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第百九十八話 マギュエ第一試合で検証 その一

 

「第一試合……始め!」


 シェスリア殿の号令で、マギュエの第一試合、ソメール教国の第二王子、ジェイラス殿下と、ジェラード王国の男爵令嬢、カヤ殿の戦いが始まった。


 試合開始と同時に、流れ弾が飛んでも客席に被害が出ないようステージを覆うような魔法障壁が展開され、スクリーンには戦いの全体を移すようなポジションから撮影している映像や、各選手のズームおよび仮想体力ゲージなどが表示される。


 しかし、お互い、慎重なタイプなのだろうか……。

 試合開始の合図があった後も、睨み合いを継続しており、すぐに動く様子は無いようだ。


 ……いや、そう見せているだけか。


 少しの沈黙の後、最初に仕掛けたのは、カヤ殿だ。

 彼女は試合開始時からずっと、左手を腰の後ろに当て、右手に持ったタクトを相手に突き出すように半身で構えていたが、その右手のタクトがようやく魔法陣を描き出す。


 それはジェラード王国の学校で最初に習った、初級の攻撃魔法……【炎の矢(ファイア・アロー)】。

 しかも、自分たちが検証してきた改良型でもなく、実際には描く意味のない無駄な陣もあえて描く、正真正銘、初心者魔法使いが最初に覚える基礎的な形だ。


「ふっ……下級貴族にしてはなかなかの魔力を持っているようだったから警戒していたけれど、その必要は無かったみたいだね……遅すぎるよ……【炎の矢(ファイア・アロー)】」


 そんな言葉と共に、先に魔法陣を描き出したカヤ殿よりも早く魔法を放ったのは、ソメール教国の第二王子、ジェイラス殿下。


 力の誇示のために、あえてカヤ殿と同じ魔法を選択したのであろうが、彼が放った魔法は彼女と同じものではあるものの、伊達に魔法研究が盛んな国の王子をやってはいないらしく、その魔法陣は自分とカヤ殿が【炎の矢(ファイア・アロー)】を発動させるために必要最低限の陣はこれだろうと結論付けたものと同じ形だ。


 無駄な陣が省かれているので、描く手間がカヤ殿よりも少ないのもそうだが、修練を重ねているのだろう、彼女が持っているものと同じようなそのタクトで魔法陣を描くスピード自体もカヤ殿よりも早く、走り書きのような速さでありながら美しく歪みのない魔法陣を彼女よりも早く完成させると、その魔法を未だに魔法陣を描き続けているカヤ殿へ向けて撃ち放った。


 だが……。


「【魔法障壁(マジック・バリア)】!」


「なに!?」


 その魔法で作られた炎の矢は、カヤ殿へと届く前に、彼女が発動させた魔法障壁に阻まれて消えた。


 そして……。


「【炎の槍(ファイア・ランス)】!」


 炎の矢を魔法障壁が弾いて発生したわずかな光と煙が消えたタイミングで、カヤ殿は続けざまに次の魔法を放ち、その魔法で形成された炎の槍がジェイラス殿下を襲う。


「くっ……【魔法障壁(マジック・バリア)】!」


 だが、ジェイラス殿下も流石にその程度でやられるような人物ではないらしい。


 すぐに冷静さを取り戻すと、またも早業で魔法陣を描き、その槍が彼に到達する前に発動を間に合わせた魔法障壁で彼女の攻撃を防いだ。


 うーむ……ここで放っていた魔法が単体の中級基礎魔法ではなく、上級や連弾の魔法だったら、初級の魔法障壁では防げなかったと思うのだが……。

 様子見をしているのか、緊張しているのか、カヤ殿はまだ持てる力を全て発揮できていないようだな。


「……」


 そして、ここから魔法の応酬に次ぐ応酬で、雪合戦のような状態になる展開もあり得たと思うのだが、やはり二人とも慎重なタイプなのだろう……また睨み合いの状態になってしまった。


「驚いたよ……君は二杖流で、そして魔法陣の修正も出来るんだね……しかも、学生とは思えないほど魔法の研究もしているようだ」


「……」


 カヤ殿はその言葉には答えなかったが、代わりに、腰の後ろに回していた左手も前に突き出し、両手で一つずつ持った合計二つの魔法杖を相手に向けることを返答としたようだ。


 今の一瞬の攻防だけでジェイラス殿下が見抜いたように、彼女は右手と左手の両方で別々の魔法陣が描ける二杖流で、先ほど最初に発動させた魔法障壁は、腰の後ろに隠していた左手で描いていた魔法陣を発動させたものだった。


 そして、次弾で放った炎の槍は、途中まで炎の矢として描いていた魔法陣を後から加筆、修正して発動させたもので、これは既に描いた線を消すという上級技術も必要な他、魔法陣の形を炎の矢から炎の槍に変換するのにそれほどコストはかからないという、少なくとも学校の低学年では教えない知識が必要である。


 もちろん、それを一回のやり取りだけで見抜いたジェイラス殿下も流石だが、彼が褒めているように、ジェラード王国王立学校の学生でここまでの芸当が出来るのは上級生を含めたとしても彼女だけだろう。


「だが、残念ながら……それでもこの国の魔法技術には及ばないよ……【対魔法壁アンチ・マジック・ウォール】」


 次に先手を打ったのは、ジェイラス殿下。


 発動した魔法は、魔法障壁の応用……。外側からの攻撃を防ぐ障壁で自分を囲むのではなく、内側からの攻撃を防ぐ形で相手を囲むように障壁を展開して、少なくとも中級以下の魔法を一度は完全に防ぐというものだ。

 しかも、かなり狭く展開されているので、その障壁を破るために炎の槍のような魔法を放ってしまうと、その余波で障壁の内側にいる自身にもダメージが入ってしまうだろう。


 この魔法に対する最適解は……。


「【魔法打消し《ディスペル・マジック》】!」


 攻撃魔法で魔法障壁を打ち破るのではなく、打消し魔法で綺麗に消し去ってしまうこと。


 だが……。


「遅い! 【炎弾の雨ファイア・バレット・レイン】」


 彼がこの魔法を発動させた目的は、相手の攻撃魔法を防ぐことではない。その魔法の解除に時間を使わせて、彼の次の手までの時間を稼ぐこと。


 そして、ジェイラス殿下が次手で放った魔法は、中級の連弾魔法だ。


 既に放たれたこの魔法の着弾までに構築できる防御魔法は、時間の猶予的には初級の魔法障壁だけだろうが、初級の魔法障壁では中級の魔法がひとつ当たった時点で壊れてしまうので、連続して降ってくる炎弾の雨には対抗できないだろう。


 経験を積んだ上位の魔法使いであれば、あらかじめその展開も見越して、魔法障壁を破るための魔法を、地面から岩の壁を生やす魔法にすることで、魔法障壁を破りながら次の攻撃からも身を守るような選択ができたかもしれない。


 だが、やはり力を十全に発揮できていないのか、カヤ殿はそれをしなかった。


 二杖流であることを活かせば、左右両方の手で交互に初級の魔法障壁を張ることでこの攻撃の雨に耐えられるかもしれないが、無駄に魔力を消費する上に、相手がこの攻撃を連打し始めたら、身動きすら取れなくなってしまう。


 相手もそれを見越しているのだろう、既に次の炎弾の雨を発動させるべく、魔法陣を描き始めていた……。


 魔力の消費合戦になってしまったら、残念ながら魔力量の多いジェイラス殿下の勝利は確実である……。

 短い戦いだったが、一般的な魔法使いでは、これで決着だろう。


 ……そう、一般的な魔法使いであれば。


「風よ、舞い踊れ……」


 カヤ殿は、一言、そう呟いた。


 それは魔法発動の呪文でも無ければ、発動句でもない。

 右手に持っている魔法の杖でも、左手に持っている魔法の杖でも、特に何も魔法陣は描いていないし、そもそも構えてすらいない。


 だが……風が、吹いた。


「なっ!」


 カヤ殿を中心に巻き起こった風は、前方上空から斜めに降り注ぐ炎弾の数々を全て逸らしていき、軌道を逸らされた炎弾は闘技場の床で弾けるだけで、彼女自体には傷ひとつつけられなかった。


 そして……。


「【岩の棘(ロック・ニードル)】!」


「くっ……」


 そんな状況に驚いた彼の隙をつくように、彼女が放った、地面から数本の岩の棘を生やす魔法を、ジェイラス殿下が空中に飛んで避けると……。


「【氷柱の雨(アイシクル・レイン)】!」


 カヤ殿は、その飛び上がった彼の頭上に魔法陣を出現させ、そこから大量のつららを降らせる。


 彼が冷静にカヤ殿の左右の手を見れていれば、岩の棘を発動させたときに、もう片方の手で氷柱の雨の魔法陣を描いていたことに気づいて、ジャンプで回避するなどという悪手を選択することは無かっただろう。


 だが、彼はカヤ殿が魔法陣も詠唱も無しで魔法を発動させたことに驚き、そこまで冷静な判断が出来ていなかったらしい。


「ぐっ……【空気砲(エア・キャノン)】!」


 その身体にいくつかの氷柱の雨を浴びながらも、何とか、空気砲を横から自分自身に当てることで、頭上からのさらなる追撃を回避しつつ、未だに彼の足元に生えている岩の棘に落ちることも避けたが、その選択が、彼の動揺がまだ続いていることを物語っていた。


 威力の低い攻撃魔法を自分に当てることで、相手の大きな攻撃魔法を回避する。

 通常の戦闘であれば、それは熟練の魔法使いが選択肢として上げる、一般的な良い手だろう。


 だが、これは、魔法闘技場で行われている、マギュエの試合だ。


 この試合中に受けたダメージで身体に傷がつくようなことはない。

 その代わり、数値化された魔法ダメージとして、あらかじめ仮想体力として設定されたポイントを削っていくのだ。


 ……自身の放った魔法でも同様に。


 なので、この闘技場の中では、それが自身の放つ魔法であっても、できるだけ魔法ダメージを受けない回避方法を選択するのが正解だった。



 ……しかし、冷静な判断が出来ていないのは、カヤ殿も同様だな……。


「……まさか、ただの学生が、無詠唱魔法を習得しているとは」


 こんな短期間で、二杖流、魔法陣の修正、学校では教えない魔法知識に続いて、無詠唱魔法まで力を明かしてしまうのは、今後の戦いにおいて、かなりの痛手だろう。


 魔力量が相手より少ないカヤ殿にとって、隠し玉の数はそのまま相手を倒しうる可能性の数だ。

 それは最適なタイミングで、最適なダメージを与えるために使用するべきで、こうもポンポンと明かしていいものでは無い。


 彼女が持っている残る隠し玉は、事前に飲んだ魔力継続回復ポーションのおかげで、総魔力量は相手に負けているが、戦闘継続可能時間で考えれば、実は相手とそんなに変わらないこと。


 他にもひとつ、ふたつ、使っていない能力があるにはあるが、相手が同じ能力を持っていないとも限らないし、次の試合に進むことになった場合のことを考えても、ここは温存しておきたいところだろう。


 ……つまり、ここからは、ただの魔法技術と魔法技術のぶつかり合いだ。


「【爆発(エクスプロージョン)】!」「【爆発(エクスプロージョン)】!」


 お互い同時に牽制と目くらましを目的とした爆発魔法を発動させると、両者のタクトの先から放たれた炎弾は、魔法闘技場の中央で衝突し、それによって顕現した大きな爆発は、彼らの試合再開のゴングとなるのだった……。



▼スキル一覧

【輪廻の勇者】:不明。勇者によって効果は異なる。

【全耐性】:あらゆる悪影響を受けにくくなる

【全強化】:あらゆる能力が上昇する

【武器マスター】:あらゆる武器を高い技術で意のままに扱える

【武術】:自分の身体を特定の心得に則って思いのままに扱える

【魔術】:自分の魔力を特定の法則に則って思いのままに操れる

【錬金術】:素材と魔力で様々なものを生み出し、扱うことが出来る

【実力制御】:自分が発揮する力を思い通りに制御できる

【家事】:家事に関わる行動の効果を最大限に発揮できる

【冒険術】:冒険に必要な行動を高い水準で実行することができる

【諜報術】:様々な環境で高い水準の諜報活動を行うことが出来る

【工作】:様々な素材を思い通りの物に加工することが出来る

【指導術】:相手の成長を促す効率の良い指導が出来る

【コンサルティング】:店や組織の成長を促す効率の良い助言ができる

【舞踊】:あらゆる条件で思い通りに踊ることができる

【超観測】:任意の空間の全ての状況や性質を把握できる

【人族共通語】:人族共通語で読み書き、会話することができる

【人族古代語】:人族古代語で読み書き、会話することができる

【古代魔術語】:古の魔法陣を読み解き、描き、呪文を詠唱することが出来る


▼称号一覧

【連打を極めし者】

【全てを試みる者】

【世界の理を探究する者】

【動かざる者】

【躊躇いの無い者】

【非道なる者】

【常軌を逸した者】

【仲間を陥れる者】

【仲間を欺く者】

【森林を破壊する者】

【生物を恐怖させる者】

【種の根絶を目論む者】

【悪に味方する者】

【同族を変異させる者】

【覇者】

【権威を振りかざす者】

【禁断の領域に踏み入れし者】

【自然に逆らいし者】

【奪いし者】

【獣を操る者】

【世界征服を目論む者】

【魔王と呼ばれし者】


▼アイテム一覧

〈水×999,999+〉〈土×999,999+〉〈石×199,680〉〈木×20〉〈薪×815〉〈布×89〉

〈食料、飲料、調味料、香辛料など×1,960日分〉〈保存食×20,000〉〈飼料×4,340〉

〈獣生肉(下)×1750〉〈獣生肉(中)×500〉〈獣生肉(上)×480〉〈茶蕎麦×500〉

〈獣の骨×710〉〈獣の爪×260〉〈獣の牙×248〉〈羽毛×40〉〈魔石(極小)×69〉

〈革×274〉〈毛皮×99〉〈スライム草×100〉〈抑制の首輪×5〉

〈着替え×1,000〉〈本×100〉〈遺物×10〉〈宝石・鉱石×170〉

〈冒険者道具×1〉〈調理器具×1〉〈錬金器具×1〉〈変装道具×7〉

〈掃除道具×1〉〈茶道具×1〉〈絵画道具×1〉〈手持ち楽器×4〉

〈木刀×1〉〈ミスリル合金の軽鎧×1〉〈ミスリル合金の短剣×1〉

〈音信のイヤリング×1〉

〈教国軍の消耗品×200,000〉〈教国軍の装備品×19,990〉〈教国軍の雑貨×100,000〉

〈金貨×0〉〈大銀貨×1〉〈銀貨×11〉〈大銅貨×135〉〈銅貨×84〉


▼ 商業ギルドからの借金

オース名義:金貨2枚

グリィ名義:金貨2枚


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