第二百四話 マギュエの第四試合で検証 その二
—— ガキンッ ガキンッ ——
ソメール教国、箱舟、中央甲板。
そこにあるメイン施設、魔法闘技場のステージで、魔法闘技場という名に似つかわしくない、金属同士がぶつかり合う音が響き渡る。
「【盾の咆哮】!」
「【爆発】」
時折、そこが魔法の力量を測る場であることを思い出したように、大きな魔力の塊や、爆発を引き起こす火の玉が飛び交うが、そんな場所を駆け回っているのは、やはり魔法をメインの武器として戦っている人物とは思えない二人の姿だった。
「はああああ!!!」
そのうちの一人、全身を覆う金属鎧を着こみ大きな盾を振り回している人物は、ここ、ソメール教国の第三王子であり、我が検証チームの頼れるタンクでもある、アクセル殿。
「ふんぬっ」
もう片方、筋骨隆々とした上半身をさらけ出して、大きな鍵の形をした黄金の杖を振り回しているのは、ソメール教国のトップであり、アクセル殿の父君でもある、マルカント・ソメール教皇。
どちらも、そこが魔法大国の魔法闘技場ではなく、グラヴィーナ帝国で開かれる物理特化の武闘大会であっても活躍できそうな動きで、放たれる攻撃もCランク程度の魔物であれば一撃で粉砕できるのではないかという威力を持っている。
だが……。
「【氷柱の雨】」
「くっ……あ、しまっ……!」
教皇様が氷柱の雨を降らせ、アクセル殿はそれを素早く回避するが、回避した先の地面が泥でぬかるんでおり、特に足裏にスパイク加工などもされていない鎧を着こんでいる彼は、そのまま片足が滑るような形でバランスを崩してしまう。
「足元にも気を配るようにと注意したばかりだろう」
そんな隙を教皇様が逃すわけもなく、アクセル殿が足元に気を取られて目を離した隙に死角へと回り込んだ教皇様は、ゼロ距離でアクセル殿の脇腹にそっと手を置くと……。
「【風大砲】」
手のひらから発現させた魔法陣を光らせ、全身鎧を着こんだアクセル殿を、圧縮された空気の大砲で吹き飛ばした。
「ぐぁっ!」
「【爆発】」
吹き飛んだ先でガシャンと音を立てて、地面に転がるアクセル殿に、これぞ追い打ちとばかりに大きな火球を飛ばして見せる教皇様。
「くっ!」
流石にそう易々とはやられないアクセル殿は、持ち前の反射神経と魔法で強化された身体能力で何とか直撃は回避するが、それでも【要塞】を発動している余裕は無かったらしく、爆発の余波によっていくらかダメージは負ってしまう。
教皇様と、アクセル殿……。
身体能力としては互角かもしれないが、技の多彩さで、アクセル殿は教皇様に圧倒的に劣っている。
アクセル殿は既に、鎧に刻まれた上級の身体強化魔法である【上級強化】以外にも、彼自身が自力で魔法陣を出現させて発動することができる【強化】【中級強化】まで重ね掛けしているのだが、その度に相手も同じ魔法を重ね掛けして、身体能力に差が開くことは無かった。
そうなれば、あとは技の種類や使い方の戦い方が勝敗を決める。
そして残念ながらアクセル殿は、攻撃手段に関しては既に全ての札を切っており、試合中に新たな能力に目覚めたり、新しい技をひらめいたりしない限り、追加の手札が増えることは無い状態だ。
対して教皇様は、今の見た目からは決して想像できないが、これでも魔法大国のトップに立つ、この国一番の魔法使いである。
先ほどから当たり前のように、魔法陣を出現させる形で様々な魔法を放っていることからも、彼が事前に暗記している魔法の数が尋常ではないことは明白で、彼が魔法大国のトップという座に胡坐をかいているだけでは無いことが分かる。
しかも、先ほど、氷柱の雨を降らせた先に泥溜りを設置していたように、その多彩な魔法を単体ではなく連続したコンボとして発揮できるほど使いこなしているのだ。
試合開始から今まで、先ほどと同じようなことが度々あり、現在、スクリーンに映し出されている状況を確認すると、教皇様の体力は相変わらず最大値から変動していないのに対し、アクセル殿の体力は既に残り一割を切っている。
あと一撃もらえば、アクセル殿は体力がゼロになる可能性は高いし、仮になんとか試合終了まで逃げきったとしても、体力差の判定で、負けてしまうことは明白だ。
そしておそらく、この形勢が逆転することは……無い。
それほどまでに、教皇様の力は強大で、アクセル殿と実力の差が開いているのだ。
単純な肉弾戦においては、その力は互角のようにも見えるかもしれないが、教皇様はアクセル殿と互角の戦いを演じながらも、そんな彼の注意が足りていない点に関して指摘する余裕がある。
単純な動きの速さや反射神経などは同じだったとしても、状況把握能力や思考の速さ、戦闘経験値などで、教皇様はアクセル殿の上を行っているのだ。
それに……。
「さて、そろそろ今日の授業は終わりにしようか」
「はぁ……はぁ……なにを」
「【追い風】」
教皇様が新たな魔法を発動させ、周囲の風を纏うようなエフェクトが発生する。
これは、カヤ殿がよく他者や自身に対して使用するバフ魔法で、追い風が対象者の動きをアシストしてより早く行動できるようになる魔法だ。
そう……教皇様は、こういった魔法を追加で発動することで、いつでも、その互角だったアクセル殿の身体能力を上回ることが出来たのだ……。
彼は最初からこの試合を、世界の命運をかけた戦いではなく、いつもより濃密な戦闘訓練……アクセル殿に戦い方の指導をするためだけの、練習試合のようなものだと考えていたのだろう。
「【盾の咆哮】!」
アクセル殿が、まだ相手との距離がある状態で、前方に向かって魔力波を放つ。
自分たちとは反対側の客席にいる、戦闘経験の少ないソメール教国の貴族が見たら、それはただの無駄撃ちにしか見えなかったかもしれない。
だがそれはきっと、長い間近接戦闘をこなしていたアクセル殿の経験による直感と反射神経による、この場における最善の選択肢だったに違いない。
その証拠に、それを放った直後、教皇様の姿は、先ほどまで立っていた場所から消えていた。
そして……。
「いい判断だ……そして今のお前には、それが限界だっただろう」
その時に教皇様がいたのは、盾を振り抜いたアクセル殿の背後……しかも、既にその背中に杖を持っていない方の手を付け、魔法陣を展開させていた。
「【火柱】」
「ぐああああ!!!」
アクセル殿は、教皇様の手のひらから発せられた火柱に焼かれて、その残り体力を散らした……。
マギュエのシステムによって選手の肉体は守られているので、実際の身体には傷も火傷も全く無いだろうが、その心には届かぬ父の背中という無念の情がハッキリと焼き付いたことだろう。
「試合終了! 勝者、マルカント教皇!」
こうして、マギュエ準決勝……ソメール教国皇族の親子対決が終了した。
次はついに自分の出番だ……。
仲間であっても、本人になることは出来ない。
だから自分には、アクセル殿の気持ちを全て察することなど出来ない。
そんな当たり前の理由から、仲間の意思を引き継いでとか、仲間の悔しさを力に変えてとか、少年漫画の主人公のようなことを言うことも出来ないだろう。
……だが、仲間がこの試合中に検証できなかった項目がまだまだたくさん残っていることは分かる。
「ふむ……なるほど……よし」
「……検証開始だ」
自分に出来ることは、アクセル殿が検証できなかった分まで、この戦いを隅から隅まで検証することだけだ。
……もちろん、試合で勝利するという検証項目まで全て。
▼スキル一覧
【輪廻の勇者】:不明。勇者によって効果は異なる。
【全耐性】:あらゆる悪影響を受けにくくなる
【全強化】:あらゆる能力が上昇する
【武器マスター】:あらゆる武器を高い技術で意のままに扱える
【武術】:自分の身体を特定の心得に則って思いのままに扱える
【魔術】:自分の魔力を特定の法則に則って思いのままに操れる
【錬金術】:素材と魔力で様々なものを生み出し、扱うことが出来る
【実力制御】:自分が発揮する力を思い通りに制御できる
【家事】:家事に関わる行動の効果を最大限に発揮できる
【冒険術】:冒険に必要な行動を高い水準で実行することができる
【諜報術】:様々な環境で高い水準の諜報活動を行うことが出来る
【工作】:様々な素材を思い通りの物に加工することが出来る
【指導術】:相手の成長を促す効率の良い指導が出来る
【コンサルティング】:店や組織の成長を促す効率の良い助言ができる
【舞踊】:あらゆる条件で思い通りに踊ることができる
【超観測】:任意の空間の全ての状況や性質を把握できる
【人族共通語】:人族共通語で読み書き、会話することができる
【人族古代語】:人族古代語で読み書き、会話することができる
【古代魔術語】:古の魔法陣を読み解き、描き、呪文を詠唱することが出来る
▼称号一覧
【連打を極めし者】
【全てを試みる者】
【世界の理を探究する者】
【動かざる者】
【躊躇いの無い者】
【非道なる者】
【常軌を逸した者】
【仲間を陥れる者】
【仲間を欺く者】
【森林を破壊する者】
【生物を恐怖させる者】
【種の根絶を目論む者】
【悪に味方する者】
【同族を変異させる者】
【覇者】
【権威を振りかざす者】
【禁断の領域に踏み入れし者】
【自然に逆らいし者】
【奪いし者】
【獣を操る者】
【世界征服を目論む者】
【魔王と呼ばれし者】
▼アイテム一覧
〈水×999,999+〉〈土×999,999+〉〈石×199,680〉〈木×20〉〈薪×815〉〈布×89〉
〈食料、飲料、調味料、香辛料など×1,960日分〉〈保存食×20,000〉〈飼料×4,340〉
〈獣生肉(下)×1750〉〈獣生肉(中)×500〉〈獣生肉(上)×480〉〈茶蕎麦×500〉
〈獣の骨×710〉〈獣の爪×260〉〈獣の牙×248〉〈羽毛×40〉〈魔石(極小)×69〉
〈革×274〉〈毛皮×99〉〈スライム草×100〉〈抑制の首輪×5〉
〈着替え×1,000〉〈本×100〉〈遺物×10〉〈宝石・鉱石×170〉
〈冒険者道具×1〉〈調理器具×1〉〈錬金器具×1〉〈変装道具×7〉
〈掃除道具×1〉〈茶道具×1〉〈絵画道具×1〉〈手持ち楽器×4〉
〈木刀×1〉〈ミスリル合金の軽鎧×1〉〈ミスリル合金の短剣×1〉
〈音信のイヤリング×1〉
〈教国軍の消耗品×200,000〉〈教国軍の装備品×19,990〉〈教国軍の雑貨×100,000〉
〈金貨×0〉〈大銀貨×1〉〈銀貨×11〉〈大銅貨×135〉〈銅貨×84〉
▼ 商業ギルドからの借金
オース名義:金貨2枚
グリィ名義:金貨2枚




