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第二百十四話 教都の危機で検証 その四

 

「はぁ……はぁ……ま、魔法陣の変更……終わりました……」


「うむ、お疲れさまだな……カヤ殿は箱舟で休んでいてくれ」


「はい」


 ソメール教国、教都、箱舟の甲板にある魔法闘技場。

 自分はその中心で、上空に描かれた魔法陣を維持しながら、疲れた様子でこの場を去っていくカヤ殿の背中を見送った。


 作戦会議、魔力回復ポーションの作成に、騎士や兵士の配置と作戦共有、そして、つい先ほど完了した、魔法陣の変更……。

 マギュエが終わったタイミングではまだ日が出ていたその街は、今やすっかり夜の景色へと変わっている。


 彼女はフラフラとした足取りながらも、自身の足でしっかりと歩いているが、この魔法陣の変更作業を行ったのが彼女以外であれば、しばらくその場で倒れたまま、立つことすら叶わなかっただろう。


 他人の魔法陣をただ破壊しようとするだけでも、魔力同調などの技術や、抵抗にあらがうための大きな魔力が必要なのに、その魔法陣を細かく描き変えて、魔法が及ぼす効果の内容を変更するなど、並大抵のことではない。

 繊細な技術が必要なのはもちろんだが、それを維持する集中力も、総合的な魔力消費量も、かなりのものとなっているだろう。


 自分だったら、そんな苦行を終えた時には体力と精神力を消耗しきって倒れ、もうその日は他に何もやる気が起きないほどの疲労感にさいなまれるに違いない。


 だが、そんな苦行を行ってくれたカヤ殿の手によって、自分が上空に出現させた魔法陣から岩を大きくする部分の線が消え去り、現状の大きさの岩を上空に固定するだけの魔法陣に変わっている。


「グリィ殿、こちらの作業は終わった。ヴィーコ殿に最終作戦の開始を伝えてくれ」


「了解っす!」


 自分は心の内でカヤ殿の健闘を称えると、通信魔道具を使ってグリィ殿に連絡を取り、次の作戦の指示を出した。


 といっても、グリィ殿に細かい伝言を頼んでも正確に伝わらないだろうし、作戦内容は事前に全員に共有してあるので、進行役はヴィーコ殿に任せる前提で、彼女には作戦の段階を進める伝言を頼むだけだが。


「防御班、迎撃班、構え! 砲撃班、魔法陣を展開!」


 グリィ殿から作戦の進行を伝えられたヴィーコ殿が、アルドヘルム殿下へ次の展開の詳細を伝えて、それを受けたアルドヘルム殿下が通信魔道具を使って再び全体へと号令を発する。


 現在、魔法陣の変更によって、街の上空に浮かび上がる岩の大きさはこれ以上大きくならなくなったものの、未だに、その大きさの岩が降ってくれば街が壊滅するという脅威からは逃れられていない。


 だが、この魔法陣を変更するときにも何度かあったように、岩の欠片が降ってくる分には、その中でも大きな欠片を砕いた後に、防御魔法で防ぐことが出来る。


 よって……。


「放て!」


「「【風の槍(ウィンド・ランス)】」」


 各地で一斉に、つむじ風のような細く渦巻く風が上空へ向けて放たれ、その風の槍は上空の巨大な岩へと突き刺さり、穿たれた数多の穴によって剥がれ落ちることとなった岩の欠片が、固定魔法の影響から逃れて、真下にある街へと降ってくる……。


「防御班、魔法障壁展開! 迎撃班、突撃!」


 それを確認したアルドヘルム殿下は、各地の統率役を通して、屋根で上空に向けて魔法杖を構える防御チームに魔法障壁を張らせた後、降ってくる中でも比較的大きな岩を砕くよう迎撃チームを突撃させた。


 夜の街並みに、住宅の明かりが灯っていくように、青白く光る魔法障壁が次々に展開されていくが、ところどころにその明かりが灯っていない空間があるようだ。


 防御チームにはこの国の騎士や兵士、教会の神官だけでなく、この街で普通に暮らしている住民の中で魔法が得意な人たちも混ざっている。


 国や街を守るのは騎士や兵士の役割だとは言っても、魔法障壁で防げない大きさの岩を迎撃するチームにも人手を取られていることもあって、人員的に彼らだけでは街全体に魔法障壁を張ることは出来ないのだ。


 戦闘訓練や魔物との戦いによって実戦経験を積んでいる騎士や兵士だって、こんな大規模な作戦を決行するのは初めてだというのに、それほど戦闘経験などがあるわけがない街の住民が、不安を覚えないわけがない……。

 そのため、いくつかの場所で、魔法障壁が不発だったり、不安定だったりする箇所が発生しているのだ。


 そして、それを運命のいたずらというのか、そういった守りが薄くなってしまっている箇所に限って、何故か特別大きな岩が降って来たりする……。


「ひっ、ひぃっ……」


 上空から自身へと迫ってくる大きな岩を見たその住民は、おそらく誰かからか借りたのであろう、使い慣れてい無さそうな魔法杖を上空に構えたまま、失敗した防御魔法を再び発動するという考えすら飛んでしまったような様子で、ただただその岩が自身へ落ちるのを待つことしか出来ないでいる……。


 彼が防御魔法の発動に失敗したのは事実だが、それによって彼やその下の家に被害が出てしまったとしても、それは彼のせいではない。


 こんな危機的状況を生み出し、こんな成功する確証の無い作戦を打ち立てた魔王……つまり自分が悪いのだ。


 ……だが、安心して欲しい。


 自分が洗い出した検証項目に、彼が犠牲になるという項目は存在しない。


「そぉーれっ!」


 少し離れた場所から飛んできた影が、飛び掛かったその勢いのまま、魔力で覆われた戦鎚で落下してきた岩の側面を殴りつけると、目前に迫っていた脅威は、遥か彼方、海の方まで飛んで行った。


 彼の目には、その光景が、どのように見えただろうか。


 この世界に二つ存在する月のような衛星の、大きい方を背に……人間よりも小さな身体でありながら、重そうな戦鎚を軽々と振り回して彼を助けた、ドワーフの少女の姿が。


「……? 何ボーっとしてんのよ、ほら、次の岩が来るわよ。さっさと杖を構えなさい」


「え? あ……はい!」


 彼は、その少女……ロシー殿に言われるままに、杖を構えなおし、上空を見上げる。


 しかし、その視線は、またすぐに彼女の方へと向いていた。


「……何よ。忙しいんだから、ハーフが調子に乗るなとか言う小言なら、無事に街を守り切ってからにしてよね」


「あ、いや……その、違くて……」


 ロシー殿が言う通り、人間至上主義のリアティナ聖教を国教とするこの国の住民である彼からしてみれば、彼女は差別されてしかるべき存在であり、今までの日常で彼女を見かけたのであれば、間違いなくそうしていたであろう。


 だが……。


「……ありがとう」


「……えっ?」


 この極限の環境がそうさせたのか、他に理由があったのか、彼の口から出た言葉は、ロシー殿も予想していなかった言葉だったようだ。


「次弾! 防御班、迎撃班、構え! 砲撃班、魔法陣を展開!」


 岩を削る一弾目の作業が無事に完了したことを確認すると、アルドヘルム殿下や各地の統率役が、二弾目の作業に移るべく、風魔法で声を拡散させながら号令を発する。


「じ、じゃあ、行くから」


「あ、ああ……気を付けて」


 大きな岩を、少しずつ削り、小さくしていく作戦……。


 ……それは、凝り固まったこの国の住民の心も、少しずつ、削っているのかもしれない。


「うーむ……この魔法陣の維持、本当に誰か代わってくれないだろうか……」


 自分はそんなことを考えながらも、今もなお街を滅ぼさんとする魔法の維持を誰かに変わって欲しいと願っていた……。



▼スキル一覧

【輪廻の勇者】:不明。勇者によって効果は異なる。

【全耐性】:あらゆる悪影響を受けにくくなる

【全強化】:あらゆる能力が上昇する

【武器マスター】:あらゆる武器を高い技術で意のままに扱える

【武術】:自分の身体を特定の心得に則って思いのままに扱える

【魔術】:自分の魔力を特定の法則に則って思いのままに操れる

【錬金術】:素材と魔力で様々なものを生み出し、扱うことが出来る

【実力制御】:自分が発揮する力を思い通りに制御できる

【家事】:家事に関わる行動の効果を最大限に発揮できる

【冒険術】:冒険に必要な行動を高い水準で実行することができる

【諜報術】:様々な環境で高い水準の諜報活動を行うことが出来る

【工作】:様々な素材を思い通りの物に加工することが出来る

【指導術】:相手の成長を促す効率の良い指導が出来る

【コンサルティング】:店や組織の成長を促す効率の良い助言ができる

【舞踊】:あらゆる条件で思い通りに踊ることができる

【超観測】:任意の空間の全ての状況や性質を把握できる

【人族共通語】:人族共通語で読み書き、会話することができる

【人族古代語】:人族古代語で読み書き、会話することができる

【古代魔術語】:古の魔法陣を読み解き、描き、呪文を詠唱することが出来る


▼称号一覧

【連打を極めし者】

【全てを試みる者】

【世界の理を探究する者】

【動かざる者】

【躊躇いの無い者】

【非道なる者】

【常軌を逸した者】

【仲間を陥れる者】

【仲間を欺く者】

【森林を破壊する者】

【生物を恐怖させる者】

【種の根絶を目論む者】

【悪に味方する者】

【同族を変異させる者】

【覇者】

【権威を振りかざす者】

【禁断の領域に踏み入れし者】

【自然に逆らいし者】

【奪いし者】

【獣を操る者】

【世界征服を目論む者】

【魔王と呼ばれし者】

【人の道を外れし者】

【民衆を脅かす者】

【人とみなされぬ者】


▼アイテム一覧

〈水×999,999+〉〈土×999,999+〉〈石×199,680〉〈木×20〉〈薪×815〉〈布×89〉

〈食料、飲料、調味料、香辛料など×1,960日分〉〈保存食×20,000〉〈飼料×4,340〉

〈獣生肉(下)×1750〉〈獣生肉(中)×500〉〈獣生肉(上)×480〉〈茶蕎麦×500〉

〈獣の骨×710〉〈獣の爪×260〉〈獣の牙×248〉〈羽毛×40〉〈魔石(極小)×69〉

〈革×274〉〈毛皮×99〉〈スライム草×100〉〈抑制の首輪×5〉

〈着替え×1,000〉〈本×100〉〈遺物×10〉〈宝石・鉱石×170〉

〈冒険者道具×1〉〈調理器具×1〉〈錬金器具×1〉〈変装道具×7〉

〈掃除道具×1〉〈茶道具×1〉〈絵画道具×1〉〈手持ち楽器×4〉

〈木刀×1〉〈ミスリル合金の軽鎧×1〉〈ミスリル合金の短剣×1〉

〈音信のイヤリング×1〉

〈教国軍の消耗品×200,000〉〈教国軍の装備品×19,990〉〈教国軍の雑貨×100,000〉

〈金貨×0〉〈大銀貨×1〉〈銀貨×11〉〈大銅貨×135〉〈銅貨×84〉


▼ 商業ギルドからの借金

オース名義:金貨2枚

グリィ名義:金貨2枚


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