第二百四十二話 ハグレ盗賊団との抗争で検証 その二
「ふむ、この盗賊も意外とレベルが高かったな」
レイザー盗賊団のアジト。宝物庫前。
盗賊ギルドが襲撃を開始する前に、リヤ殿と二人だけで盗賊団のアジトへと乗り込み、無事に捕まった自分は、捕まるまで行っていたトラップの検証で疲れたらしいリヤ殿だけ牢屋に残し、ひとりでアジトのさらに奥へと進んでいた。
盗賊団が壊滅してしまったら、もう盗賊団と戦う検証が出来なくなるということで、出会った敵とは全て戦い、全て拘束し、全てのアイテムをいただきながら進んでいるのだが……レイザー盗賊団の戦闘レベル……なかなかに高い。
盗賊ギルドで仕事をひとつ成功させた際に貰える報酬が、入ったばかりの新人でもCランク冒険者程度だったことも踏まえると、そもそも盗賊ギルドに加入する適正レベルがそれほど高かったということなのだろうか。
いずれにせよ、盗賊ギルドのストーリーイベントと思われるこのイベントで遭遇する敵は、誰も彼もDランク冒険者以上の実力を持っている事が分かった。
まぁ、自分の場合は、イベントがあるときも無い時も様々なことを事細かに検証しながら進めているせいで、いつの間にかAランク冒険者以上の戦闘スキルが身についてしまっているので問題ないのだが……。
リヤ殿も含め、盗賊ギルドのメンバーの中には戦闘面でそこまでの力量が無い人物も多かったので、イベント難易度は少し高いかもしれないな。
今回の襲撃作戦を計画したジャン殿も盗賊ギルド側の被害を抑えたいはずなので、戦闘経験が少ないメンバーは襲撃隊から外してあるとは思うが、そうして能力の平均値を上げたとしても、実力のある人員の数が相手側の方が多くなることは避けられない。
ただイベントをクリアすることだけを目標にするとしてもそれなりに高い推奨レベルになりそうだが、ギルド側の犠牲をゼロでクリアすることを目標に掲げるのであれば、その推奨レベルはさらに高いものになるだろう。
それに、このイベントで面倒なのは、戦闘面だけじゃない。
「結局、ここまで来るのに正攻法で突破できた扉は、二か所だけか……」
ダンジョン全体が坑道のようになっているレイザー盗賊団アジトは、複数の区画に分かれており、各区画を跨ぐ際に鍵の掛けられた扉を開ける必要がある。
自分はここに来るまでに五つの扉を通過したが、強行突破という手段に出ずに通過できた扉は二箇所だけだった。
外から見ると洞窟にしか見えない最初の入り口には、扉どころか見張りすら立っていなかったが、それは、そもそも入口が複数ある上に、分かれ道もトラップもたくさんあるというセキュリティを実現しているためだろう。
最初の扉は、そのトラップ区画を抜けて牢屋区画へと進む際の扉。
この扉のセキュリティは簡素なもので、見張りもいなければ、シンプルな錠前がひとつ付いているだけだったので、ピッキングで問題なく通過できた。
次の扉は、侵入者を捕らえる他、おそらく人攫いなどをした時にも使われるのであろう牢屋区画から、盗賊団の新人などが寝泊まりする場所であろう、下級居住区画へと進むための扉。
ここも含め、この先にある扉も全て同じようなセキュリティとなっているのだが、それがなかなか厄介だった。
どの扉も物理的には、時間をかければピッキングすることも可能な鍵ではあったのだが、扉のこちら側にも向こう側にも必ず見張りが配置されていたので、発見されずにピッキングを完了させるのはまず不可能。
加えて、離れた場所からその扉をしばらく観察していたところ、手前側から奥へ進む盗賊団員の誰もが、奥側にいる見張りに頼んで内側から鍵を開けてもらっており、こちら側から鍵を使って扉を開けている盗賊団員は一人もいなかった。
おそらく、鍵を盗まれないようにするために、そもそも一般盗賊団員はその扉を開ける鍵など初めから持っておらず、奥の見張りに開けてもらうのがデフォルト。その扉の鍵は幹部などが緊急用に所持しているだけ、という仕組みなのだろう。
それに、ゲームでよくある、扉の向こう側にいる相手に合言葉を言って鍵を開けてもらう、というようなセキュリティも採用して無いらしい。
盗賊団に入って日が浅い新人なのか、ただ開けてくれと言っても扉を開けてもらえず、所属チームや名前を伝えてようやく開けてもらえている場面も見かけたが、それでも合言葉のようなものを求められることはなかったし、殆どの盗賊団員は顔パスで通っていた。
「盗まれる危険のある鍵認証や、情報漏洩の可能性があるパスワード認証ではなく、漏洩や偽装が難しい顔認証か……それを行っている方法自体は人力による目視確認と原始的ではあるが、セキュリティ対策としては中々に最先端寄りだな」
そんなわけで、このイベントは敵の強さだけでなく、セキュリティを突破するためにも少々高いレベルが要求される。
まぁ、そうは言っても、別に扉が破壊不能オブジェクトというわけでもないので、ここの敵を倒せる程度のレベルがあれば、扉を物理的に破壊したり、見張りを倒した後にゆっくりピッキングしたりすればクリア可能だが。
もしこのゲーム自体、もしくはこのイベントに、敵に一度も発見されずにクリアすることで称号やトロフィーが獲得できるようなスニーキング要素があった場合は、それを実現するための難易度は跳ね上がるだろう。
現状、ひとまず敵との戦闘検証を優先にしており、正攻法で突破したとしても開けてくれた見張りと戦闘することになるので、今回のところは問題ないが、自分も二周目以降で実績解除などの検証をする際には注意しなければならないな。
「それより今の問題は、目の前の扉か……」
そうして各区画にいる盗賊団員を倒しながら進んできた現在。
今自分の目の前に立ちはだかっているのは、マップ画面に宝物庫と書かれている部屋に入るための、大きく頑丈な扉。
トラップ区画、牢屋区画、下級居住区画の先、中央区画からの分かれ道……。
会議区画でもなく、倉庫区画でもなく、上級居住区画でもなく、宝物庫へと続く扉。
その扉の前に、自分は立っていた。
ちなみに、区画としては一本道だった手前の四区画に加えて、中央区画からの分かれ道となっている会議区画と倉庫区画も検証済みなので、あと検証が必要なのは、この宝物庫と、上級居住区画から先のマップだけだ。
「左右に大きく離れた二箇所の鍵を、殆ど同時に開錠しなければ開かない……うーむ、どうしたものか」
複雑な鍵ではあるが、ピッキングで開けること自体は可能だった。
だが、どれだけ器用に指を動かせるとしても両手を使わずにはピッキングできないタイプの鍵であったし、そもそも片手でのピッキングが可能だったとしても、距離的に人間の腕では同時に届かないほど左右の鍵の距離は離れている。
せっかく開けた鍵が自動で施錠されてしまった音を聞いたタイミング的に、片方を鍵を開錠してから、もう片方の開錠が必要になるまで、コンマ五秒後ほどの猶予はあるようだが、片方のカギをピッキングするまでに最速でも三秒はかかりそうなので、移動がどれだけ早くても絶対に間に合わない。
「やはり、ここは一旦リヤ殿を呼びに戻るか」
彼女のピッキングスキルであれば、この扉の鍵も問題なく開けられるだろうから、鍵を開けるタイミングが合わずに何度か失敗することがあっても、最終的には開けられるはずだ。
だが、魔法的な鍵ではないので、魔法陣を読み解いて構造を解析することもできず、外見と実際に触った感覚を元に鍵の構造を予想することしか出来ないため、この鍵に失敗回数によるデメリットが無いかが判断できない……。
先ほど片方の鍵を開けて失敗しているので、もし開錠失敗回数が二回、三回となることで正規の方法で開錠できなくなるような構造だった場合、リヤ殿とのタッグで失敗した際に、正規の開錠を検証することが出来なくなってしまうのだ。
「うーむ……やはり、正規ルートとしては、必要となる二つの鍵を見つけた上で、仲間と共に開ける方法になるのだろうな」
失敗して正規の方法で開かなくなるというのであれば、それはそれで検証したいが、それは正規の方法で開ける検証をしてからでも可能だろう。
だが、逆に失敗する検証を先に行ってしまっては、正規の方法で開ける検証が出来なくなってしまう。
ここは一度諦めて、別の区画の検証を先に行った方がよさそうだな。
……と思ったのだが。
「む? これは……」
先に上級居住区画を検証しようかとマップ画面に目を向けた自分は、方針を悩んでいるうちにアジト内の状況が変化していることに気が付いた……。
「盗賊ギルドの襲撃作戦が動き出したか……」
レイザー盗賊団のアジト入口付近に視線を向けると、そこにはたくさんの人物アイコンが集合している様子が伺える。
アイコンをタップして確認すると、それは盗賊ギルドのボス、ジャン殿を含む、盗賊ギルドの襲撃隊のようだった。
最後の打合せをしているのか、どの入口から突入するかを迷っているのか、まだその場に立ち止まっている状態ではあるが、そう時間を置かずにここへ突撃してくるだろう。
「そして、こっちも動き出したか」
盗賊ギルドのメンバーが集まっている場所から視線の移し、アジトの内部を確認すると、上級居住区画より奥にいた盗賊団員の殆どが、倉庫区画へと集まっていた。
おそらく、上級居住区画にいた誰かが中央区画に移動した際に、そこで縛られた状態で意識を失っている盗賊団員を発見し、集合をかけたのだろう。
倉庫区画へと集まっているのは、そこに保管されていた質の良い武器や防具を装備して戦闘準備をしようとした結果だと思われるが……。
「残念ながら、そこはもう検証済みだ」
倉庫区画にあった装備品やポーションの類は、もう自分の亜空間倉庫の中。
それどころか、机や椅子などの家具から、アイテムが格納されていた木箱や樽、保存食や飲料すらも全て取得済みだ。
盗賊団員たちは空っぽの空間を目の前にして、大層慌てているだろう。
「それに、集まっている数も、それほど多くはない」
盗賊団員の多くは、下級居住区画と中央区画におり、それらの区画にいた団員は全て、誰か助けを呼びに行く暇も与えずに拘束してある。
全員脳震盪で気絶しているだけなので、どうにか起こせば戦闘メンバーに合流させることも出来るだろうが、武器を持っていないどころか、洋服すら下着しか身に着けていない仲間が合流したところで、総合戦闘力はそこまで高くならないだろう。
今倉庫に集まっているのは上級居住区画から先にいた面々なので、戦闘レベルが高い者が多いという点が問題ではあるが、あのくらいの人数であれば、盗賊ギルドの襲撃隊でもそれほど苦戦はしないと予想される。
「問題は、まだ牢屋区画で休んでいるリヤ殿か……」
彼女と別れる際、リヤ殿を残した牢屋にそれなりに強固な守りと施錠の魔法をかけてきたので、一般の盗賊団員には手を出すことすらできないだろうが、魔法系のトラップを設置したと思われる盗賊団員であれば、おそらくその魔法を解いてしまうだろう……。
リヤ殿は単純な身軽さで言えば、うちの冒険者パーティーメンバーと引けを取らないレベルだが、彼女は冒険者パーティーメンバー達とは違って魔力が少ない。
魔力を使った身体強化などを含めると、当然パーティーメンバーたちと対等に渡り合うことはできないし、戦闘系のスキルも少ないので、戦闘力だけで言えばさらに下だ。
彼女の力を贔屓目なしで正確に判断するならば、今倉庫区画にいる盗賊団員の中で一番弱い敵と戦ったとしても、倒し切ることすら難しいレベルといったところだろう……。
逃げに徹したら何とか逃げ切ることはできるかもしれないが、それも一対一だった場合だけ。複数人を相手にしてしまったら、それすら難しくなる。
「選択肢としては、助けに行く一択……なのだが……」
状況が変わったことにより発生した問題は、もう一つ……。
こちらに、盗賊団の頭領、レイザーが向かってきているのだ。
手下を二人連れているようで、そちらは多少戦闘レベルが高くとも自分であれば余裕をもって倒せる程度なのだが……頭領レイザーの強さは……異常だ。
いったいどんな経験を積んだらそうなるのか、彼のステータスに表示されているキャラクターレベルの数値は、自分や、父上や祖父上、教皇殿と同等。
名前や役職、二つ名を見る限り、貴族や王族ではないと思われるのだが……。
……だったらなぜ、そこまでの高みに至れているのだろうか。
おそらく彼らは、自分がここにいることに気づいて向かってきている訳ではなく、宝物庫に格納されている宝を確保して、別の出口から逃げようとしているのだろう。
なので、魔法でどうにか壁や天井に擬態して気配を消すことで、彼らをやりすごし、リヤ殿を助けに向かうことは可能だと思われる。
だがそうした場合、きっと宝物庫のアイテムは全て持ち去られ、盗賊ギルドの今回の襲撃も失敗に終わってしまう。
アーリー殿の特性強化ポーションなど、バフ系アイテムも所持していない状況……。
この状態で戦ったとしても、プレイヤースキル的には絶対に負けないという意気込みは持てるものの、他の盗賊団員のように速攻でノックアウトできる自信があるかと聞かれたら、首を横に振らないわけにはいかないな……。
仲間の命を優先した場合、イベントクリアやアイテムの検証が失敗する。
イベントクリアやアイテムの検証を優先した場合、リヤ殿の命が危ない。
どちらにせよこんな状況になるのであれば、盗賊ギルドの襲撃隊と共に乗り込んでも良かったかもしれないが、そうしていた場合、犠牲となる盗賊ギルドメンバーの数としては、自分がこうして干渉した今よりも多くの被害が出ていたはずだ。
このイベントの推奨レベル……予想よりも遥かに高いようだな……。
▼スキル一覧
【輪廻の勇者】:不明。勇者によって効果は異なる。
【魔王】:人知を超える魔法を操り、魔物を従える。
【超観測】:任意の空間の全ての状況や性質を把握できる。
【言語理解】:様々な言語を読み、書き、話すことが出来る。
▼称号一覧
【魔王】:勇者の枠を超え、魔王としての役割を果たした。
▼アイテム一覧
〈水×999,999+〉〈土×999,999+〉〈石×199,510〉〈木×18〉〈薪×1,400〉〈布×200〉
〈食料、飲料、調味料、香辛料など×1,850日分〉〈保存食×19,995〉〈飼料×1,800〉
〈獣生肉(下)×1750〉〈獣生肉(中)×400〉〈獣生肉(上)×400〉
〈獣の骨×700〉〈獣の爪×250〉〈獣の牙×240〉〈羽毛×30〉〈魔石(極小)×66〉
〈革×270〉〈毛皮×90〉〈スライム草×90〉〈抑制の首輪×6〉
〈着替え×980〉〈本×90〉〈遺物×10〉〈宝石・鉱石×1,098〉
〈冒険者道具×1〉〈調理器具×1〉〈錬金器具×1〉〈変装道具×8〉〈盗賊道具×1〉
〈掃除道具×1〉〈茶道具×1〉〈絵画道具×1〉〈手持ち楽器×4〉〈採掘道具×1〉
〈木刀×1〉〈ミスリル合金の軽鎧×1〉〈ミスリル合金の短剣×1〉
〈音信のイヤリング×1〉〈交易品×200〉
〈教国軍の消耗品×199,200〉〈教国軍の装備品×19,990〉〈教国軍の雑貨×99,180〉
〈盗賊団の消耗品×1,000〉〈盗賊団の装備品×100〉〈盗賊団の雑貨×1,000〉
〈金貨×517〉〈大銀貨×1,948〉〈銀貨×1,856〉〈大銅貨×116〉〈銅貨×60〉
▼ 商業ギルドからの借金
オース名義:金貨2枚
グリィ名義:金貨2枚