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第二百二十一話 強盗で検証 その二

 

 バジオーラ侯爵邸。


 自分は気絶させた門番から掠めた鍵で門を開け、乗ってきた馬車を敷地内の馬車回しに停めた。

 馬車回しには来客のものと思われる別の馬車が一台停まっていたが、馬や御者の姿は無かったので、その馬車の馬はどこか別の場所にある馬小屋の方で休ませているのかもしれない。


 こちらの馬も長くこの場所に留まるならそちらで休ませてあげるべきなのだろうが、すぐに屋敷を出ることになると思うので、軽く自由が利く程度に馬具を調整して、岩塩や水を自由に補給できる状態にだけしておく。


 そして自分の方は、馬車に積んでいたロープなどの荷物を麻袋に詰め込んで背負い、誰にも見つからないようにこっそり屋敷の裏手へと向かった。


 馬車が門から入ってきたところは屋敷の住人に何処かの窓から見られている可能性はあるが、門の方で衛兵が見張りをしているという安心感があるのか、屋敷の正面扉には特に誰かが立っている様子もなく、こんなことをしている間に誰かがやってくるという様子も無い。


 こんなに警備が薄いのであれば、正面扉から堂々と侵入する検証も行いたいところだが、今は他の検証を行うための資金を調達するためにこの強盗を成功させることも優先させたいので、それはまた後でいいだろう。


「裏手の見張りは……三人か」


 屋敷の裏手にいた人影は三人。


 そのうち二人は馬小屋で談笑しているようで、一人が二頭いる馬の両方を世話している様子を見るに、あの二頭とそれを世話している人物が、表の馬車回しに停めてあった馬車の使用者なのだろう。


 馬小屋で談笑するもう一人の方は、馬小屋の掃除道具を持ってはいるものの、今は特に何も仕事をしていないようだし、馬小屋には先ほどの二頭以外に馬はおらず空きスペースがある。


「ふむ……もしかすると、この屋敷の主人は外出中なのだろうか」


 だとすれば使用人や護衛も何人かは付いて行っているだろうし、その分だけ屋敷の警備も薄くなっていると思うが、主人が返ってくるところに鉢合わせしてしまう可能性も出てくるな……。


 馬小屋から視線をずらして井戸のそばに目を向けると、庭のあちらこちらに植えられているコニファー系の庭木を手入れするために使われるのであろう、脚立や剪定バサミなどのガーデニング道具を洗っている、おそらくこの屋敷の庭師だと思われる人物が一人。


 馬小屋にいる二人も、井戸のそばにいる一人も、職業的には衛兵のような見張りではないが、自分が潜入していることが知られたら他の住人を呼ばれる可能性があるということを考えると、強盗ゲームの警備員や一般人のようなポジションであることに変わりはない。


 自分はその場にそっとロープなどが入った麻袋を置くと、麻袋のひとつを加工して作った自作の目出し帽を被って、まずは睡眠ポーション入りの瓶を馬小屋にいる二人の間に投げた。


「うわっ!」


 横から突然投げられた瓶が割れる音に、馬小屋にいた二人が驚きの声を漏らすが、それも一瞬のこと。


 このポーションは自分が作ったものではあるが、アーリー殿に作り方を教わった確かな効果を発揮するものなので、今までそのポーションに眠らされてきた数多の人物と同様に、その意識は一瞬にして夢の中へと沈んでしまう。


「え……?」


 井戸のそばで道具の手入れをしていた庭師からすると、瓶の割れた音がしたと思ってそちらを見たら、次の瞬間には馬小屋にいた二人が倒れていたという状況だっただろう。


 そして、彼はその事態が異常なことだと理解する前に、先に倒れた彼らと同じ運命を辿ることとなる……。


 ―― ドサッ ――


 馬小屋の二人が倒れた時にはもう、彼の背後に回り込んでいた自分が、睡眠ポーションを染み込ませた布で彼の口をそっとふさいでいたからな。


 自分は睡眠ポーションで眠らせた三人がしっかり意識を失っていることを確認すると、三人とも植木の裏に隠して、起きても行動できないようロープで手足を縛り上げ、布で猿轡をかませた。


 門を見張っていた衛兵もそうだったが、この三人も無線機として使えるような魔道具の類は特に持っていないようなので、このゲームでは見張りを気絶させた後に無線に応答する必要は無さそうだ。


「ふむ、こんなに簡単に見張りを無力化出来てしまうなら、この屋敷は完全ステルスでクリアするのも難しくない難易度かもしれないな」


 自分はこの屋敷の攻略難易度をなんとなく把握すると、置いていたロープなどが入った麻袋を背負いなおして、このあたりに潜入経路がないか見渡してみる。


「うーむ……このあたりに裏口は無し、と」


 もしかしたら裏手に正面玄関とは別の出入口のようなものがあるかと思ったが、どうやらこの屋敷には背面に裏口は設けていないタイプの建物らしい。


 一応、縦に長いガラス窓などはいくつもあるが、そちらも開閉できない作りになっているようなので、窓からの侵入も難しそうだ。


「む……?」


 少し離れた場所から人の声が聞こえて、自分はとっさに植木の陰へと身を隠す……。


 しかし、その話声の主はこちらへやってくる様子はなかった。


 声のした方へ慎重に足を進めると、どうやら本館の横に建っている別館が調理場や洗濯場など、使用人の働く施設がまとまった建物になっているらしく、別館と本館の間に設けられた渡り廊下を使用人が行き来しているようだ。


「なるほど……この渡り廊下からなら侵入できそうだな」


 正面から見た屋敷の構造が左右対称な作りになっておらず、それなりに増改築されているような構造になっているので、中世というよりも、近世以降のカントリーハウスに近いだろうか。


 もしかすると別館のほうにも高価なワインなどが貯蔵されている部屋があるかもしれないが、後々頂戴した荷物を馬車に積んで逃げることを考えると、液体の入った瓶などは割れる可能性があって面倒だろう。


 自分は少しの間だけ人の流れを観察して、渡り廊下での人の往来にパターンがあるか確認したが、この屋敷の見張りにはきっちりとした行動パターンや移動ルートがあるわけではなさそうなので、目視で安全確認をして本館へと潜入し、廊下で使用人に遭遇する前に一番近くの部屋へと転がり込んだ。


「ここは、食器室か?」


 渡り廊下から本館に入ってすぐの場所にあった部屋は、おそらく普段の食事や客を招いた夜会などで使われるのであろう大量の食器が収納されている部屋だった。


 ざっと見渡した感じ、銀製の食器はあっても金製の食器などは無さそうなので、この部屋に置いてある物もスルーで良さそうだな。


 銀製の食器も売れなくはないだろうが、そういった雑貨であればまだまだこの国の砦から頂いたものが大量に余っているし、かさばる割に高くは売れない。


「だが、この部屋自体は使えそうだな」


 食事時には人の出入りがあるかもしれないが、先ほど昼過ぎの間食か何かだと思われる紅茶と茶請けが運ばれていったところを見たばかりだ。ここからしばらくは人の出入りがないだろう。


 自分はこの部屋を中継地点と定めると、背負っていた荷物を置き、すぐに必要になるものだけを持ち直して部屋を出た。


 そして、そこからしばらくは、警備の無力化作業……。


 廊下を行き来する使用人を睡眠ポーションを染み込ませた布で眠らせては、食器室へと運んで、手足を縛り、猿轡をはめる……。使用人を眠らせては、食器室へ拘束する……。その繰り返し。


 その作業を繰り返しながら屋敷の構造をなんとなく把握すると、どうやら金貨や宝飾品を大量に入手できそうな部屋は、二階に集まっているだろうことが推測された。


 一階には来客用の部屋や食堂、子供部屋しか無かったので、プライベートな書斎や主人の寝室、ギャラリーなどは二階にあるのだろう。


 彫刻や絵画の類はエントランスホールにもあったが、場所的に人目に付きやすく、品物としても持ち運びにくいので、今のところ保留だ。


 自分は付近の廊下を行き来する使用人をある程度捕らえることができたことを確認すると、ロープが減って軽くなった麻袋を持って二階へと上がった。


「ふむ……二階には誰もいないのか」


 二階に上がるとすぐに感覚を研ぎ澄ませて人の気配を探ってみるが、この階には今のところ誰もいないらしい。


 バジオーラ侯爵夫人と思われる人物は、その友人と思わしき女性と一階の温室でお茶会を開いており、子供は各々の部屋で家庭教師と一緒におとなしく勉強しているのを確認しているので、二階にもいない屋敷の主人は予想していたとおり外出中なのだと思われる。


 夫人がお茶会を開いている温室のドア前には護衛が立っていたものの、それを除けば屋敷内の警備がえらく手薄だと思っていたが、主人が出かけているなら、彼が連れて行った護衛の人数だけ警備も緩んでいるということなのだろう。


 そうなるとやはり、その主人や護衛が帰ってきてしまうと、見慣れない馬車が馬車寄せに止まっているのを見られた時点で、脱出難易度が跳ね上がる可能性が高いな……。


「まぁ、考えても仕方ない……できるだけ迅速に金品の回収作業を進めよう」


 自分は麻袋を背負いなおすと、素早く、しかし足音は立てずに、各部屋から金銀財宝を頂戴して回った……。


▼スキル一覧

【輪廻の勇者】:不明。勇者によって効果は異なる。

【魔王】:人知を超える魔法を操り、魔物を従える。

【超観測】:任意の空間の全ての状況や性質を把握できる。

【言語理解】:様々な言語を読み、書き、話すことが出来る。


▼称号一覧

【魔王】:勇者の枠を超え、魔王としての役割を果たした。


▼アイテム一覧

〈水×999,999+〉〈土×999,999+〉〈石×199,680〉〈木×20〉〈薪×815〉〈布×90〉

〈食料、飲料、調味料、香辛料など×1,960日分〉〈保存食×20,000〉〈飼料×4,340〉

〈獣生肉(下)×1750〉〈獣生肉(中)×500〉〈獣生肉(上)×480〉〈茶蕎麦×290〉

〈獣の骨×700〉〈獣の爪×250〉〈獣の牙×240〉〈羽毛×30〉〈魔石(極小)×68〉

〈革×270〉〈毛皮×90〉〈スライム草×90〉〈抑制の首輪×5〉

〈着替え×989〉〈本×90〉〈遺物×10〉〈宝石・鉱石×1,000〉

〈冒険者道具×1〉〈調理器具×1〉〈錬金器具×1〉〈変装道具×8〉

〈掃除道具×1〉〈茶道具×1〉〈絵画道具×1〉〈手持ち楽器×4〉〈採掘道具×1〉

〈木刀×1〉〈ミスリル合金の軽鎧×1〉〈ミスリル合金の短剣×1〉

〈音信のイヤリング×1〉〈美術品×20〉〈宝飾品×100〉

〈教国軍の消耗品×199,200〉〈教国軍の装備品×19,990〉〈教国軍の雑貨×99,200〉

〈金貨×0〉〈大銀貨×2〉〈銀貨×4〉〈大銅貨×3〉〈銅貨×2〉


▼ 商業ギルドからの借金

オース名義:金貨2枚

グリィ名義:金貨2枚


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