表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
290/310

第二百四十八話 入学と進級で検証

 

「生徒の皆さん。ご入学、ご進級、おめでとうございます。この度、あなた方は、己の強い意志と、才能と、人並み以上の努力で、こうして新たな環境、新たな学年へ進んできたわけですが……」


 ジェラード王国、王都、王立学校。


 開拓当時は城塞として利用されていたこの建物には、現代日本にあるような、全校生徒を収容できる体育館などといったものは存在しない。というより、世界的に見ても室内で運動をするという考えはまだあまり無いようで、この大陸のどこを探しても屋根のある運動施設は存在しないだろう。


 そもそも、この世界で運動と呼ばれるのは、狩りや乗馬、武器や魔法や己の肉体での戦闘訓練、走り込み、筋力トレーニングといったもので、サッカーやバスケットボールなどの球技を行っている様子は見たことが無い。


 よって、こうして全校生徒が集められる広い場所として挙げられるのは、周りは壁で囲われているものの、上を見上げれば視界には青空が広がる訓練場というわけだ。


「……であるからして。今後も、その目標を持って前に進むという気持ちを忘れずに、同じ環境で過ごす仲間たちと協力し、助け合い、励まし合い、時に競い合いながら……」


 だが、いくら場所や環境、文化が変わろうとも、校長先生の話が長いという仕様は変わらないらしい。


 古き悪き現代日本独自の文化だと思っていたのだが、このゲームの開発者に日本人が参加しているのか、世界的にも同様なのか、ここの校長も話が長いようだ。


 一年前、自分が入学した初日は、どうにか正規ルート以外で学校に侵入することが出来ないかという検証を行っていた影響で登校が遅れ、ホームルームの合間に行われていたらしいこの全校集会イベントに参加するのは今回が初となるのだが、これほどムービースキップ機能が実装されていない件に落胆を感じたのも初めてだった。


 うーむ……イベントのセンスをとやかく言うつもりはないが、開発者に連絡が取れる手段が見つかったら、まずはムービースキップ機能の追加実装を検討してもらおう。


 いやむしろ、この機会に、全校集会を途中で抜け出すという検証をしてみるのもいいかもしれないな……。


「……コホン」


 と、そんなことを考えて出口の方を見やると、そのちょっとした視線誘導から自分の考えを察したのだろうか、今日登校してからずっと自分に付きまとっているエルフの女性が背後で咳払いをした。


 振り返った先にいる彼女は、まるで聖母のようだと表現できそうなほど美しく柔らかな微笑みをたたえていたが、自分の立場に立ってそう思える人物がいれば、よほど図太い神経を持っているか、魔法探知系の能力に乏しい人物だろう。


 フランツ殿が率いるBランク冒険者〈爆炎の旋風〉の後衛、セイディ殿は、彼女をよく知る周囲の冒険者たちから〈微笑みの悪魔〉と呼ばれているように、笑顔のまま凶悪な魔法を叩きこんでくる、エルフの魔法使いだ。


 この学校に入学してから彼女が担当する魔法の授業中に散々経験してきたが、現在、自分は彼女の展開するいくつもの目に見えない魔法陣によって囲われている。


 エルフの目と呼ばれる魔力視の技術を使わなければ見えないその魔法陣は、二種類を同時に用いる珍しい構成となっており、発動するとそれぞれの魔法陣で正と負の電位差を生じさせ、二点間にコロナ放電やグロー放電、火花放電を発生させる仕様だ。


 電位差や、負側の電荷量を調整しやすい作りになっていることから、放電の種類や流す電流の大きさ……つまり、対象に与えるダメージを細かく制御できる構造なのだろう。

 だが、今自分の周りに展開されているそれは、何処からどう見ても人間が浴びていいような手加減された調整になっていない。


 電流を受け取る正の魔法陣には、一般的に避雷針と呼ばれる被雷設備と同じように接地の役割を果たす魔力線が地面深くまで伸びており、被害を受けるのはその魔法陣が足元に設置され受電部として機能してしまっている自分だけとなる想定なのだろうが、それが無ければ周囲にいる生徒にも大変な被害が及ぶのではないだろうか……。


 全く、とんでもない人が担任になったものだ。


「……であるからして。このジェラード王国に入学を認められた名誉ある生徒という自覚をもち、その肩書きに恥じぬ生活を心がけ、甘い誘惑には負けず、危険な行動を慎むということも大切で……」


 懸念していた自分の進級についてだが、結論としては、無事に二年生へと進級できた。

 いや、正確に言うと「無理やり進級させられた」という方が正しいか……。


 ゲーム側の仕様として元からプレイヤーが留年するパターンが存在しないのか、学校側が提示している本来の条件以外にも、裏ルートとなるような隠れた進級条件が用意されているのかはまだ分からないが、自分は今回、国の計らいで、事前に聞いていた進級条件を満たしていないのにも関わらず進級することとなったのだ。


 王都へ帰ってきた当日、冒険者ギルドにて進級に必要となる依頼が揃っていないことを確認した自分は、ちょうどいい機会なので、そのまま留年する検証を進めようと決めたのだが、それは学校側……いや、この国が許してくれなかった。


 冒険者ギルドを出て、何か月ぶりになるのか、王都に購入した自分の屋敷へ帰宅すると、従者や使用人に一通り歓迎されたのだが、その翌日、いきなり王城への呼び出しをくらうこととなったのだ。


 おそらく、自分が帰ってきたら国の担当者に知らせるようにと、従者が国から事前にいいつけられていたのだろう。

 屋敷に帰った当日には自分が王都に戻ったことが国に伝わり、そして翌日の朝には屋敷に召喚状を持った騎士が派遣されたというわけである。


 もちろん、王城に向かわないという選択も出来るのかという検証もしたが、従者からも国の騎士からも追い回されて、最終的にはどこぞの宇宙人のように両手をつかまれた状態で強制連行されるという検証結果に終わった。


 そんな形で連れられた先で待っていたのは、国王をはじめとする、この国のお偉いさん方……。


 その場で、早急に戦争を止めて王国の被害を無くしたことを表彰された後、王立学校の理事長を務める伯爵からの提案によって、進級条件を満たしていないが進級を許可すると告げられる。


 自分としては別の検証をする予定だったので、表彰も進級も謹んで辞退すると申し出たのだが、「これは決定事項であり、貴殿に拒否権はないものとする」と国王に言われてしまったら、どうすることもできないだろう。


 そんなわけで、自分は今日から晴れて王立学校の二年生となったのだ。


 聞いた話によると、冒険者学科二年の担任は去年までセイディ殿ではなくアンナ殿だったようだが、今年からセイディ殿に変わったらしい。


 同じフランツ殿が率いる冒険者パーティー〈爆炎の旋風〉のメンバー内でも、フランツ殿やアンナ殿、ルノー殿であれば、まだ自分の持つ様々なスキルを駆使すれば逃げ出すことも可能だったのだろうが、セイディ殿のスキル構成は、弓術、魔法、隠密などなど……。

 近接戦闘以外は万能で、しかもエルフ標準装備の魔力視まで持っているので、殆ど隙が無いからな……ある程度のレベルに到達しているプレイヤーに対するメタ対応として、こういったイベントが発生する仕様になっているのだろう。


 それぞれの能力がどれほど秀でているかは分からないが、パーティーメンバー内で一人だけレベルが突出している上に、鑑定画面の名前欄に家名も表示されていることから、実際にはどこかの王族か貴族らしく、魔力量も自分と同等である。


 うーむ……今年の学校内の検証は、なかなか骨が折れそうだ。


「……ということで、私たち教員一同。未来の皆さんが社会に貢献し、活躍できるよう、心から期待し、応援し、助力したいと思っています。以上」


 そんなことを考えていると、どうやらやっと、スキップできないムービーが終わったようだ。


 生徒たちは長かった校長先生の話が終わると、担任の指示に従い、それぞれの学年、それぞれの学科ごとの教室へと戻っていく。


「校長の話、長かったなぁ」


「そうっすね、長すぎて、立ったまま寝そうになってたっすよ」


「いや、グリィはんは寝そうになってたんやのうて、実際に寝てはったやん」


「あれ? 寝てたっすか?」


 自分と共に冒険者学科二年生の教室へと戻るのは、冒険者パーティー結成当時から一緒に検証活動をしてくれているグリィ殿と、比較的最近、盗賊ギルドのメンバーであったことが判明したウィル殿。


 同じく盗賊ギルドメンバーであるリヤ殿も無事に入学試験に合格したが、今年から新一年生として入学する彼女はフランツ殿が担任をする教室だ。


 同学年の仲間たちも、アーリー殿は錬金術研究学科、カヤ殿は魔法研究学科、ロシー殿とカイ殿は職人学科、ヴィーコ殿は王族・貴族学科で、みんなそれぞれ無事に進級を果たしている。


 アクセル殿は戦争の騒動以降バタバタとしているソメール教国で、そのピンチをチャンスに変えようと様々な制度に変化を加えているらしい教皇殿の手助けをするということで、学校の方は正式に中途退学しており、進級も留年もしなかった。


 自分も強制的に進級してしまったので、検証チームの誰も留年の検証をしていないことになるが、出来なかったものは仕方がない。未検証項目としてメモ画面に残しておいて、この学年で検証してみるか、二周目以降での検証としよう。


「……ちゅうよりも、あんさんらは学校に通う必要あるんか?」


「む? どういうことだ?」


「ソメール教国の騎士や王族とやり合えるくらいの戦闘能力があって、貴族や王族とのコネもあって、こん国の王様に認められるほどの実績もあるんやろ? それって冒険者ん中でも本来はAランクの人らが手にする力やで」


「既に学校で学ぶ以上の力を身に着けているから、もうこれ以上ここで学び続ける必要はないということか?」


「それもあるねんけど、そんだけの実績があるんなら、別に学校を中退しても冒険者ギルドで受ける仕事に困ることもあらへんやろ」


「ふむ……どう思う? グリィ殿?」


「え? いや、今でも普通に一人で依頼を受けようとすると渋られるっすけど……」


「自分も似たような状況であるな。学校を中退しても冒険者としての仕事に困ることは無いなどと感じたことは無い」


「……なんでや」


 まぁ、どれだけ周囲からの評判が良くても、実力がその評判に伴わない冒険者に依頼を任せたくないだろうからな……依頼達成・失敗率が五分五分くらいの自分やグリィ殿の評価が高くなるわけがない。


 自分の方は、学校に戻ることが決まった当時、ちょうどいい機会だと思って冒険者ギルドの身分証を再発行する検証を行った際、支部長の執務室に呼び出されて長々とお小言をもらったりしたしな……。


 結局、自分が冒険者ギルドの身分証を無くすきっかけとなったバジオーラ侯爵からの盗人行為は、当初その被害届が冒険者ギルドにも提示されていたらしく、一時は自分の冒険者の資格をはく奪するというところまで話が進んでいたらしいが、ソメール教国がその被害届を取り下げたらしい。


 むしろ教国からは領主の悪事を暴いたことに対してお礼をしたいと言われ、それに続くように、ジェラード王国からは国を救った英雄として王城に召喚したいと言われ、続いてグラヴィーナ帝国からも行方の調査を依頼される……。


 冒険者ギルドは自分一人に対して、各支部に指名手配犯として捜索依頼を出したり、国を救った英雄として捜索依頼を出したり、失踪した王族として捜索依頼を出したりと大忙しだったようだ。


 だが、自分が各国に無事を知らせた上で、別件で検証作業中だから待っていて欲しいと手紙を出したことで、国を挙げての捜索活動は沈静化。

 ギルドは各支部に今度は捜索を中止するように知らせを出すこととなり、各役員はもちろん、現場で働く従業員たちも、当時は、目まぐるしく変化する自分の扱いに対して、現状のステータスが分からず、大変混乱を極めたようだ。


 そして、ようやく冒険者ギルドの統率が落ち着いた頃に、ようやく噂の人物が登場。


 自分が冒険者ギルドの身分証を再発行してもらいに行った時、裏で動いていたそんなバタバタが片付いたタイミングと重なったようで、ダルラン領都の冒険者ギルド支部長は大変疲れた様子で、「君への対応はSランク冒険者に匹敵する」と褒めてくれた。


 詳細を知らされることもないのであろうギルド受付を含む現場職員は、結局のところ自分がどんな人物なのかは分かってはいないようで、ただただ当人目線で依頼達成率が悪い上に現場に混乱をもたらす厄介な人物として認識され、今でも、ため息交じりに冷たい視線で対応してくれているのが現状だ。


 そんなわけで、冒険者ギルドは、自分たちの無駄に大げさな肩書きに惑わされることなく、きちんと実績基準で正しい評価をしてくれている、非常に信頼できる機関であると言えるだろう。


「……というわけで、そんな冒険者ギルドからの評価を上げるためにも、この学校はきちんと卒業しなければならない。二人とも、今年からまたよろしく頼むのである」


「はい、よろしくっす!」


「あぁ、まぁ、よろしゅうな……」


 どの学科も学年ごとにクラスは一つしかないため、クラス替えイベントなどは無いものの、新たな学年では、新たな授業があるはず。


 新入生としてリヤ殿も加わったことだし、この機会に、今年は学校の先輩や後輩と関わる検証をしてみてもいいかもしれないな。


 それに、ソメール教国の騒動で入手した【魔王】というスキルも未検証だし、盗賊ギルドのイベントで入手した〈錬金炉〉も未検証の状態……。


 ふむ……学校内外もろもろ含め、まだまだ検証項目は盛りだくさんだな。


 自分は新たな学年、新たな検証に期待を膨らませながら、教室へ戻っていった。


▼スキル一覧

【輪廻の勇者】:不明。勇者によって効果は異なる。

【魔王】:人知を超える魔法を操り、魔物を従える。

【超観測】:任意の空間の全ての状況や性質を把握できる。

【言語理解】:様々な言語を読み、書き、話すことが出来る。


▼称号一覧

【魔王】:勇者の枠を超え、魔王としての役割を果たした。


▼アイテム一覧

〈水×999,999+〉〈土×999,999+〉〈石×199,460〉〈木×18〉〈薪×1,350〉〈布×190〉

〈食料、飲料、調味料、香辛料など×1,845日分〉〈保存食×19,995〉〈飼料×1,700〉

〈獣生肉(下)×1750〉〈獣生肉(中)×394〉〈獣生肉(上)×396〉

〈獣の骨×700〉〈獣の爪×250〉〈獣の牙×240〉〈羽毛×30〉〈魔石(極小)×66〉

〈革×270〉〈毛皮×90〉〈スライム草×90〉〈抑制の首輪×5〉

〈着替え×980〉〈本×90〉〈遺物×10〉〈宝石・鉱石×1,098〉

〈冒険者道具×1〉〈調理器具×1〉〈錬金器具×1〉〈変装道具×8〉〈盗賊道具×1〉

〈掃除道具×1〉〈茶道具×1〉〈絵画道具×1〉〈手持ち楽器×4〉〈採掘道具×1〉

〈木刀×1〉〈ミスリル合金の軽鎧×1〉〈ミスリル合金の短剣×1〉

〈音信のイヤリング×1〉〈交易品×300〉〈錬金炉×1〉

〈教国軍の消耗品×199,200〉〈教国軍の装備品×19,990〉〈教国軍の雑貨×99,180〉

〈盗賊団の消耗品×1,000〉〈盗賊団の装備品×100〉〈盗賊団の雑貨×997〉

〈金貨×517〉〈大銀貨×1,948〉〈銀貨×1,831〉〈大銅貨×116〉〈銅貨×60〉


▼ 商業ギルドからの借金

オース名義:金貨2枚

グリィ名義:金貨2枚


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ