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第二十六話 手分けをして検証 その二

「美容液の販売に一枚かませてほしい?」


「そうですオースさん、こんなお金になりそうなことをわたくし抜きでこっそり始めていたなんて水臭いじゃないですか……それにアーリーさんが相談に来たように、商品の流通に慣れている商人が手助けした方が面倒ごとが少ないと思いますよ?」


「そうそう、あたしももうこの際あれを売るのはファビオさんに任せちゃうのもいいかなって思うんだよねぇ、偉い人から次の入荷はいつかって何度もしつこく聞かれるせいであたしのやりたい研究に集中できなくて困ってるし」


「ふむ……」


 冒険者ギルドの出入り口でユーリ殿に呼び止められ、受けていた依頼を破棄することもせずにそのまま輸入雑貨屋〈ファビオ商店〉にやってきた自分は、昨日も屋敷の掃除依頼で会っているファビオ殿と、休日にアイテム整理をしていた時アドーレ殿の薬屋〈魔女の釜〉で美容液づくりを手伝ってくれた薬師見習いのアーリー殿に詰め寄られていた。


 なんでもその化粧水づくりでアーリー殿が完成させたオールインワンジェル美容液を試供品として薬屋のお得意様に配り歩いたところ、どういうわけかそれが貴族様の間で瞬く間に広まったらしく、各方面から自分にも売ってくれという問い合わせが殺到したらしい。


 しかし次から次へと値段が吊り上げられながら飛ぶように売れていったので自分が提供したグリセリンが底をつき、もう材料が無いと言っても、貴族様の返答は金は出すから何とか用意しろの一点張り……困ったアーリー殿は、以前から手に入りにくい薬の材料などを輸入してもらっていたファビオ商店に相談しに来たと言うわけだ。


 そしてファビオ殿はグリセリンなるものを行商人時代も含めて今までどの街でも全く見たことも聞いたことも無く、吸湿性だとか温感だとか言う効果を聞いても扱ったことのない分野なので類似商品も思い当たらず、それはそれでまだ誰にも開拓されていない商品なのではないかという思考に行きつき、美容液を貴族に販売するのも受け持つつもりで自分に相談するという流れになったとのこと。


「やはり将来オースさんご自身が商売を始めるときを見越して、グリセリンとやらの入手先は秘匿されているのでしょうか……」


「いや、そんなことはない……というか、アレは自分が作ったものだ」


「なんと、オースさんは料理だけでなく薬の調合まで心得ていたのですか……」


「うむ、どちらもプロの腕には届かない素人のお遊びレベルだがな」


「「あの腕で素人のお遊び……」」


 料理に関しては元の世界で仕事で帰りが遅い両親の代わりに作ったりしていたので素人と言ってもそれなりに自信はあるが、薬の調合に関しては知識はあっても実際に本格的に挑戦したのはこの世界に来てからが初めてだ。


 昔からゲームを含め研究などは好きだったので高校卒業までの授業で教われる範囲で科学実験は一通りこなしていたし、読書という趣味も持っていたので教科書に書いてある以上に現代の薬品製造に関する知識も頭に入ってはいるが、それでもやはり自分の知識も技術も素人の域を出ないものだろう。

 たしかにこの世界の文明レベルからすると多少のアドバンテージはあるだろうが、この程度で経験者を名乗っては元の世界の素晴らしい技術を持ったプロの方々に申し訳ない。


「まぁとりあえず、ファビオ殿が商品の販売を肩代わりするというのは全然かまわない、というかそんなものはいちいち自分に許可を取らなくても大丈夫だ……オールインワンジェルを完成させたのはアーリー殿だし、その後実際に作っているのもアーリー殿なのだから」


「うーん、まぁそれはそうなんだけどね、あたし一人じゃ作ろうとも思わなかったものだし、何しろその商品のせいで動くお金がとんでもない額だから……」


「ふむ……そんなに高く売れているのか?」


「そうなのよ、最初は貴族様相手に低い金額じゃ逆に失礼になるっていうおばあちゃんの意見を参考にして金貨一枚で売り始めたんだけど、二倍出すからこっちに優先して回してくれとか、その倍出すからまとめていくつか譲ってくれとかいう人が現れてきて、今ではひとつあたり金貨五枚で取引されているわ」


 貴族様に手に取ってもらう商品と言うことで容器にもお金をかけて、ドワーフ製の綺麗なガラス容器を使っているそうだが、まだ使い切れていない大量のスライム素材も、自分が置いていった精製水とグリセリンもタダなので、美容液の材料に関しては圧搾や水蒸気蒸留でオイルを搾り取るナッツや花の代金だけだ。


 時代が時代なので無色透明ではない青緑色に染められた古い製法のガラスだが、ガラス職人のドワーフにしか作れないその貴重な容器がその原価の殆どを占めていて、それでもひとつ辺り銀貨五枚しない程度……原価の百倍で売っているのは、貴族様価格とはいえぼったくりではないだろうか……。


「ふむ……でも確かに、これからの事を考えたらそれくらいでもいいのかもしれない……ファビオ殿、グリセリンという名前には心当たりがないかもしれないが、柔らかい石鹸を作る時に出る副産物を、庶民が手の乾燥を防ぐために使っていたりしないだろうか?」


「あの茶色い液体ですか……まさかあれがグリセリンというものですか?」


「やはりそれならあるのか、まぁ異なる点は多いが、おそらく成分的には殆ど同じで、自分の提供した物に一番近いだろう」


「しかしあれは、使っている獣脂の匂いがきつくて、とても顔につけようなどと思えないものだったかと思いますが……」


「えぇー、オースさんがくれたグリセリンってやつは、透明だったし匂いも不快なものじゃは無かったわよ?」


「うーむ……それはそうなのだが……」


 古くから庶民の間で行われていた獣の脂と植物の灰を使った軟石鹸の作り方で副産物として得られるハンドソープは、自分が作ったグリセリンと成分も使用用途も殆ど同じだ。


 ただ、自分が亜空間倉庫の収納を使った指定格納でやったように目的の物だけ抽出した物じゃないかぎり、それで作られた軟石鹸と同じように匂いがきついので、とてもじゃないがそれを美容液として顔に塗りたくりたいとは思えないと言うだけで……。


 しかし科学の発展していないこの世界でグリセリンのみを抽出する方法は少なくとも自分の知る知識の中には存在しないので、冒険者たちの間で言われているおそらく自分の亜空間倉庫とは異なる機能を持った収納魔法とやらで指定格納が使えて、なおかつ元素など物体を構成する科学的要素を完全に理解していないと目的のものを得るのは難しいだろう。


「そんな臭いものを使わなくても、オースさんがまた作ってくれればいいんじゃないの?」


「まぁどうしようもなければそれでもいいのだが……ずっとそのままというわけにもいかないだろう……自分のやりたいことが出来る時間が減るのも困るしな」


「そうですね、大量に売り出す商品にするなら、原料の製造が個人に委ねられているのはよくありません……普及していなくてもなるべく簡単に生み出せるものでないと」


「その通りだ……うーむ、そうだな……心当たりがあるとすれば……ファビオ殿、洗濯の道具として渡してくれた固形石鹸は、海の近くで作られる貴族向けの高級な石鹸ではないだろうか?」


「え? はい、そうですけど……ああ! あの石鹸なら不快な匂いもしないので、副産物として取れるグリセリンも同じということですね?」


「確証はないが、おそらくはそうだろう……軟石鹸と違い完全に固めるので副産物を得るにはもしかしたら多少の工夫が必要かもしれないが……海藻の灰ではなく植物の灰を使うとかな……」


「……オースさんは秘匿されている固形石鹸の材料や製法まで知っているんですか?」


「ふむ? 秘匿されていたのか、それは悪い事をしたな」


 確かに貴族に売れる高級なものであれば、他が真似できないように情報を抑えておくようなことをやっていてもおかしくなかった……まぁどうせ目的の物を入手するには必要な情報だし、そのうち山で取れる石灰石やトロナ鉱石を使った製法に移り変わっていくと思うので、多少それが早まったところで大きな問題はないだろう。


 自分はその後、ファビオ殿やアーリー殿と今後の美容液作りや販売に関する作戦会議を開いて、貴族を待たせすぎないよう一時しのぎとして自分がいくらかグリセリンを提供して、その間にファビオ殿のコネで海の街で代用できそうな材料の開発などの話を進めた。


 それなりに問題点や質問が上がる作戦会議は昼食をまたいで、研究職のアーリー殿と商売人のファビオ殿との白熱した意見交換は夕方まで続いたが、実のある話が出来たのでそれほど苦では無い。


 精製水に関しても完璧なものは自分しか作れないが、ただ蒸留した綺麗な水であれば手間はかかるものの用意できるのでそれで代用、しばらくはアドーレ殿とアーリー殿で作るが、量が必要になったらそれもファビオ殿の方で人を雇うかしてなんとかするそうだ。


 もちろん販売もファビオ殿が受け持ち、今後はアドーレ殿の薬屋〈魔女の釜〉に注文やクレームは来ないようにして、薬屋は薬屋らしく製造だけを担当する事になった。


 売れ行きや注文の量によってはそのうち製造元も増やすことになるかもしれないが、グリセリンが高級石鹸と同じくらいの原価になることや、それを実現するための研究費用を考えて、あえて暫くは販売数を少なくすることでプレミア感を出し、この高い値段を定着させることで、それらの費用に当てようと考えているらしい。


 やりすぎると精製水やグリセリンが自分が提供する者から切り替わって今までより劣化したときにクレームが来そうだが、そこもファビオ殿がうまくフォローしてくれるらしいので問題ないとのこと。


「ほっほっほ、忙しくなりそうですが、やりがいのある仕事ですね……これからが楽しみです」


「うんうん、あたしも実はちょっと違うパターンの美容液とか考えてたりするから新しい研究材料が出来てワクワクするわね」


「なんと、でしたらわたくしも販売先から他にどんな商品が欲しいか意見を集めてみましょう」


「いいですねファビオさん! あたしは何か実現させる目標の効果があった方が研究が捗るタイプだから、そういう意見は是非聞いてみたいわ」


「ほっほっほ、楽しくなってきましたな」


「ええ、本当に!」


 そうして自分はなんだか意気投合して盛り上がっている二人に後の細かい部分は全て任せて、すっかり夕日色に染まった街の中を心地よい疲れを背負って歩いていた。


 ちなみにアーリー殿から約束通り今までの美容液の売り上げの半分を渡すと言われ、金貨が十枚入った小銭袋を押し付けられている……確かに作り方の元となる知識を提供して必須となる材料も渡しているが、それ以降何も関わっていない自分がこんなに受け取ってしまっていいのだろうかと疑問だが、とりあえず貰えるものはもらっておく。


 これから中心となって動いてくれるファビオ殿も似たような報酬を持ちかけられたが、流石にそちらは本当に知識の提供だけで今後何も関わらないので、ファビオ殿が今までやってきたのと同じように、この最初の知識だけ買い取ってもらい後は好きに商売をしていいという方向に話をまとめる……それでもこちらはとても大きな利益が見込めると言うことで、なんと金貨を百枚も支払ってくれて、自分は一日で結構な大金持ちになってしまった。


 元の世界では派遣先でただひたすらゲームの検証をするだけの仕事しかやっていなかったので、実際にこんなにがっつりと商売に関する経験をしたことなど無かったが、趣味の読書の延長である程度の知識は持っていたし、経営ゲームの検証であればいくつもの経験を重ねている……しばらくは様子見だが、そのうちこの辺りも全力で検証してみるか。


 自分はそんなことを考えながら、今日は別の依頼を受けていたのだということもすっかり忘れて、冒険者ギルドに立ち寄ることもなく、宿屋〈旅鳥の止まり木〉に帰って行った。


▼スキル一覧

【輪廻の勇者】:不明。勇者によって効果は異なる。

【物理耐性】:物理的な悪影響を受けにくくなる

【精神耐性】:精神的な悪影響を受けにくくなる

【時間耐性】:時間による悪影響を受けにくくなる

【異常耐性】:あらゆる状態異常にかかりにくくなる

【五感強化】:五感で得られる情報の質が高まる

【知力強化】:様々な知的能力が上昇する

【身体強化】:様々な身体能力が上昇する

【成長強化】:あらゆる力が成長しやすくなる

【短剣術(基礎)】短剣系統の武器を上手く扱える

【剣術(基礎)】:剣系統の武器を上手く扱える

【槍術(基礎)】:槍系統の武器を上手く扱える

【短棒術(基礎)】:短棒系統の武器を上手く扱える

【棍棒術(基礎)】:棍棒系統の武器を上手く扱える

【鎌術(基礎)】:鎌系統の武器を上手く扱える

【体術】:自分の身体を高い技術で意のままに扱える

【投擲】:投擲系統の武器を高い技術で意のままに扱える

【実力制御】:自分が発揮する力を思い通りに制御できる

【薬術】:薬や毒の効果を最大限に発揮できる

【医術】:医療行為の効果を最大限に発揮できる

【家事】:家事に関わる行動の効果を最大限に発揮できる

【サバイバル】:過酷な環境で生き残る力を最大限に発揮することができる

【解体】:物を解体して無駄なく素材を獲得できる

【収穫】:作物を的確に素早く収穫することができる

【石工】:石の加工を高い技術で行うことができる

【木工】:木の加工を高い技術で行うことができる

【調合】:複数の材料を使って高い効果の薬や毒を作成できる

【指導術】:相手の成長を促す効率の良い指導が出来る

【鑑定・計測】:視界に収めたもののより詳しい情報を引き出す

【万能感知】:物体や魔力などの状態を詳細に感知できる

【人族共通語】:人族共通語で読み書き、会話することができる

【人族古代語】:人族古代語で読み書き、会話することができる


▼称号一覧

【連打を極めし者】

【全てを試みる者】

【世界の理を探究する者】

【動かざる者】

【躊躇いの無い者】

【非道なる者】

【常軌を逸した者】

【仲間を陥れる者】

【仲間を欺く者】


▼アイテム一覧

〈一人用テント×1〉〈調理道具×1〉〈食器×2〉〈布×20〉〈ロープ×7〉〈杖×1〉

〈村人の服×1〉〈盗賊の服×4〉〈麻袋×5〉〈水袋×5〉〈毛布×5〉〈松明×8〉〈火口箱×1〉

〈水×87,000〉〈枯れ枝×650〉〈小石×1,800〉〈軟石鹸×9〉〈パン×10〉

〈治癒薬×4〉〈上治癒薬×15〉〈特上治癒薬×5〉〈解毒薬×15〉〈上解毒薬×5〉

〈鎮痛薬×15〉〈風邪薬×25〉〈緩下薬×15〉〈止瀉薬×15〉〈鎮静薬×10〉

〈筋力増加薬×5〉〈精神刺激薬×5〉〈麻酔薬×5〉

〈毒薬×50〉〈猛毒薬×15〉〈劇毒薬×5〉〈麻痺毒薬×15〉

〈獣生肉(下)×1750〉〈獣生肉(中)×900〉〈獣生肉(上)×1000〉〈鶏生肉×250〉

〈生皮×550〉〈上質な生皮×197〉〈皮屑×18〉〈獣の骨×747〉

〈獣の爪×250〉〈獣の牙×250〉〈羽毛×50〉

〈魔石(極小)×90〉〈棍棒×300〉

〈ナイフ×1〉〈シミター×2〉〈槍×1〉〈メイス×1〉

〈ボロ皮鎧×1〉

〈金貨×110〉〈大銀貨×5〉〈銀貨×27〉〈大銅貨×6〉〈銅貨×2〉


▼残り支払予定額:グリィ

〈大銀貨×20〉


※2022/08/06 流石に奮発しすぎなので報酬を調整しました。

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