表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
255/310

第二百十八話 鉱山の街で検証

 

 ソメール教国、東側の中央。

 教都からだと北東の方角にある山々の周辺には、鉱山業が街のメイン事業となっている鉱山の街がいくつかある。


 自分はソメール教国の南東に位置する砂漠の開拓地から北に進み、最初の鉱山の街へ辿り着くと、そこから反時計回りに山脈に沿って様々な街を巡り歩いていた。


 巡った街の中には資源採掘をメイン事業とする街以外にも、巨大な温泉施設が建てられた観光地として有名な街や、珈琲豆、カカオ豆などを栽培している街があったが、どの街も特に大きな事件なども無い平和な街だった。


「まだどの街も隅々まで検証出来たわけでは無いし、娯楽施設などがある街などは特に、他の検証チームを連れてまた来たいものだ」


 だが、今はオリハルコン探しがメインの検証項目。

 これまでに通ってきた街には結局、金、銀、銅、鉄など、一般的な金属を採掘する鉱山しか無く、この辺りで巡れる鉱山は次が最後……。


 ここにも無ければいったんオリハルコン探しに固執するのは止めて、別の検証を進めようと思っているが、見つけられるならそれに越したことは無い。


「ふむ……しかし魔法とは便利なものだな」


 ここまでに立ち寄った鉱山の街々には、現代の現実世界と同じように、鉱物を掘り進める採掘場や、その鉱物を有用なものとそうでないものに選び分ける選鉱所、鉱物から実際に使われる金属などを取り出す製錬所などの施設があった。


 だが、街に入ってそれらの施設を詳しく調べてみると、流石は魔法のあるファンタジーなゲーム世界というか、そのどれもが自分が知るそれらとは大きく異なっていたのだ。


 この世界には、熱機関や電動機で動く車や重機は存在しないので、採掘方法や坑道の形に関してだけ言えば、現実世界でも古くから存在する昔ながらの坑道掘りの形になっている。

 だが、古代人が残した資料に鉱山採掘の問題点や解決方法が載っていたようで、その整備の行き届き具合は現代の鉱山に届きそうな水準になっているかもしれない。


 ……と、そんな風に、自分が今までに巡ってきた鉱山を思い出しながら、この辺りで最後となる鉱山に足を踏み入れると、目の前に人影が立ちはだかった。


「おい、ちょっと待て坊主。ここは関係者以外立ち入り禁止だ。危ねぇから家に帰んな」


 そう言って目の前に現れたのは、たくましい筋肉を持つ薄着の中年男性。

 言動とこれまでの経験から察するに、彼はこの鉱山で働く一般鉱山労働者だろう。


 彼の言うことはもっともで、魔法の発達もあってかなりの安全が確保されているとは言っても、全ての事故が防げるわけでは無い。

 ましてや、鉱山内で気を付ける点などをしっかりと学んでいない一般人に侵入されてしまったら、せっかく安全に気を付けている従業員の注意すら無駄になることもあるだろう。


 なので当然のことながら、自分は冒険者としてこの鉱山の責任者に見学を申し出て、しっかりと断られた上で訪れていたりする。


 ……だが、断られただけで鉱山に入れないと結論付けてしまっては、検証にならないだろう。


「む? 上から聞いていないのか? 自分はシンベリ辺境伯から派遣された、鉱山の調査員だ……ハスロ子爵には今日この時間に立ち入り調査があると伝えているはずだが?」


「え? 調査員の……? 確かに……迷子の子供にしては随分と身なりが……。あー、いや、すんません。俺は下っ端なもんで、そういう話に疎くて……。でも、なんというか、随分、お若いんすね……」


「不安か? あー、不安と言えば確か、ハスロ子爵から、鉱山労働者の仕事ぶりに不安な点があったら、給与の額を見直してもいいという話が……」


「あー、いえ! その、引き留めてすんませんでした! 俺は作業に戻りますんで、お気をつけて!」


 自分がそうして偉そうに振舞うと、自分を引き留めようとしたその鉱山労働者は、脱兎のごとく己の持ち場へと戻っていった。


 ふむ……。しかし、やはりこの鉱山も、鉱山労働者の教育レベルは残念ながらあまり高くないようだな……。


 とうぜん、自分はこの鉱山の調査員でも無ければ、上の人に許可など貰っていないのだが、ちょっと身分が高そうな服を着て、彼らにとって身近であろう権威者の名前をつらつらと並べるだけで、簡単に騙されてしまうようだ。


 前の鉱山では、他国の王子という権威を使って、実際に鉱山の責任者から立ち入りの許可を勝ち取るという検証もしたのだが、今回は残念ながら、この領地の領主から何かを依頼されたわけでも無ければ、この街を管理する子爵様なんかにお目通りした事実もない。

 せいぜいこの鉱山の責任者に見学を申し出て、それも丁重に断られてきたくらいだ。


 鉱山への侵入が成功した例としては、従業員の一人を気絶させて作業服を奪い取り、新米従業員のフリをした時も簡単に通れてしまったし……鉱山での仕事に興味のあって突撃してしまったという設定の、勉強熱心な少年を演じて、ごり押しで通れてしまったこともある。


 失敗パターンとして、ベテラン作業者や現場責任者など、既に顔が割れている立場の人間を装ってもすぐにバレて追い出されたし、迷子の子供を装った時も鉱山の見学はさせてくれずに親切に街まで送り返されたが、それでも抜け道が多すぎるだろう。


 確か、ヒットマンとなって目的の人物を仕留めるステルス性重視のTPSゲームでも、その場所で働くベテラン相手には従業員になり切る変装がバレてしまう仕様だったし、このゲームでもそういった仕様を採用しているのだろう。


「まぁ、今回は調査員として入れてしまうようだし、このまま先に進むとしよう」


 そうして自分は、あたかもこの鉱山に立ち入りが許された偉い人物であるかのように振舞いながら、実際には受け取っていない権限を振り回し、堂々と鉱山の中を進んでいった……。


 今の肩書きである、鉱山の調査員という立場があるというのは、ひとつ前の王族の権限を振りかざした検証で判明したことなのだが、各鉱山では実際にそういった立場の人間が訪れて、従業員の働きぶりだけでなく、鉱山内の安全がマニュアル通り確保されているか視察をする役職らしい。


 そして、その調査員が確認する項目の多くは、鉱山と聞いて真っ先に思い浮かぶ問題点……鉱害に対する対策が機能しているかどうかという項目だ。


 現代の現実世界でもそういった調査が行われているかもしれないが、鉱山を運営するにあたって、やはり水質汚染や大気汚染などの問題は心配になるところだろう。


 今も実際には鉱山の調査員などという肩書きは持っていないが、これまでの鉱山でもそうだったように、純粋な一般デバッガーとして、それらの検証項目はしっかりと確認していこうと思っている。


 まぁ、実際のところ、この世界の鉱山では鉱害問題の対策が魔法によってしっかりされているので、自分の検証項目にNGがつくことは殆ど無いのだが……。


「うーむ、やはり、この世界の魔法が、そういった方向に進化しているのだろうな」


 マギュエに臨む前の準備としてアクセル殿の盾をアップグレードする際、カイ殿が製錬されたミスリル合金から純ミスリルを取り出していた時にも感じていたのだが、この世界の魔法は、特定の物質を抽出して集めるという方面に大きく発達している。


 大気中の水蒸気を集めて水の球を作りだしたり、大気中の砂塵を集めて石を作りだしたりするという基本的な魔法からして既にそういった特徴を持っているが、化学結合などをしている合金などの物体から、ミスリルなどの特定の物質だけを取り出すことができるのが、まさにその力が発展した技術だろう。


 この技術があれば、鉱山から排出される水や空気から、人体に影響のある重金属や有害物質を取り除くことができる魔法が存在するのは自然なことだ。


「そして、浄化された水が坑道の天井に張り巡らされた配管を通って、定期的にスプリンクラーで撒かれることで、粉じん対策としても再利用されると……」


 坑道を歩き続け、天井に設置されたスプリンクラーからちょうど降り注いできた水を浴びながら、そんな点にも感心する。


 道の両端には、現代社会の駅構内で雨などが流れる場所のような溝が設置されていて、そこを通った水もまとめて地下の廃水処理施設で綺麗にされて、綺麗になった水の一部はスプリンクラーで使用する配管に戻ってくるという……何ともエコな水質汚染対策だ。


 同じように、ところどころに設置されている風を発生させる魔道具によって坑道内には常に綺麗な空気が循環していて、そちらは立坑を通った後、立坑櫓のような建物で空気に含まれる有害な物質を魔道具で取り除かれてから地上に放たれるので、大気汚染対策に関してもバッチリである。


 ただ、残念ながら、現在の魔法技術では、川や大気に安全な水や空気を放出することができたとしても、その魔法によって取り出された重金属や有害物質を消し去るようなことは出来ない。


「相変わらず、ここだけは酷い景色だな……」


 自分は匂い対策のために口元を布に覆った状態で、鉱山の近くに設けられた堆積場を眺めながら、そんなことを呟いた。


 おそらく魔法で空けられたのであろう大きな穴の中は、その場所を照らすために自分が魔法で放っている光を虹色に反射する、どす黒い液体で満たされており、今もなお流され加え続けられている液体によって、ドロドロとした重要感のある波紋が広がっている。


 現代であれば、この廃水の中でも再利用可能なものはレンガやセメント、肥料や磯焼け対策などで利用されているが、この世界ではどうやらそこまではやっておらず、鉱山が閉まったときに一緒に埋め立てられるらしい。


 既に前の鉱山で、検証のためにこの廃水の中に飛び込んでみたのだが、【魔王】スキルに統合された【全耐性】スキルの効果を少し緩めただけで体力が急激に減り始めるという、とんでもない地形ダメージの毒沼になっていた。


 一歩進むどころではなく、その場にいるだけでかなりの速度で体力が削られ続けていた上に、廃水から脱出してもその状態異常は治ることが無かったことを考えると、今までプレイしてきたどのゲームよりもきついダメージ床かもしれない。


「自分が廃水に飛び込んだのを見た案内役の貴族が、顔を青くして呂律が回らないほど慌てていた理由がよく分かるな……」


 その後その案内役の貴族は、何事もなく魔法で全回復した自分を見ると泡を吹いて気絶してしまったので、自分が廃水に飛び込んだのがただの幻覚だということにしておいたのだが……あの後も自分の一挙手一投足にビクビク怯えていた。


「あの貴族は、果たして今も元気に仕事をしてくれているだろうか……」


 自分はそんなことを考えながら、堆積場を後にした。


 そして、戻ってきた坑道。

 現場監督などのベテラン作業員が足を踏み入れない、末端の採掘現場。


 自分は思考操作で亜空間倉庫から装備画面に鉱山労働者の作業着をドラッグアンドドロップして服装を変更すると、同じく亜空間倉庫からツルハシなどの採掘道具を取り出した。


「ふむ……なるほど……よし」


「鉱山の安全確認は問題ないようだし、本命である鉱石の検証に進もう」


 そしてそのまま、この鉱山で取れる鉱石の調査に向かった……。


▼スキル一覧

【輪廻の勇者】:不明。勇者によって効果は異なる。

【魔王】:人知を超える魔法を操り、魔物を従える。

【超観測】:任意の空間の全ての状況や性質を把握できる。

【言語理解】:様々な言語を読み、書き、話すことが出来る。


▼称号一覧

【魔王】:勇者の枠を超え、魔王としての役割を果たした。


▼アイテム一覧

〈水×999,999+〉〈土×999,999+〉〈石×199,680〉〈木×20〉〈薪×815〉〈布×67〉

〈食料、飲料、調味料、香辛料など×1,960日分〉〈保存食×20,000〉〈飼料×4,340〉

〈獣生肉(下)×1750〉〈獣生肉(中)×500〉〈獣生肉(上)×480〉〈茶蕎麦×390〉

〈獣の骨×700〉〈獣の爪×250〉〈獣の牙×240〉〈羽毛×30〉〈魔石(極小)×68〉

〈革×270〉〈毛皮×90〉〈スライム草×90〉〈抑制の首輪×5〉

〈着替え×990〉〈本×90〉〈遺物×10〉〈宝石・鉱石×1,000〉

〈冒険者道具×1〉〈調理器具×1〉〈錬金器具×1〉〈変装道具×8〉

〈掃除道具×1〉〈茶道具×1〉〈絵画道具×1〉〈手持ち楽器×4〉〈採掘道具×1〉

〈木刀×1〉〈ミスリル合金の軽鎧×1〉〈ミスリル合金の短剣×1〉

〈音信のイヤリング×1〉

〈教国軍の消耗品×199,750〉〈教国軍の装備品×19,990〉〈教国軍の雑貨×99,750〉

〈金貨×0〉〈大銀貨×39〉〈銀貨×9〉〈大銅貨×11〉〈銅貨×64〉


▼ 商業ギルドからの借金

オース名義:金貨2枚

グリィ名義:金貨2枚


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ