、ランク昇格に必要なポイントを稼ぐためには高いランクを受けた方がいいということなので、目標に設定するのは受注できる最高ランクだけでいいだろう。


 道中でついでに採取できそうな薬草や、討伐できそうな魔物は、必須ではないサブ目標として収集して、ギルドで売るときに依頼として卸せそうな物だけそう処理すればいい。


「はぁ……だったら、この依頼は職員のミスだな。本来であればこれはCランク依頼として扱われる依頼が混じっている」


 だが、どうやらヴィーコ殿が問題として焦点を当てていたのは、自分が受注した依頼がおかしいというようなことではなく、依頼書の中に本来のランクとは異なるランクで扱われている依頼があったということらしい。


 彼はため息をつくと、依頼書のうちの一枚を自分に差し出してきた。


「黒妖犬の討伐? その個体数が増えたのか生息地である山脈から降りて活動範囲を広げる個体が出てきているので、安全のために間引きをするというよくある依頼だな。たしか、黒妖犬という魔物はDランク指定の魔物であったし、特に問題ないと思うが?」


「そうですね、私がリヤさんと貢献ポイントを集めていた時にも、そういった人に害を及ぼす魔物の間引き依頼はよく見かけた気がします」


「まぁ、ぼくたちがやったのは、畑を荒らすイノシシの討伐とかだけどね」


 魔物は通常の動物よりも狂暴ではあるが、彼らも他の生き物と同様、食物連鎖の巡りにとっては重要な生き物だ。


 特定の種族を完全に絶滅させてしまうと生態系が崩れ、森林破壊や水害に繋がる危険も出てきて、巡り巡って人間が不利益を講じる可能性がある。


 なので素材の採取が目的ではない純粋な討伐依頼は、その生き物の個体数が増えてその生息地が拡大して来たり、人間が育てている作物が荒らされたりといった時に発行されるのがよくあるパターンだ。


 そしてその依頼を発行するときに重要視されるのが獣や魔物自体の強さ、討伐の難しさを分類したランクで、前に魔物のランクが書かれた本を読んだとき、黒妖犬はそのランク付けでDランクと書かれていたはずだが……。


「ふんっ、貴様にしてはよく勉強しているようだが、残念ながらそれは古い情報だ。黒妖犬は確かに、純粋な戦闘力としては他のDランクの生き物と同等だが、最近、そいつがいる場所と活動する時間帯が考慮されてCランクに昇格している。というか、ボクの家がそう決めた」


「む? ヴィーコ殿の家が?」


「あー、そういえばヴィーコの家って、そういうの決めたりする家だったっすね」


「そうだ。カルボーニ公爵家は魔物を討伐して国土を広げていく開拓省を取り仕切っている大臣の家系だからな。最前線の開拓地で活躍している冒険者たちからの声を聴いて、冒険者ギルドと共に規定の改善をする仕事もしている」


「ふむ、そうだったのか。だがそれで、黒妖犬は何故Cランクに昇格させたのだ?」


 まだ直接対峙したことは無いが、図鑑によると、黒妖犬は黒い狼のような姿で、炎の魔法を操るらしい。


 だが魔法を扱うと言っても、魔法中心の戦闘スタイルというわけではなく、近接戦闘中の攻撃時や回避時に目くらましとして一瞬だけ炎を立ち上らせたり、逃げる時に牽制として小さな炎弾を撃って来たりするだけなので、魔法を扱う魔物の中では弱く、単体で見たらEランクとして扱うのも迷うレベルだと書かれていた気がする。


 報告してきた冒険者が本当に強かったのだと騒ぎ立てたのと、魔物ではない普通のオオカミと同様、集団で群れを成して狩りをする点は厄介だと判断して、総合的にはDランクの中でも中位程度の強さとして受理されたのだったか。


「貴様も図鑑か何かを読んだのならやつの生態は把握しているのだろう? 奴が巣から出てきて活動するのは深夜の時間帯だ。だから、今回の行動方針として、まずはこのキャンプ地で軽食と仮眠を取り、深夜に山を登ろうとしている。違うか?」


「流石ヴィーコ殿だな。正解だ」


「うげっ……ただこの山を登るって考えただけでやる気が無くなったのに、これを夜に登るんすか?」


「普通に登山するだけで大変じゃない?」


「大変って言うか絶対に危険です! やめましょう! 帰りましょう!」


 ヴィーコ殿の名推理を聞いて、グリィ殿もリヤ殿もシェラミー殿も嫌な顔を浮かべる。


 確かに夜の山道はそれだけで危険だが、探している相手が日中はどこかに隠れていて姿を現さないというのだから、仕方ないだろう。


「問題はそこだ。貴様も彼女たちのように少しは想像を巡らせろ。普通に考えて、暗くなった山に登るなんて、それだけで危険度はひとつ上がるだろう? だからこそ目撃情報も少なく、最近の報告で険しい山にしか生息しないことが判明したことで昇格することになったんだ」


 なるほど……。


 確かに、夜の闇に溶け込んで行動する黒い体毛の生き物の生息地が険しい山と判明し、戦闘は必ず視界も足場の悪い場所になるだろうと予測が立つのであれば、それだけで昇格する理由になりそうだな。


 自分が見た古い図鑑には、あまり魔法を使ってこないから弱いと書かれていたが、彼らがあまり魔法を使ってこないのは、魔法を連発するような戦い方では自身の居場所が簡単に特定されてしまうからだろう。


 近接戦闘時に目くらましとして炎を使うというのも、真っ暗な夜の戦闘であると想定すれば、それはたった一瞬の目くらましではない。

 暗い場所で目の前が急に明るくなるのだ。人間がまた目が周囲の暗闇に慣れるまでとなると、少なくとも一瞬ではない時間がかかることになる。


 指摘されてみれば、ヴィーコ殿の言う通り、彼らがとても巧妙で厄介な生き物であることが想像できるな……。

 当時図鑑に黒妖犬の情報を載せたのはきっと戦闘経験もそれほど豊富でもない人物で、実際にその魔物を見たわけでも戦ったわけでもなく、冒険者からの戦闘報告を聞いただけで書いたのだろう。


「ふんっ、どうやらいつも妙なことしか考えない貴様にも、奴らの脅威はイメージできたようだな。だったら……」


「だったらなおさら、今回の依頼は遂行しなければならないな」


「「……は?」」


 ヴィーコ殿の言葉を遮るように返した自分の返答に対して、彼だけでなく、他の三人の声も重なった。


 だが、それこそ少し想像を膨らませてみて欲しい。


 最近ランクの改定があったから、ギルド職員への周知が行き届いておらず、依頼のランク更新がうまく行っていなかった。


 この依頼は、規定通りであればCランクに該当するもので、高くてもDランクまでの依頼しか受けられないEランク冒険者が受けられるものではない。


 今回の依頼の特殊さを考えれば、むしろこの依頼を破棄する理由の方が薄いのではないだろうか?


 もちろん、そんな依頼を失敗で報告するという検証も行ってはみたいところだが、これがギルド職員の不手際だろうというヴィーコ殿からの温度感を聞く限り、別に失敗したところでペナルティなく処理されるだけだろう。


 であれば、そうそう発生しないであろうこの状況で最大限の検証……Eランク冒険者がCランク依頼を達成したらどうなるのか、という検証結果の方が気になるところだ。


 これが開発側で想定していない不具合なのだとすれば、依頼達成の報告時に処理のエラーが発生してフリーズしたりクラッシュしたりする可能性だってあるからな。


「ふむ……なるほど……よし」


「では、予定通り、いったんこのキャンプ地で仮眠をとって、深夜に登山するとしよう」


 そうして自分は、他のメンバーが絶句している中、一人でテントの設営を始めた……。


▼スキル一覧

【輪廻の勇者】:不明。勇者によって効果は異なる。

【魔王】:人知を超える魔法を操り、魔物を従える。

【超観測】:任意の空間の全ての状況や性質を把握できる。

【言語理解】:様々な言語を読み、書き、話すことが出来る。


▼称号一覧

【魔王】:勇者の枠を超え、魔王としての役割を果たした。


▼アイテム一覧

〈水×999,999+〉〈土×999,999+〉〈石×199,440〉〈木×300〉〈薪×1,240〉〈布×175〉

〈食料、飲料、調味料、香辛料など×1,778日分〉〈保存食×19,995〉〈飼料×1,700〉

〈獣生肉(下)×1750〉〈獣生肉(中)×311〉〈獣生肉(上)×311〉

〈抑制の首輪×6〉〈スライム草×2,000〉〈着替え×980〉〈本×90〉〈遺物×10〉

〈冒険者道具×1〉〈調理器具×1〉〈変装道具×8〉〈盗賊道具×1〉

〈茶道具×1〉〈絵画道具×1〉〈手持ち楽器×4〉〈採掘道具×1〉

〈木刀×1〉〈ミスリル合金の軽鎧×1〉〈ミスリル合金の短剣×1〉

〈音信のイヤリング×1〉〈交易品×300〉〈消耗品×200,113〉

〈金貨×462〉〈大銀貨×411〉〈銀貨×76〉〈大銅貨×55〉〈銅貨×2〉


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