第二百二十四話 盗賊ギルドへの加入で検証
ジェラード王国、ダルラン領、領都、地下。
自分は現在、街の地下にある貯水施設に隣接するように設けられた施設、盗賊ギルドの本拠地へとやってきていた。
「……で、お前さんはいったい、どこのだれなんだ?」
両手をロープで縛られ、周囲を屈強な男に囲まれた状態で……。
目の前に積み上げられている木箱の頂上に座っているのは、自分を見下ろす形でそんな質問を投げかけている、髪を短く切り揃えた頭にバンダナを巻き、革鎧を着こんだガタイの良い身体の上から荒々しい毛皮のマントを羽織った、顔に大きく目立つ傷跡のある、いかにも盗賊ギルドのボスといった男。
ここまで案内してくれたリヤ殿は、少し離れた場所にあるテーブル席に座って、こちらに視線を向けながらリンゴを齧っており、その周囲には同じく盗賊ギルドのメンバーであろう女性の姿もチラホラ見える。
「自分はオース、デバッガーだ」
「でばっがー?」
盗賊ギルドのボスから投げかけられた問いに対して、自分は自身の立場を正確に返答したが、やはり彼も他のNPCと同じようにデバッガーという職業については心当たりがないようで、首を傾げて周りを見渡す。
視線を向けられた周囲の盗賊たちも一様に肩をすくめるエモートを行っているので、盗賊ギルドの誰一人としてデバッガーという職業に対する知見は無いようだ。
「うーむ、そうだな……冒険者のような仕事もするし、研究者のような仕事もする……何でも屋のようなものだ」
「ほう、何でも屋ね……で、どこかの屋敷から美術品や宝飾品を盗んだのも、その仕事の一環ってわけか?」
「そうなるな……まぁ、正確には、次の仕事をするための資金調達も含まれるが」
「……なるほどな」
盗賊ギルドのボスは納得しきっていない様子だったが、ひとまず自分の回答を飲み込んではくれたようで、自分の所属に関してそれ以上追及することはなかった。
周囲の盗賊に対して【鑑定】を行うと、家名が表示される元貴族と思われるメンバーもいるようなので、冒険者ギルドでもそうであるように、生まれや過去に関してはあまり深く詮索しない決まりでもあるのかもしれない。
「それで、聞いたところ、お前さんは盗品を身分証無しで質屋に売ろうとしていたそうだが、この大量の美術品や宝飾品は、いったいどこから盗んできたんだ?」
「ソメール教国のバジオーラ侯爵の屋敷からだな」
「バジオーラ侯爵の屋敷から!?」
「うむ」
「おい、確認しろ!」
「へいっ」
何か変なことを言ったのだろうか……?
自分はボスからの質問に対して、盗みを働いた場所を正直に答えただけなのだが、彼は驚いた様子で部下に盗品の確認を指示して、指示された部下は自分が持っていた麻袋の中身を漁り始める。
会話の流れから、盗んだ場所が本当に隣国の侯爵家かどうかを確かめているのだとは思うが、盗品の中にバジオーラ侯爵の名前が書かれた物が無いか探しているのだろうか?
「あっ」
そして、盗品を確認していた担当者が最後の麻袋を開くと、その彼は何かを発見したように小さく声を上げた。
「あったのか!?」
ボスのその呼びかけに対して、ゴクリとつばを飲み込んだ後に麻袋から何かを取り出した男の手には、黄金に煌めくルーレットホイールが掲げられていた。
ふむ……そういえば、そんな特徴的で目立つ展示品が、バジオーラ侯爵邸のギャラリーの中央に飾られていたな。
形はカジノのルーレットで使用する回転盤だが、その本体全てが純金で作られている上に、数字が刻印された場所の外側には、赤や黒、緑色の宝石が装飾としてあしらわれている。
大きさが直径三十センチほどで、回転するような構造にもなっていないので、実際にルーレットで使用するわけではなく、完全に鑑賞用なのだろうが、その大きさの純金の塊だと考えるだけでも相当の価値だろう。
「そのルーレットホイールがバジオーラ侯爵邸から盗んできた証拠になるのか?」
「ああ……というか、それだけじゃねぇ。丁度そいつを盗んで欲しいっていう依頼を抱えていてな、近いうちに盗み出す予定だったんだ」
「ほう、それなら丁度良かったではないか。自分は物よりお金が必要だから、それを買い取ってくれないか?」
「バカ言え、こいつを買い取る金なんてすぐに用意できるわけないだろ……それにだ」
「……それに?」
「もっと大事なのは、お前さんがこいつを盗み出すときに、相手さんに一体どれだけの被害を出したかってところだ」
「相手に被害を出したか……? それが盗品を売るのに重要なことなのか?」
大量の金銭や物を盗んでいる時点で、バジオーラ侯爵には十分被害が出ていると思うが、話の流れからして、きっとそういうことではないのだろう。
……とすると、器物破損や人的被害などのことを言っているのだろうか?
「特に物を壊したりしていないし、人も命までは取っていないな。まぁ、気絶させるために殴ったりはしているので、数人の怪我人は出ているだろうが……」
「ほう、それはたまたま運がよかっただけか? それとも信念か?」
「うーむ……まぁ、運がよかったのも大きいだろうが、自分は器物破損はともかく、人の命は可能な限り取らないようにしているな」
そのNPCが発注してくれるクエストや、そのNPCがいることによって発生するイベントが検証できなくなるのは避けたいからな……。
「……」
「……」
盗賊ギルドのボスは、自分のそんな返答を疑っているのだろうか……睨むようにジッとこちらを見つめて、話を聞き終わっても暫く押し黙ったままだった。
まぁ、どう思われていたとしても、他に自分から出せる追加情報も特になかったので、こちらも相手の目を見つめ返すしかできない状態なのだが……そろそろゲームがフリーズしてないか確かめたほうがいいだろうか?
「……合格だ」
そんな風に、自分がフリーズの検証をするべきかどうか悩み始めた時、彼はようやく口を開き、絞り出すようにそんな声を発した。
合格とは……? 売買をする相手の審査にか……?
自分はそんな疑問を口に出そうとしたが、そんな余裕を与えてくれることなく、まるでこちらが発しようとした声をかき消せんばかりに、自分の周囲が一気に騒がしくなる。
「おー! 久々の新人だー!」
「加入おめでとう!」
「オースとか言ったか? よろしくな!」
「単独で貴族の屋敷から盗んでくるなんて、お前やるなー!」
加入を喜ばれ、歓迎の声を掛けられ、筋骨隆々な男たちに肩を組まれる……。
特に盗賊ギルドへの加入を希望した覚えはないのだが……特定の条件を満たした際に発生する強制イベントか何かだろうか……。
頭がハテナで埋め尽くされた自分は、突然のこの状況についていけず、ただ暑苦しい男たちの歓迎にもみくちゃにされ、イベントの行く末を見守ることしかできない。
「がっはっは、いきなりの歓迎で驚いただろ。だが、残念ながら俺たちと同じ信念を持っているお前はもう既に仲間だ。観念して受け入れろ」
うーむ、いきなりの歓迎に驚いたというより……盗賊ギルドへの加入を申請するイベントが飛ばされてしまう不具合が発生したのではないかと焦っていたのだが。
「……同じ信念?」
前提イベントがバグでスキップされたわけではなく、自分が気が付かないうちに、その同じ信念とやらを持っていると証明するような会話の選択肢を選んでいて、その条件を満たしたことによって、仕様で勝手にイベントが始まったということだろうか?
「お前ら、俺たちの信念は何だ?」
「「物は盗んでも、命は盗まない!!」」
「そうとも! そしてお前は、相手の命になんて気を使わないほうが遥かに楽に済む貴族の屋敷からの盗みで、人の命を盗ってないと言った! それが信念だと言った!」
「う、うむ、確かにそう言ったな……」
「だったらもう、お前は仲間だ!」
「「仲間だー!!」」
ふむ……よくわからないが、デバッガーの信念が、盗賊ギルドの仲間とされる条件を満たしていたようだ。
まぁ、せっかくだ……このまま盗賊ギルドとやらの検証もやってしまおう。
「よろしく頼む」
「「おおー!!」」
ジェラード王国の学校や冒険者ギルドに帰るのは、まだ暫く先になりそうだな……。
▼スキル一覧
【輪廻の勇者】:不明。勇者によって効果は異なる。
【魔王】:人知を超える魔法を操り、魔物を従える。
【超観測】:任意の空間の全ての状況や性質を把握できる。
【言語理解】:様々な言語を読み、書き、話すことが出来る。
▼称号一覧
【魔王】:勇者の枠を超え、魔王としての役割を果たした。
▼アイテム一覧
〈水×999,999+〉〈土×999,999+〉〈石×199,630〉〈木×20〉〈薪×765〉〈布×14〉
〈食料、飲料、調味料、香辛料など×1,960日分〉〈保存食×19,995〉〈飼料×4,240〉
〈獣生肉(下)×1750〉〈獣生肉(中)×500〉〈獣生肉(上)×480〉〈茶蕎麦×240〉
〈獣の骨×700〉〈獣の爪×250〉〈獣の牙×240〉〈羽毛×30〉〈魔石(極小)×68〉
〈革×270〉〈毛皮×90〉〈スライム草×90〉〈抑制の首輪×5〉
〈着替え×989〉〈本×90〉〈遺物×10〉〈宝石・鉱石×1,100〉
〈冒険者道具×1〉〈調理器具×1〉〈錬金器具×1〉〈変装道具×8〉
〈掃除道具×1〉〈茶道具×1〉〈絵画道具×1〉〈手持ち楽器×4〉〈採掘道具×1〉
〈木刀×1〉〈ミスリル合金の軽鎧×1〉〈ミスリル合金の短剣×1〉
〈音信のイヤリング×1〉
〈教国軍の消耗品×199,200〉〈教国軍の装備品×19,990〉〈教国軍の雑貨×99,200〉
〈金貨×400〉〈大銀貨×1,802〉〈銀貨×2,002〉〈大銅貨×3〉〈銅貨×2〉
▼ 商業ギルドからの借金
オース名義:金貨2枚
グリィ名義:金貨2枚