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第二百十二話 教都の危機で検証 その二

 

「王族、貴族、神官、平民! 身分も国籍も種族も関係ない! 魔法が使える者はこの列に並び、渡されたポーションを飲み干せ!」


 ソメール教国、教都、箱舟前。

 広場の中心でそう声を張り上げているのは、風魔法で自身の声を拡散しているヴィーコ殿。


 教皇様の指示で街の各地に散ったソメール教国の騎士たちも、馬に乗って街中に散らばり、住民たちに協力を要請しているので、今もなお続々と、老若男女問わず多種多様な人物が集まってきている。


「ポーションの材料を持ってきてくださった方や、錬金術師の方は、こちらに並んでくださーい!」


 その近くで、また別の列をさばいているのは、同じく風魔法で自身の声を拡散しているカヤ殿。

 人前に立ったり、大声を出すのは苦手だと言っていたが、事態が事態だからだろうか、懸命にこの街の住民に呼びかけ続けている。


 ヴィーコ殿が捌く、ポーションを飲んでこの街の防衛に参加してくれる人たちと同様、カヤ殿が捌く、ポーションの作成を手伝ってくれる人たちも、方々に散った騎士たちが教皇様からの命として呼びかけているので、同じくらいの行列が出来ていた。


 この街を滅ぼさんとする魔王から、この街を守るための作戦。

 それが教皇様からの指示だと告げられれば、まだ命を失いたくない街の住民たちは、協力的な態度で箱舟の前の広場に集まってくる……。


 ……その広場までは。


「は? このポーションを作ってるのがハーフエルフだと?」


「おいおい、教皇様の指示だっていうから集まってきたのに、なんでそんなものを飲まないといけないんだよ」


 ヴィーコ殿の捌いている列が広場の中央にたどり着くと、そこで今も必死にポーションを作成している人物を見て、その列から離れていく……。


「ちょっと! 私たちにハーフエルフのポーション作成を手伝えって言ってるわけ?」


「一緒にポーションを作るのを認めたとしても、立場が逆でしょ」


 カヤ殿の捌いている列の人たちも、そこで伝えられた指示を聞くと、高飛車な態度で抗議の意を示す。


 その声は、人よりも少し大きな耳を持つアーリー殿にも届いているはずだが、彼女はそんな声を気にすることなく、黙々とポーションを作り続ける。


「今はそんなことを言っている場合ではない! 考える脳を持った大人なら、この街にあるポーションの在庫も無限ではないことだって分かっているはずだ!」


「そうですよ! それに、彼女が作っているポーションは、ただ魔力を回復するだけではない特別なポーションです!」


 ヴィーコ殿とカヤ殿がそんな住民たちの声に抗議するが、この街の人たちの反応は変わらない……。

 そう抗議するヴィーコ殿やカヤ殿が、この街……いや、この国の住民では無いからだろう。


 人間が最も優れた種族であると唱えているリアティナ聖教という宗教が、ジェラード王国やグラヴィーナ帝国に広まっていないことは、ソメール教国の住民も認識している。

 だから、見た目や雰囲気からして国外の人間と分かるヴィーコ殿やカヤ殿ががいくら訴えかけても、それは国や宗教が違うことによる価値観の相違だとしか思ってもらえないのかもしれない。


 ……だが、もし、この国の住民が……しかも、大きな影響力を持つ人物が反論した場合はどうだろうか。


「ほう……これが、アクセルが私に勝った理由のひとつか」


 箱舟から降りてきたその人物は、群衆の輪の中に躍り出て、その中心にいる彼女が作成したポーションの瓶を一つ手に取ると、それを物珍しそうに眺めた。


「あ……アルドヘルム殿下!?」


 どこからかそんな驚きの声が聞こえてきたとおり、そこに現れたのは、この国の第一王子、アルドヘルム殿下だった。


 彼には、アクセル殿が魔力枯渇を気にせずに強力な防御魔法を連発することが出来たのは、事前にアーリー殿が作った魔力の持続回復ポーションを飲んでいたからだと伝えてある。


 伝えたその時は、ルール違反だとか、騎士道に反するとか言われたが、自分はどうであろうと試合に勝ってしまった事実は変わらないと、文句があるならお問い合わせフォームから運営に直接お問い合わせして欲しいと言い返して、その場を丸く収めた。


 ……まぁ、そんな反論を受けた彼が、文字通り目を丸くしただけだが。


「どれ、試してみよう」


「殿下っ!!」


 そんな彼がポーションの瓶を開け、群衆が止める間もなく、その中の液体を一気に飲み干し……。


「不味い……」


 まず、そんな感想を漏らした。


 群衆は彼を見守るように押し黙り、辺りは静まり返っていたので、静かに呟かれたその声も、彼らの耳によく届いただろう。


「……だが、効果は本物のようだ」


 味の感想の後に続いて、魔力を集めた己の手を見つめながら呟いた、そんな言葉と共に……。


 そして殿下は、唐突にその手を海の見える方へと向けると、魔法陣を展開した。


「【爆発(エクスプロージョン)】」


 放たれたそれは、マギュエの試合でも何度も見た、火属性の上級魔法。


 魔法陣から射出された大きな火の玉は、海の上をしばらく進むと、殿下が手のひらを握りしめたタイミングで、派手に爆発する。


 街を爆発の明かりで照らしたその人物は、その光が収まるのを見届けると、再び自らの手のひらを見つめた。


「やはりこれは反則だな……魔法の威力がいつもより上がっている上に、消費した魔力が一瞬で回復してしまった」


 その言葉に、興味をそそられた人物が何人か出たようで、群衆の中にちらほらと、その視線を今もポーションの作成を続けているアーリー殿に向ける者がいた。


「で、殿下! そ、そんなまざりものが作ったポーション、危険です! 今すぐに教会で治療を……」


 しかし、まだ全ての住民が納得したわけじゃない。


 この街の兵士らしい人物がひとり、そんな言葉を発すると、その周りにいた住民も首を縦に振ることで彼と同じ意見であることを示す。


「その者……得意な攻撃魔法は?」


 だがアルドヘルム殿下は、声をかけてきた兵士に対して、言われた内容など全く気にしていない様子で、そんな問いを投げかける。


「じ、自分ですか? まぁ、訓練を受けた魔法は一通り撃てますが、火球なら省略発動できます」


「そうか、では、それを私に撃ってみろ」


「え? いや、殿下に対してそんな……」


「ちゃんと防御する」


「で、ですが……」


「命令だ」


「……あの……えと……はい」


 指名された兵士は、何が何だか分からないという様子のまま、少し震える手で魔法杖を取り出すと、それをアルドヘルム殿下に向けて構えた。


「撃て」


「は、はい! 【火球(ファイア・ボール)】!」


 そして心の準備をする暇も与えず次の指示を下した殿下に促されるまま、魔法陣を出現させて、火の玉を放った。


 —— パシュン ——


 それはこの広場を少し照らす光にはなったが、その輝きは数秒も経たないうちにアルドヘルム殿下が出現させた魔法障壁に阻まれ、掻き消える。


「よし、では、これを飲め」


 アルドヘルム殿下はその行為に対する群衆の反応も、なぜ急にこんなことをやらされているのかという兵士の思考も待つことなく、それが自然な流れであるかのようにアーリー殿のポーションをひとつ取り、彼に差し出した。


「あ、あの……」


「命令だ」


「……はい」


 小さな反論の意思もむなしく、彼は差し出されたポーションを受け取ると、小瓶のふたを開け、匂いを嗅ぎ、顔をしかめる。


 自分や仲間たちは、この旅の間もアーリー殿の作ったポーションを使っていたのでもう慣れてしまったが、確かに、彼女の作るポーションはどこまでも効能重視な代物なので、市販のポーションと違って味や匂いに気を使っていない。


 だが、だからこそ市販のポーションよりも効能がいいし、より飲みやすく作るなどという余計なことに気を回さない、効果の高いポーション研究が進められているのだ。


 そんなポーションを渡された彼は、一瞬、飲むのをためらっていたが、その様子を睨むような視線で見つめているアルドヘルム殿下と目が合ってしまったのだろう……。

 意を決したように、ひとつ、大きくつばを飲み込むと、鼻をつまんで、小瓶の中身を一気に飲み干した。


「……不味い」


 そしてその感想は、直前にそう発したアルドヘルム殿下と同じだったようだ。


「え? な、なんだこれ……力が沸き上がってくる……?」


 ……その後に続く感想も含めて。


 そして、アルドヘルム殿下は、そんな彼の様子を確かめると、魔法障壁を発動して、彼に向ける。


「あ、あの……」


「撃て」


「は、はいっ! 【火球(ファイア・ボール)】!」


 たった数回のやり取りで、殿下との会話の要領を掴んだのだろう。

 彼はあまりにも言葉数少なく命令する殿下に促されるまま、先ほどと同じ魔法を放った。


 —— パシュン ——


 しかし、それは先ほどと同じように、殿下の張った魔法障壁に阻まれ、沈黙する。


「……」


「……」


 だが、その光景を見ていた群衆は、そんな小さな火の玉ひとつで、殿下が何故このような行動に出たのか理解させられることとなった……。


 彼の放った火の玉は、先ほどよりも大きく群衆を照らしたのだ。


 一度目の魔法よりも、ほんの少し広く……ほんの少し明るく……。

 まるでそれが、今回の騒動を解決に導く希望の光であるかのように……。


「皆の者! 聞け!」


 アルドヘルム殿下は、群衆がそれを理解しただろうそのタイミングで、声を張り上げる。


「我々この国の王族は! 魔王との戦いで敗れ! この街を滅ぼさんとする魔法の発動を許してしまった!」


 群衆の円の中心で、アルドヘルム殿下は、手を広げ、自国の民全てに訴えかけるように話し続ける。


「それは何故か! 魔王という共通の敵に対して、人類で手を取り合おうとしなかったからだ!」


 真実は違う……。

 自分は魔王ではないし、彼らが負けたのは単純に力量の差だ。


 だが、それが嘘だというのならば、この国の主張は、今回の戦争を始めようとしたとき……いや、この国が出来た時から嘘にまみれている。


「エルフ、ドワーフ、ハーフ……確かに我々とは違う、異なる種族だろう! だが、それは優劣をつけるための基準にはなりえない! 現に、こうしてハーフエルフが作ったポーションは、人間である私や彼に、想像以上の力を与えてくれた!」


 そう、人と見た目や習慣が異なるからと言って、それが優劣に直結するわけでは無い。


 もちろん、生まれによって得意なことや苦手なことはあるだろう……だが人の能力は、その人物がどのような人生を歩み、どのような努力をしてきたかによって、大きく変わってくるのだ。


「しかし! 彼女たちにも劣っている部分がある……それは、共にこの街の危機を解決してくれようとする味方の数だ!」


 能力だって全てじゃない。

 個がどれだけ優れていたとしても、一人で出来ることには限界がある。


「そう! ハーフエルフである彼女は、今も必死にこの街を救おうとしてくれている! なのにどうした! 我が国の栄えある国民たちは、自分の街を守ってくれようとしている人物に誹謗中傷を浴びせることが、この街を救うことに繋がるとでも思っているのだろうか!」


 アルドヘルム殿下の声を聞いた群衆は、その問いかけに押し黙り、視線を下げる。

 彼らも頭では、その行いに意味がないことは分かっていたのだろう……だが、この国に根付いた風習や考え方が、彼らの冷静な思考を阻害していたのだ。


「今ここに! ソメール教国第一王子、アルドヘルム・ソメール……および、教皇、マルカント・ソメールの名において! 異種族に対する偏見や不当な扱いの撤廃を宣言する!」


 そう言って彼は、懐から取り出した書簡を広げ、大衆に公開する。


 暗いこともあり、そこに書かれている細かい文字などは全く読めないだろう。


 だが、彼の発言はしっかりと群衆の耳に届き、書簡に大きく押されたこの国と教会の印はハッキリと見えたはずだ。


「さあ! 我が国の民よ! この街を我々の手で魔王の魔の手から解き放つのだ! それこそ! この国に対する愛がよそ者に負けることなど! この私が許さない!!」


「「うぉぉおおお!!!!」」


「もっと声を上げろ! 我が国の愛はそんなものか!!」


「「うぉぉぉおおおおお!!!!!!」」


 群衆は、アルドヘルム殿下の言葉に呼応し、繰り返し雄たけびを上げる。


 その雄たけびは伝播し、街中に広がっていく。


 ほんの小さな火の光から始まった希望は、絶望に染まっていた街中にいきわたり、民の心を希望一色に塗り替えていく。


 この民の高鳴りは一時的なもので、心の奥深くに根付く差別を完全になくせるほどの効果は無いかもしれない。


 ……だが、それでいい。


 絡まった根は、時間をかけてゆっくりと解し、いつの日か綺麗に取れれば、それでいいのだ。


 だから今この時は、そんな長い道のりの一歩が踏み出された今日という日を喜ぼう。


「うーむ……そろそろ疲れてきたのだが、誰か代わってくれないだろうか……」


 箱舟の上で、その街を滅ぼさんとする魔法の発動を維持しながら……。



▼スキル一覧

【輪廻の勇者】:不明。勇者によって効果は異なる。

【全耐性】:あらゆる悪影響を受けにくくなる

【全強化】:あらゆる能力が上昇する

【武器マスター】:あらゆる武器を高い技術で意のままに扱える

【武術】:自分の身体を特定の心得に則って思いのままに扱える

【魔術】:自分の魔力を特定の法則に則って思いのままに操れる

【錬金術】:素材と魔力で様々なものを生み出し、扱うことが出来る

【実力制御】:自分が発揮する力を思い通りに制御できる

【家事】:家事に関わる行動の効果を最大限に発揮できる

【冒険術】:冒険に必要な行動を高い水準で実行することができる

【諜報術】:様々な環境で高い水準の諜報活動を行うことが出来る

【工作】:様々な素材を思い通りの物に加工することが出来る

【指導術】:相手の成長を促す効率の良い指導が出来る

【コンサルティング】:店や組織の成長を促す効率の良い助言ができる

【舞踊】:あらゆる条件で思い通りに踊ることができる

【超観測】:任意の空間の全ての状況や性質を把握できる

【人族共通語】:人族共通語で読み書き、会話することができる

【人族古代語】:人族古代語で読み書き、会話することができる

【古代魔術語】:古の魔法陣を読み解き、描き、呪文を詠唱することが出来る


▼称号一覧

【連打を極めし者】

【全てを試みる者】

【世界の理を探究する者】

【動かざる者】

【躊躇いの無い者】

【非道なる者】

【常軌を逸した者】

【仲間を陥れる者】

【仲間を欺く者】

【森林を破壊する者】

【生物を恐怖させる者】

【種の根絶を目論む者】

【悪に味方する者】

【同族を変異させる者】

【覇者】

【権威を振りかざす者】

【禁断の領域に踏み入れし者】

【自然に逆らいし者】

【奪いし者】

【獣を操る者】

【世界征服を目論む者】

【魔王と呼ばれし者】

【人の道を外れし者】

【民衆を脅かす者】

【人とみなされぬ者】


▼アイテム一覧

〈水×999,999+〉〈土×999,999+〉〈石×199,680〉〈木×20〉〈薪×815〉〈布×89〉

〈食料、飲料、調味料、香辛料など×1,960日分〉〈保存食×20,000〉〈飼料×4,340〉

〈獣生肉(下)×1750〉〈獣生肉(中)×500〉〈獣生肉(上)×480〉〈茶蕎麦×500〉

〈獣の骨×710〉〈獣の爪×260〉〈獣の牙×248〉〈羽毛×40〉〈魔石(極小)×69〉

〈革×274〉〈毛皮×99〉〈スライム草×100〉〈抑制の首輪×5〉

〈着替え×1,000〉〈本×100〉〈遺物×10〉〈宝石・鉱石×170〉

〈冒険者道具×1〉〈調理器具×1〉〈錬金器具×1〉〈変装道具×7〉

〈掃除道具×1〉〈茶道具×1〉〈絵画道具×1〉〈手持ち楽器×4〉

〈木刀×1〉〈ミスリル合金の軽鎧×1〉〈ミスリル合金の短剣×1〉

〈音信のイヤリング×1〉

〈教国軍の消耗品×200,000〉〈教国軍の装備品×19,990〉〈教国軍の雑貨×100,000〉

〈金貨×0〉〈大銀貨×1〉〈銀貨×11〉〈大銅貨×135〉〈銅貨×84〉


▼ 商業ギルドからの借金

オース名義:金貨2枚

グリィ名義:金貨2枚


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