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第二百三十九話 ボスからの呼び出しで検証


「ただいまー」


「あぁ、リヤにオース。二人とも随分と旅行を楽しんできたみたいじゃないか」


 ジェラード王国、ダルラン領都、盗賊ギルド本拠地。


 商会長に事業の計画変更を提案してから数日後。

 自分とリヤ殿はあれからも、商会長が子爵とうまく交渉できるようにフォローしながらリユニオンドリンキングで何日か過ごし、無事にイベント会場の設立が認められてからギルドへと帰ってきた。


 事前に商会長から提示されていた依頼料も少なかったので、かかった日数分だけ出費が嵩むことを考えると、成功率が低いと分かった時点で見切りをつけて帰ってくるのが通常ルートなのだろうが、今回に関しては、自分のデバッガーとしての意地もあって粘らせてもらった。


 それに、自分たちは何やら商会長に気に入られたらしく、二日目の夜からは宿代を払ってくれたり、食事をごちそうしてくれたりと、報酬内容に無いサービスをしてくれたので、結果的にはそれほど出費は多くなっていない。


 自分の方は馬宿に馬を世話してもらう費用を支払っているので、その分は経費がかかっているのだが、リヤ殿の方は殆ど出費無く街に滞在できているのではないだろうか。


 そして一番大事なのは……。


「じゃじゃーん! 依頼達成の紙と報酬ー!」


「おいおい、あんたたち、本当に達成してきやがったのかい」


 リヤ殿がローズ殿に自慢げに突き出して見せたのは、達成欄に商会の印が押された依頼書と、亜麻布袋に入った報酬の硬貨。

 ローズ殿から達成するのは難しいと言われた今回の依頼を、こうして見事に達成して帰ってきたという証拠である。


 物を盗む仕事や、情報を盗む仕事では、依頼人に直接会うこともなかったので、完了報告や報酬の受け渡しはギルドが仲介していたが、今回の仕事に関しては自分たちが直接依頼人に会うパターンの仕事だったので、こういった形となった。


 仕事内容によっては、物を盗む仕事や情報を盗む仕事でも、依頼人に直接会うパターンがあるらしいが、今のところはそういった仕事には当たっていない。


 チュートリアルの指示通りに今回の依頼を諦めていたら、持ち帰った依頼書には、達成欄ではなく、失敗欄の方に商会の印が押されていたのだろうが、成功しても正常にゲームが進行するという検証もできたので、デバッガー的にも今回の仕事は大成功だろう。


「しかも、報酬の方も提示されてたよりも入ってるじゃんか……あんたたち、一体何をしでかしてきたんだい?」


「ふっふーん。まぁ、ちょーっと、依頼人の商会長に、商売のコツってやつを教えてあげただけだよ」


「へぇー、リヤが?」


「……まぁ、ぼくと、オースがね」


「ほーぅ……」


 リヤ殿からそんな返答を聞くと、ローズ殿は目を細めてこちらへ視線を向けた。


 実際には、リヤ殿は途中から殆ど自分と商会長との会話に頷いているだけだったのだが、話し合いに参加していなかったわけではないので、間違いではないだろう。


 たまに商売人の外側、顧客側から見た率直な感想なども飛ばしてくれて、それはそれで参考になった部分もある。


「ま、正直に言うと、盗賊ギルドが商売のアドバイザーか何かだと思われても困るから、あんまりそういうことはして欲しくないんだけどね……。でもいいさ、今回はアタイが煽ったのも原因にあるし、通常通り報酬を配るよ」


「やった!」


 そうして自分とリヤ殿が広げた手のひらには、今回の報酬らしい金貨一枚が置かれた。


 元々が大銀貨五枚が報酬として支払われる予定だったので、その二倍を受け取ったということになるのだが……。


「自分たちがこんなにもらってしまっては、ローズ殿とギルドに納品する分が少なくなるのではないか?」


「いんや、今回の報酬がなくなるのはアタイだけさ。アタイの分も、あんたたちが頑張ったご褒美として受け取っておきな」


 どうやらローズ殿は自身の徴収分を無くして、その分を自分たちに渡してくれたようだ。


「いいの?」


「ああ、元々この依頼に関しては元々失敗で報酬ゼロの予定だったし、アタイは別にそこまで金に困ってないしね」


「ふむ、そうか、ではありがたく受け取ろう」


 なるほど……リーダーたちから理不尽に報酬を徴収されることもあれば、逆にリーダーが徴収を辞退して自分たちの報酬が増えることもあるのか。


 やはり盗賊ギルドの報酬に関する仕様は複雑でわかりにくいな。


「じゃあ、今回もいつも通り解散して明日また集合?」


 報酬の仕様について疑問を持ちながら、自分が受け取った金貨をポケットにしまうと、リヤ殿が同じように報酬を自身の硬貨袋にしまいながら声をかけてきた。


 リア殿を含め、盗賊ギルドメンバーの多くは、硬貨袋を首から下げた状態で服の中に隠すという方法で金銭を所持しているのだが、しまったり取り出したりする際にいちいち硬貨袋を首から外すのが面倒なので、自分はその所持方法を採用していない。


 ズボンのポケットでも懐のポケットでもスリ取られる可能性があるし、紐で腰に下げても紐を切られて硬貨袋ごと取られる可能性があるそうなので、取られたくなければ同じように持っていた方がいいと言われているのだが、自分の場合はそれよりも安全な亜空間倉庫があるからな。


 それに、自分でも今後の検証のためにそのスリの技術を習得したいので、手本としてスリ取ってもらえるなら、そうして実際に教えてもらうに越したことはないだろう。


「そうであるな、また明日、朝食後にホールで落ち合おう」


「りょーかーい」


 自分がいつも通りの待ち合わせ予定を伝えると、報酬をしまい終わったリヤ殿は元気よく返事をし、ローズ殿に軽く挨拶をしてから部屋を出て行った。


 彼女は報酬で美味しいご飯を食べ歩くのが趣味らしく、仕事が終わるといつもこの街の散策に出かけている。


 このギルドのホールでも手ごろな価格で食事をとることが出来るのだが、リヤ殿曰く「酒の質は良いけど料理の質はイマイチ」とのことで、彼女は朝食も別の場所で取ってからギルドに出勤しているようだ。


「では、自分も失礼しよう」


「……ちょいとまちな」


 そして、自分もリヤ殿の後に続いて部屋を出ようとしたのだが……ローズ殿にその肩を後ろから掴まれ、退室を阻止されてしまった。


「今回は罰金が発生するようなことは何もしていないと思うが……」


「いや、仕事の話では無かったんだが……こっちから訪ねる前に否定するのは、実はやっているから疑ってくれって意思表示かい?」


 ……どうやら罰金の類の話ではないらしい。


 真っ先に伝えたように、今回の任務では本当に何も罰金が発生するようなことはやっていないのだが、何か特殊イベントだろうか?


「まぁいい、あんたを引き留めたのは、単純にボスが呼んでたからだよ」


「ジャン殿が?」


「ああ、要件は知らないから、直接聞いてきな」


「ふむ……承知した」


 盗賊ギルドのボスであるジャン殿とは、最初のギルド加入イベント以来ずっと直接的な関りはなかったのだが、どんな要件だろうか?


 とりあえずローズ殿はその内容を知らないようだし、直接会って確かめるしかないな。


 自分はローズ殿に退室の挨拶をしてから、心を盗む仕事の作戦部屋を出て、ギルド内のどこかにいるであろうジャン殿を探しに向かった……。



 ♢ ♢ ♢



「ジャン殿、来たぞ」


「おう、オース、来たか」


 RPGらしくギルド内のNPCに居場所を尋ねながらボスを捜索して数分後。やってきたのは普段からジャン殿が書類仕事をしているという彼の執務室。


 リヤ殿から事前に聞いているのだが、そこでは各作戦会議室などでリーダーたちから受けるそれぞれの仕事の枠を超えた、大人数で対応に当たる大がかりな仕事を受けたりする時にも使われるらしい。


 今回呼ばれたのは自分だけなので、大きな仕事を渡されるわけではないだろうが、何らかの条件を満たして盗賊ギルドのイベントが進行したのは間違いないだろう。


「あー……なんつーか……俺はローズみたいに遠回しに何かを聞いたりするのは苦手でな」


「うむ」


「……ぶっちゃけ、お前、何者だ?」


「ふむ?」


 何者だ、とは、どういう意味だろうか?


 単純に、盗賊ギルドに加入する前に何をやっていたかを尋ねられているのだろうか? それとも、このゲームを検証しているデバッガーという、現実の職業を尋ねられているのだろうか?


 どちらにしても、ギルドメンバーの過去を詮索しないという暗黙のルールを破る質問になると思うのだが……。


「分かってる。この質問はルール違反だ。まぁ、別に明確なギルドの規則として表に出してるわけでもないから、正確にはルール違反でもないんだがな……」


「まぁ、自分は別に暗黙のルールに関しては別に気にしていないのでいいのだが、何を聞かれているのかよく分からないので、状況を詳しく教えて欲しい」


「あぁ、実はな……」


 そうしてボスがまず話し出したのは、ギルド内でメンバーの過去を詮索しない暗黙のルールについて。


 実際のところ、これはメンバー間にだけ当てはまるルールであって、ボスやリーダーはむしろ積極的に盗賊ギルドメンバーの過去を裏で必ず探っているらしい。


 理由を聞いてみれば、それはそうだと納得しなければならないだろう。ただ単純に、メンバーになったその人物が、盗賊ギルドに悪影響を与えそうな人物かどうかを判断するため。


 新人が過去に大きな犯罪を起こして逃亡中であれば、その人物一人の捜索のために他のメンバーの犯罪まで洗い出される可能性があるし、ただ単にメンバーに対して似たような犯罪を起こす可能性がある。


 他には、実際には国や貴族などに仕えているスパイだった場合、盗賊ギルドの仕事内容や貯えが保管されている場所などを探られ、摘発される可能性もある。


 そういった懸念点を払拭するためにも、盗賊ギルドのボスやリーダーたちは、裏の仕事としてギルドメンバーの過去を調べているのだ。


 そして今回、その通例通り矛先が自分に向いたわけだが……。

 結果、様々な情報が錯綜しすぎていて、何が真実で何が誇張なのか分らなかったらしい。


「冒険者ギルドに記録されているのは、昇格試験の成績だけは異常に優秀だが、実際の依頼達成率は、むしろ低い部類に入るEランク冒険者という情報だけだった。まぁ盗賊ギルドでの仕事でも似たような成績らしいから、それは間違いないんだろう。問題は……」


「問題は……?」


「オースと呼ばれるお前と同じ背格好の男が、ジェラード王国では【勇者】と呼ばれていて、グラヴィーナ帝国では【王子】と呼ばれていて、ソメール教国では【魔王】と呼ばれていることだ……。どれも全く現実味が無い肩書きなんだが、お前はこの中のどれかに該当したりするか?」


「おそらく、全てに該当するな」


「はぁ……一番聞きたくなかった答えをありがとよ」


 自分がジャン殿の問いに対して正直に答えると、彼は大きく深いため息を吐きながら、片手を頭に当てて首を振った。


 返答内容から察するに、盗賊ギルドで集めた情報的には、初めからその全てが自分に該当する可能性が高いと出ていたのだろう。


 こうして並べられてみると確かに、一人の人物が背負うには大きすぎる肩書きを三つも背負っているわけだが、RPGの主人公として考えると、別に一般的と呼べる範疇ではないだろうか。


 響き合ったり意味を知ったりすることで有名なシリーズでも、主人公やその仲間たちに個性豊かな宿命や称号が与えられていたりするからな。


 まぁ、自分の称号欄に今存在するのは、その中の【魔王】という称号だけで、どちらかというと某やり込みシミュレーションRPGの主人公のような肩書きとなっているが、ゲーム的には特に珍しくないという意味では同じだろう。


「それで、自分は盗賊ギルドから追い出されたりするのか?」


「あー、それはまだ何とも言えん。だが、その可能性は十分あるな」


「そうか」


「……さっき言った肩書きが全部正解となると、お前は現在進行形で各方面から探されている立派なお尋ね者ってことになるんだが、分ってんのか?」


「探されているのか?」


「まぁ……分ってないよな」


 もう一度深くため息を吐くことになったジャン殿の調べによると、自分は現在、冒険者ギルドからはもちろん、各国からも国を挙げて捜索されているらしい。


 報酬を与えるためだとか、投獄するためだとか、色々な噂が錯綜していて、探されている理由に関しても何が真実なのか掴めないそうだが、少なくとも大変な捜索活動が行われていることに関しては事実。


 このままだとその捜索の影響で盗賊ギルドが迷惑をこうむる可能性があるので、何も手を打たないようであれば、最悪ギルドの方から自分を拘束してどこかの組織に突き出す未来もあるとのことだ。


「ふむ……それは困るな。まだ検証項目が山ほど残っているのに」


「いや、本当に困ってんのはこっちだがな」


 盗賊ギルドに迷惑がかかるのはそうなのだろうが、個人的にはやはり検証が滞ってしまうのが何よりも困る。


 リヤ殿に検証の極意を全て教えることが出来れば、ここの検証は彼女に任せて、自分は他の検証に回るという選択しもあるだろうが、このままだとそんな猶予も与えてくれなそうだしな……。


「では、それで騒ぎが収まるかは分からないが、各方面に手紙を出してみるとしよう」


「手紙ねぇ……ま、何もしないよりはマシか。だったら、その手紙が出来たら俺に渡してくれ。こっちで届けてやるよ」


「いいのか?」


「むしろ、勝手に冒険者ギルドや商業ギルドを通して届けられたら、手紙がこの街から出されたって足が残るだろ」


「ふむ、それもそうか」


 自分はその後、どうせジャン殿に目を通されるだろうと、彼に内容を相談しながら手紙を書き進めて、各国と冒険者ギルドへ手紙を出した。


 現在進めている検証とは全く別の検証を横から挟みこまれることなどは仕事上よくあることだが、引継ぎの時間も与えられないまま元の検証に戻れなくなるようなことは勘弁してほしいものだな。


▼スキル一覧

【輪廻の勇者】:不明。勇者によって効果は異なる。

【魔王】:人知を超える魔法を操り、魔物を従える。

【超観測】:任意の空間の全ての状況や性質を把握できる。

【言語理解】:様々な言語を読み、書き、話すことが出来る。


▼称号一覧

【魔王】:勇者の枠を超え、魔王としての役割を果たした。


▼アイテム一覧

〈水×999,999+〉〈土×999,999+〉〈石×199,510〉〈木×20〉〈薪×645〉〈布×24〉

〈食料、飲料、調味料、香辛料など×1,945日分〉〈保存食×19,995〉〈飼料×1,276〉

〈獣生肉(下)×1750〉〈獣生肉(中)×481〉〈獣生肉(上)×471〉〈茶蕎麦×200〉

〈獣の骨×700〉〈獣の爪×250〉〈獣の牙×240〉〈羽毛×30〉〈魔石(極小)×66〉

〈革×270〉〈毛皮×90〉〈スライム草×90〉〈抑制の首輪×5〉

〈着替え×989〉〈本×90〉〈遺物×10〉〈宝石・鉱石×1,098〉

〈冒険者道具×1〉〈調理器具×1〉〈錬金器具×1〉〈変装道具×8〉〈盗賊道具×1〉

〈掃除道具×1〉〈茶道具×1〉〈絵画道具×1〉〈手持ち楽器×4〉〈採掘道具×1〉

〈木刀×1〉〈ミスリル合金の軽鎧×1〉〈ミスリル合金の短剣×1〉

〈音信のイヤリング×1〉〈交易品×50〉

〈教国軍の消耗品×199,200〉〈教国軍の装備品×19,990〉〈教国軍の雑貨×99,180〉

〈金貨×513〉〈大銀貨×1,947〉〈銀貨×1,906〉〈大銅貨×4〉〈銅貨×2〉


▼ 商業ギルドからの借金

オース名義:金貨2枚

グリィ名義:金貨2枚


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