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第二百四十九話 戦闘訓練の授業で検証 その一


 ジェラード王国、王立学校、訓練場。


 春になって少しずつ暖かくなってきた日差しが差し込むこの運動施設に、選択授業で戦闘訓練を選んだ二年の生徒が、様々な学科から訪れていた。


 一年の頃も選択授業で戦闘系の授業を選ぶ機会があり、当時は近接・遠距離・魔法と、戦闘の種別によってさらに項目が分かれていたのだが、今年の授業はそういった区分なく合同で行われるようだ。


「じゃあみんな、今から私が伝える通りに列を作ってくださいねー」


 今回二年生の戦闘授業で行われる内容は、一年の時にそれぞれの分野を学んだ生徒で混合パーティーを作り、他人と協力する部分を鍛えるということ。


 去年の授業で、学校に来てから本格的に戦闘を学び始めた生徒も、最低限、一体・二体の弱い魔物程度であれば、ソロでなんなく討伐できるレベルには成長しているようだが、残念ながら相手がそんな少人数で向かってくることは滅多にない。


 そして、群れを成す獣や魔物を相手にする場合は、こちらもチームを組んで対処するのが一般的である。


 冒険者ギルドで受注する討伐依頼では、低ランクのうちからそういった相手と戦うことになる依頼があったりするので、二年に上がってからチーム連携を学び始めるのは遅い気がするのだが、戦争のゴタゴタで通常の授業が行えない期間があった影響で、全体的に授業の進みが遅れているそうだ。


「はい、ちゃんと分かれましたね。最低でも今日いっぱいは、その同じ列に並んだ人がチームになりますので、お互いに自己紹介をして、よく顔を覚えてください」


 まぁ、授業が遅れていることに関しては、別にいい。


 自分の場合は学校から離れている期間も長かった分、同学年の生徒の中でも学習内容が遅れていると思っていたからな。全体的に遅れているのであれば、自身が遅れている分を取り返す労力も少なく済んで良いだろう。


「特にクレームが無ければ、基本的には、今年一年間ずっと同じチームになりますので、皆さん、仲良くしてくださいねー」


 問題は……。


「セイティ殿、何か忘れていないだろうか?」


「あら? 何のことかしら?」


「いや、疑問を持つ隙も無く、何処からどう見ても変だろう……自分がまだどのチームにも割り振られていない」


 この場を取りまとめている我がクラスの担任、セイディ殿は、わざとらしく眉を下げて小首をかしげているが、こうして生徒のチーム分けが終わってもなお、自分の名前が呼ばれてないのはおかしい。


 これがバグで無かったら、いったいどんなイベントだというのだろうか。


「うふふ、心配しなくても、あなたのことは忘れてないから大丈夫よ」


「うーむ……では、これはいったい?」


「オースちゃん、このチーム分けを見て、どんな風に分けているのか分かる?」


「ふむ?」


 セイディ殿に質問を質問で返され、自分はその意図を探ろうと分けられたチームの面々を眺める。


 男女比などは気にせず、前衛と後衛がバランスよくなるように分けられているように見えるが、こうしてあえて尋ねられているのだから、そんなパッと見で分かる内容のことを聞いてきている訳ではないのだろう。


 自分は【超観測】スキルを発動して、全員の【鑑定】情報を改めて確認してみた。


「なるほど……それぞれのチーム間ではなく、チーム内での力の差が少なくなるよう、同じくらいの実力の者でチームが組まれているようだな」


「正解! ずっと学校に来ていなかったから皆が戦ってる姿なんて見てないはずなのに、顔や背格好を見ただけでそれが判断できるなんて、やっぱりオースちゃんは規格外ね」


 顔や背格好を見て判断したわけではなく、【鑑定】によるレベルやステータス、スキル構成によって判断したのだが……まぁ、あえて訂正することも無いか。


「それで、そのチーム分けのやり方と、自分がどのチームにも入れられていないのは、いったいどんな関係があるというのだ?」


「そんなの、オースちゃんと同レベルの生徒がいないからじゃない」


「う……うむ……」


 確かに、そう言われてしまえば、いつの間にやら剣の帝王と称される父上や魔法国の賢者と称されるソメール教皇に手が届きそうなステータスとなっている自分と肩を並べられる者が、この学生……いや、学校の生徒の中などに存在するはずがない。


 そして、レベル差の開いた者が同じチームにいた場合、どれだけ気を付けたとしても、戦闘でもそれ以外の面でも、高レベルの人物に頼る場面が多くなり、他の者の成長を妨げることになる。


 だからこそ、セイディ殿はこうして同チーム内でレベル差が出ないようにチーム分けをしているのだろう。


 彼女は鑑定系のスキルは持っておらず、チーム分けの内容も事前に決まっていたことを考えると、その割り振り方はあらかじめ各学科の担任からこの授業の参加者の情報を集めて決めてあったのかもしれないな……。


「いや、だとしても。そこのチームなら、別に自分が加わっても問題ないのではないか?」


 そういって自分が指さしたのは、馴染みのある面々が集められた一つのチーム。


 冒険者学科のグリィを先頭に、王族・貴族学科のヴィーコ殿……そして、なぜか職人学科であるはずのカイ殿を加えた三人チームだった。


 ちなみにアーリー殿やカヤ殿、ロシー殿は、目立つのが嫌だとか、戦闘よりも研究や技術の向上に力を入れたいといった理由で戦闘訓練の授業を選択しなかったようだ。


「……というか、なぜカイ殿がここにいるのだ?」


「うーん、運動と、鍛冶の授業で思うようにいかないストレス発散のため。かな?」


「う、うむ……そうか」


 彼の双子の姉であるロシー殿が来ていないことを考えると、彼女の方は鍛冶の授業でもうまくやれているのだろう。


 錬金術研究学科はゼロ人、魔道具研究学科もゼロ人のところ、職人学科で一人だけ参戦……。

 その参加人数を見ても分かる通り、研究学科や職人学科は本来、戦闘訓練に参加するような学科ではない。


 にもかかわらず、そんな職人学科からやってきた彼が、グリィ殿やヴィーコ殿と同じチームに組まれているとは……セイディ殿が本当によく生徒の実力を調べて今回のチームを組んだのだと感心せざるを得ない。


 だからこそ、他のチームとは明らかな実力の差があるそのチームに、自分が参加しても良いのではないかと思うのだが……。


「このチームで組んだ理由、そして、オースちゃんが一人だけあぶれている理由を説明するためにも……みんなに、これからやってもらうことを説明しますね」


 セイディ殿はこの振り分けが最適なのだと言うつもりらしい。


 彼女はまだ疑問が解消しきっておらず首を傾げている自分を放置して、生徒たちに授業の内容を説明し始めた……。


 授業内容を簡単にまとめると、要は、チーム対チームの模擬戦闘ということのようだ。


 この戦闘訓練の授業に参加している生徒の人数は、四十人ほど。

 ひとチームあたりの人数は、多くて五人構成。


 一人しかいない自分のチームと、三人しかいないグリィ殿、ヴィーコ殿、カイ殿のチームを含めて、全部で十チームとなっている。


 授業内容としては、今いるこの訓練場を五つの区画に分けて、それぞれの区画で二つのチームが模擬戦闘を行うというものだ。


 授業にはセイディ殿以外にも冒険者ギルドで雇われたらしい臨時の先生が四人来ており、五つの区画に対してそれぞれ一人の先生が付く形で、実際に短い模擬戦闘を繰り返しながら、前衛や後衛としての役割、どう動けばいいのかを教えてくれるらしい。


「なるほど、読めたぞ。それで自分はひとりで、グリィ殿たちのチームと戦う、というわけだな」


「いいえ、違うわよ?」


「?」


「オースちゃんが戦うのは、グリィちゃん、ヴィーコちゃん、カイちゃんの三人に、さらに私を加えた、四人のチームです」


「なん……だと……」


「だって三人だけだと、後衛が物足りないじゃない」


「いや……それは、そうかもしれないが……」


 確かに、グリィ殿とカイ殿はスピードとパワーを併せ持ったバリバリの前衛。

 ヴィーコ殿は魔法も近接戦闘もこなせる中衛タイプで、やろうと思えば後衛の役割も出来ないということもないのだろうが、純粋な後衛タイプではない。


 そう考えると、弓術と攻撃魔法、回復魔法を得意とする、後衛らしい後衛タイプではあるセイディ殿をそこに加えるのも間違っていないようにも思えるが……。


「……自分の戦闘難易度が跳ね上がりすぎではないだろうか」


「私が入らなかったら、逆に三人の方が大変でしょ? オースちゃんの訓練にならないし」


「……まぁ」


 ……それは少々懸念していた。


 三人とも他の生徒と比べるとかなりの実力者ではあるが、脳内でシミュレーションする限り、その誰もが一対一であればそれほど苦労なく勝てるであろう相手に思えるので、自分が本気を出してしまったら、連携する暇を与えることなく各個撃破してすぐ片付いてしまう可能性がある。


 そうなるとどうしても、自分が手加減して三人の訓練をつけてあげるという流れになり、自分自身の訓練にはならない……まぁ、別に自分はそれでも構わないのだが。


 だが、セイディ殿が加わってしまったら、その立場が逆転する。


 まだ彼女の真なる実力をこの目で見れていないが、ステータスだけ見ればセイディ殿の力は父上や祖父上、教皇殿と並ぶレベルだ。


 一対一でも教皇殿と戦った時くらい苦戦するであろう相手なのに、そこに他の生徒とは一線を画す三人が入ってくるとなれば、自分一人で捌けるかとたんに怪しくなる……。


「はい、じゃあ他のみんなも、チームの振り分けとかに気に入らないことがあっても、とりあえず指示にしたがってくださいねー。では、解散ー」


 セイディ殿はそう言って、他の生徒にも有無を言わせることなく、担当の先生たちと共に振り分けられた区画へ向かうよう指示を出した。


 この場に残ったのは、自分と、グリィ殿、ヴィーコ殿、カイ殿、そしてセイディ殿の五人だけ。


 グリィ殿は眠そうにあくびをしていて、ヴィーコ殿は何やら物言いたげな様子でこちらを睨んでおり、カイ殿はワクワクした様子で準備運動をしている。


 うーむ……。


 プレイヤーのレベルに合わせて、フィールドに現れる敵が強くなるのはオープンワールドゲームでよくあることだが。

 まさか、学校の授業の難易度までプレイヤーに合ったのレベルに変わるとは……なかなか作り込まれたゲームだな……。


 この戦闘訓練の授業。


 ……どうやら退屈することは無さそうだ。


 自分は、そういう仕様であれば仕方ないと気を取り直して、カイ殿と一緒になって準備運動を始めた……。


▼スキル一覧

【輪廻の勇者】:不明。勇者によって効果は異なる。

【魔王】:人知を超える魔法を操り、魔物を従える。

【超観測】:任意の空間の全ての状況や性質を把握できる。

【言語理解】:様々な言語を読み、書き、話すことが出来る。


▼称号一覧

【魔王】:勇者の枠を超え、魔王としての役割を果たした。


▼アイテム一覧

〈水×999,999+〉〈土×999,999+〉〈石×199,460〉〈木×18〉〈薪×1,350〉〈布×190〉

〈食料、飲料、調味料、香辛料など×1,845日分〉〈保存食×19,995〉〈飼料×1,700〉

〈獣生肉(下)×1750〉〈獣生肉(中)×394〉〈獣生肉(上)×396〉

〈獣の骨×700〉〈獣の爪×250〉〈獣の牙×240〉〈羽毛×30〉〈魔石(極小)×66〉

〈革×270〉〈毛皮×90〉〈スライム草×90〉〈抑制の首輪×5〉

〈着替え×980〉〈本×90〉〈遺物×10〉〈宝石・鉱石×1,098〉

〈冒険者道具×1〉〈調理器具×1〉〈錬金器具×1〉〈変装道具×8〉〈盗賊道具×1〉

〈掃除道具×1〉〈茶道具×1〉〈絵画道具×1〉〈手持ち楽器×4〉〈採掘道具×1〉

〈木刀×1〉〈ミスリル合金の軽鎧×1〉〈ミスリル合金の短剣×1〉

〈音信のイヤリング×1〉〈交易品×300〉〈錬金炉×1〉

〈教国軍の消耗品×199,200〉〈教国軍の装備品×19,990〉〈教国軍の雑貨×99,180〉

〈盗賊団の消耗品×1,000〉〈盗賊団の装備品×100〉〈盗賊団の雑貨×997〉

〈金貨×517〉〈大銀貨×1,948〉〈銀貨×1,831〉〈大銅貨×116〉〈銅貨×60〉


▼ 商業ギルドからの借金

オース名義:金貨2枚

グリィ名義:金貨2枚


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