表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
269/310

第二百三十話 盗賊ギルドの仲間で検証

 

「……ということで、先ほどの食事のお礼に、スキルアップの手助けをさせてもらおう」


 ラボーの小さなレストランでの食事を終えた自分は、食後の運動をしようと言って、リヤ殿を街の外へと連れ出していた。


 行商人だと言って馬車で街へ入ったので、街の門を見張る衛兵が、徒歩で外へ出ようとする自分たちに事情を聴いてきたが、そちらでも自衛のために身体を鍛えるのを日課にしているのだと説明して通してもらった。

 自分がジョギングや素振りなどを日課にしているのは本当だし、この街でも明日の朝はいつもの訓練を行う予定なので、特に問題ないだろう。


「何が『ということで』なのか分からないし、あんまり衛兵に顔を覚えられるような行動はしたくないんだけど?」


「む? 今日の夜も街の外に出るなら、門番には事前に妥当な理由で街の外に出ることを認識しておいてもらった方が怪しまれないのではないか?」


「いや、街の外に出るときも別に衛兵に見つからないようにこっそり抜け出せばいいじゃん」


「なるほど、たしかに」


 検証に関係のない部分ではゲーム側が用意している通常の出入口を利用するというのが染みついていたので、普通に門から出て門から帰ってくる想定をしていたが、確かに、少しでも怪しまれるリスクを抑えるなら、なるべく門番と関わらずに行動した方がいいな。


 正面突破や迂回ルートなど、大まかに屋敷に侵入するルートを洗い出し、各ルートを検証する必要があるというのは言うまでもなく思い浮かんでいたが、現時点で各ルートをさらにどのように辿るかという細かい検証項目まで想定しているとは……リヤ殿はデバッガーの才能があるのかもしれない。


 この世界でどこかの家に侵入するという点に関して言えば、自分はまだ経験が浅いからな……。

 他のゲーム経験からも想定できる検証項目は簡単に洗い出せたとしても、専門的で細かい部分に関しては、このゲームでは一体どんなことが出来て、逆に何ができないかをその身で経験してきているリヤ殿の方が、考慮が行き届くのだろう。


「まぁ、日中に運動をしていたってくらいの情報なら、覚えられたとしてもそんなに影響ないだろうからいいけどさ……それより、わざわざ街の外で運動って何をするの? 追いかけっこでもするわけ?」


「身軽そうなリヤ殿と追いかけっこをしてみるのも楽しそうだが、それを本気で楽しむなら、きっとリヤ殿が本領を発揮できそうな障害物の多い街中などの方がいいだろう」


「へー、オースって見ただけで相手が得意なことが分かるんだ、目がいいんだね」


「うむ、そうだな……そして目がいいので、苦手なことも分かる」


 自分がそう告げると、それまで頭の後ろで手を組んでやる気の無さそうにしていたリヤ殿の表情が、苦虫をかみつぶしたような顔になった。


 もしかすると、彼女自身もその弱点に気づいていたり、ジャン殿や各仕事のリーダーから指摘されていたりするのだろうか。


「リヤ殿は、魔力感知や魔力操作が苦手なのだろう?」


「……あれ? 思ってたのと違った」


 しかし、自分がそのことを指摘すると、それはリヤ殿が思い浮かべていた内容とは異なっていたようで、嫌そうな顔からキョトンとした表情に変わった。


「? 違うことを思い浮かべていたのか?」


「あ……うん、ボスとかドーガからは、気配を消したり、感じ取る技術が甘いって言われてたから」


「ふむ……?」


 彼女が所持しているスキルを確認すると、気配を消すスキルとして【忍び足】や【呼吸制御】があり、気配を感じ取るスキルとして【五感強化】や【気配感知】【視線感知】まで持っているので、単純に気配を消したり、感じ取る技術で言えば、それなりに卓越していると思う。


 気になる点で言えば、やはり、【魔力感知】や【魔力操作】系のスキルが無いこと。


 一応、それなりに魔力の放出を抑える効果もある【手加減】スキルも取得しているようだが、これが【実力制御】スキルに変化していないところを見ると、スキルを使用しないように意識して手加減をするというようなこともやっていないのだと思われる。


「それに、ぼくは魔法が使えるわけでもなければ貴族でもないし、魔力とは無縁だと思うけど」


「……なるほど、そういうことか」


 おそらく、彼女を指導しているジャン殿やドーガ殿も似たような認識なのだろう……ただ、ジャン殿やドーガ殿は感覚的に魔力制御が出来ているのだと思われる。


 実際、リヤ殿が足りないスキルは、物理的な気配制御に関わるスキルではなく、魔力的な気配制御に関わるスキルだ。

 それがないと、相手の位置や強さを魔力で感じ取ったり、魔力放出を抑えて自身の気配を完璧に消すことが出来ない。


 それでも一般的な兵士が相手であれば問題ないだろうが、魔法の得意な騎士や探知系魔法が得意な魔法使い、自然と魔力が感じ取れる魔物などから隠れることはできないし、逆にそういったことが得意な相手を見つけることも難しいだろう。


 確かに、魔力を魔法という現象として行使できるのは、魔法使いや貴族が主となるが、この世界では、スキルの発動にも魔力を使うし、魔法を使わない一般人もそれなりに魔力を持っているということが、今までの検証で分かっている。


 自分の冒険者パーティー〈世界の探究者ワールドデバッガー〉の仲間たちは、貴族や最初から魔力操作に縁のある人物だったので、人によって魔力というものの認識がこれほど異なるとは認識していなかったな……。


「もしかすると一般的には魔力がある人=魔法が使える人、という認識なのかもしれないが、人は魔法が使える・使えないに関わらず、魔力は持っているものなのだ」


「へ? そうなの?」


「うむ。それに自分は、リヤ殿も含めて、魔法が全く使えない人物はこの世界に存在しないと思っている」


「えー、それは無いよ。だって実際、ぼくは魔法が使える人にテストしてもらった時、初級の魔法すら使えなかったし」


「む? そうなのか?」


「うん、なんか初級の魔法陣ってやつが、いくら力を込めても発動しなかったよ?」


「うーむ……なるほど、もしかすると」


「??」


 自分はリヤ殿からその言葉を聞くと、一つ思い当たることがあったので、木の枝を手に取り、王立学校の魔法研究学科で教科書として配られる本の最初に書いてある発火魔法の魔法陣を地面に描いた。


「その時にリヤ殿が発動しようとしたのは、この魔法陣であるか?」


「うーん……そんな細かく覚えてないけど、こんな感じだったと思う」


「なるほど」


 それは、王立学校の魔法研究学科で配られる教科書や、魔法に関する本を取り扱っている書店で初心者向けとして売られている本で最初に書かれていることが多い魔法陣だ。


 そして、王立学校ではこれが発動できないのであれば魔法使いの道は諦めたほうがいいと教えており、魔法使いの初心者向け書籍にも、それと似たようなことが書いてあったと記憶している。


 確かに、様々な検証結果から魔法の仕様を把握した自分からしても、この魔法陣が発動できないなら、魔法使いとして活躍する道は諦めた方がいいとは思う。


 だが、あくまでも魔法をメインの商売道具として生計を立てることは諦めた方がいいかもしれないというだけであって、魔法を使うこと自体を諦めるべきというわけではない。


 自分は先ほど描いた魔法陣の隣に、もう一つ別の魔法陣を描いた。


「では試しに、こちらの魔法陣で魔法を使ってみてもらえるか?」


「え? まぁ、別にいいけど……その魔法の紙は持ってるの?」


「魔法の紙……?」


 その単語が何を指していて、どうしてここで出てくるのかパッと思い当たらなかった自分が詳しく聞いてみると、どうやら魔法の紙というのは、魔法陣が描かれた〈スクロール〉のことを指しているようだ。


 リヤ殿が魔法が使えるかどうかテストさせてもらった時は、その魔法使いが持っていたスクロールに魔力を流す形で魔法を行使しようとしたらしい。


 確かに、その魔法使いから魔法杖を使って魔法陣を描く方法を教えてもらったり、魔術語を呪文として唱えて魔法を発動する方法を教えてもらったりしたのであれば、既に魔力操作のスキルは手に入っているはずだな……。


 スクロールの値段はただ魔法が使えるかのテストに使うには高価な品だったはずだが、盗賊ギルドでは魔法が使える人員は貴重なので、新人が魔法が使えるかどうかを測るためにギルドがお金を出して魔法使いに依頼し、スクロールでのテストをさせてくれる制度があるそうだ。


 王立学校の授業でも確かに最初に触れたのは魔法に関する考え方と言語、およびそれを魔法陣として紙に描いたスクロールに関する内容であったし、高価な品なので一般普及していないというだけで、魔法使いを目指している者であれば誰でも最初に触れる品なのだろうか。


 まぁ、スクロールを作る材料も揃っているし、とりあえず自分が先ほど地面に書いた魔法陣が発動できるかそれで試してもらおう。


 自分は亜空間倉庫から錬金器具、魔石や紙、銅鉱石など、簡単な初級スクロールを作成する材料を取り出して、その場でスクロールの作成を始めた。


「え……それ、何やってるの?」


「何って、リヤ殿の言う魔法の紙、スクロールを作っているのだが」


「いやいやいや、その魔法の紙って、腕のいい魔法使いと、腕のいい錬金術師が協力しないと作れないって聞いたけど」


「ふむ? それならきっと、自分は腕のいい魔法使いで、腕のいい錬金術師なのだろう」


「えぇ……。収納魔法が使えるだけじゃなくて、普通に魔法も錬金術もできて、口ぶりからして近接戦闘も得意なんでしょ? オースって何者なの?」


「デバッガーだな」


「……」


 自分はそうしてリヤ殿に「訳が分からない」と言われながらも、黙々とスクロール作成を進めて、自分の思う初級魔法のスクロールをいくつか作成した。


 スクロールを使って魔法を発動するためにも魔力操作は必要ではあるが、きちんと魔力を通しやすいインクで魔法陣が描かれていれば、適当に魔力を流してもインクが勝手に流された魔力を魔法陣の形に整えてくれるので、その魔法陣を発動するために必要な魔力量さえ流せれば発動できる。


 逆に、普通の紙に普通のインクで魔法陣を書いて適当に魔力を流した場合は、不発に終わったり爆発したりするということも、学校で行った検証で既に分かっている。


「では、これに魔力を流してみてくれ」


「……まぁ、魔力を流すっていうのがイマイチわかってないんだけど、とりあえず力をこめる感じでいいんだよね?」


「うむ」


 リヤ殿は、頭にハテナを浮かべたまま、とりあえず自分が手渡したスクロールを受け取ると、両手で持ったその魔法陣が描かれた紙を見つめながら力みだした。


 そしてすぐに、紙に描かれた魔法陣が光り始める……。


「よし、そこで【点火イグナイト】と唱えてみてくれ」


「う、うん……【点火イグナイト】」


 ―― ボウッ ――


「うわぁっ!」


 リヤ殿が魔法の発動句を唱えると、魔法陣の中心に小さな火が現れ、そのままスクロールも燃えてしまった。


 以前のテストで魔法が使えないと判断された彼女でも、魔法を発動させることができたのだ。


 しかも、自分が渡した紙に描かれた魔法陣は、先ほど最初に地面に描いた魔法陣と同じく、発火の現象を引き起こす魔法陣。


 違うのは、本来その魔法を発動するだけであれば必要のない、余分な線が省略されていることだけである。


「やはりな」


「やはり、って、どういうこと? 今の火って、本当にぼくが魔法で出したの?」


「その通りである」


 リヤ殿が以前テストした魔法陣……学校の授業や初級の魔法本に最初の魔法として描かれている魔法陣は、火属性の初級魔法、【点火イグナイト】の魔法陣だ。


 ただ、授業で教えられる【点火イグナイト】の魔法陣は、少し変えるだけで他の、同じく火属性の初級魔法である【火のファイアアロー】などに変えられるよう、あらかじめ余計な線が描かれている、汎用性の高い魔法陣なのだ。


 だから、本来【点火イグナイト】を発動させるだけであれば必要のない余計な線にまで魔力を注ぐことが魔法発動のための必須条件となっており、そのせいで魔力が足りない人は発動できないという構造になっていたりする。


「なるほど、そういうことか」


 今まで、授業の最初や、魔法本の初級編として、どうしてこんな無駄の多い魔法陣を教えているのか気になっていたのだが……これは、本当に将来、魔法使いとして活躍できるのかをテストするための入門試験として描かれていたのだな……。


 確かに、ただ初級魔法を使うだけであれば、それほど複雑な魔法陣は必要ない。

 だが、中級、上級の魔法を使うことまで考えると、複雑な魔法陣が発動できるほどの魔力量がないと厳しい。

 テストとして使われている無駄に複雑な魔法が発動できないようでは、その先の魔法を扱うことはできないという考えがあるのだろう。


 それに、この自分にとっては無駄でしかない授業用の魔法陣の中には、もし発動失敗するようなことがあっても大きな問題が発生しないような安全装置が含まれている。


 初級魔法の授業だけで断念して、魔法の理論をしっかりと身につけられないような人間に、失敗すれば危険が生じるような魔法陣を教えたくないというのもあるのかもしれない。


「まぁ、せっかく色々と作ったので、他のスクロールもリヤ殿に渡しておくが、後で魔法の注意点を教えるから、それまでは使わないで取っておいて欲しい」


「うん、よく分からないけど、わかった」


 自分は先ほど作成した、おそらくリヤ殿の魔力量でも発動できるであろう初級魔法が描かれたスクロールを手渡すと、作成に使用した錬金器具などを片付けた。


「まぁ、そういうことで、リヤ殿にも魔力があるのは分かったと思うので、とりあえず目先に必要そうな【魔力感知】と【魔力操作】スキルを習得してもらおう」


「なんか、ぼくの方が先輩なのに、オースは先生みたいだね」


「うーん、そうだな……まぁ、自分が知っていてリヤ殿が知らないことに関してはそうなるだろう。だが、その代わりに、リヤ殿が知っていて自分が知らないことに関しては、リヤ殿が先生をやってくれ」


「あっ、うん! それは任せて!」


 そうして自分はリヤ殿と互いに先生になることを誓って握手をすると、彼女に対する最初の授業を開始した……。


▼スキル一覧

【輪廻の勇者】:不明。勇者によって効果は異なる。

【魔王】:人知を超える魔法を操り、魔物を従える。

【超観測】:任意の空間の全ての状況や性質を把握できる。

【言語理解】:様々な言語を読み、書き、話すことが出来る。


▼称号一覧

【魔王】:勇者の枠を超え、魔王としての役割を果たした。


▼アイテム一覧

〈水×999,999+〉〈土×999,999+〉〈石×199,600〉〈木×20〉〈薪×735〉〈布×8〉

〈食料、飲料、調味料、香辛料など×1,954日分〉〈保存食×19,995〉〈飼料×3,700〉

〈獣生肉(下)×1750〉〈獣生肉(中)×496〉〈獣生肉(上)×478〉〈茶蕎麦×200〉

〈獣の骨×700〉〈獣の爪×250〉〈獣の牙×240〉〈羽毛×30〉〈魔石(極小)×67〉

〈革×270〉〈毛皮×90〉〈スライム草×90〉〈抑制の首輪×5〉

〈着替え×989〉〈本×90〉〈遺物×10〉〈宝石・鉱石×159〉

〈冒険者道具×1〉〈調理器具×1〉〈錬金器具×1〉〈変装道具×8〉〈盗賊道具×1〉

〈掃除道具×1〉〈茶道具×1〉〈絵画道具×1〉〈手持ち楽器×4〉〈採掘道具×1〉

〈木刀×1〉〈ミスリル合金の軽鎧×1〉〈ミスリル合金の短剣×1〉

〈音信のイヤリング×1〉〈行商用の穀物と香辛料×1〉

〈教国軍の消耗品×199,200〉〈教国軍の装備品×19,990〉〈教国軍の雑貨×99,195〉

〈金貨×512〉〈大銀貨×1,948〉〈銀貨×1,971〉〈大銅貨×3〉〈銅貨×2〉


▼ 商業ギルドからの借金

オース名義:金貨2枚

グリィ名義:金貨2枚


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ