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第二百六十四話 後輩との冒険で検証

 

「……先輩、生きてたんですね」


「うむ、あの程度なら命に別状はないな」


 ジェラード王国、王都、王立学校。食堂。


 午前の授業が終わり、お昼休憩時間の現在。

 そこにはたくさんの生徒たちが集い、思い思いに昼食をとっている。


 自分がこうして向かいの席に座って話しかけたシェラミー殿も、今まさに昼食をとっている途中だったので、口に運んでいたスプーンを止めることになってしまった。


 その両サイドにいた彼女のクラスメイトと思われる女生徒にいたっては、自分がこの席に座ったとたん、気を利かせてくれたのか、何か急用でも出来たように食べかけの食事が乗ったトレーを持ってどこかへ行ってしまったので、少々悪いことをしたかもしれない。


「で、今さら私に何の用ですか? もう先輩との関係は終わったはずですけど」


「ああ、その件とは全く別で、今回の要件としては、このリヤ殿の仕事に付き合って欲しいのだ」


「? 貴女は確か、この前の授業で同じチームだった……」


「う、うん、この前の授業で一緒だったリヤだけど……なんかごめんね」


 自分の後ろに隠れるように立っていたリヤ殿を紹介すると、シェラミー殿も彼女のことを覚えていたようで、少々ぎこちないながらも互いに挨拶を交わす。


 リヤ殿は冒険者学科で、シェラミー殿は王族・貴族学科なので、ああいった合同授業でも無い限り特に関りはないのだろう。


「近々、彼女を冒険者のEランクに昇格させたいと思っているのだが、他の生徒で協力してくれる者がいないかと探していてな。シェラミー殿ならどうかと声をかけたのだ」


「えーと……私は冒険者学科の生徒ではないんですけど……」


「知っている」


「……」


「ほら、もう諦めて二人だけで行こうよ。変に他の人を誘ってもぼくたちが恥ずかしい思いするだけだよ」


「いや、自分も他の検証を進めていてリヤ殿に協力できない期間があったりするからな。そういう時にも協力してもらえる同ランクの友人は居た方がいいだろう?」


「? リヤさんのクラスメイトの方たちは協力してくれないんですか?」


「あー、うん。冒険者学科に入学する生徒って、だいたいが入学前にもうEランクに昇格した人だし、そろそろ春も終わりっていうこの時期になってもFランクのままなの、ぼくしか残ってないんだよね……」


「そういうことだったんですね」


 今回、こうして自分がリヤ殿の昇格を手助けしているのは、自分の検証のためではなく、彼女の方から協力してほしいと言ってきたからだったりする。


 自分がEランク昇格試験を受けたのが去年の夏だったので、リヤ殿が春の終わりにFランクということに違和感は感じなかったのだが、どうやら世間一般ではそうではないらしい。


 確かに、そもそも冒険者学科へ入学する際の試験難易度がEランク昇格試験と同程度ということだったからな。既にそこへ入学できる程度の実力があるのならば、入学する前にEランクに昇格している生徒が多いというのは当たり前のことなのだろう。


「わかりました。そういうことでしたら手伝いましょう」


「いいの?」


「まぁ、私自身は別に冒険者を目指している訳じゃないので、昇格したところで何の得もないんですけど、この前の授業で冒険者登録はしてますし、困っている人を助けるのは貴族の務めですから」


「わー、ありがとう!」


「うむ、助かる」


「……先に言っておきますけど、これはリヤさんのためであって、貴方のためじゃないですからね。ふんっ」


 そういってシェラミー殿はそっぽを向く。


 出会った当初から何故か嫌われていたが、恋愛要素の検証を進めていた過程で彼女の好感度はさらに下がってしまっているようだな……彼女に対してどんな検証を行ったか覚えていないが。


 まぁ、恋愛要素の検証はもう当分しないので、今はリヤ殿のEランク昇格に向けた依頼達成などに協力してもらえるだけで問題ない。


「では、仲間も出来たことだし、昇格に必要な貢献度ポイントが多く貰えそうな依頼を受けに行くとしよう」


 こうして自分は、一年生のリヤ殿とシェラミー殿を連れて、冒険者ギルドへと向かって行った……。



 ♢ ♢ ♢



「……で、やっぱりここに来るんですね」


「うむ、素材採取系の依頼ならここが最も効率的だからな」


 リヤ殿とシェラミー殿を引き連れて王都の冒険者ギルドでいくつかの依頼をまとめて受注した自分は、その依頼内容をこなすため、いつもの素材採取場所へとやってきた。


 シェラミー殿はその竜の休息地に隣接して広がる深い森を緊張した面持ちで見据えながら、彼女の身長と同じくらいあるスタッフタイプの魔法杖を強く握りしめている。


 以前の授業で訪れた際に確認していることだが、彼女の戦闘スタイルは魔法使いだ。


 ただ、これはスタッフタイプの魔法杖を使っている多くの貴族に言えることだが、シェラミー殿の使う魔法は、カヤ殿の魔法とは異なり、その杖に埋め込まれた宝石に刻まれている魔法陣を発動するという形である。


 戦闘に置いて、魔法を発動する速さはとても重要な要素だ。


 なので、魔法使いは同じ魔法を何度も行使してその身に染み込ませ、一から魔法陣を描いたり呪文を詠唱したりせずに、完成された魔法陣を出現させて発動句を唱えるだけで魔法が使えるよう鍛錬する。


 しかしお金のある貴族は、その工程を踏まずに、魔法陣が刻み込まれた杖や魔道具を持ち歩き、それを使うだけで魔法を使ったりすることが多いらしい。


 事前に持ち歩くと決めた魔法しか使用できないため、自身で魔法陣を描くよりはるかに自由度が下がるが、そうはいっても魔法使いが戦闘で咄嗟に使用する魔法の種類など限られているし、そもそも護衛を連れて歩くのが当たり前な境遇であれば表立って激しい戦闘することはない。


 有名なゲームの中にも、覚えられる魔法の種類が限られていたり、使用回数が決まっていたりする仕様は普通にあるしな。別に大した制限でもないだろう。


 だから、魔力の扱いに長けた貴族の護身用武器ということであれば、下手をすれば自身が怪我をする可能性がある剣などでもなく、コンパクトな代わりに魔法陣を刻むことが出来ない上に攻撃を受け流すような使い方も出来ない指揮棒タイプの杖でもなく、種類が限定されるが訓練を積まずとも魔法が即時発動可能なスタッフタイプの杖が最適なのだ。


 シェラミー殿はこの前の授業を見てもその杖を使いこなしていたし、何度も戦闘を重ねたことでレベルやスキルも上がっていたし、この場所で活動することに問題は無いだろう。


「ちょっとオース、今回はこの前みたいな大人数はいないんだよ? 二人だけでここの魔物とか捌ける気がしないって」


「? いや、二人ではなく三人ではないか?」


「え? オースも手伝ってくれるの? この前はただ指示とかアドバイスをするだけで、全然手伝ってくれなかったじゃん」


「あぁ、大丈夫だ。今回はそれなりに手伝う」


 確かにリヤ殿の言う通り、この前の授業では、同じグループになった者たちのレベルがあまりにも低かったこともあって、なんとなく生徒ではなく指導者としての気持ちで進めてしまっていたからな。


 今回は一緒に冒険者パーティーを組んだ仲間として事に当たるので、二人の成長を邪魔しない程度には協力させてもらおうと思っている。


「それでも危険なことに変わりないんですけど……まぁ、オース先輩は言い出したら聞かないですからね。それを忘れて付いてきてしまった自分自身を恨んでおきます」


「本当にごめんね? ぼくはこのあたりの出身でもないから、他に頼れる人がいなくって……」


「いえ、リヤさんは悪くないですよ。悪いのは何もかも全部この人ですっ」


 自分はそう言い切ったシェラミー殿に、魔法杖をビシッと突きつけられる。


 どうしてこんなに嫌われているのかは分からないが、そう言いながらもこうして依頼達成に協力しようとしてくれているのだから、文句は言わないでおこう。


「それで、冒険者ギルドでいくつか依頼を受けてたみたいだけど、ぼくたちは結局ここで何をすればいいの?」


「うむ、今回受けた依頼は、こんな構成になっている」


 そういって自分がリヤ殿たちに差し出した依頼書は、全部で七枚。


 ・【F】良質な毛皮の納品

 ・【E】良質な蛇皮の納品

 ・【E】アルミラージの角を十本納品

 ・【F】治癒草の納品

 ・【E】解毒草の納品

 ・【E】鎮痛草の納品

 ・【E】獣除け草の納品


 どれも特に採取場所の指定なく、一つを除けば目標数の指定も無い、王都の冒険者ギルドに長い期間常設されるタイプの依頼だ。


 納品系の依頼はなんでもそうだが、別に依頼を事前に受けておかなくとも、アイテムを入手してから冒険者ギルドを訪れ、受注と同時に達成報告をすることも出来る。


 だがその進め方をした場合、アイテムを取って冒険者ギルドに帰ってきた時に目的の依頼が既に他の冒険者によって達成されており、受注することも報酬をもらうことも出来ない可能性もあるのだ。


 なので、依頼達成時の貢献ポイントを稼ぎたい冒険者などは特に、小さな納品依頼でもあらかじめ受注してからアイテムを探しに行ったりする。


 まぁ、そうした場合もそうした場合で、依頼受注の際に一時的な手数料が発生して、達成すれば戻ってくるが失敗すると違約金として没収されるというデメリットもあったりするので、他の冒険者が達成して依頼が取り下げられることが滅多にない常設依頼などを事前に受けておく冒険者は少ないかもしれないな。


 もちろん、供給が多くなって需要が下がると一時的に取り下げられることもあるが、消費も多い王都のような都会ではそういったことは滅多に起こらないだろう。


 ちなみに受注の際に支払う手数料は、事務手続きの人件費や紙やインクの代金、指定された期限を大きく過ぎても何も報告が無かった際、捜索隊などを派遣する代金として利用されるらしい。


「えぇ!? これ全部!?」


「ちょ、ちょっとオース先輩! 私は冒険者学科じゃないので、依頼をしていれば授業を免除されるわけじゃないんですよ!? 両親にも、学校が休みの間に少し友人の手助けをしに行くだけで、明日の夕方までには帰るって言ってきちゃってます!」


「? それは自分も同じだ。明日の夕方には帰ろうと思っている。いくら学科の特性で授業が免除されるとは言っても、受けたことのない授業の検証は出来るだけ進めておきたいからな」


「いやいや、同じ場所で達成できる依頼だとしても、冒険者が一日にこなせる依頼の数は多くても二個くらいだから、欲張って一度に受けすぎるなって、この間の授業でもくぎを刺されたばっかりなんだけど!?」


「ふむ……だが、一日に二つの依頼を達成できる冒険者が三人もいるので……」


「三倍の六つにはなりませんっ! その一日に達成できる依頼の数って、一人当たりではなくて、冒険者パーティー単位でしょう!?」


「そもそも、一人当たりだとしても、ぼくたちは別々に行動するの?」


「いや、しないが……」


「でしたら、そんなトンチンカンな問答させないでください!」


「っていうか、七つあるんだから、六つ達成できたところで一つ分足りないじゃん」


「いや、今日と明日で、二日あるということは……」


「ここまでの往復の移動時間で一日使うので、依頼に使える時間は二日にはなりません!」


「それくらいの文章問題、入学試験でも出されるじゃん。冒険者学科だけじゃなくて、どの学科にも騙される人はいないと思うけど?」


「うーむ……」


 以前、グリィ殿に似たような抗議を申し立てられて際には、こうして色々なそれっぽい理由を並べることで騙せたはずなのだが……あれが特別なイベントだったのか。


「はぁ……まぁ受けてしまったものは仕方ないです。手近な依頼だけ達成して、残りは未達成のまま持ち帰るしかないですね」


「えぇー……。依頼を受けて失敗すると、違約金はオースが払うからいいとして、昇格試験に必要な貢献ポイントは一緒に冒険活動したぼくも減点されるんだけど……」


「それなら、達成できた依頼だけリヤさんも一緒にこなしたと報告して、未達成の依頼はオース先輩だけで報告すればいいんです。依頼を受けたパーティーだけでは達成が難しかった時に、途中で協力したパーティーに報酬が分けられるのはよくあることと聞くので、ギルドに相談すればそういった対応も受け付けてくださるでしょう?」


「ほへー、そっか。確かに。シェラミー、頭いいね」


「うむ、是非ともうちの冒険者パーティーに招きたいくらいだな」


「リヤさんはともかく、貴方に褒められても嬉しくないですし、私は冒険者パーティーに加入してまで本格的に冒険者の仕事をする気はありません。それに、訳アリの貴族が身分を隠して冒険者になるならともかく、普通に貴族として生活している者が所属している冒険者パーティーなんて目立つだけでしょう?」


「確かに、多少目立っている自覚はあるな」


「?」


「ぼくも所属してるけど、オースの冒険者パーティー、八人いるうちの半分が王族とか貴族だからね……しかも、それでも最近王族が一人抜けた状態らしいし」


「え……」


 シェラミー殿はリヤ殿の説明を聞いて、目をぱちくりさせる。


 アクセル殿が抜けてしまった上に、最近は全員そろって依頼をこなす機会もないが、旅をしながら冒険者活動をしていた際は、新しい冒険者ギルドや宿屋でその身分を明かすたびに驚かれていたし、確かに王族や貴族が多く所属するのは珍しいことなのだろう。


 だが、そんなことは関係ない。


 自分の冒険者パーティーは、どんな身分であろうと、行いたい検証が行える人材であればそれでいいのだ。


「それでは、息も整ったことだろうし、そろそろ採取に向かうとしようか」


 そうして自分は、何かに呆れるような反応をして、互いの目を合わせる二人を先導するように、目の前の森へと向かっていった。


▼スキル一覧

【輪廻の勇者】:不明。勇者によって効果は異なる。

【魔王】:人知を超える魔法を操り、魔物を従える。

【超観測】:任意の空間の全ての状況や性質を把握できる。

【言語理解】:様々な言語を読み、書き、話すことが出来る。


▼称号一覧

【魔王】:勇者の枠を超え、魔王としての役割を果たした。


▼アイテム一覧

〈水×999,999+〉〈土×999,999+〉〈石×199,440〉〈木×300〉〈薪×1,240〉〈布×175〉

〈食料、飲料、調味料、香辛料など×1,778日分〉〈保存食×19,995〉〈飼料×1,700〉

〈獣生肉(下)×1750〉〈獣生肉(中)×311〉〈獣生肉(上)×311〉

〈獣の骨×1400〉〈獣の爪×500〉〈獣の牙×500〉〈羽毛×50〉〈魔石(極小)×100〉

〈生皮×250〉〈革×270〉〈毛皮×90〉〈抑制の首輪×6〉〈スライム草×2,000〉

〈着替え×980〉〈本×90〉〈遺物×10〉〈宝石・鉱石×1,098〉

〈冒険者道具×1〉〈調理器具×1〉〈錬金器具×1〉〈変装道具×8〉〈盗賊道具×1〉

〈掃除道具×1〉〈茶道具×1〉〈絵画道具×1〉〈手持ち楽器×4〉〈採掘道具×1〉

〈木刀×1〉〈ミスリル合金の軽鎧×1〉〈ミスリル合金の短剣×1〉

〈音信のイヤリング×1〉〈交易品×300〉〈錬金炉×1〉

〈教国軍の消耗品×199,113〉〈教国軍の装備品×19,990〉〈教国軍の雑貨×99,180〉

〈盗賊団の消耗品×1,000〉〈盗賊団の装備品×100〉〈盗賊団の雑貨×997〉

〈金貨×543〉〈大銀貨×884〉〈銀貨×125〉〈大銅貨×57〉〈銅貨×32〉


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