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第二百五十三話 未知のスキルの検証 その一

 

 ジェラード王国、竜の休息地。


 風魔法による攻撃で、ジェラード大森林から獣や魔物をおびき寄せ、それらを周囲の木々ごと木刀の居合切りから放つ魔力波によって倒し、現在、その事後処理中……。


「ふぅ……こんなところか」


 倒した獣や魔物を解体して、亜空間倉庫へ収納する。

 倒木は丸太や薪など使いやすいサイズに切り分けて、亜空間倉庫へ収納する。

 急なレベルアップで倒れた仲間たちを、彼らのテントへ収納する。


 少し森を荒らしてしまった上に、付近にいた獣や魔物をあらかた倒してしまったので、しばらくこのあたりに獣や魔物は訪れないと思うが、念のため近くに生えていた草で作った獣除けの香も焚いておいた。


 うむ、荒れ果てた土地を綺麗にしていく作業も、農場ゲームや街作りゲームのような雰囲気があって良いものだな。


 ……まぁ、荒らしたのは自分なのだが。


「しかし、急激にレベルアップすると意識を失うという仕様があるとはな……」


 今まで自分やグリィ殿たち冒険者パーティーメンバーには発生しなかったその現象……。

 ステータス画面には、状態異常の項目に【魔力欠乏症】と表示されている。


 皆うなされていて、顔色は優れないものの、木の枝でつつくと反射反応はあるので、昏睡状態にまでは至っていないようではある。


 ここで同じようにレベリングをしてきたグリィ殿たちがこの症状に見舞われていないことや、二年生や魔法担当の生徒よりも一年生や物理担当の生徒の方が発症が早かった点を踏まえると、元々の魔力蓄積量が少ない人物が、急激にその限界値を増やすことで起こるものだと推測される。


 グリィ殿やカヤ殿、ヴィーコ殿やアクセル殿は、血筋的に元々の魔力量の多い人物であるし、アーリー殿やロシー殿、カイ殿は貴族や王族ではないものの、それがハーフ種族の仕様なのか、少なくともここにいる者たちよりも最初から基礎魔力量が多かった。


 それに、彼らのレベリング時は自分が大量の魔物をまとめて倒して一度に大量の経験値を獲得するようなものではなく、スキルアップも兼ねて彼ら自身に一体ずつ倒してもらっていたからな。レベルアップのスピードも今回とは全然違うものだろう。


 というよりも、今回のレベリングは意図したものではなく、この森は必要以上に怖がる場所ではないということを伝えようとした行動の副次効果だからな……。


 あと、誰かが魔物を倒した時に、その仲間にも経験値が分配される仕様は検証済みだったが、特に冒険者ギルドなどでパーティー申請もしていない臨時の仲間でも同じように経験値分配があるのかどうかは検証していなかったというのもある。


「ふむ……まぁ今まで知れていなかった仕様を知るいい機会になったということで、いったんこの件は後で検証する項目としてメモしておいて、今は別の検証を進めるとしよう」


 自分も一度経験したので分かっているが、魔力欠乏症で気絶した時の対処法は、睡眠をとって魔力が最大値まで自然回復するのをただ待つしかない。


 魔力の回復を早めるポーションを気化して吸い込ませたり、他人が魔力を分け与えたりすることで気絶している時間を短縮することも出来るかもしれないが、今は皆の復帰を急がせるような用事があるわけでもないので、その検証は後でいいだろう。


 どちらかというと、今多くの時間が欲しいのは、自分の方だ。


「……さて、ようやくこのスキルの効果が検証できるな」


 そう呟いて表示させた自分のステータス画面に表示されているのは、ソメール教国で戦争を止めるために大きな魔法を発動して、魔力欠乏症から治った自分が、他の殆どのスキルと統合される形で取得していた新たなスキル……。


 【魔王】。


 スキル名からして、何とも物騒な名前であるが、その説明欄も何やら物騒だ。


「人知を超える魔法を操り、魔物を従える。か……」


 ”人知を超える魔法を操り”という部分はまだ分かる。


 アーリー殿が作成した魔力回復力を上げるポーションをがぶ飲みして、この世界で一番の魔法の使い手とされている教皇様を超える規模で魔力を消費し続けたからな。


 使用した魔法の内容は別に大したことはなくとも、人類のトップが保有する最大魔力量を遥かに超える魔力を短期間で消費したということが、このスキル獲得に少なからず影響しているのだろう……。


 今まで検証してきたスキルの挙動から導き出される仕様として、新しいスキルを獲得するということは、殆どの場合、今まで使えなかった新たな力に目覚めるというわけではない。


 ”剣を扱う”ということを続けていたら、”剣を扱う”スキルが手に入る。

 ”魔法を扱う”ということを続けていたら、”魔法を扱う”スキルが手に入る。


 ようは、その人物が努力して手に入れた能力が可視化されたものだ。


 もちろん、ただ可視化されただけでなく、魔力を込めてスキルを使用することで、そのスキル内容ごとの能力が向上するような恩恵があるが、それも現実世界的にはその技術を本気で使うか手加減して使うかの違いのようなものだからな。


 その条件に当てはまらないスキルとしては、自分がこの世界に降り立った時、初めから持っていた能力に関係するものだろう。


 現在他の様々なスキルと統合されて今は【超観測】と表示されているこのスキルは、元は【鑑定】スキルから派生したもので、【鑑定】スキルは【亜空間倉庫】を利用することで獲得した特殊なスキルだ。


 今まで仲間や道行く人々のステータスを【鑑定】で確認して、その人物が持っている様々なスキルを見てきたが、自分が後に習得した他のスキルに関しては同じものを持っている人物を見たことはあるが、【鑑定】スキルを持った人物は見たことが無い。


 そもそもその派生元の【亜空間倉庫】に至っては、自身のスキル項目にすら表示されていないし、【ステータス画面】も含め、プレイヤー的にはゲームのデフォルト機能として違和感のないそれらの画面をNPCが開いているような様子も見たことは無い。


 同じ初期スキルであり、現在に至っても結局その効果が謎のままである【輪廻の勇者】というスキルも他人が持っているのを見かけたことがないし、きっとNPCには備わっておらず、プレイヤーだけに備わっている能力がいくつかあるのだろう。


「とりあえず今の問題は、【魔王】スキルの後半の説明文だな……」


 ”魔物を従える”。

 端的で、しかし様々な想像を巡らせることのできる説明文。


 他の一般的なスキルと同様の仕様が適用されているのであれば、これは今までの自分の行動によって得た能力が可視化されたものということになるのだが……。


 ……果たして今までに、魔物を従えたことがあっただろうか?


 魔物を倒したことならば、もう数えきれない量の魔物を倒している。

 だが、魔物を従えたこととなると、記憶の中を振り返ってみても少なくとも自分には思い当たらない。


 今までにすれ違ったNPCの中には、鷹や犬のような魔物を狩猟のパートナーとして躾けている者がいて、彼らは【調教】のようなスキルを所持していた。


 なのでゲームの仕様として魔物を従えるスキルがあることは知っていたのだが、自分はまだそのスキルを習得していなかったはずだ。


 それなのに、その上位スキルのような雰囲気を放っている【魔王】というスキルが手に入るというのは、いったいどういうことなのだろうか……?


 うーむ……なんというか……。

 これは、このゲームを検証し始めた初期から思っていたことでもあるのだが……。


「このゲーム……スキルの説明が、あまりにも不親切すぎる」


 武器や防具、ポーションなどの情報に関しても、所持アイテム一覧画面などから見られる内容としては、そのアイテムの強さや効果内容が書かれているだけで、使い方まで書かれてはいないのだが、そちらはその辺のNPCに聞けば教えてもらえる。


 だが、スキルに関しては、NPCに聞いても「は? スキル? 何のことだ?」と聞き返されるだけで、習得方法や使用方法どころか、その詳しい効果などの情報さえ出てこない。


 まぁ、今まで手に入れてきた大抵のスキルは、自身がそれまでに積み重ねてきた行動の延長線上に存在するもので、使用方法としてもそのスキルを使いたいと思いながら体内の魔力を活性化させるという方法で統一されていたので、それはそれでいいのだが……。


 この魔王というスキルに関しては……魔力を込めても何の反応もない。


 一体どういうことなのか分からず、とりあえず魔物を倒していれば、そのうち起き上がって仲間になりたそうな目でこちらを見てもらえるのかと、ソメール教国での旅の道中、出会った魔物は片っ端から倒していたのだが、結局、そんな事は一度も起こらなかった。


 なので、これはいつか改めて時間を取り、しっかり腰を据えて検証する必要があると思い、今の今まで放置してきたのだが……。


「ぴぃー! ぴぃー!」


 ふむ、丁度いいタイミングで、さっそく我が検証チームの頼れる助っ人がやってきてくれたようだ。


「いつもご苦労だな」


 自分がメモ画面に洗い出した検証項目を眺めながら、何から始めようかと思案していると、そこにやってきたのは、この草原に限らず草木の茂るあらゆる場所で見かける、何の変哲もない、ただのスライム。


 森の騒ぎを聞きつけたのか、どこからともなくやってきて、いつも通り、足元で自分に対して体当たりを仕掛けている。


 【魔王】スキルの影響で仲間になりにきてくれたのかとも思ったが、攻撃をしてきているということは、そうではないのだろう。


 ……というか、いつも思うのだが、このスライムという生き物には、危機管理という思考は存在しないのだろうか?


 他の獣や魔物は、自身より体の大きいものに対して、仲間が複数人いない状況であれば避ける傾向にあったり、自身より体の小さいものに対しても、相手の放出魔力量によっては危険な相手だと察知して近づかなかったりする知性の高い魔物もいるようなのだが……。


 このスライムという生き物だけは、どんな相手に対しても積極的に近寄ってきて、積極的に攻撃を仕掛けてきて、その攻撃が大して効いていない様子であっても、そのまま執拗に攻撃を続けるという習性を持っている。


 本当に何を考えているのか分からない、不思議な生き物だ。


 その生まれ自体、〈スライム草〉という植物が、蕾に貯えた水と地面から吸い上げた魔力、そして朝の日の光を使って生み出すという特殊な魔物だからな。


 〈スライム草〉の手下として、親に近づく危険に対して、命を懸けても排除するよう遺伝子レベルで組みこまれているか、単純に知性ゼロの生き物なのか、そのどちらかだろう。


「ぴぃー! ぴぃー!」


 まぁ、森を荒らしてしまった影響もあって、今現在、この付近に近づいてきてくれる魔物は、そんな命知らずなスライムだけだ。


 今までもこうして積極的に検証に付き合ってくれていたし、今回も付き合ってもらうとしよう。


「ふむ……なるほど……よし」


「とりあえず質の低いすじ肉や質の高い霜降りの肉を与えつつ、この広い草原にいるスライムを狩りつくしてみよう」


 今まで倒しても起き上がらなかったのは、仲間になる確率が低く設定されているだけかもしれないからな。その確率を上げられないかも検証してみるべきだろう。


「ぴ、ぴぃー……?」


 自分はそう意気込むと、左手に肉、右手に短剣を持って、足元のスライムに向き直った。



▼スキル一覧

【輪廻の勇者】:不明。勇者によって効果は異なる。

【魔王】:人知を超える魔法を操り、魔物を従える。

【超観測】:任意の空間の全ての状況や性質を把握できる。

【言語理解】:様々な言語を読み、書き、話すことが出来る。


▼称号一覧

【魔王】:勇者の枠を超え、魔王としての役割を果たした。


▼アイテム一覧

〈水×999,999+〉〈土×999,999+〉〈石×199,460〉〈木×300〉〈薪×1,500〉〈布×187〉

〈食料、飲料、調味料、香辛料など×1,840日分〉〈保存食×19,995〉〈飼料×1,700〉

〈獣生肉(下)×1900〉〈獣生肉(中)×480〉〈獣生肉(上)×420〉

〈獣の骨×1400〉〈獣の爪×500〉〈獣の牙×500〉〈羽毛×50〉〈魔石(極小)×100〉

〈生皮×250〉〈革×270〉〈毛皮×90〉〈スライム草×90〉〈抑制の首輪×5〉

〈着替え×980〉〈本×90〉〈遺物×10〉〈宝石・鉱石×1,098〉

〈冒険者道具×1〉〈調理器具×1〉〈錬金器具×1〉〈変装道具×8〉〈盗賊道具×1〉

〈掃除道具×1〉〈茶道具×1〉〈絵画道具×1〉〈手持ち楽器×4〉〈採掘道具×1〉

〈木刀×1〉〈ミスリル合金の軽鎧×1〉〈ミスリル合金の短剣×1〉

〈音信のイヤリング×1〉〈交易品×300〉〈錬金炉×1〉

〈教国軍の消耗品×199,200〉〈教国軍の装備品×19,990〉〈教国軍の雑貨×99,180〉

〈盗賊団の消耗品×1,000〉〈盗賊団の装備品×100〉〈盗賊団の雑貨×997〉

〈金貨×517〉〈大銀貨×1,948〉〈銀貨×1,831〉〈大銅貨×116〉〈銅貨×60〉


▼ 商業ギルドからの借金

オース名義:金貨2枚

グリィ名義:金貨2枚


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