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第二百五十六話 授業の仲間の検証 その二

 

 ジェラード王国、ジェラード大森林。


 王立学校の授業でこの場所を訪れた自分たちのグループは、学校を出発してから二日目にしてようやく、竜の休息地に隣接するその森の中へと入っていた。


 今回、自分たちがここを訪れたメインの目的は、戦闘の選択授業を選んだ二年生と採取の授業を行う一年生との合同授業。

 一年、二年、合わせて十人以上となるチームを組み、一年生は森で採取、二年生はその護衛を行うというイベントを進めるためだ。


 学校側の言いつけ、つまりこのイベントの仕様としては、薬草の採取を行うのは一年生組だけで、二年生組は彼らの採取作業を手伝わないどころか一切のアドバイスも行わず、逆に魔物が襲い掛かってきた時の迎撃は護衛である二年生だけで行い、一年生は自身の身を守ることに専念するとなっているが……。


「うぅ……一体どうしてこんなことに……」


「ひっく……もう授業なんてどうでもいいよぉ……おうちに帰らせてぇ……」


「パパ……ママ……今までありがとう……」


 今自分の目の前に広がっている光景は、一年生も二年生も関係なく、誰もがボロボロな状態でその場に座ったり倒れているというものだった。


 まぁ、それも仕方ないだろう。


 この場所、ジェラード大森林は、学校側から指定されている目的地からは外れた、自分が勝手に引き連れてきた高難易度フィールド。


 ここに到着したばかりの彼らのレベルや技術を基準にすると、この森でエンカウントする敵の強さは、浅い場所だとしても、一人で複数体に囲まれたら大変な思いをする難易度であり、奥へ進んでしまったら全滅する可能性だってある難易度である。


 だが、だからと言って、今のレベルでこの場所に訪れて、全滅する未来が確定しているというわけではない。


 実際に、自分はこの世界に降り立った初期状態でこの場所で検証を進め、この森を住処とする大量の獣や魔物たちと戦って生き残ったのだ。


 まぁ彼らと違う点として、自分は王族の血を引いており初期魔力量が多かったという違いはあるだろうが、それで彼らに同じことが出来ないということにもならないだろう。


 ようは、浅い場所で戦闘訓練をして、戦闘能力を上げながら奥へ進めばいいのだ。


 そう思い、自分はこの森で授業に取り掛かるための前準備として、一年生には身を守る術を、二年生には敵を効率よく倒す術を教えているのだが、その結果は見ての通り……。


「うむ、誰一人欠けていないし、皆かなり戦闘能力が上がっている。とても順調だな」


 ―― バシンッ ――


「どこがどう順調やねんっ!」


 ふむ……皆レベルが上がって新しいスキルなども獲得し、この森で依頼を遂行するための力を順調に身に着けていると思うのだが、何か他に懸念点などあっただろうか?


「っ……いつつ……」


 そうして自分に対してよく分からない訴えをしながら手の甲で攻撃を繰り出してきたウィル殿だが、そんなことを言いつつもこの中で一番戦闘訓練に一生懸命だったのは彼であり、体力的にも魔力的にも、本来はこちらへ攻撃を繰り出している余裕はない。


 無理に身体を動かした反動で獣に負わされた傷口が痛んだようで、脇腹を抑えながらその場に倒れ込んだ。


「大丈夫か? ウィル殿」


「アホ、大丈夫なわけあるかい」


 それもそうだな。


 周りを見渡せば、ウィル殿に限らず、この場にいる者は全員、これ以上の戦闘は続けられなさそうな状態である。


 幸いにも、先ほどまでの戦闘でこのあたりの敵対生物はあらかた片付いたし、時間的にもそろそろ陽が沈み始めるころ。この場で身体が動く程度に傷の手当てや魔力の回復をしたらキャンプ地に戻って休んでもいいだろう。


「傷の手当は手持ちのポーションで済ませるとして……魔力の回復は自分が魔力を譲渡する方向でいいだろうか?」


「魔力の譲渡? それ……魔物を仲間にする方法言うてへんかったか?」


「まぁ、手順としては同じだが、この方法で人間が仲間にならないのは、そこで倒れている後輩の一人で検証済みだ」


「ちょ……あんさん後輩に何しとんねん……せやからシェラミーはんとオースはん、少し距離が近うなっとったんか」


「? スラミー?」


「っ! シェラミーですっ! ぴぃーー!!!!」


 ふむ、先だって魔力譲渡の検証を手伝ってくれた後輩の女生徒の名前は、どうやらシェラミーというらしい。

 戦闘能力の確認のために【鑑定】画面は見ていたが、今の検証に重要な項目ではないので名前を読み飛ばしていたのと、この通りスライムのような奇声を発するので、聞き違えてしまった。


「まぁ、口調が少し砕けて、気楽に接してくれるようになってはいるようだが、別に自分の手下になっているような様子はないだろう? というか、本当に問題が無いかを確かめるためにも、別の人物で同じ手順を試してみたいのだ」


「いや……そん話を聞いて、さいですかて了承する人はおらんやろ……まぁ、先にリヤに試してもろて、それで問題あらへんかったら協力してもええけど」


「はぁ? なんでぼくなのさ! ぼくだってやだよ!」


「何か変化があるんなら、それが分かりやすい方がええやろ? せやったら、元々知り合いで変化が分かりやすいリヤが適任やと思うで」


「ほう、ウィル殿も検証のことが少し分かってきたようだな」


「せやろ? まぁちゅうわけで、先にリヤに頼んますわ。わいが許可するさかい」


「勝手に許可するな!」


「うむ、承知した」


「承知するな!」


 リヤ殿はそう言って不満たっぷりの表情でこちらを睨みながら言葉による抵抗は続けているものの、先ほどの戦闘で体力を殆ど使い果たしているためか、暴れたりする様子はなかった。


 自分がそんな彼女に魔力を送り込むために手をつかむと、その表情には不安の色も追加され、目に涙が浮かび、抵抗の声もか細くなったが、彼女の友人であるウィル殿から了承をもらっていることだし、検証のために続けさせてもらおう。


「やめ……」


 そして自分は、最後に喉の奥から絞り出すようにそんな声を発したリヤ殿に、魔力操作で自分の魔力を送り込んだ……。


「きゃはははっ! ちょっと、待っ……あはははっ! ダメ! これ、くすぐったすぎるって!」


 するとどういうことだろうか。


 魔力を送り込んでいる間ずっとボーっとした表情でこちらを見つめ続けていたシェラミー殿の反応とは違い、リヤ殿は急にその身をよじりながら大きな笑い声を上げ始めた。


「やめて! あははっ! 降参する! もう降参だってば! くふふふはははっ」


「ふむ……」


 自分はそんな言葉を聞きながらも、リヤ殿の魔力が完全に回復するまで魔力を送り続けてみたが、結局、彼女は最後までずっと盛大に笑い転げていた。


 これは、人によって魔力を送り込まれる感覚が異なるということだろうか?

 検証データが二人分だけでは詳しい仕様が分からないな。


「はぁ……はぁ……別の意味で命の危機を感じた……」


「うーむ、魔力を送っている間の反応がスラミー殿の時と違ったのは気になるが、認識の変化の方はどうだろうか?」


「シェラミーですっ!」


「あぁ、そうだったな」


「ぜぇ……はぁ……認識の変化ってところでいえば、くすぐったいから止めてって言ってるのに止めてくれなかったオースに対して、怒りを感じてるかな……」


「そうか。問題なしということだな」


「……」


 リヤ殿には検証前と同じように鋭い視線で睨まれているが、魔力は回復させてもまだ体力の方は回復させていないので、動く元気は無いらしい。


 体力の方も回復させてあげたいところではあるが、感知系スキルを発動しなくとも伝わってくるほどの敵意を向けられているまま回復することで、検証を邪魔されることになっても面倒なので、彼女はこのまま放置して次の検証に移るとしよう。


「それで、リヤ殿はこうして問題なかったわけであるし、検証に協力するという約束をウィル殿は守ってくれるのだな?」


「いや、問題は無くは無かったみたいやけどな……まぁあの様子を見る限り、ひとまずは手下にされてるようなこともあらへんようやし、他に魔力を回復する手段が無いならしゃあないか」


 ふむ、魔力を回復する手段で言うと、別に手持ちの魔力回復ポーションはまだ全然残っているので、それを使えばいいだけなのだが、どうやらウィル殿はポーションが切れたから魔力譲渡で回復させているのだと勘違いしているようだな。


 まぁ、そのおかげで検証に協力してくれるようなので、わざわざ訂正しないでいいだろう。


「では……」


「ちょい待ち!」


「む?」


 自分がウィル殿の了承も得たところで彼の手をつかむと、彼はその手を引っ込めて制止をかけた。


「先に言うとくけど、わいが止めろ言うたら、ちゃんと止めるんやで?」


「うーむ、まぁ確かに、同族なら魔力譲渡で仲間にならないという点の再現確認は取れているし、あとは魔力が送られたときの反応を確かめられればいいか」


「せやせや。よろしゅう頼むで」


「承知した」


 そして自分は再び差し出してくれたウィル殿の手を掴み、一度頷いてから、魔力を送り込むと……。


「ひ、ひぃぃぃぃー!」


 彼は、すぐに全身を震わせて、奇妙な声を上げた。



「ちょちょちょ、うげぇ、気色悪っ! やめやめ、中止や!」


 ウィル殿はそう言って、再び自分の手を振り払い、その手を引っ込めた。


 正確なデータを取るためにもう少し反応を確認したかったのだが、今回の一連のイベントでレベルが上がる前からステータスが高かったこともあってか、彼は激しい戦闘を終えた後でも他の生徒たちよりも身体を動かせるらしい。


「ふむ、中止するのはいいが、魔力を送られた感覚としてはどうだったのだ?」


「うーん、なんちゅうか……嫌いな人間に全身をネットリ触られるような……生ぬるうて味のせん半固形物質を無理やり飲まされるような……とにかく、ホンマに気色悪い感じやった」


「ウィル殿は自分のことが嫌いなのか?」


「いや、嫌いなことあれへんけど……まぁ好きでもないな」


 なるほど。やはり魔力が送り込まれる感覚は人によって全く異なるのか。


 ウィル殿は魔力の譲渡に嫌悪感を感じ、リヤ殿は魔力の譲渡にくすぐったさを感じ……。


「スラ……シェラミー殿はどうだっただろうか?」


「嫌いです!」


「あ、いや……好きか嫌いかの話ではなく、魔力が送られてくる時の感覚は……」


「え? あ……うーん、そうですね。しいて言うなら……カラカラに乾いた身体に清涼感のある綺麗な水を注ぎ込まれているような……まぁ、嫌な感覚ではなかったですかね」


「そうか」


 ふむ、嫌いな相手から魔力を送られても、別に嫌悪感が発生するわけではないと。


 今回のイベントで一緒に行動し始めたばかりなのに何故もう嫌われているのかは謎だが、そこは今は重要ではないので良しとしよう。


 しかし、やはり三人だけでは共通項目もなく、詳細な仕様を導き出すにはデータが足りないな……。


「ふむ……なるほど……よし」


 少々効率は悪いが、魔力に余裕があるのは自分だけだし、自分が今ここに倒れている全員を一人ずつ回って反応を確かめていくしかないだろう。


「残りのメンバーも全員、この方法で魔力を回復させてみるとしよう」


 自分がそう言って倒れている残りの生徒たちに向き直ると、先ほどまでのやり取りを遠目から見ていたらしい彼らは、こちらを見ながら血の気が引いたように青ざめた……。


▼スキル一覧

【輪廻の勇者】:不明。勇者によって効果は異なる。

【魔王】:人知を超える魔法を操り、魔物を従える。

【超観測】:任意の空間の全ての状況や性質を把握できる。

【言語理解】:様々な言語を読み、書き、話すことが出来る。


▼称号一覧

【魔王】:勇者の枠を超え、魔王としての役割を果たした。


▼アイテム一覧

〈水×999,999+〉〈土×999,999+〉〈石×199,440〉〈木×300〉〈薪×1,330〉〈布×178〉

〈食料、飲料、調味料、香辛料など×1,825日分〉〈保存食×19,995〉〈飼料×1,700〉

〈獣生肉(下)×1750〉〈獣生肉(中)×374〉〈獣生肉(上)×374〉

〈獣の骨×1400〉〈獣の爪×500〉〈獣の牙×500〉〈羽毛×50〉〈魔石(極小)×100〉

〈生皮×250〉〈革×270〉〈毛皮×90〉〈抑制の首輪×5〉

〈着替え×980〉〈本×90〉〈遺物×10〉〈宝石・鉱石×1,098〉

〈冒険者道具×1〉〈調理器具×1〉〈錬金器具×1〉〈変装道具×8〉〈盗賊道具×1〉

〈掃除道具×1〉〈茶道具×1〉〈絵画道具×1〉〈手持ち楽器×4〉〈採掘道具×1〉

〈木刀×1〉〈ミスリル合金の軽鎧×1〉〈ミスリル合金の短剣×1〉

〈音信のイヤリング×1〉〈交易品×300〉〈錬金炉×1〉

〈教国軍の消耗品×199,141〉〈教国軍の装備品×19,990〉〈教国軍の雑貨×99,180〉

〈盗賊団の消耗品×1,000〉〈盗賊団の装備品×100〉〈盗賊団の雑貨×997〉

〈金貨×517〉〈大銀貨×1,948〉〈銀貨×1,831〉〈大銅貨×116〉〈銅貨×60〉


▼ 商業ギルドからの借金

オース名義:金貨2枚

グリィ名義:金貨2枚


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