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挿話 シェスリアの日常

本編と関係ないわけではない、他の人から見たお話です。

 

 私の名前はシェスリア・ソメール。


 ソメール教国の皇女、信託の神子、世間からは色々な肩書で呼ばれておりますが、私としては、頑固で寡黙なお父様と、天然で呑気なお母様と、頼りになる三人のお兄様がいる家族の末っ子でしかありません。


 ただ、私のお父様は、ソメール教国、敷いてはリアティナ聖教のトップということもあって、持っている権限も考えることも少し派手なので、この国の住民も、私たち家族も、お父様の考える方針にいつも振り回されております。


 今回の件も、そんなちょっと迷惑な行動……そんな小さな内容で済めばよかったのですが……。

 他国の人を攫って、戦争を起こさせるなんて、迷惑どころの話ではありません。


 それもこれも、私が箱舟で皇族以外が立ち入りを禁止されている各部屋をお掃除している時に現れた、あの神託をお父様に届けてしまったせい……。


 《勇者。魔王。生まれた。戦い。始まる。備えよ。》


 今まで特に何も映していなかったエンジンルームの黒い窓に現れた、そのあまりにも短く簡潔な言葉……いや、もはや言葉と呼べるかも怪しい、単語の羅列。

 書かれている言語が古代魔術語である特性上、直訳すると単語の羅列になってしまうのは仕方のないことですけど、それにしても、その初めての神託は要領を得ませんでした。


 ただ唯一、確証が持てたのは、その黒い窓に映し出された青白い文字と共に描かれていた紋章は、間違いなく、後継神であるアメナ様とルコナ様の紋章で、その神託は、その二柱からもたらされたものであるということ。


 破壊の神ストロティウス様は自らの身体を引き裂き瘴気となり、創造の女神リアティナ様はそれを嘆いて涙の海へと姿を変えてしまいましたから、それが神託である時点で、お伝えくださったのはアメナ様とルコナ様以外に考えられないのですが、それでも、その紋章で、神託が後継神からもたらされたことは確実となりました。


 ですが、お父様は、私の話を聞くと、その神託がリアティナ様からもたらされたものだとして民に発表いたしました……。


 宗教的に、そう伝えた方が影響力は大きいのだということは分かりますが、神から授かった言葉を歪めて伝えるなんて、なんと恐ろしいことでしょうか。


 その後のお父様の行動も、少々度が過ぎると申しますか……今まで以上に周りの迷惑を考えていないような行動でした。


 最初は、勇者を探し出して、魔王との戦いに備えるという、神託に沿った行動をしているように感じました。


 神託の言葉と共に、勇者や魔王が判別できる魔法陣が映し出されておりましたので、その人が生身で扱うことは不可能であろう立体的で複雑な魔法陣を魔道具へと取り込み、お兄様たちに勇者探しをさせるところまでは良かったのです。


 ですが、お父様から細かな指示を受ける上二人のお兄様は、勇者を探す方法も、勇者を連れ帰る方法も、日に日に強引になっていき、それは戦いに備えるというよりも、むしろ戦いを誘発しかねない行動となっていきました。


 お父様も、上二人のお兄様も、いったいどんな会話があって、何のためにそのような強引な行動に出ているのか、私には話してくれません。


 ただただ、これが最善の選択だと、未来のための行動だと、そう呟くだけです……。


 ……まるで何かに取りつかれたように。


 そんな風に感じてしまったからでしょうか……もしかしたら、神託にあった魔王という存在が、私たちが神託を元に戦いに備えていることに気づき、お父様や上二人のお兄様を操って邪魔をしているのではないかと思ってしまったのは。


 もしくは、実は既にお父様や上二人のお兄様は亡くなっていて、今その姿をしているのは、魔王やその手下なのではないかと思ってしまったのは。


 頑固で寡黙ながらも、一人娘である私のことをいつも甘やかしてくれていたお父様も、強く勤勉で優秀なだけでなく、民からも慕われていた優しいお兄様たちも、もうこの世には存在しないのではないかと思ってしまったのは……。


 だからこそ……。


 そんな不安に取り込まれそうになっていた私だからこそ、三番目のお兄様……アクセルお兄様が、他国から本物の勇者様や仲間を連れて、そんなお父様たちを止めに来たと知った時は、本当に嬉しかったのです。


 神託に導かれた、伝説の勇者様が、魔王に取りつかれてしまったお父様たちを解放してくださると、本当に嬉しかったのです。


 これで、お父様や上二人のお兄様も救われて、また、この家族やこの国、この世界に平和が戻ってくると、本当に嬉しかったのです……。


 ……それなのに。



「……そうとも、自分がこの世界を手に入れんとする魔王である。このマギュエに自分が勝ったら、手始めにこの国を貰うとしよう」



「くっ……魔王め、貴様の好きにはさせん! この時に備えて先祖の文献を読み、マギュエによってこの地を手に入れた初代教皇の知識を持った私が、貴様の企みを止めて見せようぞ!」


 ……。


 …………。


 なんか想像していた真逆の展開になっているんですけれども!?


 え? あれ? お父様が魔王に操られていて、アクセルお兄様が連れてきたあのお方が、それを止めに来た真の勇者だったはずでは?


 オースという名のあの方の仲間であるグリィさんやアーリーさんやカヤさんと一緒にお母様を救出した後、お母様に言われて、危険だと思いながらも、お父様たちの様子を見に来たら……なんだかとんでもないことになっているんですけど……。


「? シェスリア! それにグリィ君たちも! 母上は……無事に救出できたようだな……よかった……」


「お兄様……ええ、皆様のおかげで、お母様は無事に救出できました……ですが……あの……これはいったい、どういうことですの?」


「それが……まぁ、何というか……これもいつものことなんだが……オース君のやることは僕にもさっぱり分からないんだ……」


「は、はぁ……」


 よく分からないですけど、お兄様やそのお仲間の方たちが、これを見てもあまり慌てていないということは、それほど慌てる必要のない状況ということでしょうか……?


「ふむ、止められるものならば止めてみるといい……だが、この世界ゲームを全て掌握(検証済みに)するのは、自分がこの世界に生まれ落ちた時から決定事項なのだ……残念ながら、ただのコマ(NPC)がひとり邪魔をしてきたところで、その未来は変わらない」


「ぐぬぬ……三か国最大の国の教皇であり、リアティナ聖教のトップでもある私を、ただのコマ扱いだと……その言葉、もはや取り返しがつかぬぞ!」


 ……。


「本当に大丈夫ですか……?」


「はっはっは! 実を言うと、ちょっと自信が無くなってきたな!」


「笑っている場合ではございません、お兄様! どうにかしてください!」


「うーん、オース君は、ああなったらもう誰にも止められないからなぁ……はっはっは」


 そんな……せっかく、これでお父様たちが、この世界が救われると思っていたのに……勇者様が現れることで余計に騒動が大きくなるなんて神託でも聞いていません。


 ああ、リアティナ様、ストロティウス様、アメナ様、ルコナ様……もしくは、あそこでわざとらしい高笑いを演じている偽の勇者様ではない、本物の勇者様……どうか……どうかこの騒動をお収めください……。


 私は、何が何だか分からない光景を前に、いつものお祈り以上に真剣に、そんなことを天に願うのでした……。



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