挿話 リヤの日常
本編と関係ないわけではない、他の人から見たお話です。
ぼくはリヤ。盗賊ギルドの大ベテラン!
ギルドの皆は未だにぼくを新人扱いしてくるけど、赤ん坊のころから盗賊ギルドにいるから、所属年数で言ったら今のリーダーたちより先輩だよ!
今ボスをやってるジャンが、まだ物を盗む仕事のリーダーをやってた頃、盗賊ギルドの入口に捨てられていたぼくを拾って、それからギルドの皆で育ててくれたってことらしいんだけど、実際のところはどうなのか分からない。
本当は盗賊ギルドにいる誰かが生んだ子供なのかもしれないし、それこそ、貴族や王族の家から盗まれてきた子供だったりして……まぁ、魔力が少ないし、それは無いか。
ただ、ボスも含めて、ぼくを育ててくれた皆は、何かにつけて「お前を育てるのは本当に大変だった」って言ってくるから。そんなに大変な思いをしたのに、孤児として教会に届けなかったのは何で? とか思ったりする。
捨て子なら、わざわざ盗賊ギルドで育てようとしないで教会に届ければ、自分たちが余計な苦労をしないで済んだだろうに。
……でもまぁ、ぼくとしては、盗賊ギルドで育てられて良かったって思ってるけど。
盗賊ギルドの皆は、なんか、温かい。
がさつで、デリカシーとか欠片も持ってないし、タバコ臭いし、酒臭いし、口うるさいけど、なんか、家族ってこんな感じなのかなって思う。
悲しいことがあって心に高い壁を作ったって、そんなのお構いなしに壁を壊して心の部屋に上がり込んできて、かといって別に慰めてくるわけでもなく、その辺で勝手に昼寝を始める。
もちろん、昼寝するなら自分の部屋でしろよって追い出すんだけど、後で、自分は別に一人じゃないんだなって気づけるような……そんな感じ。
ぼくたちがやってる仕事も、何となく、それに近いかもって思う時がある。
もちろん、どう取り繕ったって犯罪なのは、分ってる。
けど、なんとなく、他の誰かがそれ以上悪いことになる前に、小さな悪いことで抑えている。って感じもするんだよね。
命は盗らずに、物だけこっそり盗んだり……。
誰かがもっと危険な立場になる前に、情報をちょちょっと書き換えたり……。
崖から突き落とされそうになっている人に、安全な泥沼の場所を教えてあげたり……。
もしかすると、ぼくが知らないだけで、裏ではもっと酷い仕事をやっていたりするのかもしれないけど、少なくとも、今までぼくが任された仕事は、そんな仕事ばっかりだった。
まぁ、それでも、悪いことであることには変わりないんだけど……。
……だからこそ。
だからこそ、盗賊ギルドの信念を守らない、ハグレ盗賊ってやつらのことは許せない!
命を盗らなきゃ何をやってもいいって訳じゃないけど、命が盗られたら、それ以上何も無くなっちゃうでしょ?
物を盗んだだけなら、許されるかどうかは別としても、その盗んだものを返すことはできる。
情報や心を盗んじゃった場合だと、ちょっと返すってのは難しいけど、最低限、謝ることは出来るかもしれない。
でも、”命を盗んだら、返すことも、謝ることもできない”、からね。
どれもこれもボスからの受け売りで、ぼく自身の言葉とか信念じゃないんだけど……なんかこの言葉、ずっと心に残ってるんだよね。
この言葉を教えてくれた時のボスが、何だか泣きそうな顔をしてたからかな?
だからぼくは、その信念を守らないハグレ盗賊が、許せない。
そして……。
「なるほど、実にいい言葉だな。命を盗んでしまったら、それを返すイベントも、謝罪するイベントも検証できない。その通りだ」
ぼくの好きな言葉を、変な風に解釈している”こいつ”も許せない……。
「ぜんっぜん! その通りじゃないんだけど!」
「ふむ、そうだったか? まぁいい。とりあえず、今回のイベントの検証方針なのだが……」
この、人の話を何一つ聞きやしない男は、二か月前くらいに盗賊ギルドに入ってきた、ギルド一番の新人だ。
年齢だってぼくと同じくらいな超ド新人のくせに、毎日常時やたら偉そうで、どんなことに対しても過剰に自信たっぷりで、なのにそのまま綺麗に失敗したりする、訳の分からないやつ。
魔法も使えて錬金術もできて、盗賊の技もすぐに覚えて真似するクセに、気配も無くいつの間にか衛兵に捕まっていたり、ターゲットの宝を盗まずに依頼人の宝を盗んできたり、依頼人の計画をターゲットに密告したりと、無茶苦茶にやりたい放題……。
ぼくからはもちろん、リーダー達からもボスからも、真面目にやれって何度も怒られてるのに、「自分は至って真面目だ」の一点張りで、いつも頭に何段ものタンコブを作ってる。
ここ二か月ぼくの評価が全く上がらないで、上級の依頼を全然回してもらえそうな気配がないのって、もしかしてこいつのせいなんじゃ……。
「む? 自分が話している作戦の内容、ちゃんと聞いているか?」
「あ、半分くらい聞いてなかった。もう一回お願い」
「うーむ……人の話はちゃんと聞いた方がいいぞ?」
この人、殴ってもいいかな……?
まぁでも、今回こいつが提案してくれた作戦はやる価値アリかな。
ギルドの皆がハグレ盗賊団のアジトに突撃する前に、ぼくら二人だけでやつらのアジトに忍び込んで、頭領を捕まえる。
いつも盗賊ギルドがあいつらを取り逃がしてるのは、こいつの言う通り、ギルド内にやつらのスパイが紛れ込んでいたりして、こちらの作戦がバレているって可能性があるのかもしれない。
だから、ぼくらが作戦に無い別動隊として動くことで、相手の情報戦の裏をかいて、こちらの作戦の成功率を上げようって話だね。
ぼくたちが直接やつらの頭領を捕まえるのが難しかったとしても、逃走経路を封鎖するとかの手助けができるだけで作戦の成功率が上がるだろうし、どちらにしてもプラスにはなりそう。
そして、そうやって手助けしたぼくのおかげで作戦が成功したら、ボスも、皆も、ぼくの力を認めてくれる……。
ぼくは皆に……こんなに立派に育ったんだよって……立派に育ててくれてありがとうって……そう示したい!
「この作戦、絶対に成功させよう!」
「うむ、もちろんだ」
待ってろよ! ハグレ盗賊団!!