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第二百三十四話 情報を盗む仕事で検証 その二

 

「そういえば、あの西門での偽装工作、既に男爵夫人が調べ終わった後だったら意味が無いのではないか?」


 ダルラン領都から南西に馬車で一日。【真珠を生む街】ティアズサイド。


 自分、リヤ殿、ウィル殿の新人三人組は、ダルラン領都の西門で入出記録の書き換えを行った翌朝、自分が保有している馬車に乗り込んで街道を進み、目的の街であるティアズサイドの入口にまでやってきていた。


 門で保管されていた記録の書き換え方法は、名字や名前の前後に文字を付け足すなどして、違和感のない別の名前に変えてしまうというもの。


 日本の漢字名だと少々難しいが、この世界の文字は英語などに近いので、今回の依頼人であるロン・トラン男爵の名前をアーロン・トラングに変更するなどの偽装が行える。


 全ての書き換え対象に対して同じ変更を加えてしまうと違和感があるので、英字でいう小文字のoをaに変更したり、小文字のrをnに変更してナン・トナンにするような改変も織り交ぜて色々な名前に変更した他、何冊分のも記録を三人で手分けして書き換えていったので、それなりにランダム性が生まれているだろう。


 だが、それが偽装工作として力を発揮するのは、まだその書類がターゲットに確認されていない場合だ。


 男爵から浮気がバレそうなことが発覚した当日に仕事が依頼され、その日の夜の内に西門の書類保管室へ侵入して工作を行っているが、男爵が依頼を発注するまでにも、自分たちが書き換えの対応を行うまでにも、それなりの時間が空いているので、偽装工作を行う前に既に書類が確認されていたら意味が無い。


「いんや、まぁ、心配いらんやろ」


「ふむ? そうなのか?」


「トラン男爵の家はダルラン領の税務とか経理関係の仕事を手伝っとる文官やさかい、それなりに権力を持っとる貴族言うても、管轄外の場所まで直接は好き勝手にできん。調査するにも街の警備とか保安関係とかの仕事を管理しとる別の貴族に話を通したりで、結構な時間がかかるんや」


「ふーん……まぁ、ぼくは既にバレてても自業自得だと思うけどね。でもまぁ、もう調査の手が伸びてて間に合わない状況なら、盗賊ギルドに依頼してこないでしょ」


「なるほど、それもそうか」


 相変わらず知識の幅が広いウィル殿の言う通りなら、確かにまだ今から偽装工作をする意味もありそうだ。


 しかし、改めて【鑑定】で確認してみても、彼は特に貴族でも王族でもなさそうなのだが……ウィル殿はどうやって、どの貴族がどんな業務を担当しているかの情報を集めているのだろうか。


 というか、自分のこの世界でのキャラクター設定を考えると、将来的にグラヴィーナ帝国で王族ルートのクエストを検証する時、自分の方こそ、そういった情報をうまく扱う必要が出てくるのだろうな……。


 うーむ、登場人物の役職や人間関係などを覚えることに関しては、メモ画面や【鑑定】スキルをうまく使えば乗り切れそうだが……同じような役職のキャラクターがたくさん出てきた場合、その中の誰に頼むのが正規ルートなのか、的確に判断できる自信はない。


 選択肢や成功確率などが画面に表示されるなら、その表示通りの動作をするかを検証すればいいのだが、このゲームにはそんな機能は実装されていないようだからな……。


「ほなら、今日泊まるんは、男爵が泊まってない宿にして、夜になったらそん宿で男爵が泊まっていた記録をでっち上げる。そんで男爵が泊まった宿の方は不法侵入して書き換える。翌朝になったら宝飾店に行って手紙を渡す。っちゅう流れでええか?」


「異議なーし」


「うむ、問題ない」


 物を盗む仕事ではリヤ殿が仕事の引率役を引き受けてくれて、今回はウィル殿が情報を盗む仕事の引率をしてくれている。


 いずれは失敗するパターンの検証も必須だが、ゲームの説明書という存在が薄れてしまった昨今、きちんとチュートリアルが実装されているのは良いゲームだ。


 二周目の検証をする際にはチュートリアルで失敗する検証もしようと思うが、とりあえず成功パターンがどのような処理になっているのか把握するため、今は素直にウィル殿のチュートリアルに従っていた方がいいだろう。


 日本の大きな会社では、そのゲームの仕様書などを渡されてから検証を進めることもあるが、小さな会社では検証着手時に仕様書などといったものが存在しないことなど、ままあるからな。仕様書なしで検証することにも慣れている。


 場合によっては、クライアント都合で開発する会社が他社に移った際にも、仕様書の類が一切残っておらず、引継ぎで開発することになったプログラマーでさえ、仕様書が無い中で追加開発やバグ修正を行う羽目になることもある。それが自分たちの日常なのだ。


「したらまずは夕飯や。リヤはん、この街の美味しい店探し頼んだで」


「おっけー、任せて」


 盗賊ギルドの仕事。仕事内容に関してはなかなかに緊張感があるものなのだが、街から街へ移動していく道中も特に魔物やハグレの盗賊からの襲撃もなく、街でのこういった自由時間も戦闘準備などを挟まないので、なかなかに気楽なものだな。


 失敗したり罰金を払ったりで今のところの正式な報酬はマイナスでしかなく、旅の出費が積もっていくばかりだが、まだまだバジオーラ侯爵邸で得た検証費用がたくさんあるから問題ないだろう。


 リヤ殿の選ぶ店での夕食を楽しみにしつつ、今回の依頼も肩の力を抜いて検証しよう。



 ♢ ♢ ♢



 そして翌日。


「……というわけで、これが男爵からの手紙や」


「そうですか……」


 ティアズサイドにて宿に泊まった次の日。

 昨夜のうちに手分けして各宿の宿泊名簿に偽装工作を施した自分たちは、店が開店時間になる前に男爵の不倫相手が働いている宝飾店を訪ねて、事情を説明した。


 ウィル殿から手紙を受け取った彼女は、事前に聞いていた男爵の年齢と比べると一回りくらい若そうな女性で、宝飾店の店員として接客していると言われてなるほどと頷ける整った容姿をしている。


 身に着ける宝石が見劣りしてしまうような絶世の美女というわけでもないが、身に着ける宝石に見合っていないというような印象を与える貧相な雰囲気でもない。


 時には自らを宝飾品を身に着けるモデルに見立てて売り込むこともあるであろう彼女が、しぐさとしては上品に手紙の内容を黙読しつつも、その眉間に寄せた皺が取り繕えていない所を見るに、手紙の内容はあまり好感を抱くものではなかったのだろう。


「……まぁ、わいらの任務は事情を説明をして手紙を届けるところまでやから、あんさんがその手紙をもとにどういう行動に出るかはお任せするで」


「そうですね……ちょっと考えます」


「我が身可愛さに不倫を隠蔽しようとする男とか、別れて告発しちゃった方がいいと思うけどねー」


「なっ、アホ! いらんこと言ぃなや。そら気持ちとしてはそうかもしれんけど、浮気がばれたらこの人も男爵夫人に何されるか分からんのやで」


 この依頼を受けた時から不機嫌だったリヤ殿がつぶやいた言葉に対して、ウィル殿がすぐさま反論する。


 確かに、ここで浮気相手であり被害者でもある彼女が男爵の浮気を正直に告発したとしても、その報いを受けさせられるのが男爵本人だけとは限らない。


 普通にその事実が噂としてこの街に広がるだけでも、そんな噂が立ってしまっている彼女を宝飾店が雇い続けてくれる可能性が低くなるだろうし、男爵夫人から直接的に何らかの賠償を求められたり嫌がらせを受けたりすれば、彼女の立場はもっと悪くなるだろう。


「それもそっか……うーん、なんか悔しい」


「気にかけてくださり、ありがとうございます。私なら大丈夫ですから、男爵様には手紙の通りにするとお伝えください」


「それでいいの?」


「ええ、大丈夫です。手紙に書いてある通り、奥様に素敵な誕生日プレゼントをご用意してお待ちします……その値段もとっても素敵な額にしてね」


「あー、なるほどね」


「……」


 そして続く二人の会話に、自分とウィル殿は押し黙った。


 うむ……この女性なら、これからも立派に生きていけるに違いない。


 将来的にそんな検証をすることになるかも分からないが、もし浮気の検証が必要になるタイミングが来たら、出来れば他の誰かに代わりにやってもらおう。


「ほらな、わいらはホームに帰るとしますか」


「少し待って欲しい」


「ん? なんか忘れもんか?」


「いや、自分たちが商人として来訪した偽装として、他の街で仕入れた交易品を卸して、代わりにこの街の交易品を仕入れたいのだ」


「あー、んないなこと言っとったなぁ」


「でしたら、うちの宝飾品なんかピッタリですよ」


「ほんま強かな姉ちゃんやで……」


 こうして、自分たちは無事に情報を盗む仕事を完了させて、笑いながら盗賊ギルドへのホームへと帰っていった。


▼スキル一覧

【輪廻の勇者】:不明。勇者によって効果は異なる。

【魔王】:人知を超える魔法を操り、魔物を従える。

【超観測】:任意の空間の全ての状況や性質を把握できる。

【言語理解】:様々な言語を読み、書き、話すことが出来る。


▼称号一覧

【魔王】:勇者の枠を超え、魔王としての役割を果たした。


▼アイテム一覧

〈水×999,999+〉〈土×999,999+〉〈石×199,560〉〈木×20〉〈薪×695〉〈布×29〉

〈食料、飲料、調味料、香辛料など×1,950日分〉〈保存食×19,995〉〈飼料×1,480〉

〈獣生肉(下)×1750〉〈獣生肉(中)×489〉〈獣生肉(上)×473〉〈茶蕎麦×200〉

〈獣の骨×700〉〈獣の爪×250〉〈獣の牙×240〉〈羽毛×30〉〈魔石(極小)×66〉

〈革×270〉〈毛皮×90〉〈スライム草×90〉〈抑制の首輪×5〉

〈着替え×989〉〈本×90〉〈遺物×10〉〈宝石・鉱石×1,098〉

〈冒険者道具×1〉〈調理器具×1〉〈錬金器具×1〉〈変装道具×8〉〈盗賊道具×1〉

〈掃除道具×1〉〈茶道具×1〉〈絵画道具×1〉〈手持ち楽器×4〉〈採掘道具×1〉

〈木刀×1〉〈ミスリル合金の軽鎧×1〉〈ミスリル合金の短剣×1〉

〈音信のイヤリング×1〉〈真珠の装身具×20〉

〈教国軍の消耗品×199,200〉〈教国軍の装備品×19,990〉〈教国軍の雑貨×99,180〉

〈金貨×512〉〈大銀貨×1,947〉〈銀貨×1,940〉〈大銅貨×3〉〈銅貨×2〉


▼ 商業ギルドからの借金

オース名義:金貨2枚

グリィ名義:金貨2枚


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