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第二百三十五話 失敗前提依頼の受注で検証

 

 ジェラード王国、ダルラン領、盗賊ギルド本拠地。


 そんな場所で偶然再会することとなった、王立学校のクラスメイトでもあるウィル殿と共に、盗賊ギルドの仕事をひとつ達成した後、彼はまた王都で売れそうな情報を集める仕事に戻るということで、ひとり王立学校へと帰っていった。


 彼が先導してくれた情報を盗む仕事のチュートリアルは分かりやすく、自分は盗賊ギルドの仕事として初めてプラスの報酬を得ることが出来たのだが、そんな彼が抜けてしまったからと言って感傷に浸ったりはしない。


 自分は彼が抜けたリヤ殿との二人パーティーだけで、もう一つ別の情報を盗む仕事を受注して、何事もなく、無事に、失敗した。


 その影響で罰金が発生し、せっかく前回の仕事達成で貰った報酬がそっくり没収されてしまったが、検証結果としては実りのある内容だったので問題ないだろう。


「おはようローズ殿、依頼を受けに来たぞ」


 そして今日。盗賊ギルドの三つ目の仕事となる、心を盗む仕事を受けるため、その仕事の担当リーダーであるローズ殿の元へとやってきた。


「……」


 挨拶を返す代わりに無言で睨むような鋭い視線を返している彼女は、物を盗む仕事のリーダーであるドーガ殿や、情報を盗む仕事のリーダーであるオラス殿と、殆ど同時期に盗賊ギルドへ加入したらしく、年齢も彼らより少し若い程度だ。


 ウェーブがかったブロンドヘアーをボブくらいまで伸ばし、バンダナを頭ではなく首にスカーフのように巻いている姿は、盗賊の仕事をする服装としては適していないかもしれないが、彼女は今はリーダーとしての仕事に専念していて現場には行っていないようなので問題ないのだろう。


 心を盗む仕事のリーダーに相応しい、通りかかるだけで多くの男性が視線を奪われてしまうであろう整った顔立ちをしているが、彼女は鼻の上部に目の下あたりまで横一文字に続く古傷を持っており、それも現場を引退して指導者の立場になった要因の一つになっていると聞く。


 ドーガ殿、オラス殿、ローズ殿……各リーダーの年齢は三十代。

 そして盗賊ギルドの頭領であるジャン殿の年齢も四十代。


 盗賊ギルドは指導者も含めて、その構成員に五十代を超える者はいないというのが、冒険者ギルドとの違いの一つとなるだろうか。


 冒険者も盗賊も体力や筋力が必要な仕事なので、年を取ると現場で働くのが難しくなるというのは共通しているが、冒険者は現場を引退した後も脳の処理能力が衰えるまでは指導者として仕事を続けられる。


 それは盗賊ギルドでも同じではあるのだが、報酬の仕組みが冒険者ギルドとは異なるという理由で、盗賊ギルドの指導者はまだ働ける身体でも引退することが多いそうだ。


 冒険者ギルドの指導者は普通に冒険者ギルドという会社の社員のような扱いで、毎月決まった給料が貰えるような仕組みだが、盗賊ギルドは指導料として現場に送り出した部下が得た報酬の一部をもらう仕組みだからな。

 手下の活躍によっては、老後も安心してくらせるだけの資金が早いうちに貯まるということなのだろう。


 ……そう、それはあくまでも、手下が活躍すれば、の話である。


「おはようローズ殿、依頼を受けに来たぞ」


「いや、別に聞こえなかったわけじゃないから二回言わなくていいよ。ただちょっと、問題児の登場に頭を抱えたくなっただけさ」


 ふむ、なかなか返事を返してくれなかったので、何らかのバグで会話入力の処理がうまく走らなかったのではないかと思ったのだが、そういうわけではないようだ。


「オース、あんた、どこに行ってもこの反応なの?」


「うーむ……そうなるな。まだローズ殿からは依頼を受けていないはずなのにこの反応が返ってくるというのは、何かの不具合だろうか?」


「不具合はあんたの頭の方さ。別に直接関わることが少なくったって、あんたがいかに問題児かって噂くらいは、アタイの耳にも入ってくるよ」


 自分の後ろから顔を出したリヤ殿の発言を聞いて、さらに深刻な不具合を懸念してしまったが、ため息交じりにお手上げのポーズでそう返事を返すローズ殿が言うように、過去にも人伝いの噂で直接は関係のない場所に影響があったことがあったので、これもゲーム内のそういったシステムが優秀に働いている結果なのだろう。


 同じようなアイテムを大量に売るとその店以外でも引き取り価格が低くなったりするし、本当によく作りこまれたゲームである。


「それで、自分にできそうな心を盗む仕事はあるか?」


「まぁ、新人向けの仕事はあるよ。今のところ達成率が半々らしいあんたに出来そうな仕事かは知らないけどね」


「安心してほしい。初仕事という括りで限定すれば、物を盗む仕事も情報を盗む仕事も達成率は百パーセントだ」


「それ、二回目の仕事は達成率ゼロパーセントってことだろ?」


「うむ、その通りだ」


「……リヤ、なんでこいつは失敗してるのにこんなに偉そうなんだ?」


「それはぼくも知りたいよ……」


 ふむ……検証としては成功の検証も失敗の検証も百パーセントこなしているということになるのだが、どうやら二人には分かってもらえていないようだ。


 まぁ、少し前に考えていた通り、手下の失敗はリーダーであるローズ殿たちの収入にも関わってくるので、その点を心配しているのかもしれないな。今後は検証だとしてもなるべく成功率の方が多くなるように気を付けるとしよう。


「とりあえずその仕事は必ず達成すると約束するので、内容を教えて欲しい」


「はいはい、わかったよ。今回あんたとリヤに渡せる仕事は……」


 そうしてローズ殿から説明された、初めての心を盗む仕事。


 概要をざっくりとまとめると、商会からの申し出を受けるか悩んでいる、とある子爵の心を揺り動かして、その申し出を受ける方向へ傾けさせる。というもの。


 依頼主はその商会長で、ターゲットである子爵が管理している街に競馬場を作りたいのだが、子爵がなかなか首を縦に振ってくれなくて困っているそうだ。


 認められていない主な原因は二点。


 その商会が過去に競馬場を開いたという実績もなく、実績のないその商会が手がけた競馬場が果たして成功するのかどうか分からないこと。


 そして、きちんとした競馬場自体がこの世界にはまだそれほど数も多くない、比較的新しい娯楽ということらしいので、成功したとしてもどれほどの経済的効果があるのか、子爵が把握していないこと。


「なるほど……」


 この世界にはまだ多くの未開の地が残っている。

 なので、各国の大きな動きとしては、魔物がはびこる未開の地を開拓して、安全な土地を増やすことが主な目的だ。


 ずいぶん前に開拓が済んで安全な期間が長く続いている街では娯楽も発展しているが、それでも資材は娯楽ではなく開拓に回される事が多く、大規模な娯楽用の建築物が数多くたっているのは、各国の中でもっとも発展が進んでいるソメール教国くらいである。


 馬の認識も考え方としては同じ。

 国を守る騎士にとっては共に戦ってくれる仲間であり、その他の人にとっても自分や荷物を遠くまで運んでくれる足である。決して、ただその速さを競う様子を眺めるだけの存在ではい。


 同じような賭け事をする施設として、闘技場がある。

 だが、この世界で闘技場に出場する選手は、ただそこで優勝することを目標にしたスポーツ選手のような立場ではなく、メインの仕事として冒険者や傭兵などの仕事を生業としており、彼らは自分に多くの仕事が舞い込んでくるように、闘技場で力を示しているのだ。


 だが、競馬場で活躍する馬の場合……そこで活躍した馬が将来的に軍馬などとして活躍するかというと、全ての馬がそれに当てはまるわけではないらしい。


 早い馬が全員競馬場から出て行ってしまったら、その活躍を見るために競馬場へ出向いている客が来なくなる。

 なので競馬場のある街の周囲に住んでいる娯楽好きの貴族が、競馬場での走りに特化した馬として、軍馬や荷運びの馬とは違う馬を育てることになるのだ。


 娯楽としては、正しい在り方だ。

 それが特に未開拓地などが残っていない、発展した世界であれば。


「馬の速さを競わせて、どの馬が一着でゴールするか予想する娯楽施設ねぇ……それって、わざわざ専用の施設を立ててやる必要あるの?」


「いや、色んな街や村で実際にそういった娯楽自体はあったりはするけど、専用の施設とかを建てるわけじゃなくて、村を一周とか、草原を一周とか、そんな風に競ってるよ」


「じゃあそれでいいじゃん」


「そ。この提案を受けるか迷っている子爵も……っていうか、大体の人がその認識だから、依頼人の商会長もダメだったら諦めるってさ。一応、ソメール教国には専用の施設を作って成功している商会があるらしいけどね」


「なるほど。失敗しても問題ないから、新人向けの依頼か」


「そういうこと」


 状況を聞く限り、失敗しても問題ないが、逆に成功を目指すとしたら難易度が高いイベント。ということになるのだろう。


 ふむ、となると……ゲーム的に、この仕事は、ここで盗賊ギルドで依頼を失敗するパターンを見せる。という、負けイベント的な仕事なのかもしれないな。


 チュートリアルで負けを経験するイベントというのもゲームではよくあることだし、これもその一環である可能性が高い。


 ここは正規ルートの検証として、チュートリアルにしたがってその負けイベントの確認をしてもいいが……。


「あー、そういえばお前さっき何か言ってたな……」


「……」


「確か、『その仕事は必ず達成すると約束するので、内容を教えて欲しい』。だったか?」


 そう言ってニヤリと笑みを浮かべるローズ殿。


 流石は心を盗む仕事のリーダーとでも言うべきか、その発言も、そこまでを繋ぐ話の誘導も、なかなかに対抗心などを掻き立てられるものとなっている。


 きっと序盤で自分の仕事失敗を執拗に突いていたのも、自分から『必ず成功させる』というような言葉を引き出すための物だったのだろう。


 ……なるほど、既に心を盗む仕事のリーダーからの指導は始まっているようだ。


 話を聞く限り、これは明らかに負けイベント。

 本当に成功させたいなら経験豊富なベテランを指名するであろう、高難易度依頼である。


 そうしないことを考えるに、きっと依頼人が提示してきた報酬額が、ベテランを充てるには適していない額だったのだろう。


 だから彼女は、そんな額の報酬で充てられる人員では、御覧の通り失敗しますよ。という態度を依頼人に見せたいのかもしれない。


 そしてこの仕事を受けるプレイヤーも、大半は「無理ゲー」と言って投げるだろう。


 ……そう、それが普通のプレイヤーであれば。



「ふむ……なるほど……よし」



 だが、残念ながら、今回は相手が悪かったな……。



「この依頼、どんな手を使ってでも達成して見せよう」



 自分はプレイヤーではない……。


 デバッガーだ。


▼スキル一覧

【輪廻の勇者】:不明。勇者によって効果は異なる。

【魔王】:人知を超える魔法を操り、魔物を従える。

【超観測】:任意の空間の全ての状況や性質を把握できる。

【言語理解】:様々な言語を読み、書き、話すことが出来る。


▼称号一覧

【魔王】:勇者の枠を超え、魔王としての役割を果たした。


▼アイテム一覧

〈水×999,999+〉〈土×999,999+〉〈石×199,530〉〈木×20〉〈薪×665〉〈布×26〉

〈食料、飲料、調味料、香辛料など×1,947日分〉〈保存食×19,995〉〈飼料×1,300〉

〈獣生肉(下)×1750〉〈獣生肉(中)×485〉〈獣生肉(上)×471〉〈茶蕎麦×200〉

〈獣の骨×700〉〈獣の爪×250〉〈獣の牙×240〉〈羽毛×30〉〈魔石(極小)×66〉

〈革×270〉〈毛皮×90〉〈スライム草×90〉〈抑制の首輪×5〉

〈着替え×989〉〈本×90〉〈遺物×10〉〈宝石・鉱石×1,098〉

〈冒険者道具×1〉〈調理器具×1〉〈錬金器具×1〉〈変装道具×8〉〈盗賊道具×1〉

〈掃除道具×1〉〈茶道具×1〉〈絵画道具×1〉〈手持ち楽器×4〉〈採掘道具×1〉

〈木刀×1〉〈ミスリル合金の軽鎧×1〉〈ミスリル合金の短剣×1〉

〈音信のイヤリング×1〉〈交易品×50〉

〈教国軍の消耗品×199,200〉〈教国軍の装備品×19,990〉〈教国軍の雑貨×99,180〉

〈金貨×512〉〈大銀貨×1,947〉〈銀貨×1,925〉〈大銅貨×3〉〈銅貨×2〉


▼ 商業ギルドからの借金

オース名義:金貨2枚

グリィ名義:金貨2枚


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