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第二十三話 Fランク依頼で検証 その三

 商業都市アルダートン商業区の東門付近にある、輸入雑貨店。


 今回の依頼主である大商人と呼ばれるようになったらしい人物がこの街で開いている店であり、自分が冒険者になって最初の依頼で訪れた場所でもあった。


 そう、今回受けた依頼の主は、自分が無印冒険者の時に配達依頼を受けたファビオ殿……のはずだ……しかしあの時はエネット殿の説明に大商人の”大”の部分は無く、あれからまだ一ヵ月半しか経っていないので、もしかしたら同姓同名の別人だろうかと思ったのだが、エネット殿に聞いた限り同一人物で間違いないようだった……いったいこの一ヵ月半の間にどれだけ稼いだというのだろうか。


 ―― カランカラン ――


「いらっしゃいませ」


 店に入った自分を出迎えたのは、清潔感のあるブラウンのミディアムヘアに、優しそうな茶色い瞳で、全体的に落ち着いた好青年という雰囲気の男性従業員……ファビオ商店のロゴが入ったエプロンを身に着けて商品棚の整理をしていたらしい彼は、自分が店に入ると手を止めて微笑みかけながらこちらに挨拶をして、静かに素早く駆け寄ってきた。


 あの時はたしかに従業員を雇う予定だとは言っていたが、店を買ったばかりで雇うお金が無いと言って冒険者に配達を頼んだり本人が直接冒険者への応対をしていた状況から、一ヵ月半でこのような従業員を雇った上で屋敷を購入できるだけの資金が貯まったというのは、とんでもない成長ぶりのように思える。


「依頼を受けた冒険者のオースという者だが、店主のファビオ殿はいらっしゃるか?」


「あ、お屋敷の清掃を手伝ってくださる冒険者さんですね、少々お待ちください」


 青年はそう言ってさわやかな笑顔でお辞儀をすると、ファビオ殿を呼びに店の奥へと静かに駆けていく。


 待っている間にまだ並べている途中の商品棚を眺めてみたところ、たしかに他の店では見かけない酒や香辛料、デザインが凝った綺麗な小物などが並んでいたりして、【鑑定】で調べてみるとどれもそれなりにいい値段で売れるようだが、これだけでは売れ行きが良くても一ヵ月半で屋敷を買うには少し手が届かない気がする……中には和風な感じの小物などもあって見ている分には楽しいが。


「へー、大商人って言っても、売っているのはこんな土みたいな色のお皿や花瓶だったりするんすねぇー」


「グリィ殿、それは陶器と言って、職人が一つ一つかなりの手間と時間をかけて作るので、物によっては銀製の食器や磁器の花瓶よりも高いぞ」


「え……?」


 ―― ガシャン ――


 うむ、自らの報酬と引き換えに依頼人の商品を壊す検証をするとは……流石はグリィ殿と言ったところか……頑張ってバラバラになってしまったパズルを組み立てようとする検証もしているようだが、おそらく予想している検証結果が覆ることは無いだろう。


「お待たせしまし……た……」


「……」


 そしてタイミングよく現れたファビオ殿と、手をプルプルと震わせながら壊れた陶器を組み立てようとしているグリィ殿の目が合って固まった……ふむ、とりあえず依頼の話を進める前に謝罪と賠償の交渉から始めるとしよう。


 自分はグリィ殿と一緒にまず商品を壊してしまったことを謝り、それから壊してしまった花瓶の弁償代を交渉して、今回の報酬からその花瓶の値段を引いてもらう事にする……幸い、名のある職人が作り上げた自慢の逸品などではなかったので、帝国からの輸送費が追加された少し高めの花瓶といったところだったが、普段使う食器が木製の自分たちにとってはかなり高い出費となっている。


「いやはや、私を呼びに来た見習いから今回の依頼を受けて下さった冒険者の名前を聞いた時も驚きましたが、まさか再会の挨拶をする前に謝罪の言葉を聞くことになるとは、本当に驚きました」


「うむ……自分はもしかしたらグリィ殿ならやりかねないとは思っていたのだが、予想以上に自然でスムーズな手際の良さだったので止めることが出来なかったのだ……申し訳ない」


「ぐっ……返す言葉もないっす……本当に申し訳ないっす……」


「いやいや、もう十分謝っていただきましたし、入手困難な品でも無かったので大丈夫ですよ……まぁ、報酬から値段分は差し引かせていただきますが……」


「うぐぐ……面目ないっす……」


 そうして一ヵ月半ぶりの再会がなんともドタバタしたものになってしまったが、無事に話はまとまってファビオ殿と依頼の話も済ませて、ついでにグリィ殿の自己紹介も済ませた。

 壊してしまった花瓶に関しては本当にファビオ殿にとっては大したものでは無かったようで、自分たちをからかう種が出来たくらいに思っているようだ。


「……それにしても、ファビオ殿の店はほんの一ヵ月半で随分と成長したのだな」


「ええ、おかげさまで……それもこれも各地でわたくしに協力してくださる冒険者の皆さまや話に乗ってくださる取引相手の方々、それに循環の女神ルコナ様のご加護があったからこそでしょう……商人はそれら周囲の恩恵なくしては成立しませんからね」


「それでも、その恩恵を上手く授かれたのはファビオ殿の腕だろう?」


「ほっほっほ、そう言ってもらえるのは商人冥利に尽きますね……しかし、そういうオースさんこそ、Fランク試験では最優秀の成績を収めて合格したと聞いていますよ?」


「うむ、流石は大商人と呼ばれるファビオ殿だ、そんなことまで調べているのか」


「いえいえ、大きな噂と言うのは自然に耳に入ってくるものですよ」


 それからファビオ殿と少しの間、近況報告として自分が参加したゴブリン掃討作戦などの話をして、代わりにどうしてここまで成長したのかを聞いた……どうやらファビオ殿はこの街に店を構えた時には既にまだ確立されていなかった流通経路の開拓や、それを動かすための人員の確保など下準備を済ませていて、あとは動かすだけだったらしい。


 まぁ店を構えるならそれくらい当たり前かもしれないが、他の大手商会が開拓した既存の流通経路を使わせてもらい小売店のようなことをするのではなく、自身で新たな流通経路を開拓して自分がそのたくさんの支店を抱える大手商会を目指すのは、並々ならぬ努力と確かな先見の明が必要だろう。


「ほへー、それで準備万端で戦いに挑んだってわけっすね」


「ええ……しかし誰も手を出していなかった経路だけあって、需要はあっても規模は小さかったところが問題でした……活動資金に困ることは無いでしょうが、そのまま普通に物の運搬と販売だけしていたのでは、おそらく屋敷を持てるまでには至らなかったでしょう」


「え? じゃあファビオさんはどうして成功出来たっすか?」


「ほっほっほ、グリィさん、それを簡単に答えてしまったら面白くないでしょう? そうですね……わたくしがそこでどんな手段を取ったか、クイズだと思って考えてみてください」


 ファビオ殿はそう言うと顎に手を添えて挑戦的で楽し気な顔をグリィ殿に向ける……おそらく人を育てたりするのも好きな人なのだろう……そんな反応に挑戦心を刺激されたグリィ殿がうんうんと唸りながら考え始めるのを眺めて、彼は優しく見守るような表情になった。


 地道に行商人として活動して資金を貯めた努力家であり、その資金を元に大手と呼ばれるための商売を確立できる実力もあり、前回の依頼で商品の売買に関係ない手伝いをしていたように、お金以上に人からの信頼を大事にする人である……その上で人を教育するのも好きとなれば、もう店は大きくなるべくしてなったと言えるだろうし、これからもきっと成長し続けて、近いうちに大きな商会の会長になるかもしれない。


「ふむ、しかしファビオ殿も人が悪い……あんなにあからさまなヒントを出したということはもう人にバレてもいい段階なのだろうが、それを考えさせる生徒としてFランク試験を四回も落ちたグリィ殿を選ぶのは少し可哀そうだ」


「ほう、オースさんは気づきましたか……流石は最優秀合格者ですな」


「えっ!? 何かヒントを言ってたっすか!? いつっすか! どれっすか!」


「直前に言っていたであろう? 物の運搬と販売だけしていたらダメだと……物を売らないとすれば?」


「まさか……人身売買!?」


「いや、それも一つの手ではあるが……」


「ほっほっほ、店が小さい状態でそんな危ないことに手を出してしまったらすぐにバレて捕まってしまうでしょうな……もっとも、わたくしは店が大きくなった後もそんなことはいたしませんがね……」


「うむ、それに人も言ってしまえば物である……ファビオ殿が目を付けたのは本当に実態の無いもの……おそらく技術や知識、権利の類だろう」


「ほう……オースさんは正解以上の答えに辿り着いているようですね……」


 それからファビオ殿は詳しい話をしてくれた……どうやら自分の予想通り、他領や他国の特産品などを運ぶついでにその地の大きな工房や料理店から技術や知識を買い取って、それを別の場所のお金が無い小さな商店に持っていき、タダで教える代わりに技術や知識の使用料として売り上げの何割を継続的に貰うという契約で成功を収めたようだ。


 特許などを管理する機関が存在しないであろうこの地でそんなことが可能なのかと疑問に思ったが、魔道具による契約で、抜け道が無いことは無いが、ほぼ絶対に約束をたがえないようにすることが出来るようである……しばらく前にこの街で売り出されていたタコスもその一つのようで、自分やフランツ殿が食べたタコスの売り上げの何割かがファビオ殿の資金になっていたらしい。


「ふむ……そして自分たちにこれを教えているということは、もう目を付けている情報の発信源とは他に漏らさない契約を結び終わっていて、他の商人が今から手を出そうとしても遅いと言うわけか……」


「その通りです……どうやらオースさんは商売の流れを見る目があるようですね……どうでしょう、冒険者をやめてうちで働いてみる気はありませんか?」


「なるほど、それも面白そうだ」


「えぇっ! オースさん商人になっちゃうっすか!?」


「いや、すぐにはやらない……やるとしてもSランク冒険者まで検証が終わってからだな」


「え……Sランク冒険者になったならむしろ貴族クラスのお金を持っていると思うんで、商人に転職する意味が分からないんすけど……」


「何を言う、商人がお金を稼ぐための手段だと誰が決めたのだ……むしろたくさんの資金があった方が色々なことに手を広げられるだろう?」


「お金を得るためにお金を稼ぐわけではない、ということですかな……ほっほっほ、それは私の目指す商人像……ますますオースさんをスカウトしたくなりましたよ、機会があればぜひ我がファビオ商店にお越しください」


 そうして少し長くなった挨拶が終わり、将来の選択肢が一つ増えたらしい自分は本題である屋敷の家事手伝いを行うため、店に入った時に対応してくれた見習いの従業員に連れられて、平民が手に入れられるなかではとても大きいと思われる屋敷へと向かって行った……。


▼スキル一覧

【輪廻の勇者】:不明。勇者によって効果は異なる。

【物理耐性】:物理的な悪影響を受けにくくなる

【精神耐性】:精神的な悪影響を受けにくくなる

【時間耐性】:時間による悪影響を受けにくくなる

【異常耐性】:あらゆる状態異常にかかりにくくなる

【五感強化】:五感で得られる情報の質が高まる

【知力強化】:様々な知的能力が上昇する

【身体強化】:様々な身体能力が上昇する

【成長強化】:あらゆる力が成長しやすくなる

【短剣術(基礎)】短剣系統の武器を上手く扱える

【剣術(基礎)】:剣系統の武器を上手く扱える

【槍術(基礎)】:槍系統の武器を上手く扱える

【短棒術(基礎)】:短棒系統の武器を上手く扱える

【棍棒術(基礎)】:棍棒系統の武器を上手く扱える

【鎌術(基礎)】:鎌系統の武器を上手く扱える

【体術】:自分の身体を高い技術で意のままに扱える

【投擲】:投擲系統の武器を高い技術で意のままに扱える

【実力制御】:自分が発揮する力を思い通りに制御できる

【薬術】:薬や毒の効果を最大限に発揮できる

【医術】:医療行為の効果を最大限に発揮できる

【掃除】:掃除の効果を最大限に発揮できる

【サバイバル】:過酷な環境で生き残る力を最大限に発揮することができる

【解体】:物を解体して無駄なく素材を獲得できる

【収穫】:作物を的確に素早く収穫することができる

【調合】:複数の材料を使って高い効果の薬や毒を作成できる

【料理】:複数の材料を使って高い効果の料理を作成できる

【指導術】:相手の成長を促す効率の良い指導が出来る

【鑑定・計測】:視界に収めたもののより詳しい情報を引き出す

【万能感知】:物体や魔力などの状態を詳細に感知できる

【人族共通語】:人族共通語で読み書き、会話することができる

【人族古代語】:人族古代語で読み書き、会話することができる


▼称号一覧

【連打を極めし者】

【全てを試みる者】

【世界の理を探究する者】

【動かざる者】

【躊躇いの無い者】

【非道なる者】

【常軌を逸した者】

【仲間を陥れる者】

【仲間を欺く者】


▼アイテム一覧

〈一人用テント×1〉〈調理道具×1〉〈食器×2〉〈布×20〉〈ロープ×7〉〈杖×1〉

〈村人の服×1〉〈盗賊の服×4〉〈麻袋×5〉〈水袋×5〉〈毛布×5〉〈松明×8〉〈火口箱×1〉

〈水×97,000〉〈枯れ枝×650〉〈小石×1,800〉〈軟石鹸×10〉〈パン×10〉

〈治癒薬×4〉〈上治癒薬×15〉〈特上治癒薬×5〉〈解毒薬×15〉〈上解毒薬×5〉

〈鎮痛薬×15〉〈風邪薬×25〉〈緩下薬×15〉〈止瀉薬×15〉〈鎮静薬×10〉

〈筋力増加薬×5〉〈精神刺激薬×5〉〈麻酔薬×5〉

〈毒薬×50〉〈猛毒薬×15〉〈劇毒薬×5〉〈麻痺毒薬×15〉

〈獣生肉(下)×1750〉〈獣生肉(中)×900〉〈獣生肉(上)×1000〉〈鶏生肉×250〉

〈生皮×550〉〈上質な生皮×197〉〈皮屑×18〉〈獣の骨×747〉

〈獣の爪×250〉〈獣の牙×250〉〈羽毛×50〉

〈魔石(極小)×90〉〈棍棒×300〉

〈ナイフ×3〉〈シミター×2〉〈ショートソード×1〉〈槍×1〉〈メイス×1〉

〈ボロ皮鎧×1〉

〈大銀貨×0〉〈銀貨×20〉〈大銅貨×9〉〈銅貨×2〉


▼残り支払予定額:グリィ

〈大銀貨×20〉


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