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挿話 観客席でのお話

本編と関係なくはないですが、主人公ではない人から見たお話です。

 

 ソメール教国、箱舟、魔法闘技場。


 円形ステージの周囲を観客席がぐるりと囲い、その外側にある柱に設置されたスクリーンが中央ステージで行われている戦闘を映し出している。

 そして、そのスクリーンに映し出されている映像は、箱舟の外に設置された巨大魔道具によって拡大表示され、箱舟の外、教都の街にいる住民にもその戦いの様子が観戦できるようになっていた。


「「おお!」」


 右手の魔法陣、左手の魔法陣、無詠唱魔法と、一人で三通りの魔法発動を操る少女の猛攻にうまく対処したこの国の第二王子が、お返しにと相手に小さくとも一撃を当てると、それを見たこの国の住人たちが各々の喜びの表現をする。

 住人の中に少女を応援しているものはおらず、誰もが王子の方を応援しているようだ。


 街の住人は、この国の雰囲気や過ごしやすさに満足しているようなので、そんな国を統治している王族を慕い、応援するのは当然のこと。

 しかも、このマギュエはただの武闘大会ではなく、聖なる戦い。

 この国の王子たちは、未来に訪れるべき平和のため、世界に害をなそうとしている魔王を倒すべく必死で戦っているのだ。

 自分たちのために身体を這ってくれている勇敢な王族に向けた応援が、より熱が入ったものになるのは当然の事だろう。


 なので、いくら相手が魔王に操られた他国の貴族だろうと、この街の住民が応援するのはソメール教国側の王族しかありえない。


「今だカヤ姉ちゃん!」


「そこ! そこを狙って!」


「あぁー! そうじゃないっすよー!」


 しかし、視点を移し、闘技場の観客席の様子を見てみると、ここにいる観客たちの反応はそうではなかった。


 箱舟の外に設置された魔道具は、箱舟の闘技場で映し出されている映像を拡大表示しているだけで、ここで繰り広げられている戦闘音はもちろん、観客の声も届けられていないため、街の住人は誰も、そこに魔王側を応援する声があるとは知らない。


 だが、闘技場の観客席だけを切り取ってみれば、ソメール教国側を応援する人物も、魔王側を応援する人物も、フラットな目線でその戦いを楽しんでいる者もいて、まるでこれが普通の武闘大会か何かであるように、三者三様な反応を示しているのだ。


「うへー、親父に『招かれるついでに、魔法大国と言われる国の魔法を見て、お前も少しは魔法に興味を持ってみろ』って言われてたけど……こりゃ確かに、うちの国とレベルが違いすぎるぜ」


「ヴェル、何を言っている。その戦いを繰り広げているうちの片方は、お前の国の貴族で、しかも学生だぞ?」


「いやいや、ヴィーコ、信じられるかって。あの子、絶対に学校で教師をやっているどの連中よりも魔法の扱いが上だぞ?」


「まぁ……彼女は化け物に育てられた化け物だからな。その気持ちは分かる」


 魔王側を応援しているグループと並んでいる団体。

 同じ国章のマントを身に着けた騎士に囲まれている、どう見ても一般人とは思えない高貴な服をまとった青年が、その魔王側グループのひとりと親し気に会話していた。


 国章を背負う服装から察するに、彼らは、教皇に招かれたジェラード王国の王族と騎士たちだと思われるが、王族と思われる青年は、貴族とも冒険者ともとれる格好をした青年と、まるで昔ながらの友人のように会話をしており、周りにいる騎士たちも、そんな彼らを気にすることなく、思い思いに試合の観戦を楽しんでいる。


「ふーん。戦場を荒らしてくれた弟に挨拶するついでにと思って来てみたけど、意外と見ごたえがあって楽しいじゃん」


「確かに、これはうちの武闘大会とはまた違って、良い見世物ですね、殿下」


「まぁ、そうは言っても、こっちのは洗練された技術ってのが直感的に分かりにくいし、ビカビカ光って眩しいから、僕はうちの武闘大会の方が好きだけどね」


「はっはっは、違いねぇや」


 視点を変えて、魔王側の応援グループや、ジェラード王国からの来賓席よりも少し離れた場所。


 こちらもグラヴィーナ帝国の国章を背負っている服装からして、おそらく先ほどの王族グループと同じように、ソメール教国の教皇から招かれた、グラヴィーナ帝国の王族を中心とした団体だと思われるが……その観戦態度としては、ジェラード王国の来賓席と変わりなかった。


 その口調と、周囲の騎士たちと比べると小柄な体格というのも相まって、青年というには少し幼い印象を受ける王族もそうだが、周囲の騎士たちもどこか統一感のない寄せ集めの傭兵といった雰囲気で、一般人が思い浮かべる王族と騎士というイメージからは外れている。


 他に気になる点としては、連れている騎士の数がジェラード王国よりも少ないところだが、それはグラヴィーナ帝国の人口としてドワーフが多いため、入国制限を受けない人間を選んだらこの数になったのだろう。


 だが、そんな国ごとの違いはあれど、ジェラード王国の来賓も、グラヴィーナ帝国の来賓も、この国の住人と同じように、この試合がソメール教国と魔王の戦いであると聞いてきているにしては、あまりそういったことを気にしている様子は無いというところは共通しているようだ。


 彼らがいる反対側の観客席に位置するソメール教国の貴族たちは、もちろん、その教皇の言葉を信じて、街の住民たちと同じように、自分たちの国を必死に応援しているようだが、こちら側の観客席にいる者たちは、魔王側を応援するグループも含めて、特にこの試合を大事に捕えている様子は無く、純粋な出し物として楽しんでいる。


 ジェラード王国の男爵令嬢、対、ソメール教国の王子。

 そろそろどちらの選手も魔力の底が見え始めてきた試合後半。


 果たして、勝利を手にするのは、どちらの選手だろうか……。


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