第二百十一話 教都の危機で検証 その一
「さて……どうしたものか」
赤く発光する巨大な魔法陣が街の上空に陣取り、その上には、それひとつで街を押しつぶすほど巨大な岩……。
あたりには砂埃が巻き上がり、大量の砂は頭上の大岩に吸い込まれるように移動する過程で日の光を遮り、まだ昼間だというのに、街は暗く沈んでいる。
魔法陣の赤い光だけが暗い街を鈍く照らすその光景は、まさにRPGの終盤。
世界が今にも魔王の手に落ち、崩壊しそうになっている状況そのものだ。
そして、RPGにおいてそんな世界の救世主となるであろう勇者……自分は……既にこの終演を予感させる光景の中心に立っていた……。
……勇者ではなく……魔王として。
「ふむ……」
結局、マギュエの試合には勝った。
この景色を作り出すことで街の住民を人質に取り、教皇様に降伏を促すという検証が、試合への勝利という検証結果をもたらしたのだ。
別にこんなことをしなくとも、あのまま普通に戦って、普通に、マギュエのルール通りに相手の体力をゼロにして勝利することも出来た。
だが、それが通常戦闘だろうと、イベント戦闘だろうと、ラスボスとの戦いだろうと、こういった試合で体力を削り切る方法で普通に勝利を手にするのは、あまりにも一般的な検証内容なので、別に自分がわざわざ検証せずとも他の誰かが検証しているだろう。
だから自分はあえて、どちらも体力的には互角で、このままでは引き分けになる状態にて、相手に降伏させることができるかの検証をするべきだと思い、実行したのだ。
だが……。
「試合で魔力を消費しすぎたな……」
自分は、自ら作り出したこの状況を、自分の手では収束できないという状態に陥っていた。
先ほど観客席から命乞いをしてきたこの国の貴族様方には伝えたが、このまま魔法の完成を待っても、途中で止めても、自分がこの手で作り出した上空の大岩は、その時の大きさで落ちてきてしまうのだ。
万全の状態であれば、魔法陣を描き替えて、もしくは別の魔法を発動することによって、集めた砂や埃を元に戻す、もしくは岩の落下地点を変更して誰もいない場所に落とすなどの対策が出来ただろう。
だが、自分はこのマギュエの試合で、無限に思える魔力の殆どを使い切ってしまったのだ。
「うーむ……困った……」
「困った……ではない! 困るのは私たちの方だ!」
「そうだ! 試合は貴殿が勝ったのだから、もう私たちを人質に取る必要はないはずだろう!? さっさとどうにかして私たちを解放してくれ!」
自分がこの状況にどう対処したものかと悩んでいると、いつの間にか観客席から降りて近くまで来ていたこの国の貴族たちが抗議の意を示してきた。
試合の勝利が確定したあと、ステージを満たしていた水は殆ど綺麗に亜空間倉庫に格納して、それまで水で満たされていたこの場所は現在、水の上に立つなどという芸当をしなくとも普通に歩けるようになっている。
だからと言って、無理だと言っている内容に対して、わざわざ観客席からステージに降りてきて、より近くで抗議しようとは……貴族様方は暇なのだろうか。
「ふむ、どうにかと言われても……自分ではこの魔法を止めることが出来ない」
「そ、そんな……」
「あぁ……リアティナ様、アメナ様、ルコナ様……この際ストロティウス様でもいいから、とにかく神様お助けを……」
こちらにおられる貴族の方々は、自分が街全体を人質に取って教皇様に降参するよう促した時に、一緒になって教皇様を説得してくれた人たちなので、頼みを聞いてあげたいという気持ちはあるのだが……出来ないことは出来ないのだから仕方がない。
彼らは自分の返答を聞くと、その場に崩れ落ち、後継神だけでなく、破壊神にまで祈り始めてしまったようだが、この国の国教であるリアティナ聖教では破壊神への祈りは禁止されていなかっただろうか……。
「まぁそんなことよりも、この状況をどうにかしないとだな」
自分はそんな哀れな姿をさらす彼らを見て小さくため息をつくと、片手で上空の魔法陣を維持しながら、後ろに聞こえてきた足音に振り返った。
「やぁ、オース君、優勝おめでとう……と、言いたいところなんだが……」
「ちょっとあんた、何やってんのよ! あたしたちまで潰す気!?」
振り向いた先には、こちらも観客席から降りてきたらしい、自分が立ち上げた冒険者パーティーの仲間であり、様々な検証に協力してくれている検証チームの皆の姿があった。
先頭を歩くのは、気さくに挨拶を投げかけながらも、その顔には冷や汗を垂らしているアクセル殿と、彼を押しのけて大層な剣幕で自分に詰め寄ってくるアーリー殿……。
「え? オースさん、あの岩を消してくれないんすか?」
「違うのグリィちゃん……あの魔法陣が、そもそも元々あとから岩を消せるように出来てなくて……」
その後に続くのは、この状況をよく分かってないグリィ殿と、そんな彼女に優しく魔法の解説をしてくれているカヤ殿……。
「おいおい、カヤ姉ちゃん、それマジかよ…」
「え……ちょっと、それは本当にシャレにならないんだけど……」
「ふんっ、全くだ……こいつの行動はいつも唐突過ぎる。だいたい今回の件だって……」
一番後ろを歩くのは、グリィ殿と一緒にカヤ殿の説明を聞いて絶望するカイ殿とロシー殿に、苦虫を嚙み潰したような顔でこちらを睨み、ブツブツと悪態をついているヴィーコ殿……。
検証チームが集合してくれたのは嬉しいことだが、残念ながら自分に対する評価はなかなかに厳しいものになっているようだ。
まぁ、事前に情報共有することなく今回の検証を実行した自分が悪いのは確かなので、その点に関して評価が低いというのは甘んじて受けよう。
……しかし、会話の流れが絶望して諦める方向に傾いているのはいただけない。
「皆、事前にこのような検証をするという情報を共有しなかったことに関しては、本当に申し訳ないと思う……」
「本当よ! まぁ、事前に共有されていたら実行に移す前に止め……」
「……だが、勘違いしないで欲しい」
「えっ?」
「自分は確かに、自分の力ではこの魔法を止めることが出来ないとは言ったが、”解決できない”とは言っていない」
「……???」
自分はアーリー殿の抗議の声を遮るように反論すると、その言葉に疑問を浮かべる仲間たちの表情を見渡してから、一呼吸おいて、この状況の対処方法……まだ終わっていない今回の検証の続きを話した。
見渡した際の表情としても、自分に対する抗議や疑問の熱量が高くなかったことを考えても、おそらくアクセル殿とカヤ殿、そしてヴィーコ殿に関しては、自分のことを信じてくれていたか、既にいくつかの解決策が思い浮かんでいたのだろう。
確かに、今の状況は、魔力が枯渇しかけている自分だけで解決することは出来ない。
……だが、この場にいるのは自分だけじゃない。
こうして事態の収束を願い、集まってくれてる、検証チームの仲間たち……。
たまたまマギュエの観戦に招待された、ジェラード王国、並びにグラヴィーナ帝国の王子や騎士たち……。
そして、ソメール教国の王族や騎士、教会の方々だっている。
今、この街にいる全員が力を合わせれば、たった一人の魔王の暴走など、取るに足らない障害だろう。
「ふむ……なるほど……よし」
「……検証再開だ」
自分は赤く輝く魔法陣の光を背中に浴びながら、仲間たちに検証再開を伝えた。
▼スキル一覧
【輪廻の勇者】:不明。勇者によって効果は異なる。
【全耐性】:あらゆる悪影響を受けにくくなる
【全強化】:あらゆる能力が上昇する
【武器マスター】:あらゆる武器を高い技術で意のままに扱える
【武術】:自分の身体を特定の心得に則って思いのままに扱える
【魔術】:自分の魔力を特定の法則に則って思いのままに操れる
【錬金術】:素材と魔力で様々なものを生み出し、扱うことが出来る
【実力制御】:自分が発揮する力を思い通りに制御できる
【家事】:家事に関わる行動の効果を最大限に発揮できる
【冒険術】:冒険に必要な行動を高い水準で実行することができる
【諜報術】:様々な環境で高い水準の諜報活動を行うことが出来る
【工作】:様々な素材を思い通りの物に加工することが出来る
【指導術】:相手の成長を促す効率の良い指導が出来る
【コンサルティング】:店や組織の成長を促す効率の良い助言ができる
【舞踊】:あらゆる条件で思い通りに踊ることができる
【超観測】:任意の空間の全ての状況や性質を把握できる
【人族共通語】:人族共通語で読み書き、会話することができる
【人族古代語】:人族古代語で読み書き、会話することができる
【古代魔術語】:古の魔法陣を読み解き、描き、呪文を詠唱することが出来る
▼称号一覧
【連打を極めし者】
【全てを試みる者】
【世界の理を探究する者】
【動かざる者】
【躊躇いの無い者】
【非道なる者】
【常軌を逸した者】
【仲間を陥れる者】
【仲間を欺く者】
【森林を破壊する者】
【生物を恐怖させる者】
【種の根絶を目論む者】
【悪に味方する者】
【同族を変異させる者】
【覇者】
【権威を振りかざす者】
【禁断の領域に踏み入れし者】
【自然に逆らいし者】
【奪いし者】
【獣を操る者】
【世界征服を目論む者】
【魔王と呼ばれし者】
【人の道を外れし者】
【民衆を脅かす者】
【人とみなされぬ者】
▼アイテム一覧
〈水×999,999+〉〈土×999,999+〉〈石×199,680〉〈木×20〉〈薪×815〉〈布×89〉
〈食料、飲料、調味料、香辛料など×1,960日分〉〈保存食×20,000〉〈飼料×4,340〉
〈獣生肉(下)×1750〉〈獣生肉(中)×500〉〈獣生肉(上)×480〉〈茶蕎麦×500〉
〈獣の骨×710〉〈獣の爪×260〉〈獣の牙×248〉〈羽毛×40〉〈魔石(極小)×69〉
〈革×274〉〈毛皮×99〉〈スライム草×100〉〈抑制の首輪×5〉
〈着替え×1,000〉〈本×100〉〈遺物×10〉〈宝石・鉱石×170〉
〈冒険者道具×1〉〈調理器具×1〉〈錬金器具×1〉〈変装道具×7〉
〈掃除道具×1〉〈茶道具×1〉〈絵画道具×1〉〈手持ち楽器×4〉
〈木刀×1〉〈ミスリル合金の軽鎧×1〉〈ミスリル合金の短剣×1〉
〈音信のイヤリング×1〉
〈教国軍の消耗品×200,000〉〈教国軍の装備品×19,990〉〈教国軍の雑貨×100,000〉
〈金貨×0〉〈大銀貨×1〉〈銀貨×11〉〈大銅貨×135〉〈銅貨×84〉
▼ 商業ギルドからの借金
オース名義:金貨2枚
グリィ名義:金貨2枚