表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
257/310

第二百二十話 強盗で検証 その一

 

 ソメール教国、北西、バジオーラ領都。

 自分は現在、商人風の服装を着て馬車を操り、この領地の領主、バジオーラ侯爵の屋敷へと向かっている。


 今日の午前中、この街のカジノで有り金を全て溶かした自分は、他の街でもそうして生活費を工面していたように、グラヴィーナ帝国とソメール教国との戦争を止める際にソメール教国の砦で手に入れたポーションや雑貨の類を売って資金を稼いだ後、そのお金で馬車やこれから必要となる道具を一通りそろえた。


 馬も馬車もジェラード王国からソメール教国への旅の途中で一度購入しているが、おそらくそちらの馬車はグリィ殿たちがジェラード王国へと帰るために使われているだろう。


 おそらく今回買った馬車は次の町で手放すことになるので、利用期間としては高い買い物になると思われるが、これから実行する金策で所持金を大量に増やす予定なので問題ない。


 ソメール教国に入ってからずっと行っていた金策は、この国の砦でごっそり頂いたポーションや雑貨の卸売りだが、このゲームの売買システムはしっかりしているようで、アイテムの買取を行っている店自体も少ない上に、同じ店に対して一日にアイテムを売れる限度額もランダムで定まっているというところで勝手が悪い。


 いくら売れそうなアイテムを大量に持っていたとしても、そのすべてを一気にさばけるわけではないので、物の売買で大量の資金調達をするのは現実的ではないのだ。


 似たようなシステムを実装している某オープンワールドRPGでは、店員が買取に応じてくれなくなった時点でセーブし、その店員に暴力を振るってからロードすることで、何故か再び買取に応じてくれるという仕様になっていたが、このゲームではそもそもセーブやロードを行うための画面が見つかっていない。


 試しにセーブやロードなしで店員に暴力を振るってみたところ、普通に衛兵を呼ばれた上にその店での売買が二度と出来なくなったので、かのゲームで有効だった方法は使えないのだろう。


 まぁ、ジェラード王国でアイテム売買の検証を行った時のように、自分が王族であることを明かして取引すれば、売れるアイテムの種類や一日に売れる限度額が多少緩和するとは思うが、今から実行しようとしていることを考えると、ここで自分の正体を明かすような真似をして足が着くのはまずいから、今は無しだな。


「さて、このゲームの強盗システムは、どんな遊び方になっているだろうか」


 何しろ、今から領主の屋敷でありったけの財産をいただこうと思っているのだから……。


 銀行に対して強盗行為が行えるようなゲームは自分もプレイしたことがあり、それ自体がメインの遊びとして作られているゲームも存在する。

 だが、このような中世の世界観で、金銭目的で貴族の屋敷を襲撃することをメインの遊びとしているゲームは、流石に聞いたことが無い。


 そもそも、この世界には紙幣も銀行のような機関もなく、商業ギルドが金銭の貸し借りなどの機能を持ってはいるものの、一般人や貴族を含む多くの人間が自分の財産は自分の家で管理しているようだから、そういった点でも勝手が違うのだろう。


 自由度の高いオープンワールドゲームであれば、人の家からお金を奪う盗賊プレイなども出来ないことも無いが、そういったゲームは戦闘や冒険がメインの遊びであって、別に強盗や盗賊行為がメインの遊びというわけでは無いので、専用の凝ったシステムが組み込まれているわけではないのが普通である。


 このゲームもジャンルとしては冒険メインのオープンワールドRPGのようだし、世界観的にも電子的なセキュリティもなければカーチェイスも無いと想定すると、強盗行為に関しては簡単に成功してしまいそうだ。


「だが、だからと言って検証に手を抜いて良いわけでは無い……やるからには全力で行かせてもらおう」


 自分はそう意気込みつつ、閉じられた門の前に二人の衛兵が立っているその屋敷の前へ到着した。


「止まれ」


 屋敷の前に着くと、当然だが、門の前で警備をしているその衛兵に呼び止められる。

 この屋敷の門番をしている衛兵は国に属する騎士では無いようで、一般的な鋼鉄の鎧を着て、シンプルな槍を持っていた。

 日によって変わったりもするのかもしれないが、人数としても二人しか立っていないようだ。


 だが、門は鍵が閉められた状態だし、安く手に入れたこの馬車に門を無理やり突破する能力がない以上、ひとまずは話術や武力でこの衛兵二人を何とかしてから中に入るしかないだろう。


「何者だ」


「デバッグ商会のオースという者なのだが、領主様にこの秋からうちで販売する新商品の試供品を収めさせていただきたいと思い、こうして足を運ばせてもらったのだ」


「デバッグ商会……? 聞いたこと無いな……お前は」


「いや、俺も無い……というか、今日は来客があるって話も聞いてないし、そもそも領主様がな……?」


「そういやそうだな。まぁ、そういうわけで悪いが、とりあえず誰であろうと事前に連絡のないやつを屋敷に入れるわけにはいかんのだ。今日のところはお引き取り願おう」


 自分が御者台を降りて、堂々と嘘の自己紹介をすると、どうやら門を守る衛兵はそれなりに教育がしっかりされているという仕様なようで、普通に門の中に入るのを阻まれてしまった。


 まぁ、本当はわざわざ荷物運搬に使うための馬車で中に入ろうとしなくても、別の場所から単身でひっそり忍び込んで、金目の物を片っ端から亜空間倉庫に放り込む形でも窃盗行為は可能なのだが……それでは強盗ゲームの検証にならないからな。


 やはり難しそうでも、こうして正面から全ての障害を突破しつつ、所持品に制限のある環境下で、なるべく多くの金銭を奪う、というところまで検証するべきだろう。


「うーむ、それは困った……ここまで来て何もしないで帰ってしまったら言葉通り無駄足になってしまう……そうだ。領主さまに提供できないなら、衛兵のお二人に提供してもよいだろうか」


「俺たちに? タダで貰えるなら貰ってやってもいいが、例えその商品が気に入ったとしても、俺たちの財布事情的に領主様向けの商品を買えるとは思えんな」


「というか、試供品って、そもそもどんな商品を持ってきたんだ? まさか領主様に食べ物の類を売りに来たわけじゃないだろう? 俺たちはそっちの方が嬉しいんだが」


「いや、店の方では食料品も取り扱ってるが、残念ながら、今回持ってきたのは宝飾品と化粧品だ」


「おいおい、俺たちの顔に化粧や宝石が必要なように見えるかよ?」


「はっはっは、確かにこいつは化粧が必要だと思えるほど強面だが、飯を食うフォークすらうまく扱えないこいつに化粧品なんか使わせたら、強面が悪化するだけだろうぜ」


「がっはっは、化粧で強面になれるんだったら、そいつは門番にうってつけじゃねぇか。なんならお前にもすぐに試してやろうか? 拳って言う化粧品でも、青あざって化粧くらいできるからな」


 門番二人は仲が良いのか悪いのか、自分が努めて商人らしく振舞っている前で、互いに笑い合いながら、見事な会話のドッチボールを繰り広げている。


 こちらの話に付き合わずに追い返すような真似をしない点から考えても、おそらく門番という仕事は酷く退屈で、こうして迷い込んできた客人との会話を小さな暇つぶしとして楽しんでいるのだろう。


「まぁ、お二人は直接は興味が無いかもしれないが、今回持ってきたのは、何しろ今話題で大人気の新作。すぐに売り切れるから、うちの店に直接買いに来ても、なかなか手に入りにくい代物なのだ。これをプレゼントしたら、どんな女性でもあなた方に興味をいだくことになるぞ?」


「はー、なるほどね、プレゼントとして使ってくれってことか」


「はっはっは、あたりまえだろ? お前、本気で自分で使うことを考えてたのか?」


「がっはっは、そんなことはないが、たった今、お前の顔に使ってやってもいいかなと思い始めてきたな」


「おいおい、俺にプレゼントって、お前、俺の事好きすぎだろ、はっはっは」


 本当に仲がいい門番だな……。


「とりあえず、お二人が好意を寄せている相手の容姿や肌の色によっても、似あう宝飾品や化粧品が違うし、実際に積み荷を確認してもらいながら説明してもいいだろうか」


 自分は楽しそうに会話を続ける門番に向けてそう声をかけると、手を広げて馬車の裏を示し、先導するように二人をそちらへ誘っていく。


 相変わらずコミュニケーションスキルは習得できていないが、冒険者の仕事で店の接客を手伝うような依頼を経験していたこともあるので、商人として立ち振る舞うくらいのことは出来る。


 二人の門番は、流石に武器を置くほどは警戒を解いていないようだったが、それでも暇つぶしになる雑談の延長として、自分の後をついてきてくれた。


 馬車の後ろ……荷物の積み下ろしをする部分……。


 今までの会話の流れであれば、そこに置いてある宝飾品や化粧品を見せながら、暇を紛らわせる雑談を続けるところだろう。


 だが、そこに置いてあったのは、薬瓶が数本と、空の麻袋が数枚と、大量のロープや布。


「てめっ……」


 優秀な門番二人はその積み荷の内容を見た瞬間に、少なくとも自分が商人ではないことに気づいたようで、すぐさま手に持っていた槍をこちらへ向けようとしたようだが……残念ながら、戦闘スキルの方はそこまで優秀ではなかったようだ。


 その時点で既に自分が振り抜いていた木刀で、その振り返る前の後頭部を殴られると、構えていた槍を手放しながら、その場に崩れ落ちてしまう。


「ふむ……なるほど……よし」


「……検証開始だ」


 自分は門番の二人がしっかり気絶していることを確認すると、その懐から門のカギを拝借し、これから侵入する屋敷に向き直った……。


▼スキル一覧

【輪廻の勇者】:不明。勇者によって効果は異なる。

【魔王】:人知を超える魔法を操り、魔物を従える。

【超観測】:任意の空間の全ての状況や性質を把握できる。

【言語理解】:様々な言語を読み、書き、話すことが出来る。


▼称号一覧

【魔王】:勇者の枠を超え、魔王としての役割を果たした。


▼アイテム一覧

〈水×999,999+〉〈土×999,999+〉〈石×199,680〉〈木×20〉〈薪×815〉〈布×100〉

〈食料、飲料、調味料、香辛料など×1,960日分〉〈保存食×20,000〉〈飼料×4,340〉

〈獣生肉(下)×1750〉〈獣生肉(中)×500〉〈獣生肉(上)×480〉〈茶蕎麦×290〉

〈獣の骨×700〉〈獣の爪×250〉〈獣の牙×240〉〈羽毛×30〉〈魔石(極小)×68〉

〈革×270〉〈毛皮×90〉〈スライム草×90〉〈抑制の首輪×5〉

〈着替え×989〉〈本×90〉〈遺物×10〉〈宝石・鉱石×1,000〉

〈冒険者道具×1〉〈調理器具×1〉〈錬金器具×1〉〈変装道具×8〉

〈掃除道具×1〉〈茶道具×1〉〈絵画道具×1〉〈手持ち楽器×4〉〈採掘道具×1〉

〈木刀×1〉〈ミスリル合金の軽鎧×1〉〈ミスリル合金の短剣×1〉

〈音信のイヤリング×1〉〈睡眠ポーション×10〉〈麻袋×10〉〈ロープ×100〉

〈教国軍の消耗品×199,200〉〈教国軍の装備品×19,990〉〈教国軍の雑貨×99,200〉

〈金貨×0〉〈大銀貨×2〉〈銀貨×4〉〈大銅貨×3〉〈銅貨×2〉


▼ 商業ギルドからの借金

オース名義:金貨2枚

グリィ名義:金貨2枚


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ