第二百九話 マギュエ決勝で検証 その五
ソメール教国、箱舟の中央甲板。
魔法闘技場のステージは現在、半球状の水で覆われている。
これは自分が、ステージを覆うように張られた魔法障壁の中を、亜空間倉庫から出し続けた大量の水で満たしたことによる光景だ。
その半球状の水の中にいる自分は、さらにその中で球状の魔法障壁を張って空気を確保し、空気のある場所から周囲の水面を眺めている形になるので、既にこの水が半球状なのかどうかも分からないのだが、きっとこの光景を外から見ている観客たちには、なかなかに圧巻な景色として映っていることだろう。
次に検証する項目としては、このステージを覆う魔法障壁が、果たして膨張という力に対してどれほどの防御力を発揮するか。である。
水やお茶などを入れたペットボトルを冷凍庫で凍らせると、凍った後のペットボトルがパンパンに膨らんだ状態になるだろう? それをこの場所で再現したらどうなるのかの検証だ。
たしか、この世に存在する多くの液体は、固体に変化することで体積が減少する傾向にあるが、水の場合は分子の形状的に、整列させると隙間ができるせいで体積が増える……というような内容を、リアルの学校で習った気がする。
まぁ、とりあえず、この魔法障壁内に入った水を凍らせた場合も、その仕様は変わらずに体積が増えて、同じように魔法障壁が膨らむのか。魔法障壁がその力に耐えられずに破裂するなどの影響はあるのか。そういった部分を検証したいのだ。
自分はそう思考すると、ひとつ頷いてから、片手を前に突き出す。
—— ゴボゴボゴボ ——
事前にこの検証をするために準備していた自分とは異なり、魔法障壁によって空気を確保していない教皇様が、口から大量の気泡をもらしながら、自分の魔法発動を止めようとこちらへ向かってきているようだが、その動きはあまりにも遅すぎる。
いくらフィジカルが高くとも、地上にいる状態と水中にいる状態で同じように動けるわけがないので当然であるな。
そして残念ながら、まだまだ検証項目は残っているのだ……彼の到着を待つつもりはない。
「【要塞】」
自分は、自身を覆う魔法障壁が膨張の影響を受けても耐えられるよう、その魔法障壁の外側に、さらに一回り大きな魔法障壁を張ってから……。
「【凍結】」
水を凍らせるだけの、いわゆる水属性の初級魔法を発動させた。
—— キィィンッ ——
瞬間、魔法障壁か、あるいは氷が軋むような音と共に、ステージを半球状に覆っていた水が全て凍り付いた。
この世界の学校で習った通りの魔法陣では、いくら魔力を込めたとしても、この量の水を一瞬で全て凍らせることは出来ないと思うが、自分やカヤ殿はそれを改良して最適化しているので、たとえ同じ種類の魔法を使ったとしても、必ずしも威力まで同じではない。
もちろん、威力が上がればそれだけ消費魔力量も増えるが、元々授業で習う魔法陣が無駄に魔力を消費する設計になっているので、最適化してその分を減らしていることも踏まえると、そこまで大きな差は出ていないだろう。
だが、それでも威力が異なるのは、ご覧の通りだ。
瞬間的に凍らせたその半球状の水は、自分が亜空間倉庫に確保していた水の状態としてミネラルを含んだものとなっていたせいか、透き通った氷ではなく、白く濁った氷になっているらしい。
【超観測】スキルで確認すると、直前に魔法障壁が張られたようで、教皇様がいる部分だけ凍っていないようだが、それでもこの量の水が一瞬で凍るのはなかなかの威力だろう。
「ふむ、膨脹による影響に関しては……自分の方は問題ないな」
一枚でもかなりの物理耐性が見込める魔法障壁を二重に張っていたからか、自分の方は確保した空気に圧力が加わっている様子もなく、特に問題は無かったようだ。
試しに魔法障壁を一度解除してみるが、すでに今の状態でしっかり凝固しきっていたようで、氷の形状があとから変わるようなことも無かった。
だが、ステージを覆っていた魔法障壁に関しては、破裂するまでには至っていないものの、膨脹で膨らんだ分、魔法障壁も膨れ上がっているようなので、影響がゼロというわけでは無いらしい。
「【要塞】【解凍】」
自分はその検証結果をメモ画面に記入すると、次の検証に移るため、解除した魔法障壁を単体で張りなおしてから、先ほどとは逆に凍った氷を解かして水に戻す魔法を発動させた。
【凍結】と【解凍】、どちらの魔法も、授業では水属性の魔法として教えられているが、その実態は、物質の熱運動に干渉して状態変化を促す魔法であり、そこだけ切り取って見れば、土属性の魔法として教えられる鉱石を溶かしたり固めたりする魔法陣の一部にも使われている。
それらの違いは、対象として水が指定されているか、鉱石の種類などが指定されているかどうかだ。
同じように属性ごとに素材の種類が別れている錬金術の方は、まだ効能をある程度分類できているという利点があるが、やはり魔法に関しては属性を分けて管理する必要があるとは思えないな……。
「……む?」
と、そんなことを考えていると、氷から解き放たれた教皇様の様子がおかしいことに気が付いた。
水中に浮かんでこちらを睨むような視線を向けている彼は、どうやら耳の中を負傷しているようで、両耳から水中に血を漂わせている。
【超観測】スキルで魔力の流れは追っていたので、直前で魔法障壁が張られたことは確かなのだが……それでも身体的ダメージを負ってしまったのか。
おそらく、周囲の水ごと魔法障壁が張られ、凍結は免れたが、周囲の水が凍って膨脹したことによって魔法障壁に、そしてその内側の水に圧力がかけられて、鼓膜にダメージが入ってしまったのだろう。
その魔法障壁を張ったのが教皇様なのか、試合を監視しているマギの目なのかは分からないが、どちらにしても、この競技の安全面には少し欠陥があるようだな。
「【治癒】」
「……っ!?」
自分は教皇様に対して自然治癒能力を高める魔法をかけることで、その鼓膜を治療した。
おそらく水中にいるせいで、教皇様自身では発動句を唱えることが出来ないだろうから、自分が助けるほかないだろう。
「……」
教皇様は、自分にそのような情けを掛けられたことが意外だったのか、特にお礼を伝えるような素振りも見せずに、ただただこちらの意図を探るようにじっと見つめてきている。
試合相手である、敵であるはずの自分がそのような行動を取ったことに対して、何か裏があるのではないかと思っているのだろうか。
……まぁ、だとしたら、正解だ。
「よし、教皇殿も万全な状態になったようだし、これできっと次の検証にも耐えてくれるだろう」
「……っ!?」
教皇様にはもう少し検証に付き合ってもらわないといけないからな。まだここで倒れてもらうわけにはいかないのだ。
「次の検証項目は……水の凝固が及ぼす膨脹に耐えられたこの魔法障壁が、蒸発による膨脹に耐えられるかどうかだ」
自分が魔法障壁の中でそう呟くと、鼓膜が治ったおかげか、その発言もきちんと伝わったらしい教皇様の顔が、先ほど以上に青くなった。
▼スキル一覧
【輪廻の勇者】:不明。勇者によって効果は異なる。
【全耐性】:あらゆる悪影響を受けにくくなる
【全強化】:あらゆる能力が上昇する
【武器マスター】:あらゆる武器を高い技術で意のままに扱える
【武術】:自分の身体を特定の心得に則って思いのままに扱える
【魔術】:自分の魔力を特定の法則に則って思いのままに操れる
【錬金術】:素材と魔力で様々なものを生み出し、扱うことが出来る
【実力制御】:自分が発揮する力を思い通りに制御できる
【家事】:家事に関わる行動の効果を最大限に発揮できる
【冒険術】:冒険に必要な行動を高い水準で実行することができる
【諜報術】:様々な環境で高い水準の諜報活動を行うことが出来る
【工作】:様々な素材を思い通りの物に加工することが出来る
【指導術】:相手の成長を促す効率の良い指導が出来る
【コンサルティング】:店や組織の成長を促す効率の良い助言ができる
【舞踊】:あらゆる条件で思い通りに踊ることができる
【超観測】:任意の空間の全ての状況や性質を把握できる
【人族共通語】:人族共通語で読み書き、会話することができる
【人族古代語】:人族古代語で読み書き、会話することができる
【古代魔術語】:古の魔法陣を読み解き、描き、呪文を詠唱することが出来る
▼称号一覧
【連打を極めし者】
【全てを試みる者】
【世界の理を探究する者】
【動かざる者】
【躊躇いの無い者】
【非道なる者】
【常軌を逸した者】
【仲間を陥れる者】
【仲間を欺く者】
【森林を破壊する者】
【生物を恐怖させる者】
【種の根絶を目論む者】
【悪に味方する者】
【同族を変異させる者】
【覇者】
【権威を振りかざす者】
【禁断の領域に踏み入れし者】
【自然に逆らいし者】
【奪いし者】
【獣を操る者】
【世界征服を目論む者】
【魔王と呼ばれし者】
【人の道を外れし者】
【民衆を脅かす者】
【人とみなされぬ者】
▼アイテム一覧
〈水×999,999+〉〈土×999,999+〉〈石×199,680〉〈木×20〉〈薪×815〉〈布×89〉
〈食料、飲料、調味料、香辛料など×1,960日分〉〈保存食×20,000〉〈飼料×4,340〉
〈獣生肉(下)×1750〉〈獣生肉(中)×500〉〈獣生肉(上)×480〉〈茶蕎麦×500〉
〈獣の骨×710〉〈獣の爪×260〉〈獣の牙×248〉〈羽毛×40〉〈魔石(極小)×69〉
〈革×274〉〈毛皮×99〉〈スライム草×100〉〈抑制の首輪×5〉
〈着替え×1,000〉〈本×100〉〈遺物×10〉〈宝石・鉱石×170〉
〈冒険者道具×1〉〈調理器具×1〉〈錬金器具×1〉〈変装道具×7〉
〈掃除道具×1〉〈茶道具×1〉〈絵画道具×1〉〈手持ち楽器×4〉
〈木刀×1〉〈ミスリル合金の軽鎧×1〉〈ミスリル合金の短剣×1〉
〈音信のイヤリング×1〉
〈教国軍の消耗品×200,000〉〈教国軍の装備品×19,990〉〈教国軍の雑貨×100,000〉
〈金貨×0〉〈大銀貨×1〉〈銀貨×11〉〈大銅貨×135〉〈銅貨×84〉
▼ 商業ギルドからの借金
オース名義:金貨2枚
グリィ名義:金貨2枚