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第二十話 アイテム整理で検証 その二

 冒険者ギルドの解体所で持っていた獣の屍を全て肉や素材に解体した自分は、次の日に街でいくつかの買い物をした後、一般区の暗く入り組んだ路地裏にあるアドーレ婆さんの薬屋を訪れた。


 ここを訪れたのは獣の素材よりも亜空間倉庫の中で持て余している〈スライムの粘液〉を処理するため……ゼリー作りの時に【鑑定】で調べた時から乳化安定剤の代わりになり、何故か腐らない保存料としての効果もあることが分かっていたので、今日作る予定のあるものに使えそうな素材だなと思っていたのだ。


 ―― コンコン ――


「アドーレ殿、ご在宅か?」


「はいはーい」


 ―― ギィ…… ――


 しかし扉が開く軋んだ音は前と同じだったものの、聞こえてきた声も、開いた扉から出てきた人物の顔も、自分の呼ぼうとしたしわくちゃのお婆さんではなく、成人になったばかりくらいの年齢と思われる少女だった。


 服装はあの時のアドーレ婆さんと同じような魔女っぽいローブ姿だったが、後ろで二本の三つ編みに束ねている少し暗いブロンドヘアーには艶があり、少し緑が入ったグレーの瞳にも若々しさが溢れ……そして、その耳は人間のそれと違って少し尖っている。


「しばらく見ない間に随分と若くなったのだなアドーレ殿」


「ほっほっほ、そうなんじゃ、薬の実験で少し失敗してしまってのぅ……って、んなわけないでしょ! 孫よ! 孫! アドーレはあたしのおばあちゃん!」


「ふむ……薬の素材を効果も調べずに口にするアドーレ殿なら、いつの間にか若返っていてもおかしくないと思ったのだが、流石に違ったか……」


「うぐっ……確かにおばあちゃんならやりかねないわ……」


「むしろ自分としては、それくらい無茶苦茶なことをしてくれた方が、検証しがいがあってワクワクするな」


「あたしはワクワクしないわよ! そういう暴走の後始末をするのはいっつも孫のあたしなんだから……っていうか、あなた、どちら様?」


 アドーレ婆さんの孫だという少女と出会った自分は、立ち話もなんだからと前来た時と同じく薄暗い家の中に招き入れられて、店の奥のダイニングに案内されると、そこで彼女が入れてくれたハーブティーを飲みながらお互いに自己紹介をすることになった。


 彼女の名前はアーリーと言い、先ほど聞いた通りアドーレ婆さんは彼女の祖母であり、薬術を教えてくれている師匠でもあるそうだ。

 少し尖った耳はハーフエルフの特徴らしく、人間であるアドーレ婆さんの息子が父親、彼と結婚したエルフを母親に持ち、王都で薬屋を営むその両親に言われて、一人前の薬師になるためにここ〈魔女の釜〉で修行中とのこと。


「うむ、アーリー殿か、よろしく頼む……自分はオース、この街で冒険者をしている者だ……アドーレ殿とは暫く前に配達の依頼でここを訪れた時に知り合った」


「うーん? オースって名前どこかで…………ああー!! この前おばあちゃんが言ってたあのオースさんかー! いやー、その節はどうも祖母がご迷惑をおかけしまして……祖母の命を救って下さりありがとうございます」


「いや、大したことではない……その後もアドーレ殿の身体にお変わりは無いか?」


「おかげさまでピンピンしてるわ、ほんとにもう相変わらず歳の割に元気で元気で……今日も薬の材料を取りに行くって冒険者を護衛に雇って朝早くからさっさと森に出かけてちゃったの」


「なるほど、だから先ほどから姿が見えないのか」


「あ、そういえばオースさん、あたしのおばあちゃんに何の用?」


「うむ、実はな……」


 自分がここを訪れたのは、森で採取した薬草などの素材をすぐに使える薬の形にしておくためこの店の調合設備を使わせてもらおうと思ったからだ……検証も並行して行うため長時間借りることになってしまうが、先ほどの解体所でも鹿の角やクマの胆嚢などが手に入ったので、それらの素材や出来上がった薬を少しお裾分けする形で交渉を進める予定だった。


「へぇー、うちに薬を買いに来る以外のお客さんが来るとは思わなかったよ」


「アドーレ殿が不在なら、後日出直した方がいいだろうか」


「ううん、それくらいならいいでしょ……そりゃぁ調合設備も安くないから素人に好き勝手やらせたら大変だけど、その調合でおばあちゃんの命を救ったあなたなら何も問題ないわ」


「そうか、助かる」


「いいのいいの、好きに使っちゃって……おばあちゃんも他の人が作る薬に興味あると思うし、あたしもあなたの調合には少し興味があるわ……後ろで見ててもいい?」


「うーむ、特に変わったことをするわけじゃなく、地味な作業が続くだけなので見ていてもつまらないと思うが……そうだ、それならひとつ薬の開発を手伝ってもらえるだろうか」


「薬の開発……?」


 自分がここに訪れたもう一つの理由として、ある薬の開発があった……それは使い道がなく亜空間倉庫の中に大量に眠っている〈スライムの粘液〉を使った〈スキンケア製品〉の作成。

 カロリーナ殿の宿屋でゼリーを作った時に、このアイテムには増粘・ゲル化作用があることが分かったので、上手く使えば〈化粧水〉や〈乳液〉のようなものが作れるのではないかと思い、それを検証しに来たのだ。


 ここに来る途中でエッセンシャルオイル用のラベンダーや柑橘類の皮、それを希釈するキャリアオイル用のカシューナッツやブドウの種を買ってきたが……それらの組み合わせには正解が無く、逆に言えば全てが正解なので、無駄にすべての組み合わせを作ってしまう自分よりも、それを使う立場である彼女の方が検証者として適任だろう。


 材料としては他にも〈精製水〉と〈グリセリン〉が必要で、それらはおそらくこの世界では簡単には手に入らないのだが……そちらも買い物のついでに手に入れてきてあった。

 自分が普段使っている水は川から亜空間倉庫に直接汲んだものなのだが、実は格納する時に不要なものを取り除いた〈ミネラルウォーター〉だけを格納している……なのでそのまま飲んでもお腹を下したりしないし、そこからミネラルなどを除いて格納しなおせば、精製水の出来上がりである。


 グリセリンの方も、昨日二度と顔を見せるなと言われた解体所にさっそく顔を出して、大量に余っていて廃棄される予定だった獣の脂肪と、お湯を沸かしたりする際に使う大竈から拝借した灰をドラム缶に詰め込んでグツグツと煮れば、後は精製水と同じように亜空間倉庫の便利な指定格納で収納すれば〈軟石鹸〉と一緒に簡単に手に入った。


「ふむふむ、この〈精製水〉と〈グリセリン〉を基礎にして、ナッツや種を圧搾して抽出するオイルや、花や果実の皮を水蒸気蒸留で抽出するオイルと、乳化剤として使えるであろう〈スライムの粘液〉を組み合わせて、肌につけると美容に良いらしい薬が作れる……と」


「そうだ、自分は使ったことが無いので何がどう良いのかさっぱり分からないが、母上が言うには女性には必需品とのことだ……この作り方も購入ではなく自作を始めだした母上に手伝わされていたので覚えている、流石にオイルなどの材料は買っていたが……」


「くぅー……惜しい! どうせ作るならもうちょっと情報が欲しいところね」


「仕方が無いだろう、母上には訳あって連絡が取れないのだ」


「うーん、仕方ない、まぁいいわ……一人前の薬師を目指す見習いとして、そして何より、美容を求める女の子として! この調合研究、受けて立とうじゃない!」


「うむ、頼んだぞ」


 そして自分は〈スキンケア製品〉の検証を薬師見習いのアーリー殿に任せて、その他の冒険で使いそうな〈回復薬〉や〈解毒薬〉を作る検証を始めた……。


 この検証は、解体の検証と同じように、とてつもなく時間がかかる……一つの薬を作成するのは一体の獣を解体するより遥かに少ない時間しかかからないが、代わりに作成する薬のパターンはおそらく千どころでは済まされない。

 今持っている元の素材だけで二十種類以上あるのだ、それをさらに素の状態と、加熱した状態、灰にした状態などに変化させ、さらに水に溶けだしたもの、残ったもの、蒸留させたものなどに変化させていくと、組み合わせる材料は三桁になる。


 それらを一種類だけで薬にしたもの、二種類使用して薬にしたもの、三種類使って薬にしたものと組み合わせていくと、もう普通の人間だったら何通りのパターンがあるのか計算するのも諦めるほどの数になるだろう……。



「ふむ……なるほど……よし」



「アドーレ殿が帰ってきたらここに泊めてもらえるよう交渉しよう」



 そうして自分とアドーレ殿の孫であるアーリー殿は、途方もない検証をスタートさせた。



 ♢ ♢ ♢



「よーし、出来たぁああー!」


「うむ、こっちもやっと終わったぞ」


「ほっほっほ……二人ともご苦労さん」


 一週間の休暇を宣言して八日目の早朝……いつもであれば朝の鍛錬をしている時間になって、自分たちはようやくその検証を終えた。


 正確には全パターンの検証が終わる前に、材料の方が終わってしまったのだが、それでも優先度の高かった組み合わせは一通り検証できたのでよしとする。


 共に二日間寝ていないためアーリー殿の目の下には隈が出来ているが、それに関しては自分は推奨していない……アドーレ殿の遺伝なのか、彼女は思ったよりもデバッガーや研究者向きの性格だったらしく、テーマが美容だったことも関係するか、自ら夜通し検証する道を選んだのだ。


 そして彼女はこの薬屋に薬の効果に限り【鑑定】できる魔道具が存在していたこともあって、彼女は自身が欲しい美容効果が全て乗った〈オールインワンジェル〉の調合比率を導き出したらしい。


 自分の想定では母上に聞いた愚痴と言う名の情報から最終的に〈化粧水〉と〈乳液〉が別で出来上がると思っていたのだが、彼女は早い段階でその答えを導き出し、その上でさらに研究を重ねて、わざわざ別で使わないといけなかった何らかの懸念を払拭したオールインワンジェルを完成させた……個人的には美容のための研究で目の下に隈を作っているという矛盾が気になったが、まぁ当の本人が徹夜のテンションで楽しそうなので触れないでおこう。


「アドーレ殿もご助力感謝する……ご老体に無理をさせてしまって申し訳ない気持ちも強いのだが、貴女が途中から手伝ってくれなければ終わらなかっただろう……助かった」


「ほっほっほ、いいんじゃよ……わたしも久しぶりに薬師の研究魂に火がついて楽しんでやっていたからねぇ……」


「そう言ってもらえると気が楽になる……少ないかもしれないが、効能が被っていて必要なくなった調合素材や、冒険で使わなそうな薬はアドーレ殿に差し上げよう、是非受け取ってほしい」


「いんや、命を救ってもらった身だ、礼はいらんよ……と言っても、お主は聞かんじゃろうなぁ……そうじゃ、だったらその材料と薬をわたしが買おう……お主から安く仕入れて、他の客に売りつけるんじゃ……良い話じゃろう?」


「うむ、わかった……アドーレ殿はお優しいな、本当はタダでもらってくれてもいいのだがそれで取引しよう」


「ほっほっほ……それで十分じゃよ、薬の方は精力剤ばかりじゃが、まぁ買うやつはたくさんおるでのう」


 そうして、自分はアドーレ殿に必要のない薬や素材を買い取ってもらった……二人で話しているうちにいつの間にか眠ってしまっていたアーリー殿が作り上げたオールインワンジェルの材料も同じく譲ろうとしたのだが、そちらは薬の開発にも手を貸したということで素材を買い取るのではなく、その完成品を売って儲けた利益の三割を貰えることになった。


 なかなか買い手がつかないスライム素材や、廃棄予定の脂や灰などの原価ゼロで手に入れた素材などから作られたものなので大した額にはならないと思うが、きっと全部売れれば保存食の足しくらいにはなるだろう。


「ではアドーレ殿、自分は宿に戻る……起きたらアーリー殿にも礼を言っておいてくれ」


「はいよ、気をつけてお帰りな……」


 自分は薬屋〈魔女の釜〉を出ると、薄暗い路地裏を抜け出して、朝日を浴びながら宿への帰り道を歩く。

 アイテム整理が終わって、そのうち必要になりそうな薬も確保できた……二日寝てないが、今日からまた始めていくのはFランクの依頼だから問題ないだろう。


「む……」


 そして宿が見えた自分は思い出した……いつか使いそうだと思ってゴブリンの魔石を売らずに取ってあるが、グリィ殿にはそれを売った半額分のお金を払う予定だったことを……。

 アドーレ殿に素材や薬を買い取ってもらったとはいえ、その前に化粧水の材料を買いそろえるために殆ど使い果たしていた……解体所で聞いたところ小さくても一つ辺り銀貨五枚するらしく、支払予定額は大銀貨二十二枚……小遣い稼ぎにしかならないと言うフランツ殿の情報は何だったのか……。


「ふむ……なるほど……よし」


「グリィ殿には分割払いを検討してもらおう……」


 自分はFランク冒険者の内は休暇は程々にしようと決めて宿に帰った……。


▼スキル一覧

【輪廻の勇者】:不明。勇者によって効果は異なる。

【物理耐性】:物理的な悪影響を受けにくくなる

【精神耐性】:精神的な悪影響を受けにくくなる

【時間耐性】:時間による悪影響を受けにくくなる

【異常耐性】:あらゆる状態異常にかかりにくくなる

【五感強化】:五感で得られる情報の質が高まる

【知力強化】:様々な知的能力が上昇する

【身体強化】:様々な身体能力が上昇する

【成長強化】:あらゆる力が成長しやすくなる

【短剣術(基礎)】短剣系統の武器を上手く扱える

【剣術(基礎)】:剣系統の武器を上手く扱える

【槍術(基礎)】:槍系統の武器を上手く扱える

【短棒術(基礎)】:短棒系統の武器を上手く扱える

【棍棒術(基礎)】:棍棒系統の武器を上手く扱える

【体術】:自分の身体を高い技術で意のままに扱える

【投擲】:投擲系統の武器を高い技術で意のままに扱える

【実力制御】:自分が発揮する力を思い通りに制御できる

【薬術】:薬や毒の効果を最大限に発揮できる

【医術】:医療行為の効果を最大限に発揮できる

【掃除】:掃除の効果を最大限に発揮できる

【サバイバル】:過酷な環境で生き残る力を最大限に発揮することができる

【解体】:物を解体して無駄なく素材を獲得できる

【調合】:複数の材料を使って高い効果の薬や毒を作成できる

【料理】:複数の材料を使って高い効果の料理を作成できる

【指導術】:相手の成長を促す効率の良い指導が出来る

【鑑定・計測】:視界に収めたもののより詳しい情報を引き出す

【万能感知】:物体や魔力などの状態を詳細に感知できる

【人族共通語】:人族共通語で読み書き、会話することができる

【人族古代語】:人族古代語で読み書き、会話することができる


▼称号一覧

【連打を極めし者】

【全てを試みる者】

【世界の理を探究する者】

【動かざる者】

【躊躇いの無い者】

【非道なる者】

【常軌を逸した者】

【仲間を陥れる者】


▼アイテム一覧

〈一人用テント×1〉〈調理道具×1〉〈食器×2〉〈布×20〉〈ロープ×7〉〈杖×1〉

〈村人の服×1〉〈盗賊の服×4〉〈麻袋×5〉〈水袋×5〉〈毛布×5〉〈松明×8〉〈火口箱×1〉

〈水×87,000〉〈枯れ枝×550〉〈小石×1,800〉〈軟石鹸×10〉

〈治癒薬×5〉〈上治癒薬×15〉〈特上治癒薬×5〉〈解毒薬×15〉〈上解毒薬×5〉

〈鎮痛薬×15〉〈風邪薬×25〉〈緩下薬×15〉〈止瀉薬×15〉〈鎮静薬×10〉

〈筋力増加薬×5〉〈精神刺激薬×5〉〈麻酔薬×5〉

〈毒薬×50〉〈猛毒薬×15〉〈劇毒薬×5〉〈麻痺毒薬×15〉

〈獣生肉(下)×1750〉〈獣生肉(中)×900〉〈獣生肉(上)×1000〉〈鶏生肉×250〉

〈生皮×550〉〈上質な生皮×197〉〈皮屑×18〉〈獣の骨×747〉

〈獣の爪×250〉〈獣の牙×250〉〈羽毛×50〉

〈魔石(極小)×90〉〈棍棒×300〉

〈ナイフ×3〉〈シミター×2〉〈ショートソード×1〉〈槍×1〉〈メイス×1〉

〈ボロ皮鎧×1〉

〈大銀貨×3〉〈銀貨×0〉〈大銅貨×1〉〈銅貨×2〉


※2020/09/14 文章を一部追記、修正(ストーリーには影響ありません)

※2021/02/21 文章を一部追記、修正(ストーリーには影響ありません)

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