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第二百三十一話 物を盗む仕事で検証 その一

 

「んじゃ、そろそろ行こっか」


「承知した」


 リヤ殿と暫く街の外で訓練をした後、馬車に積んでいた商品を売る代わりにワインを仕入れるといった商人らしい行動を挟んだ自分たちは、街の人たちが寝静まるころを待って、月明かりの降り注ぐ夜の街中へと繰り出した。


 二人とも暗めの服を着るだけで音が出るような鎧などは身につけず、足跡を立てることなく屋根から屋根へと飛び移る形で移動しているので、街の通りを巡回している衛兵が自分たちに気付く様子はない。


 頭部にも黒いバンダナを巻いて、口元も黒いバンダナで隠している姿は、盗賊というよりも忍者に近い印象を受けるかもしれないが、夜の暗闇に紛れて移動するという点では、どちらも似たようなものなのだろう。


 屋敷への侵入ルートで最初に問題となりそうなのは、街を囲う木製の壁を超える場面。


 その高さも厚さも、石レンガなどを積み上げた外壁ほどは無いが、森の木々をそのまま切り倒して乾かしたのであろう大きな丸太が、家々の屋根と同じくらいの高さまで伸びている立派な壁は、外からの魔物の襲撃を抑える役目は立派に果たしてくれそうだ。


 ……だが、内側から人が出る場合はどうかというと?


「屋根と同じ高さの壁というのは、屋根の上に登っている状態から見ると、壁が無いのと変わらないと思うのだが、どう思う?」


「まぁ、別にこの壁は内側の人を外に出さないためじゃなくて、外側から中に侵入されないためにあるからね……それに、普通の人はわざわざ家の屋根から無理やり壁を越えようとしないで門から出るよ」


「それもそうか」


 そう、この壁はリヤ殿の言う通り、夜にこっそり街を抜け出そうとする盗賊を防ぐために作られているわけではないので、残念ながら、自分たちの犯行を止める防御力で言うとゼロに等しいのだ。


 石の外壁であれば、その高さが家々の屋根よりも高いだけではなく、壁の上に兵士が巡回したり弓を放ったりする通路が設けられているので、たとえ内側から無理に登ったとしても、そこを巡回している衛兵に発見される可能性がある。

 そういった点でも、やはりこの壁は人間を対象とした防御力で劣っているだろう。


 まぁ、この壁は石の壁にあるような通路や屋根などが無い代わりに、丸太の先端が尖っただけのシンプルな作りになっているので、壁の上に留まるのは難しいという点では、少しばかり難易度が上がるかもしれない。


 たとえその尖った丸太の先端を飛び越えるのが簡単だったとしても、頂上に留まってその壁の向こう側の様子を確認せずに降りてしまうと、外側を周回している衛兵に見つかる可能性があるからな。


「なるほどね、これは確かに、昼間に魔力を感じ取る訓練しておいてもらって正解だったよ」


「うむ、こちらもリヤ殿の覚えが早くて助かった」


 だがそれも、今の自分たちであれば、些細な問題だ。


 リヤ殿も無事に【魔力感知】や【魔力操作】を覚えているので、自分たちにかかれば、巡回中の衛兵がどのあたりを歩いているか、視覚や聴覚に頼らずとも把握できる。


 流石に自分が祖父上から教わった【魔力視】までは教えていないので、相手の魔力の色や、今どんな姿勢でどの方向を見ているかのような詳細までは把握できないが、どの方向に何人いるかくらいは壁越しでも把握できるのだ。


「今!」


「うむ」


 自分は動き出すタイミングをリヤ殿に任せ、合図があったタイミングでジャンプし、そのまま木製の壁を大きく飛び越える。


 彼女が実戦でこのスキルを使うのは初めてのはずだが、今まで足音の移動方向などから相手がどこを見てどこへ向かって進んでいるのかを把握していた経験がうまくかみ合っているのか、自分たちが壁の外側へそっと降り立った時、巡回している衛兵はまったくこちらを見ていなかった。


「このまま森に入るよ」


「承知した」


 そして自分たちはそのまま、立てる足音や呼吸音を最小限に、体外に放出される魔力も抑えた状態で、森の中へと入っていった。



 ♢ ♢ ♢



「ふぅ……到着ー」


 街を抜け出してからも何事もなく、そのまま森の中を抜けて回り込む形で子爵の屋敷の側までたどり着いた自分たちは、巡回する衛兵が遠くの位置にいるタイミングを見計らって、カギ爪をつけたロープを使って木製の壁を乗り越えた。


 盗賊の仕事に関する説明などを受けていたタイミングでオラス殿から〈盗賊道具〉として色々な道具を渡されたのだが、そのカギ爪ロープは、作りも役割もシンプルながら、だからこそ技術さえあれば放出魔力を抑えたまま高い場所へ登れるので、誰にも見つかることなく仕事を進めたい盗賊にはうってつけの道具だろう。


 これらの道具は最初のひとつは無料でもらえるが、失くしたり壊したりしたら盗賊ギルドから新しいものを買うことになるそうなので、検証のために今回の仕事でさっそく失くして帰ろうと思っている。


「ふむ、どこから侵入する?」


「うーん、どこにしようかねー?」


 今、自分たちがいる屋敷の裏手には、幸いにも衛兵など見張りの姿は確認できず、魔道具や松明のような明かりも特に灯っていない。


 それほど大きな屋敷ではないからか、別館のような離れも隣接していなければ、裏口の類もなく、一階の窓は開くことが出来ない嵌め込みの窓だけ。


 リヤ殿と共に屋敷の壁に張り付き、角から表側の様子をチラリと確認してみると、表では眠そうにアクビをしている衛兵が一人、正面入り口の見張りをしているようだった。


「まぁ、普通に裏手の二階かな」


「うむ、そうであるな」


 表側を覗くのを止めて屋敷の壁から離れ、二階を見上げると、そこにはご丁寧にカギ爪を掛けやすそうなバルコニーが存在し、当然ながらバルコニーに出るために使われる大きな窓が備わっている。


 屋根裏部屋があるかどうかは分からないが、この屋敷は窓の階層を見る限り二階建ての作りらしく、裏手から見える二階の部屋は全部で三箇所。

 バルコニーはそのうちの左二つの部屋に対して、それぞれ独立する形で設置されていて、一番右の部屋には開閉可能そうな窓は設置されているものの、大きさも小さく、バルコニーも存在しない。


 この屋敷の作りから予想するに、バルコニーのある部屋のうち、片方が目当ての子爵が寝ている寝室で、もう片方がその奥さんが寝ている寝室となっているのだろう。


「オースはどっちに行く?」


「ふむ、それぞれ別々の部屋を担当するのか。それであれば、自分は中央の部屋を担当しよう」


「おーけー。じゃあ、ぼくは左の部屋ね」


「そういえば、今回は目当ての〈古代の懐中時計〉以外は盗まないほうがいいのか?」


「いや、その逆だね。犯人がそれ単体を目当てにした人物じゃなくて、普通に金目の物を盗みに来た物取りだって思われた方が、盗賊ギルドに追手がたどり着くまでが長くなるから、もし目当ての物が無くてもテキトーに盗っておいて」


「なるほど、承知した」


 自分はリヤ殿と頷き合うと、カギ爪ロープを中央の部屋のバルコニーに投げて、その手すりに引っ掛けた。


「一分で出てきて。目当てのものが見つかっても見つからなくても、誰かに姿を見られていても見られていなくても、そのまま壁を越えて森に入るよ」


「了解した」


 まだ構造も分からない部屋の中から目当ての物を探す時間としては少し短いような気もするが、そこに寝ているであろう人物が起きだす可能性も考えたら、それくらい短い時間で済ませないとリスクの方が大きくなるのだろう。


 まぁ、自分はもう【超観測】スキルでどの部屋のどこに目当ての物があるかが分かっているので、そちらはその部屋の担当であるリヤ殿に任せて、こちらは指示通り金目の物を物色するだけだが。


「作戦開始っ」


 自分はリヤ殿の合図でロープを登り、子爵の奥方が寝ている隣りで、持ってきた麻袋に金目の物を詰め込む作業を開始した……。


▼スキル一覧

【輪廻の勇者】:不明。勇者によって効果は異なる。

【魔王】:人知を超える魔法を操り、魔物を従える。

【超観測】:任意の空間の全ての状況や性質を把握できる。

【言語理解】:様々な言語を読み、書き、話すことが出来る。


▼称号一覧

【魔王】:勇者の枠を超え、魔王としての役割を果たした。


▼アイテム一覧

〈水×999,999+〉〈土×999,999+〉〈石×199,600〉〈木×20〉〈薪×735〉〈布×8〉

〈食料、飲料、調味料、香辛料など×1,954日分〉〈保存食×19,995〉〈飼料×3,700〉

〈獣生肉(下)×1750〉〈獣生肉(中)×496〉〈獣生肉(上)×478〉〈茶蕎麦×200〉

〈獣の骨×700〉〈獣の爪×250〉〈獣の牙×240〉〈羽毛×30〉〈魔石(極小)×67〉

〈革×270〉〈毛皮×90〉〈スライム草×90〉〈抑制の首輪×5〉

〈着替え×989〉〈本×90〉〈遺物×10〉〈宝石・鉱石×1,099〉

〈冒険者道具×1〉〈調理器具×1〉〈錬金器具×1〉〈変装道具×8〉〈盗賊道具×1〉

〈掃除道具×1〉〈茶道具×1〉〈絵画道具×1〉〈手持ち楽器×4〉〈採掘道具×1〉

〈木刀×1〉〈ミスリル合金の軽鎧×1〉〈ミスリル合金の短剣×1〉

〈音信のイヤリング×1〉〈ラボー産ワイン×48〉

〈教国軍の消耗品×199,200〉〈教国軍の装備品×19,990〉〈教国軍の雑貨×99,195〉

〈金貨×512〉〈大銀貨×1,948〉〈銀貨×1,971〉〈大銅貨×3〉〈銅貨×2〉


▼ 商業ギルドからの借金

オース名義:金貨2枚

グリィ名義:金貨2枚


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